■M1-1 はじめに

 ゲームマスター(以後、GM)は、プレイヤーとは異なる役割を持ったTRPGの参加者で、シナリオを用意し、セッションの進行を管理します。
 プレイヤーよりも負担は多くなりますが、セッション全体を仕切る立場としてプレイヤーにはない面白さがあります。
 本章では、ゲームマスターの役割や権限、セッション運営のガイドラインを紹介します。


■M1-2 ゲームマスターの役割

 GMは、シナリオを用意して、その時々のセッションに方向性を与える指揮者であり、ルールを把握してプレイヤーがやろうとした行為に対して成否の判断を下す審判であり、ゲームを盛り上げる脇役でもあります。
 そういわれると、難しい事だと思うかも知れませんが、それほど難しく考える必要はありません。一番大切なことは、ゲームを楽しみたいという気持ちとプレイヤーを楽しませたいという気持ちです。GMのやるべきことは、結局のところ「プレイヤーを楽しませる為の○○」ということに集約されます。
 GMの目的は、プレイヤーを打ち負かす事でも、甘やかす事でもありません。手ごたえを感じられる試練を与え、やりがいのあるセッションをしてください。

 GMの役割は、「セッション開始前に行うこと」と「セッション中に行い続けること」「セッション中に発生するかもしれないこと」「セッション終了後に行うこと」があります。

(1)セッション開始前に行うこと

 GMの役割のうち、セッション前に行っておくことで円滑にセッションを勧められるようになる作業として以下のものがあります。
1:ルールの把握
2:シナリオの準備

【1】ルールの把握
 GMは、審判としてセッション中に行われる様々な判定を仕切る必要があります。この為、その時々に応じたルールがルールブックの何処に書かれているかを把握しておく必要があります。
 プレイヤーの行った行為に対する適切な判定をする毎に、ルールブックのあちこちを探して時間を浪費すると、セッションの流れを止めてしまいます。セッションは生ものなので、一度流れを止めてしまえば簡単には戻せません。
 ルールを検索する時間が短く済むように、大よその流れとルールブック上の配置を確認しておきましょう。また、検索の頻度を減らせるように基本的な判定方法、戦闘、魔法の手順は早めに覚える事を推奨します。

【2】シナリオの準備
 GMは、セッション上でPCが超えるための障害や到達すべき目的を提示して、プレイヤーに行動を促す必要があります。プレイヤーがPCを動かして初めてセッションは盛り上がるので、その動機と課題を与え続けるという意味を持つシナリオは非常に重要です。
 シナリオの準備の中で、セッションの開始前にプレイヤーに提示するオープニングも作成します。オープニングは、シナリオの初期情報と趣旨をプレイヤーに伝える為のものです。

(2)セッション中に行うこと

 セッションの間、継続的に行う作業は以下のとおりです。
1:セッションの司会進行
2:プレイヤーの行動に対する判定
3:NPC・モンスターの管理

【1】セッションの司会進行
 シナリオに沿って起こった事件や周囲の状況をプレイヤーたちに伝え、必要に応じてプレイヤーたちから出た疑問に答えて、セッションを進行させます。
 プレイヤーの行動によって、シナリオの予定から逸脱していく場合、GM自身が処理できる範疇を超えない限り、シナリオに修正を入れつつ、その流れで進めていきましょう。プレイヤーの自発的行動を抑制することは、楽しいセッション運営の妨げにしかなりません。GMが対応できる限界を超える場合、プレイヤーに伝えてシナリオの変更を含めてセッションの方向性を仕切り直しましょう。GMが全く制御できない形でシナリオが進むとセッションそのものが破綻する危険があり、後味の悪い結果になります。

