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『がんばれ僕らの冒険者♪ 』
クリス・ラインハルト(ea2004)


 遠く、どこかで鐘の音が鳴りました。教会が時を告げたのでしょう。それは高く、低く、夜空を震わせました。
 その音が最後の一つまで消えるのを待って、ギルド長は言いました。

「大変な事が起きたわ。旧聖堂の地下遺跡の、まだ調査が終わっていないエリアに、子猫の女の子が迷い込んだようです」

 それはコロンとしたキツツキのぬいぐるみでした。ほっぺたがピンクの布でまぁるく覆われている、メスのキツツキです。
 ギルド長がひっきりなしに翼をもこもこ動かしてそう言ったのに、集まったぬいぐるみ達はざわめきました。驚きのあまりひっくり返ってしまって、もふもふ手足をばたつかせている者もいます。
 そんな中、すっくと立ち上がったのはリスのぬいぐるみでした。

「子猫さんが遺跡で迷子? それは大変です、急いで助けてあげなくては」

 それは魔法使いのローブととんがり帽子を被った、見るからに可愛らしいぬいぐるみさん、リディエール・アンティロープ(eb5977)でした。心配そうに青い石の杖を振り、大きなふかもこの尻尾を揺らします。
 旧聖堂の未調査区域には、まだ誰も入った事がありません。そんな所で、一体子猫の女の子はどんな恐ろしい目に合っているのでしょう。そう思うと悲しくて、少しでも早く見つけてあげたい、と思いました。
 ぬいぐるみの冒険者達の視線が、立ち上がったリディエールに集まりました。キツツキのギルド長が一つ、大きく頷きます。そうして黄色いくちばしをぐるりと回して、リディエールと一緒に行ってくれる冒険者が居ないか探しました。

「他に誰か、障害を排除しつつ、子猫の女の子を探して、助けてくれる人は居ませんか?」

 もちろん、そんな事態を見過ごす訳には行きません。我も我もと、ふわもこの冒険者達は次々に立ち上がりました。
 ふわもこの両羽根でしっかり妖精の竪琴を抱いた、吟遊詩人の姿のアヒルのクリス・ラインハルト(ea2004)が大きなお尻を振りながらガアガアと言いました。

「旧聖堂の遺跡ですか? 子供は好奇心の塊ですし〜」

 ところどころ、ツギの当たった所はありますが、いかにも温かみのあるアヒルさんでした。帽子についた羽がクリスの動きに合わせて、ふよふよと揺れました。
 そうだそうだと頷いたのは、たれたぬきのぬいぐるみの忍者、玄間 北斗(eb2905)です。見るからにのほほんまったりとした、思わず抱きついて引っ張りたくなるようなたれたぬきさんでした。

「早く見つけてあげないと大変なのだぁ〜」
「あたいも子猫さんを放っておけないもん」

 腰にさした大きな刀に手をかけながらそう言ったのは、しばわんこの剣士、明王院 月与(eb3600)でした。見た目は可愛らしい女の子のしばわんこさんですが、大きな刀と盾を持つ姿はとても頼もしく見えました。
 最後に無言で友達のおたまじゃくしのぬいぐるみを上げて名乗り出たのは、かえるのぬいぐるみ、エフェリア・シドリ(ec1862)でした。クルンとしたつぶらな目の、ローブを着た、緑のふわふわの小柄なかえるさんです。
 キツツキのギルド長は彼らの顔を見回して、うん、と黄色いくちばしを上下しました。それから、もう行きたいと言う冒険者は居ないか、ぐるりと見回しました。
 その時、ちょうどギルドに入ってきた兎のぬいぐるみがこの話を聞きつけ、ぱたぱたと駆けてきました。

「面白そう〜。ねーねー、私も一緒に行きたいのです」

 ピンク色をして、耳に青いリボンをつけた兎さんでした。月与と同じように剣と盾を持っている、アーシャ・イクティノス(eb6702)は、子猫さんの話を聞くや急いでやって来たのでした。
 他に名乗りを上げる冒険者は居ないようです。こうして6人のふわもこ冒険者達は、キツツキのギルド長と仲間のふわもこ冒険者達に見送られて、子猫の女の子を探しに旧聖堂の地下遺跡へと向かう事になったのでした。





