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『この『国』を護るのは 2』
水島琴乃la4339

 はちきれそうな豊満な体躯。その上下に黒のインナーを纏った後、申し訳程度の丈しかないミニのプリーツスカートを穿く。

 戦いに出向く任務の際に水島琴乃(la4339)が纏うのは、いつもわざわざそんな挑発的な服――現代の“くノ一”である事をこれでもかと強調する様な戦闘服。

 スカートを穿いたら、次は両袖を半分程に短くした着物の上着に腕を通す。一応ながら、和の要素。豊かな胸が収まり切るかも怪しい様な、それ。きゅっと腰部分を帯で巻いて確りと留め、仕上げる。それだけで、着物の合わせた部分やスカートの下からははしたなくもその内側が見えてしまいそうな程になる。
 けれどそれでも、琴乃は気にしない――と言うか、寧ろ確信犯に近い所があったりする。
 見せ付けたいのだ。敵にすらも。……色仕掛けでどうこうするつもりじゃないしその必要もないけれど。戦いに躍動する時の自分が一番美しいのはわかっているから、それを隠すなんて罰が当たる。琴乃はそう自覚し、実行しているだけの事。
 誰にどう思われようと関係が無い。ただ、自分でしたいから。そしてその方が気分も上がり、結果として任務の効率も上がる。だからこそしている事であるし、自衛隊なんてお堅い筈の組織の中にあるこの場所で公的にそんな用意もきちんとされている訳だ。……琴乃はそれが許されてしまう程、特別な位置に居る。
 最後の仕上げは、膝まである編み上げのロングブーツを履いて、グローブをはめる事。用意する武装はクナイ――クナイ型のEXIS。イマジナリードライブも発動してナイトメアを倒す事も出来るし、ただのクナイとしても使える逸品。

 そこまでくノ一スタイルが出来上がった所で、今度こそ本当に琴乃は任務に赴く。



 今回の任務は、とある地方に現れた、ナイトメアの疑いが濃い犯罪集団の殲滅。

 地方とやや遠方なので己で出向くと言うより、身柄の輸送は他者に頼む――自動車や電車などと言った大抵の手段を使っては、幾ら当人が技術として完璧な隠形を敷いていようが、どうしてもわかりやすく記録が残るから。
 今回の場合、琴乃の存在が何らかの形で事前に敵に確認されてしまったとしたら――敵がどう反応するかがちょっとわからない。
 それで琴乃に下卑た興味を抱かれるなり、侮って手合わせを求められるなり、とそのまま待たれるならば何の問題も無いのだが、逆に遁走されでもしてしまっては、改めて居場所を捜す一手間が余計に必要になってしまう――任務を果たすのに余計な時間が掛かってしまう。
 無駄にそうなるのは出来れば避けたい。
 ……だからこそわざわざ、そんな迂遠な手段を取っている。

 そしてその警戒は功を奏した様で、琴乃が“そこ”に単身降り立った事に気付いた者は、そこまでの輸送を担当した技士以外には存在しなかった。

 敵集団が占領していると思しき施設の内、一つの屋上。事前に調べておいた情報からして、敵集団が常時使用している可能性が一番高そうな所である。……そういう場所の方が頭が居る可能性が高い。そして集団を潰すなら、頭を獲るのが手っ取り早い。
 だから琴乃はそこに居る。

「さて……推して参りましょうか。……なんて言ってはくノ一らしくないかもしれませんけれど?」

 まるで力押しの侍の様な言い方。代々続く忍びの末裔の科白じゃないですわよね。ふふ。



 手頃な窓からするりと屋内に入り込み、琴乃は音も無く廊下を進む。当然、隠形も敷いているので気付いた者などそこには居ない――が。その軽やかな様をもし目の当たりにしている者が居たとしたなら、きっと目を離す事は出来なかっただろう。伸びやかな肢体が小さな窓から現れ、続く女性らしい膨らみの見事さ、その膨らみが廊下への着地で重みを持って揺れる刹那、ごく自然に態勢を整えてまろやかな歩容で軽やかに歩き出すその様は、夢でも見ているのではと思ったかもしれない――その位に、魅惑的だった筈。