・プレイヤーが積極的な行動を行わない場合
 PCが何をしていい状況か分からなくなったり、プレイヤーがセッションに興味をなくしていたりすると、プレイヤーが積極的な行動を行わなくなります。
 こういった状況に陥った場合、GMからプレイヤーがどう思ってるか、どうしたいかを聞いて、行動を促すと共に、プレイヤーが積極性をなくしている原因を確認しましょう。例えば、GMが「シナリオの進行を優先したために、一方的に情報を流しすぎていた」といった原因が考えられます。

【2】プレイヤーの行動に対する判定
 プレイヤーが宣言したPCの行動が成功するか失敗するか、その判定はどのように行うのが適切かを判断して、判定方法の指示を出します。

・判定で何かのトラブルが発生した場合
 GMは、自らの判断でルールに沿った処理を停止して、GMの判断による判定結果を適用します。この際、GMはプレイヤー側が有利になるように配慮しつつ、プレイヤーがセッションを楽しめる事を最優先して判定してください。

【3】NPC・モンスターの管理
 シナリオ中に登場するPC以外のNPCやモンスターなどは、全てGMが管理します。この管理はデータだけではなく、NPCがどう会話するか、モンスターがどう戦うかなども含めて総合的に管理します。

(3)セッション中に発生するかもしれないこと

 セッションを進めていると、予定外な問題が発生することがあります。これらを適切に処理しないと、セッションは円滑に進みません。その解決はGMが中心となり、プレイヤーの協力を得て行います。
1:プレイヤーによるルールの間違い
2:プレイヤー同士の揉め事
3:プレイヤーが手詰まりになる
4:GM自身のルールの間違い

【1】プレイヤーによるルールの間違い
 プレイヤーがルールを間違えていた場合、その場でやり直せるなら正しいルールにそってやり直します。すでに戦闘で次の手番が進んでいる等、状況が変化しており、やり直せない場合は、正しいルールをプレイヤーに伝え、今後正しい判定を適用すると明確化して、過去の判定はそのままとします。
 間違いが、MP残量や負傷の程度など、差分が明確で修正可能なデータである場合、正しいデータに合わせておきましょう。巻き戻せない形でプレイヤー有利に展開しすぎていた場合、負傷の追加やMPの消費、装備品などの破壊などのペナルティを加えて、バランスを調整して下さい。

【2】プレイヤー同士の揉め事
 プレイヤー同士で意見が合わず、口論や反目でセッションが進行しない場合があります。この場合、GMが裁定して争いを止め、他のプレイヤーに迷惑が掛からないように進展させます。
 即座に結論を出すのは難しく、セッションを長く中断させることになる場合は、セッション終了時までGM預かりとして、互いの言い分をメモにでも取らせ、他のプレイヤーの協力も受けつつ、プレイヤー間の反目をPC間の反目に置き換え、セッションを進めます。もしGMの仲裁を受け入れないなど進展を妨げる行為が続く場合、PCが不意打ちを受ける等ペナルティを課しても構いません。
 セッションが終わった後、必ず両者の言い分を聞き比べ、何が原因であったかを明らかにするよう努力しましょう。

【3】プレイヤーが手詰まりになる
 GMが出したヒントを理解できなかったり、誤解を元に行動した結果プレイヤーが手詰まりになり、セッションが進展しなくなる場合があります。なるべくご都合主義にならないように気を使いつつ、プレイヤーに新たなヒントや誘導を与えます。
 この時、予定を変更した素振りは見せず、予定通りという風に対応しましょう。

例:敵の居場所がわからずに右往左往しているなら、アジトの情報を持った敵に襲撃されたり、同じ敵を持つライバルを登場させ情報を与えて代償を取る等

【4】GM自身のルールの間違い
 GMも人の子なので、勘違いやイージーミスでルールを間違って適用する事があります。この時の対応は状況によって分けられます。

1.プレイヤーが気付き指摘した場合
 プレイヤーが気付いた間違いは、素直に認めて謝りましょう。その上で、直ぐ巻き戻して処理ができるなら巻き戻し処理を行います。すでに間違いが取り戻せなくなっている場合は、特に問題がない限り、以後正しいルールで行うと宣言し、プレイヤー側に不利益があった場合には調整を行い、セッションを進めます。
 もし、ルールを正す事によってセッションが破綻する場合は、その旨をプレイヤーに告げて誤ったルールを継続してください。セッションの維持はルールの正否に優先します。