 地下遺跡の、誰も入った事のない場所までやって来たふわもこ冒険者達は、まずはその辺りに子猫の女の子が居ないかどうか探しました。けれど子猫の姿は、毛の一筋も見つかりません。
 リスのリディエールが心配そうに言いました。

「やっぱり、奥まで行ってしまったんでしょうか?」
「パーストで調べてみる、なのです、けろ」

 かえるのエフェリアがそう言って、魔法で彼女達が来るより前に通った人が居ないかどうか、調べてみました。エフェリアの頭の中に、みぃみぃ泣きながら遺跡の奥へと走っていく、小さな子猫の女の子の姿が浮かびました。
 やっぱり子猫の女の子は、遺跡の奥まで行ってしまったようです。エフェリアからそれを聞いた冒険者達は、かわいそうに、早く見つけてあげないと、と頷きあいました。
 先頭に立つのはたれぱんだの北斗です。ぽてぽてと歩いていく様子はいかにものほほんとしていましたが、たらんとたれているふわふわの太い尻尾を見れば、床のものを動かしたりしないように気をつけているのが判ったでしょう。
 その後ろにしばわんこの月与、ピンク兎のアーシャ、リスのリディエール、かえるのエフェリアと続きます。一番最後はアヒルのクリスでした。大きなおしりをふりふりしながら、みんなの後ろを付いて歩いていきました。
 遺跡の道はあちらこちらに大きな石が落ちていたり、うっかり踏むとガラガラと崩れて落っこちてしまいそうなひび割れがありました。みんな、気をつけてそうっと進んでいきます。
 けれどもついに、ふわもこ冒険者達は足を止め、困ってしまって顔を見合わせました。彼らの前の通路は、ぱっくり大きく割けていて、底の方には地下水の川がごうごう音を立てて流れていました。
 子猫ちゃんは、この先にいるのでしょうか?
 エフェリアがパーストで確認してみると、きょろきょろ辺りを見回しながらボロボロの木橋を渡る、子猫ちゃんが見えました。同時に辺りを調べていたアーシャが、ぷっつり千切れたボロボロの縄を見つけました。
 きっと、子猫ちゃんが木橋を渡った後に、崩れて落っこちてしまったのでしょう。でも、じゃあ、どうやってふわもこ冒険者達はこの先に進めば良いのでしょうか?

「おいらに任せるのだぁ〜」

 困ってしまって、しっぽや羽根やお耳やオタマジャクシをふわふわ動かして考える仲間達に、北斗がポフッと大きく胸を叩きました。たれたぬきのぬいぐるみのお腹に縫いつけた大きなポッケから、ゴソゴソ何かを取り出します。
 なんと、北斗はこんな時の為にちゃあんと、ロープを何本かと、他の色々な道具も用意していたのでした。みんなが目を丸くして見守る中で、エィッと縄を投げて向こう側の杭に引っ掛けた北斗は、みるみるうちに橋を作ってしまいました。

「みんな、この橋を渡るのだぁ〜」
「わぁ、すごい!」
「北斗さん、ありがとうございます」
「なんの、たぬきさんは不思議が一杯なのだぁ〜」

 のほほんと笑った北斗に、みんなは口々にお礼を言って、橋を渡りました。北斗の顔が嬉しそうに、たらん、とたれました。
 ごうごう流れる川を越えて、ふわもこ冒険者は進みます。だんだん別れ道が多くなってきましたので、そのたびにみんな立ち止まり、いったい子猫ちゃんはどっちに行ったのだか、きょろきょろ辺りを見回したり、魔法で調べました。
 クリスがふわもこの羽根を上手に動かして、しっかり抱いた妖精の竪琴で、まだ見ぬ子猫ちゃんがたった一人ぼっちで怯えてみぃみぃ泣かないように、励ますメロディーを奏でます。それは広く広く、遺跡の壁に何度もぶつかって広がって行きました。
 そうして、ふわもこ冒険者達がもう幾つ目かの別れ道を曲がった時です。

