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『 垣間見た未来 』
キース・レッド(ea3475)


●時の流れ
 時は穏やかに流れていた。
 彼女、エリヴィラ・セシナと結婚してからもう25年の歳月が流れた。キース・レッドはソファに座り、リビングに目をやって昔を振り返る。
 人間とハーフエルフ。ジ・アースでは一部の国以外、アトランティスでは全土で禁忌とされる婚姻。それでも彼は彼女を求めた。想いのすれ違い、思うが故の暴走――時を重ね言葉を重ね、理解しあってきたつもりだ。
 人間ではあるが子供にも恵まれ、つつましく生活をしている。耳を隠して人間を装っているエリヴィラがハーフエルフであるとばれない為には長期間一つのところに住み続ける事は出来なかったが――家族という物に憧れるキースには、それでも十分だった。家族をもてただけで、十分だった。
(幼かった子供達も、今や殆どが家庭を持った)
 こことは違う場所だが、家のリビングでおもちゃを広げて遊んでいた子供達の姿が、昨日の事の様に思い出せる。子供達は皆、もうおもちゃで遊ぶような年齢ではなくなった。
(だが――)
 キースは庭に目をやる。開け放たれた窓からは小さな庭で洗濯物を干す妻の姿と、そして何年経っても代わらぬその美しい歌声が聞こえてきた。
(――君は変わらず美しい)
 額面どおり25年の月日を重ねて55歳となったキースに比べて、エリヴィラの外見はその半分しか年を重ねていない。人の半分の成長速度であるハーフエルフ。彼女はまだ29歳だ。元々彼女とは14歳の年の差があったが、現在その差は26歳――このまま広がる事はあれども縮まる事はない。
 愛用のテンガロンハットに触れ、そして思い起こすは昔の事。
 異種族愛が受け入れられず、恋人を無残に殺されて――そして闇に落ちた少女。彼女を救えなかったことは、今でも心に打ち込まれた楔だ。
 それでもキースは、エリヴィラを愛した事を後悔していない。
 たとえ世間に認められずとも、人々から謗られようとも、彼女を愛し守り抜くと決めたのだから。
 親類に騙されるようにしてアトランティスへと来落した彼女。
 禁忌の存在として酷い迫害を受け、笑顔を忘れてしまった彼女。
 彼女が初めて見せてくれた微笑みを覚えているから――忘れられるはずはない。
 孤独の中で生きてきて自分に、光を与えてくれる存在だと思ったから。
「‥‥エリィ?」
 ふと回想から引き戻されてみると、それまで聞こえていた彼女の歌声が聞こえなくなっていた。テンガロンハットのツバを上げ、庭を見るが彼女の姿は見えない。
「‥‥ここに、います」
 ふわり、花の香りがキースを包む。いつの間に洗濯を終えたのか、庭で摘んだ花を抱いてエリヴィラがソファの後ろに立っていた。
「君が、消えてしまったかと思った」
 思わず本心を漏らすと、彼女はふわり、と微笑んで。
「一体、どこに消えるというのですか」
(ああ、そうだ――)
 だが、キースは彼女に手を伸ばし、そしてその手を掴んだ。おいていかれそうになった子供がするように、縋るように。
(彼女はこれまで僕についてきてくれた)
 できればこれからも、ずっと‥‥傍に居て欲しい、傍に居たい。

 ずっと、先立つその日まで、君を愛する事を誓うから――

 瞳の先の彼女が、言葉にしないその思いを受け取ってくれたかのように優しく、優しく微笑んだ。
 安心したのだろうか、何故だろう、視界がかすむ。
 彼女の姿が遠くなる――誰かが、遠くで自分の名を呼ぶ声が聞こえる‥‥‥