2.プレイヤーが気付いていない場合
 プレイヤーが気付いていない場合、その場は伏せて、正しいルールを元にセッション終了まで続けます。プレイヤー側に不利益があった場合には密かに調整を行い、セッションを進めます。
 セッションが終了した時点で、ルールの誤りについてプレイヤーに謝罪してください。GMのルール誤解はプレイヤーの信頼を損なうので、セッション途中で明らかにするのは回避しましょう。

(4)セッション終了時に行うこと

 セッションが終了した時点で、プレイヤーの得るSP・BSPの確認を行い、プレイヤーが楽しめていたかどうかを図ります。
 プレイヤーを楽しませる事ができていれば、GMとして成功です。


■M1-3 ゲームマスターの権限

 GMは、セッション中における全ての要素に対して最終的な決定権を持っています。プレイヤーが宣言したPCの行動であっても、それが世界設定上ありえないならば、却下することができますし、セッションを盛り上げる為に必要ならば、自動的に成功や自動的に失敗と決定する事もできます。

 但し、GMの権限は、全てセッションを盛り上げてプレイヤーを楽しませる為に与えられたものです。GM権限でルール外の処理をする場合、プレイヤーを楽しませる事を忘れてはいけません。
 逆に言えば、「GMは、プレイヤー全員が楽しむ為ならば、ゲーム内で何をしても良い」という事になります。
 但し、プレイヤーはルールを拠り所に成否を予想して行動を行います。GMの胸先三寸で決まるGM判断の優先を乱発すると、プレイヤーはGMの気に入ることしかできない事になり、GMの顔色を伺うばかりになってしまいます。
 良いGMとは、GM判断の優先権限をなるべく使わずに、可能な限りルールに沿ってセッションを進めるGMとなります。


■M1-4 セッションの流れ

 セッションの流れは、大きく2つのタイプに分かれます。1つは、事前にPCを作っておき、そのPCに合わせてシナリオを作るタイプ。もう1つは、シナリオを先に用意してそれにあったPCを作成させるタイプです。

(1)PC事前作成

 事前にPCを作るタイプは、身内のセッションやキャンペーンの2話目以降のパターンで、別の機会にPCを作ってあるケースです。パーティの面子や行動パターンがある程度分かっているので、それぞれの個性を生かせる場面やギリギリまで追い詰める展開などを創りやすいという利点を持つ代わり、他のPCに転用し辛いという欠点を持ちます。

【ゲームの流れ・PC事前作成版】
1.PC作成の管理
2.シナリオの準備
3.オープニングの提示
4.セッションの進行
5.プレイヤーの行動に対する裁定
6.NPC・モンスターの管理
7.セッション終了時の処理

【ポイントとなる点】
1.PC作成の管理
 プレイヤーにPCを作らせ、その内容を管理します。
 適正に作られているかを確認するだけではなく、展開するシナリオやパーティ全体のバランスを考慮して、クラス選択に制限を加えたり調整を行います。
 後々、ゲーム上でプレイヤーやGMが困るような選択をしている場合、事前に注意して、変更するように話し合ってください。

2.シナリオの準備
 今回のセッションで行うシナリオを用意します。
 シナリオは、セッションでおきるイベント予定やその処理手順、登場するNPC・モンスターのデータを整理したものです。
 このシナリオを自作したり、市販または一般公開されたシナリオを選んで用意します。シナリオには、「3.オープニングの提示」で提示するオープニングの内容も含まれます。
 オープニング部分では、なるべく簡潔にその時行うシナリオの主題や、雰囲気を伝えることを目的に、伝えるべき情報を整理しておきましょう。小説風の文章にまとめるのも良いでしょう。
 この流れのように、PCを先に作っている場合には、そのPCが無理なく参加して活躍の場ができるように配慮する必要があります。