「この先には行かせないぞ!」
「そうだ、行かせないんだぞ!」

 ふわもこ冒険者の前に、遺跡をうろうろしている悪いぬいぐるみ達が現れたのです!
 それは、片方の耳が千切れてちょっと綿がはみ出しているボスオオカミさんと、ボスオオカミさんの後ろにズラリと勢ぞろいしてふわもこ冒険者達を睨みつけている手下のオオカミさんでした。みんな揃ってニタリと笑って、口の奥の真っ赤な布が見えているので、とても恐ろしい、悪そうなオオカミさんです。
 けれども、ふわもこ冒険者達はもちろん、オオカミさんを怖がったりはしません。
 刀や剣をスラリと勇ましく抜き放ち、アーシャと月与が仲間の前に進み出ました。

「あたい達はこの先に用があるんだもん」
「さあ、みんな下がって。ここは私に任せて下さい」
「何。しばわんこさんと兎さんのくせに、生意気だぞ!」

 ボスオオカミさんは頭から綿が飛び出しそうなほど怒り始めました。手下のオオカミさん達も一緒に、そうだそうだ、と怒りました。
 ガオォッ! とボスオオカミさんが一声、恐ろしく、大きく吼えますと、それに合わせて手下のオオカミさん達は一斉に、ガオォッ! と吼えて、アーシャと月与に襲い掛かりました。ぱっくりと真っ赤な口を大きく開いた様子は、しばわんこさんや兎さんなど、一口でがぶりと飲み込まれてしまいそうです。
 ですが、月与もアーシャも、ただのしばわんこさんや、兎さんではありません。

「えーいッ!」

 ガキッ!
 アーシャの剣がオオカミさんの牙を受け止め、そのまま力いっぱい薙ぎ払いました。びゅぅん、とたいそうな勢いでオオカミさんは飛ばされて、後ろに居た仲間に当たってポテッと転びました。
 さらに、月与が放ったソードボンバーで、まとめて5〜6匹のオオカミさんが吹っ飛ばされました。

「ウワァーンッ!」
「親分ーッ!」

 口々にそう叫びながら、ゴロゴロゴロッ! と転がっていき、壁にポフッとぶつかって目を回してしまいます。
 けれども、オオカミさん達はまだまだたくさん居ました。仲間達があっさり飛ばされてしまったのに、ちょっとだけ怖くなったようでしたが、そんな事ではいけないと頷き合い、ガオォッ! と吼えました。
 今度は、オオカミさん達はそのまんま襲い掛かってくる事はしませんでした。オオカミさんだって、痛いのは嫌ですからね。だからボスオオカミさんが「取り囲んでやっちまえッ!」と叫んだ通りに、ふわもこ冒険者を大きく取り囲んで、じりじりと近づいてきました。
 何ということでしょう、ふわもこ冒険者達は、このままオオカミさんにやっつけられてしまうのでしょうか?
 いえいえ、勿論、そんな事にはなりませんでした。というのは、エフェリアが誰にも見つからないようにこっそり物陰に隠れて、タイミングを見計らって床にたらんと垂らしていたロープを思い切り引っ張ったからです。
 あっ、と驚くなり、ロープに足を絡めたオオカミさんはポテンと転んで、アォン、アォン、と泣き始めました。仲間のオオカミさん達も、ボスオオカミさんも、びっくりして泣き出したオオカミさんを振り返りました。
 その隙にふわもこ冒険者は動き出しました。リディエールが青い石の杖を振りながら呪文を唱えると、水球がぽんと現れて、真っ直ぐオオカミさん達に飛んでいきました。ビチョッ! と大きな音がしたかと思うと、オオカミさん達はぐっしょりずぶぬれになってしまいました。

