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『この『国』を護るのは 4』
水島琴乃la4339

 当たり前の話です。

 敵性存在にこの身を触れさせるなんて、そんな勿体無くも厭わしい事をさせる訳が無いでしょう? それはわたくしはくノ一ではありますが、この容色は色仕掛けの為に磨いたものではありません。

 無敗のくノ一・水島琴乃(la4339)の忍びとしての本領は、素早さを活かした圧倒的な武に他なりませんから。

 ええ。女だからと侮っていては火傷をしますよ? ああ、それともその程度なら相手がわたくしであるだけで御褒美になってしまうかしら。このわたくしの容色ではそうなるのも仕方無いですが――わたくしに敵対する様な屑にそんな恩寵を与えてしまうのは大変不本意ですので、なるべく避けられる様に努めます。
 さて。このわたくしが先程から攻撃を躱し続けて様子を見ているこの敵は、そろそろ自分がわたくしを圧倒していると勘違いしている頃でしょうか。反撃しないからと言ってわたくしが全く傷付いても弱ってもいない事に気付いてないのなら、ただの身の程知らずでしかありませんが。それとも貴方の攻撃を躱し続けるわたくしの伸びやかな四肢や揺れる膨らみの色香に酔ってらっしゃったりしますかしら? だとしたら大変心外ですわ。
 まぁ、細かい事は構いはしませんが。この相手に今以上の引き出しは無いでしょう――では。

 そう決めたタイミング。丁度わたくしに繰り出されていた攻撃をわざと紙一重で避けます――そしてそこから、速度を上げて反撃を。きっと一瞬わたくしの姿を見失って驚いたでしょうね。……ああ、屑を相手にする時はこうするのがいいですね。わたくしの姿を視界に残すと言う大変不本意な御褒美を差し上げなくて済みます。
 次。いい気になって攻撃を続けていた相手の背後に回って、いつものクナイでその項を深く切り裂く事をします。先程の人間未満とは違ってきちんと赤は飛沫きます――それでもまだ、この相手は私に攻撃を繰り出していた姿勢から戻ってもいません。
 とは言えこれで致命傷になって動けない、のでも無いでしょう。ただ、わたくしの速度に追い付けていないだけ。その証拠にほら、やっと振り向いてわたくしの姿を見付けましたね。
 遅いですよ――全く。伝えながら今度はその両目を横一文字に切り裂きます。まぁ、大して効きもしないでしょうけど。ですが目として実際に使用していた部分が潰れたならそれなりには暫く不自由にはなります。続けて甚振るには遣り易いでしょう。ええ。わたくしの姿を目で楽しむ様な不遜な真似をするから、とも言っておきましょうか? 後付けですが、実際に兼ねられる遣り方です。……これなら不本意な御褒美は差し上げなくて済むでしょう。
 さて、次は何処から壊しましょうか。身の程知らずな害虫さんは、自分が何をしたのかじっくり思い知らせてから、見せしめも兼ねて念入りに潰して差し上げませんと。……ええ、もっと。もっとですよ。ふふ。



 統率者と思しき輩を確実に潰して後。
 残党も残らず殲滅する――が、頭で“あれ”ならその下は高が知れているし、先程の蟻と蛇の様な文字通りの害虫が他にも出て来る可能性がある。となれば戦闘であまり楽しめそうもなく、一つ一つ潰す遣り方では、密かに何処かに潜まれたら取り零してしまいかねない。
 なので、琴乃は仕上げに施設自体の破壊をする事にした。……勿論、施設建物自体以外の人的被害は出ない様に念入りに調べた上で。ナイトメアの残りが居ないか炙り出し、確実を取る。

