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『この『国』を護るのは 3』
水島琴乃la4339

 こんな場所では有り得ない大きさの複数の蛇や蟻。それら全てを一時に、一気に複数投擲したクナイでその場に縫い付ける。

 それが水島琴乃(la4339)の咄嗟の判断。咄嗟でありながら一体の討ち漏らしも無いその仕業――しかも、それでそのまま、巨大な蛇や蟻の型をしたナイトメアの動きが本当に止まっている。物理的に見るならクナイ程度の投擲刃物で“それ”が為せるのはそれこそ有り得ない所だが、この場合は実はそうでもない。EXISのクナイであるが故に想像力に応じて威力も上がり長さも伸びる。更には忍びの術の一端……では無くそれを模す形でイマジナリードライブに働き掛け、駄目押しとして毒を込めた刃で攻撃する形にもしてあった。

「ライセンサーとしてはまだ不慣れなのですが。“害虫駆除”なら元より得意ですので」

 ナイトメアであろうと無かろうと。
 善良な市民に害を成す者を“駆除”する事自体は同じ。ライセンサーとなりイマジナリードライブと言う新たな力を得た分、琴乃に出来る事は格段に増えている。想像力が現実の力になるなら、少ない準備で行える事もまた多くなる。本来入念な準備が必要な忍びの術が、想像一つのリソースで再現出来るのだ。
 結果として、ライセンサーになる前よりも気軽に磐石な武装が叶う事になる。そう、従来通りにクナイだけを使っている様に見えたとしても、その実は、それ以上の武装が為されているも同然。
 まぁ、その辺りの事については適合者でさえあるならそれなりに誰でも出来る事ですから、わたくしに限った事では無いのでしょうけれど。
 わたくしだけに出来るのは、今の立場の――日本国自衛隊内非公式特殊部隊員としての、無敗のくノ一としての隠密任務。ここではわたくしの代わりなど誰にも出来ない。任官この方一筋の傷すら負わず、完璧に任務を完遂し続けていたトップランカー。そう呼ばれるだけの多大なる実績は重ねてある。
 逆を言うなら、琴乃のレベルに部隊の任務自体が合わせられてしまっているとも言える。もし万が一ここで琴乃が部隊を抜けでもしたら、全てが回らなくなるのは時間の問題である程に。
 ……そんなわたくしがわざわざ指定された様な任務が。
 人間未満一体に蛇や蟻の“駆除”だけで終わる訳は無い。

 さて。

「……ここでわざわざこんな害虫を仕掛けて来る位なら、直に来る気にはなりませんかしら」

 ナイトメアと言うのは高度な精神生命体を喰らって進化したいと思うものなのでしょう? ならばわたくしなど喉から手が出る程に欲しいんじゃありませんこと?
 いらっしゃいますわよね? これらを統率している方。……どうせ、聴こえてらっしゃるのでしょう?

「ここ、インソムニアを設置しようとなさっているんじゃありません?」



 鼻で笑われそうな話である。

 が、そうでもないのではないかしら? と琴乃は判断した。事前に集めた情報と直に見ての状況。色々と荒いが、そこはそれこそ個々のナイトメアが擬態し切れていない成長段階だから、で話は通らないだろうか。インソムニア――即ちナイトメアの拠点の設置。実行を本当に考えていたとしてもまだ、準備も準備、の段階だろう。そもそもナイトメア側にしてみれば究極的には世界各地の要所要所に設置したい物だろうし、造営の詳細は不明であるにしろ、圧倒的な巨大建造物を本格的にと考えるならもっと周到に資源も労働力も投入していそうな物でもある。

 翻って、今回の任務の対象である敵性集団。まだそこまで緊急性のある状況では無い――だが。“それ”を試みようと、いえ、模倣しようと、でしょうか? ……そんな統率者でも居はしないか。
 蛇や蟻の妙に統率の取れた動き。箱の――占領施設の選び方、使い方。伸びしろはあった様だがまだまだ擬態も実力も甘い人間未満の存在。周到さと甘さが同時にある印象。例えば、作戦中の最前線と言うより、もっと生活に根差した拠点としている場所ならば有り得る状況。そう目指している可能性。
 ならば任務の質は少し変わる。任務受領時の含みある上司の様子からして、不穏な気配は元々あったのだろう。詳細を伏せたのはSALFに先んじて片付けたと言う実績、前例が欲しかった――からかもしれない。もしくは、あの場で話す事自体に不都合がある可能性。敢えて突き詰めはしないが、まぁ、想像は付く。
 そして想像が付いても、琴乃にしてみればどうでもいい話。

 どちらにしても、わたくしのやる事自体は変わらないのですし、それで全然構いませんもの。
 謀略を巡らせるのは上官や専門の方にお任せします。わたくしは、わたくしがわたくしらしく力が揮える機会が持てるならそれで。
 そんなわたくしの働きで、わたくしの『国』が護れるのならば、それで満足。

 直前に察知は出来ました。攻撃手段自体の詳細はわかりませんが、対策自体に問題はありません。どうやら広範囲に降って来る光の矢の様でしたね――ナイトメアの能力の様です。当然、察知した時点でわたくしは回避も完璧にこなせています――ああ、身一つでそんな真似をするのはどれだけ身のこなしが速かろうと物理的に難しいと思われますか? ふふ。それは確かにそうでしょうが、ライセンサーとしてのわたくしならばそうでもありません。黙ってそのままで居たならば物理的に回避出来ない分は、クナイで叩き落としてわたくし自身が居られる空間の分は片付けていますから。EXISのクナイならば光の矢でも問題ありません――便利です。
 ライセンサーで無かった頃ならこうなる前に密かに地の利を奪い、攻撃自体を事前に阻止してから出向いた所ですが、本来こういう場合は直接出向いた方がわたくしの容姿と武威を見せ付けられますから、可能な限り前線に出たいもの。その方がわたくしもより楽しめますし――わたくしを目の当たりにする周囲の方も、そうではありませんこと? ふふ。
 光の矢が止んでから、直接の間合いを詰めてくる輩が居ました。それだけの自信があるのでしょう――でも。

 遅いです。

 それで本当に人外なのですか? 拍子抜けです。
 とは言えまぁ、わたくしの見る限りは大した事はありませんが、一応それなりに貫目があるとされる方の様ですね。これがここを統率なさっている方なのでしょうか――今の光の矢を放ったのもこの方の様ですね。あれで露払いでもしたつもりなのでしょうか。甘過ぎますが――まぁ、大した知能も無いなら仕方ありませんか。
 間合いを詰められたそこから、ひとまずは身ごなしだけで相手の攻撃を避け続けて様子を見ます。ああ、それで全然通用しますので御心配無く。その攻撃が深深と壁を砕こうが床を穿って穴を開けようが――それ程の破壊力を伴っていたとしても当たらなければ何の問題もありません。
 まぁ、わたくし自身に当たらなくとも周辺はそうではありませんので、足場や環境を強制的に変更しての戦略が何かあるのかも考慮する必要はありますが……あら。攻撃しながらもわたくしの揺れる胸元見てらっしゃいますわね、あと、項も。人間の殿方がするのと同じ様に。何を想像してらっしゃるのかしら? ナイトメアでもイマジナリードライブは使えるのでしょうか? ……なんて。先程の人間未満よりは余程人間らしい様ですね――わたくしの魅力をきちんと理解出来るのですから。

 まぁ、それでも触れさせるつもりなど微塵もないのですけれど。


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深海残月 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年03月29日

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