「うわぁん、綿が重くて動けないよ!」
「そのまま大人しくしていて下さいね」

 リディエールはすっかり水を吸って重たくなってしまったオオカミさん達にそう言って、また呪文を唱え始めます。
 月与とアーシャも、びっくりしておたおたしてしまったオオカミさん達に飛び掛りました。すてんと転ばせたり、剣でポコポコと殴ってオオカミさん達を1人ずつ倒していきます。
 けれども、一番大変だったのはなんと言っても、クリスです。彼女は吟遊詩人さんですので、オオカミさんに襲い掛かられて、がぶりと噛まれたのでは一たまりもありません。あっちへがぁがぁ、こっちへがぁがぁと一生懸命、仲間の邪魔にならないように逃げるのですけれど、あちらもこちらもポコポコ、ビチャンと大乱闘です。
 ついにポテンと転んでしまったクリスを、間一髪のところで助けたのは北斗でした。

「こっちが安全なのだぁ〜。怪我はないのかな〜?」
「大丈夫です。ふわもこ冒険者は転んでも平気なのです!」

 たれたお顔を心配そうにかしげた北斗に、クリスは力強く言いました。ちょっとだけ、お尻のところが破れてしまったのですけれどね。
 ふわもこ冒険者はたいそう強く、勇敢でしたので、悪いオオカミさん達はついに、皆やっつけられてしまいました。ポコポコ殴られたボスオオカミさんが、ウォンウォンと泣きながら言いました。

「やめておくれよ、綿がはみ出ちゃうよ〜」
「もう、悪い事はしませんか?」
「しないよぅ!」

 ウォンウォン泣きながらそう言いますので、ふわもこ冒険者はオオカミさん達を許してあげる事にしました。ぐっしょりと濡れてしまったオオカミさんの綿を絞ってあげて、破れてはみ出してしまった綿を元通りに詰めなおし、繕ってあげますと、オオカミさん達はたいそう喜びました。

「もう意地悪しちゃメ〜だよ」
「ウォン、ウォン、ありがとう!」
「他に破れている人は居ませんか? って‥‥やだー、恥ずかしい〜」

 怪我を繕ってあげていたアーシャが、自分のお耳からも綿がぴょこん、とはみ出しているのに気がついて、真っ赤になってしまいました。ボスオオカミさんの破れていた耳も直してあげた月与が、綺麗に元通りに縫い直してあげました。
 クリスのお尻は可愛いアヒルのアップリケをつけまして、他にも大きく破れてしまった仲間やオオカミさんの怪我は可愛いアップリケや刺繍をつけて上げて、ぬいぐるみ達はすっかり元気になりました。そこで改めてオオカミさん達に、迷子の子猫ちゃんを見なかったか尋ねてみました。

「この先の、小さな広場に居たよ」
「ありがとうなのだぁ〜」

 すっかり仲直りをしたふわもこ冒険者とオオカミさん達は、手を振り合って別れますと、また遺跡の道をずんずんと進んでいきました。
 幾つかの曲がり角と、幾つかのひび割れを乗り越えまして、オオカミさん達に教えてもらった通りに進みますと、やがてふわもこ冒険者たちは小さな、広場のような場所に出ました。ここには何か、石像のようなものがあったのでしょうか? あちらこちらに、崩れた石が積み重なっているのが見えました。
 ふわもこ冒険者達は、きょろきょろ辺りを見回しながら、広場の真ん中辺りまで進みました。すると、おや? どこからか、すやすやという寝息が聞こえてくるではありませんか。

「あっ」

 そちらを振り向いたふわもこ冒険者達は、小さな広場の隅の、崩れた遺跡の上にクルンと丸くなっている子猫の女の子を見つけて、思わず声を上げました。パタパタと走りより、近付いてみると、どうやら子猫ちゃんは疲れて眠ってしまったようです。
 子猫ちゃんは冒険者達の声でぴくりとお耳を動かしました。どこも破れて怪我をした様子も、綿がこぼれた様子もありませんでした。
 それでも念の為、目が覚めて黒いお目めをぱちくりしている子猫ちゃんに、どこも痛い所はないか尋ねました。ふるふると、子猫ちゃんは首を振りました。
 よかった、とふわもこ冒険者達は顔を見合わせて喜びました。さあ、後は子猫ちゃんを連れて無事、遺跡の外へと戻れば、依頼は完了です。
 けれどもほんの少しだけ、誰も調べたことのない遺跡だったら素敵な宝物が隠されているかもしれない、と思っていたりもしましたので、残念な気持ちもありました。皆の尻尾がしゅんと垂れたのは、それだからです。
 といって、この子猫ちゃんを放って宝物探しなんて、ふわもこ冒険者がするはずもありません。宝物は今度探しに来れば良いとリディエールやアーシャやクリスは思いましたし、これまでの皆との冒険が十分に宝物だと北斗も思いました。
 ですが、勇敢で優しいふわもこ冒険者達に、神様がご褒美を下さったのでしょうか。エフェリアが、しっかり胸に抱いている友達のおたまじゃくしのぬいぐるみが何かを訴えている事に気づいたのです。