 任務完了。

 これで「ナイトメアの疑いが濃い犯罪集団の殲滅」は成っている。
 琴乃に回される時点で標的もそれなりの手練ではあったのだろうが、それでも琴乃にしてみれば何程の事は無い任務。けれど、完遂したと自覚するだけで琴乃の中に高揚が生まれる。任務達成の、いつもの清々しい快さ。これでまた一つ人類の敵を屠れた。『国』を護れた――この『国』を護るのはわたくし。
 強者とされる者も難無く倒せた。……わたくしにとっては強者でも何でも無くとも。
 けれど世界は広い物。SALFのライセンサーとなる事でも琴乃もその事を実感している。ならばまだ見ぬ強敵が何処かにいるかもしれない。期待も膨らむ。わたくしを満足させてくれる様な。屠り甲斐のある様な。そんな強敵がわたくしの前に現れるかも――想像するだけで心が躍る。

 勿論、その強敵も、琴乃は倒す。
 まだ見ぬ任務、何が起こるかわからない。けれどそれでも、琴乃が任務を失敗する事は有り得ない。
 絶対に。
 敗北もする訳が無い。
 個人としての圧倒的な力は揺るがない。新たな力も手に入れたし、個人で足りないだけの状況であっても全てを見越して手を尽くし勝利する。単純な戦闘能力のみならず、それだけの頭脳も持ち得たトップランカー。
 それが琴乃。
 彼女ならどんな敵を相手にしようと今後とも負ける事など有り得なく――いや。負けるどころか、その美しくも艶やかな体に触れさせてしまうだけの事すら、有り得ないのだろう。



 ……そう、思いたいのだ。
 信じたいのだ。

 絶対、などと。
 有り得ない筈の事を、盲信してしまう傲慢。

 それは確かに、琴乃は聡明な頭脳を持ってもいるだろう。
 速さに特化した、他を寄せ付けない武の力もあるだろう。
 何処へ行っても下へ置かれる筈も無い、その美貌と容姿が駄目押し。
 天は二物も三物も与える者には与える。

 十九のこの歳まで、敗北や挫折の一つも知らないままで済む程のギフトを。

 自信に溢れない訳が無い。
 傲慢にならない訳がない――それが傲慢だとも、思わない。
 苦戦や敗北の辛酸を舐める事など、琴乃は全く予期していない。
 そしてその態度自体がもう、周囲の人間も今の琴乃を全肯定してしまう理由になっている。
 最早誰も彼女に注意や苦言を呈する事など、無くなっているだろう。
 心配すらもされていないかもしれない。
 信頼しているのだと言う甘えの元に。
 本当は、まだ十九でしかない人生経験豊かとは到底言えない若い女性に、老若男女部隊総員、頼り切り。
 琴乃も琴乃で、それに甘んじて。

 増長する。
 そしてそれが、増長と取られない。
 琴乃独自のルールの下、我儘放題に育ちゆく。
 なまじまともな正論も幾分混じったルールである為、琴乃であるから許される個性だと受け取られる。

 ……他の者なら我慢ならないと取られたり、危う過ぎると取られたりするだろう領域に至っても。

 いつ、それが裏目に出るかなど、誰にもわからない。
 いつ、琴乃が敗北の味を知ってしまうかなんて。

 そしてその敗北が――失敗が。
 ここまで来てしまった琴乃では。
 後の糧になる、と許される程度で済む“失敗”になる筈も無い。
 今の彼女がもし失敗をしたなら、それは周囲すらも巻き込む事になる“致命的な何か”でしか有り得ない。

 例えば、思わぬ形で完膚無きまでに敗北し。
 プライドも自信も圧し折られる様な事になるかもしれない。
 これまでサディスティックに敵を蹂躙して来た分、そのままその身に返ってくる事になるかもしれない。いや、琴乃はまだ年若い見目麗しい女性である――想像するのも憚られる様な、より酷い真似をされる可能性すら。
 死んだ方がましと思われる程の蹂躙が待っているかもしれない。
 後に、痛々しくも無様な姿を晒してしまう事になる様な――そんな、死ぬより酷い末路を追う事になるかもしれない。

 今のままの、琴乃では。


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深海残月 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年03月29日

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