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『選んだ旅路でいつか散るまで』
マーガレットla2896

 元の世界に戻る、と言う選択肢もありました。
 緑深く穏やかなあの森に。
 懐かしくも慕わしい神々や精霊の住まう、わたしの故郷に。

 そうするべきだ思っていました。
 そうするのだと思っていました。

 ですが、わたしは。
 何故か、躊躇いました。

 ……戻る事を。

 察されて、諭されもしました。
 故郷の皆に再びまみえたくはないのかと。

 言葉に詰まりました。
「会いたい」と、考えるより先に頭に浮かびました。
 当たり前です。
 わたしは故郷では薬師の役割も担っていた白巫女ですから。懐かしくも慕わしい神々や精霊を、仲間達を、あの場所を想うのは、当たり前です。
 あの場所が、わたしの居場所です。
 思い出す全てが、とても大切なわたしの宝物。温かい心の灯火です。
 わかっています。
 わたしの居場所は、あの世界です。

 予期せず訪れる事になった、住まう事になったこの世界が平和になったなら。
 わたしひとりのものでは微々たるものでしかなくても。でも。それでも――わたしのそんな祈りが、他のたくさんの人々の祈りと重なって。
 聞き届けられる日が来たのなら。
 ここに訪れたわたしの役割は、それで漸く、終わったのだと。
 帰るべきなのだと。
 それこそが自分の幸せなのだと。

 そう、頭では思うのです。
 ……この世界に来たばかりの頃のわたしなら、喜んで帰還したでしょう。

 ですが。
 どうして。
 わたしは。
 今。

 ……「ここに残りたい」とも、思っているのでしょうか?

 このグロリアスベースのある世界に。
 穏やかに居るだけでは済まないこの世界に。
 ナイトメアとの戦いが終わりに向かったとしても。
 それで人々の営みが終わる訳ではありません。

 SALFで絆を結べたこの世界の人達にだって。
 まだまだこれから、たくさんの道が拓けている筈で。

 わたしにはまだ、ここで、祈れる事がある。
 そういう事、なのかもしれません。

 思いが力になるのなら。
 それら全ての、関わった人達の行く末を。

 見守りたい。
 ずっと。

 そう自覚して。

 ……いいえ、それだけじゃなくて。

 ただ、「離れたくない」と。
 縁あって、巡り逢えた人々と。
 それは傍らで共に歩き続ける事は難しいかもしれません。
 けれど心だけでも、共に在りたいと。
 どうしてもそう、望んでしまう自分が居るのです。

 界を隔てても、心なら届くでしょう。
 そうも言われてしまうかもしれません。
 ですけれど。
 それでも。

 ただ、「わたしが、ここに居たい」のです。

 ですから。
 その事を。

 話して。
 必死に。
 伝わる様に。
 思いを。
 わたしの。

 故郷に戻るよう促してくれた、諭してくれた人達に。

 たくさんたくさん、話し続けて。
 わたしの願いを。
 わたしの望みを。
 知って貰おうと。
 頑張りました。

 ……どうしてこんなに頑張るのだろうと、自分でも不思議に思う程。

 そして、わかってもらうことができました。
 好きにしなさいと。
 それがマーガレット(la2896)の選んだ道なのだろうと。
 祝福と共に、わたしをそう見送って、くれました。

 わたしの旅路を。
 この世界で歩む背を。



 ひとりであっても、ひとりではありません。
 わたしは花から生まれた精霊族――森の民、エルフですから。
 この世界にだって仲間はたくさん居るのです。
『薬屋―月うさぎ―』にも、それ以外にも。
 わたし達とはカタチが違えど、誰も彼も賑やかです。