「何かある、とおたまじゃくしさんが言っています、けろ」
「あっちにキラキラがいっぱいあるのよ」

 子猫ちゃんも指をさしてそう言いました。そうして、とてとてとて、と走ってゆきました。
 ふわもこ冒険者が後を追いかけていきますと、少し大きな瓦礫の向こうに、まるで古い祭壇でもあったかのような、小さな石造りの空間がありました。いったいここは何に使われていたのでしょう、子猫ちゃんのふにゃりと柔らかい尻尾がゆらゆらと、祭壇らしき場所の前に積みあがった瓦礫の中からのぞいていました。

「これよ」

 子猫ちゃんがそう言って、小さなお顔を出してキラキラ光るものをふわもこ冒険者達に差し出しました。それは幾つもの小さな、宝石のようにキラキラ輝く石と、磨き込めば王宮でも使えそうな杯と、古い硬貨でした。
 石のうちの幾つかは、本当に宝石のようです。きっと、長い間に石を繋いだ糸や金具が壊れてしまって、バラバラになってしまったのでしょう。杯と硬貨と宝石はどうやら、ここにあった祭壇に捧げられたもののようでした。
 けれども、石のうちの幾つかは、宝石ではありませんでした。

「祈りの結晶、だね」

 拾い上げた月与が微笑みました。旧聖堂でたくさんの人たちが捧げたお祈りが、結晶になったのでしょう。或いはこの祭壇に杯や硬貨や宝石を捧げた人々の祈りかもしれません。
 ふわもこ冒険者達は、全部を持って帰ったりはせず、ポッケに幾つかの石や効果、結晶を納めました。おうちに持って帰って飾ればきっと、いつでも今日の冒険を思い出す事が出来るでしょう。
 子猫ちゃんの小さな手のひらにも輝く石を落としてあげますと、子猫ちゃんは嬉しそうに目をキラキラさせて「ありがとう」と言いました。ぴくぴくとおひげが動きました。
 無事、宝物も見つける事が出来たふわもこ冒険者達は、子猫ちゃんと交代で手を繋ぎながら、地下遺跡の元来た道を楽しそうに帰ってゆきました。きっと、キツツキのギルド長も、この話を聞けばにっこりして喜んでくれるに違いありませんよ。





 舞台が拍手喝采に包まれて、ようやく深紅の緞帳を下ろした。ほぅ、と誰もの口からため息が漏れる。
 パリの華やかな祭の夜、冒険者有志によるぬいぐるみ劇『がんばれ僕らの冒険者♪』に、集まった子供達は大喜びだった。全身着ぐるみと言う衣装にもめげず、頑張った甲斐があったと言うものだ。
 じゃあ私はこれで、とキツツキの着ぐるみを脱いだ女性が出演者達に軽く手を振り、去っていった。勿論本物のギルド長じゃない、そっくりの誰かさんだ。
 そっくりの誰かさんを見送って、頭からすっぽり着ぐるみを外した冒険者達は顔を見合わせ、笑い合った。全員汗だくだが、やり切った達成感が誰の顔にも浮かんでいる。むしろやってる方も楽しかったと言うか。
 緞帳の向こうから、ふわもこ冒険者達を呼ぶ子供の声が聞こえた。幾人もの、結構大きな声だ。アナウンスを務めた男が、もう一度出れるか、と聞きに来る。

「もちろん!」

 力強く頷いて、冒険者達は再び着ぐるみを頭から被った。ふわもこ冒険者は今宵、子供の夢を守るため、力の限り頑張るのである。
WTアナザーストーリーノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2009年09月16日

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