3.オープニングの提示
 セッションを開始する前に、GMはプレイヤーに対して今回のセッションの初期状態を伝え、当面の目的を提示します。シナリオによっては、真相がオープニングとは異なる場合があっても構いませんが、その時は別の真相があることをオープニングでほのめかしてください。
 オープニングでうまく、シナリオのテーマを伝える事ができれば、セッションの途中でプレイヤーが何をしていいいかが分からなくなったり、ひどい脱線をする事が避けられます。
 セッションが破綻してしまうのは、GMにとってもプレイヤーにとっても不幸なことなので、事前に回避する努力をすると余裕を持ってマスタリングする事ができます。


(2)シナリオ事前作成

 シナリオを先に作るタイプは、コンベンションなどで初の組み合わせの面子で行う時に多いケースです。オープニングを語って方針を伝えてからPCを作成するので、プレイヤー側でバランスを調整しやすくなっています。PCが確定していない場合でも事前に準備ができるという利点を持ちますが、面子が想定できない分バランスをギリギリまでつめる事ができないという欠点があります。

【ゲームの流れ・シナリオ事前作成版】
1.シナリオの準備
2.オープニングの提示
3.PC作成の管理
4.セッションの進行
5.プレイヤーの行動に対する裁定
6.NPC・モンスターの管理
7.セッション終了時の処理

【ポイントとなる点】
1.シナリオの準備
 単発のセッションでは事前に、PCが確定していない時点でシナリオを用意することになります。シナリオを作る時点では、なるべくどんなPCでも活躍できるように、あるクラスがいないと絶対に解決できないという事がないように、配慮しながらシナリオを作ります。但し、だれでも問題のなく参加できるシナリオとは、結局のところ、どのクラスにとっても個性を生かした活躍の機会がない、面白みのないシナリオということになります。

 このため、最終的に作成するシナリオに、ある程度、活躍しやすいクラスと活躍しにくいクラスができる、といった状況が発生するのは仕方のないことと認識してください。GMは作成したシナリオにおいて、どんなPCが活躍しやすいか、どんなPCだとほとんど活躍できないかを把握しておき、「2.オープニングの提示」段階で、プレイヤーに伝え、PC作成の基準としてもらいます。

2.オープニングの提示
 コンベンション等では、PCを作りはじめる前の段階(GM紹介時など)にオープニングをプレイヤーに提示し、そのシナリオに参加する事を前提としてセッションに参加してもらいます。
 よって、オープニングでは、基本方針やテーマ等を簡潔に伝えられるように気を使いましょう。説明が不明瞭だったり内容が良く判らないオープニングだった場合、最悪、参加者が規定人数に達することなく、セッションが成立しない可能性があります。

3.PC作成の管理
 提示したオープニングに沿って、プレイヤーにPCを作ってもらいます。PCはそのオープニングで提示されたシナリオに無理なく参加できる性格や設定、参加する動機を持っている事を義務付けます。
 参加する動機などはプレイヤーの相談に乗りつつ、確定させて下さい。


■M1-5 困ったときの対処

 これまで解説してことを心掛けてセッションを進めていると、概ね大きな問題は発生しません。しかし実際のセッションではどんなことが起こっても不思議ではありません。「どうしてもプレイヤーがGMの進行に従ってくれない」「GM自身どうしてよいか分からない」といった本当に困った事態になる場合があります。

 そうなってしまったら、GMだけの努力で解決することはできません。正直に参加者全員で腹を割った話をして解決策を探りましょう。場合によってはGMを交代してみる、メンバーを変えるなど大胆な方法をとってみるのも良いでしょう。