 琴乃はそのまま進む。進みながら、事前に得ていた情報と直に目で見ての情報を頭の中で照らし合わせて建物の造りを把握。守りを優先して考えるならここ、周辺の支配を優先して考えるならここ――幾つか敵性存在が居るだろう場所の候補を思案しつつ、内、近い方の部屋へと向かう。
 その途次で、人影。刹那に相手を観察、判断――巻き込まれただけのただの人か、敵の一味か。武器所持の有無はナイトメアであるなら判断材料にはならない。佇まい。呼吸の程度。発汗の有無。体温の――体表面の色彩の自然さ不自然さはどうか。それに何より、態度。表情。目の色。
 試しに隠形を解く。一番手っ取り早い試金石――わたくし自身のこの肉体。そこに対する反応――唐突に現れた和洋折衷の艶やか過ぎるくノ一スタイルにぎょっと驚く姿。それを確かめた時点で琴乃はクナイでその人影の喉首を掻き切っている――深く撓めた体躯を伸ばし、躍動させ、確実に肉を切り裂く鋭い一閃を二度、三度同じ部位へと重ねる。腕を振るい体を捻る度に袂から黒に包まれた豊かな膨らみがまろび出そうになる程の危うい勢いで。……相手がただの人で無いのなら、EXISの武器であろうとその位の保険は掛ける。……元々、ナイトメアで無くとも魑魅魍魎の類は普通に頸動脈を掻き切った程度では倒れない。
 勿論、琴乃の様な色気溢れるくノ一が急に目の前に現れれば誰であろうと驚く事は驚く。が、この人影の場合は「誰であろうと」の驚き方とは違っていた。元々佇まいから見ての不自然さは多少あり、擬態にまだ慣れていないナイトメアの可能性を鑑みての試金石を出してみたのが今。そしてその反応は――ぎょっとして、“人らしからぬ攻撃態勢を取る”形。琴乃の容色への反応自体が不自然な程に無かった事もあり、まだ然程人間らしくは成り切れていない成熟度のナイトメアと即座に判断出来た。

「どうせ人間に擬態するなら、わたくしの姿に反応出来る位には擬態して下さらないとつまりませんよ?」

 わざとらしくも残念そうなその言葉。言い終えるか終えないかと言う時点で、喉首が切り裂かれたそのナイトメアは遅れてその場にどうと倒れている。切り裂かれた割に、傷口から赤が飛沫いた跡は無い――それもまた、擬態し切れていなかったが故か。
 ……返り血を気にする必要が無いのは有難いですが。

 次はひとまず、今のナイトメアが出て来た方に向かう。……さて、隠形はもういいでしょうかね? 擬態が拙い人型ナイトメアが今の様に普通に歩いているとなれば、この場は完全に敵地と見るべきだろう。見敵必殺でいいなら手早く済む――そうは言っても勿論、確認しながら進まなければですが。敵地であっても、食糧として攫われて来ている護るべき人々が居ないとも限りません。……未確認ながらそういう事前情報もありました。

 思いながら琴乃はナイトメアが出て来た方向、その先にあった部屋を確認する。クリア。同型ナイトメアは居ない――いや。
 一拍置いて、そこかしこからやけに巨大な蛇や蟻が湧き出して来た。操られているかの如き連携、統一された攻撃の意志も仄見える。ナイトメアとすぐに頭に浮かぶ――浮かぶと同時に琴乃は飛び退き、視認した数だけ一気にクナイを投擲。蛇や蟻に近い型のそのナイトメアが文字通り躍り掛かって来るのとどちらが先だったか――動きが止まった時には、全てのナイトメアはその場に縫い付けられていた。


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グロリアスドライヴ
2021年03月29日

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