●それは夢か真か
「‥‥さん、キースさん!」
「!?」
 がばっ。
 自分が眠っていた事に気がついたのは、反射的に跳ね起きてからだった。まだ頭の中がボーっとしている。今見ていたのは‥‥夢?
「こんなところで寝てたら風邪引くよ〜」
「‥‥ミレイア、くん?」
 先ほどまで傍に居た彼女はどこだろうか。ここは自分の家ではないのだろうか。キースはぐるりと辺りを見回して、そこが家の中ではないことに気がつく。
 たくさんのテーブルと椅子が、ホールの中に所狭しと並べられている。満ちているのは様々なアルコールと食事の匂い。盛りの時間は過ぎてしまったのか客の数はまばらだけれど、ここは――
「酒場‥‥?」
「まだ寝ぼけてる? 折角の料理が冷めちゃってるよ。はい」
 目の前にいるのはこの酒場の看板娘、ミレイア・ブラーシュ。いつものスマイルで手渡されたのは、キース愛用のテンガロンハットだ。眠っている間に落としてしまったらしい。
「ふう‥‥ありがとう」
 しかし先ほどの夢は何だったのだろうか。
 自分の強い希望の見せた未来なのか、それとも――。
(何はともあれ、僕の愛は変わらない。僕とエリィが乗り越えなければならない困難も、そして、その先に待っている幸せも、きっと)
 あの夢の本当の意味はわからない。けれども現実は変わらない。
 キースが本当に彼女を愛し、彼女と共に困難を乗り越えていく決意があるならば、いつかきっと。
 彼女と共に困難を乗り越え、そして恒久的に襲い来る種族差のもたらす問題に屈さなければ、いつかきっと。
 幸せは訪れるはずだから。
 人間とハーフエルフの成長速度、そして寿命の違い――年齢の差からいって、自分が彼女を置いて先に行ってしまうことは間違いないだろう。
 だが、いや、だからこそ最後のその瞬間まで、彼女を愛し抜くと‥‥誓いたい。
 気の抜けてしまったエールをぐいっとあおる。その苦さが意識と決意を鮮明にさせる。
「キースさん、お迎えだよ!」
 その時、ミレイアの声が酒場に響いた。
(迎え‥‥?)
 そんなもの来るはずがないのに、そう思って入り口に視線を向けたキースは瞠目する。「エリィ‥‥?」
 そこに立っていたのはランタンを片手に持ったエリヴィラ。
 光の差さない真っ暗闇で狂化してしまう彼女は、そのランタンで狂化を防いでいるのだろう。
 いや、それ以前に夜一人で外出するなど、狂化というリスクがある彼女にとっては自殺行為に等しい。狂化すればハーフエルフだということがばれてしまう。そうなれば再び厳しい迫害に晒され、その上今まで人間だとして騙してきた人々にも罵倒されるだろう。
「何でここに‥‥?」
 夢だろうか、驚きの表情で固まっているキースに一歩一歩近寄るエリヴィラ。彼女は彼の傍に立ち、そして彼の手を優しく取った。

「‥‥帰りましょう?」

 どこに、とは聞かない。
 どこへ、とはいわない。
 帰る場所、それがあるということが大切なのであって、それがどこであるかは問題ではない。
 触れた手から伝わる暖かい熱。
 彼女の微笑みは、先ほど見た夢の中と同じ、優しいものだった――。


                      ――Fin




●登場人物
・ea3475/キース・レッド様/男性/30歳/レンジャー


●ライター通信

 いかがでしたでしょうか。
 未来の話の夢オチということで、この二人はどんな未来を迎えるのだろうかと色々と考えながら書かせていただきました。
 特に細かい指定がありませんでしたので、だいぶ自由に書かせていただきました。
 オチの部分は…「家族」や「帰る場所」というものがやはり重要なキーになっているかと思いましたので、このような形になりました。


 気に入っていただける事を、祈っております。
 書かせていただき、有難うございました。

                 天音
WTアナザーストーリーノベル -
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Asura Fantasy Online
2009年09月02日

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