 残る事を決めたわたしを、元ライセンサーで訪ってくれる皆さんも増えました。
 改めての御挨拶。
 これからもよろしくお願いしますね。

 新たな門出の様で、わくわくします。

 旅立つ方も居ました。良い旅路を、旅の御無事をと祈ります。
 わたしとは逆に、元居た世界に帰還する選択をした方もいらっしゃいました。良き再会をと願います。わたしの分まで……と言ってしまうのは、少し憚るかもしれませんね。
 そんなわたしの勝手な言い分を、笑って受け止めて下さる方も居ました。有難くも優しく、嬉しい事です。なので、謝罪ではなく心からの感謝を伝える事にしました。
 そしてわたしは、その方を見送ります。

 亡くなられた、方も居ました。
 別れが早過ぎる程だった方も、それなりに長い時をこの地で暮らしてから、だった方も。
 どの方も、お辛い最期を迎えた様では無さそうだったのが、不幸中の幸いでした。
 ……ひょっとすると、彼の世から素敵な待ち人が迎えに来て下さっていたのかもしれませんね?
 世界を守った皆様なのですから。きっと、冥福を得ていらっしゃる筈ですし。
 ……看取ったわたしがずっと泣き暮らしてなんかいたら、“旅立たれた”方の皆さんが、きっと困りますからね。
 わたしも何とか、頑張ります。

 いつ頃からか、知り合いの皆さんの、お子さんやお孫さんのお顔ばかりになっているのに気が付きました。
 皆さんお元気そうなのは何よりですが……ああ、そうなのですね。
 ここに残って暮らしていた、わたしがライセンサーであった事を直接知る皆さんは、もう。

 ……なら、世界の何処かに旅立たれた皆さんは、どうしてらっしゃるでしょうか?
 少し気になりました。

 再会出来るかもわかりませんが。
 わたしも、旅をしてみようかと言う気に、なりました。

『薬屋―月うさぎ―』で育てていた“子”達については、望む子達については新たな居場所を見付けたり、店の跡を継いでくれる人に託したりして。
 どうかこの大地で健やかにと祈ります。

 それから、わたしは。
 ひとり、旅路に就きました。

 わたしが残る事にしたこの世界は、どんな景色が広がっているのだろう。
 どんな人達が居るのだろう。
 わたしはエルフですから、そうと決めれば旅をする時間ならばたくさんあります。たくさんたくさん、見聞を広めて、皆が守ったこの世界を。知って。楽しんで。各地で色々な“子”達にも会いました。色んな形で、色んな見た目で。驚く程です。……悲しくなる様な事もありました。ナイトメアの脅威が去っても、やはり解決が難しい事はあるのですね……危ない、と見知らぬ方に心配されてしまう様な出来事もありました。
 ですがそれでも何とかなっています。……ほら皆さん。マーガレットは、元気でやっていますよ?

 はい。
 そうです。

 そうやって、わたしは世界の各地を巡っています。
 そうしながら、わたしはまた、祈ります。
 この祈りだけは忘れません。
 命ある限り、いつまでも。
 わたしがここに残った理由。

 ……皆が守ったこの世界が、幾久しく平和であります様にと。



 そしてグロリアスベースの存在自体がもう、過去の遺産でしかなくなる頃に。

 真珠の名を持つ丸く清楚なひとつの花がありました。
 その花はいつからそこにあったのか、花の盛りも過ぎ、今にも散りそうな風情です。
 ですがそこに、後悔はありませんでした。
 人々を見守り続け、世界を見守り続け、幾久しく平和である様にと、祈り続けて。
 そこに居ます。

 やがて、はらり、と花びらがひとひら地に落ちました。
 それを境に、ひらひらと。

 花の形は、なくなります。
 やがて乾涸び、実を付けて。

 残された種が、地に落ちるでしょう。

 それが芽吹いて空を目指す頃には、見覚えのある色が見られるかもしれません。
 そう、彼女の瞳の如きその色が。

 伸び行き、木となりこの地に育ち。
 そしてまた、美しい花を咲かせます。

 何度でも。
 何度でも。


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深海残月 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2021年03月29日

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