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■シナリオタイトル:Filed of Dreams
■マスター名:蘇芳 防斗
■募集人数 :1〜10人


●オープニング
 某国、某所、某フィールドにてその喧騒は起きていた。
「どんな権利があって、お前達が四軍を潰せると言うんだ!」
「一軍だから」
 茶色い髪と、己が手を振り乱して叫ぶ男性に対し、眼前にいる女性は物静かな返事だけすると次いで嘆息を漏らす。
「‥‥本気かっ!」
「嘘です、でも四軍から一軍にまで這い上がって来ている選手は今までに一人たりともいません‥‥それなら、不要でしょう?」
「それでも‥‥私達の夢までも潰す権利はお前達にないっ!」
 その彼女の振る舞いに対し、彼は歯噛みして返って来た答えへ舌打ちするも‥‥次に彼女が紡いだ問い掛けに彼は答えを返す事が出来ず、それでも虚しい叫びをフィールドに木霊させるのだった。

 どうやら話から察するに彼は四軍を、彼女は一軍を率いており四軍の存続に付いて火花を散らしている模様です‥‥って、一軍だとか四軍だとか何の事を言っているか分からない?
 縦105m、横68mに仕切られ、白線が引かれているフィールドを思い浮かべて貰えれば分かるだろうか。

 サッカー、である。

 この某国、サッカーにおいては非常に盛んで様々な企業がチームを設立してはチーム同士をリーグで競わせ、互いに切磋琢磨して技術の向上を図り‥‥その結果、世界一の座を保持している国なのである。
 そんな中の、今回はその某国の中で最も有名であるサッカーチーム『セスティアーナ』で起きた話で‥‥本筋へ戻そう。

「勘違いして欲しくないのは、今回の意向は上層部の判断であると言う事。先に私が言った通り、四軍の存在に疑問を抱いているからこその判断だと言う話なのですが‥‥確かにアシュドさんの言う事にも一理ありますね」
 その四軍を率い熱く反論の言葉を並べていた彼ことアシュド・フォレクシーへ、その眼前にいながらも涼しい顔をしてやんわりと彼の話を肯定する彼女、ルルイエ・セルファード。
 この某国のリーグ内で彼女は『紅蓮の猛虎』と異名を持つ程の名ストライカーで、だが彼はそれを気にせずルルイエを静かに睨み据えれば、此処で漸く別な者の声が響いた。
「そうだな‥‥私達もそこまで鬼ではない。ならば私達と戦って勝てばこの件はなかった事にする様、上へ掛け合おう。それならどうだ?」
「いいアイデアですね」
「‥‥いいだろう!」
 その声の主、『白銀の刃』ことレリア・ハイダルゼムが不敵に笑み言えばルルイエも同意して頷くとアシュド、厭わず答えを返すと
「それでは試合は‥‥三日後でいいでしょうか」
「後で泣いても知らないからなっ!」
「そのまま‥‥返す」
「悔しかったら俺達に勝つんだな! まぁ逆立ちして三遍回ってワンと叫んだ上にマントルまで急降下しかねない勢いがないと無理だろうが!」
『‥‥‥』
 相変わらずたおやかな笑みを湛える『紅蓮の猛虎』は試合の日取りを決めれば、早く踵を返して彼は威勢だけ強く言葉を返すも‥‥流石は一軍、油断なく瞳に強き光を湛えたまま彼を見送るが、最後に紡がれた何者かの言葉だけはどうにも場に馴染む事はなく辺りへ沈黙をもたらす。
「とりあえず、三日後だな。楽しみにしておけ」
「それはこっちの台詞だ」
「頑張って下さいね」
 だがアシュドはそれでも何とか振り返らず、居合わせる一軍へ最後に一言だけ告げれば並々ならぬ自信から出たのだろう一軍の返事へ静かに舌打ちだけ返すと足早にその場を立ち去った。


 と言う事でその直後、アシュドは四軍に所属する面子を緊急に召集すれば先の話を皆へ告げる。
「‥‥と、そう言う事だ。急な話で申し訳ないが皆、腹を括ってくれ」
「でも相手は一軍だぜ‥‥俺達が勝てるのかよ」
 その、掻い摘んでではあったが伝えられた内容は皆へ驚愕と狼狽を与えるには十分で、ある一人がその場にいる誰もが持っているだろう疑問を代表して口にするが‥‥次にはアシュドの鋭い眼光に睨み据えられる事となれば、首を竦める。
「勝てる勝てないじゃなく、勝つんだ! 必ずな」
 そんな彼らの反応を見て、アシュドはしかしうな垂れず顔を上げたまま叫ぶと
「四軍とは言え、夢を抱えて此処まで来たんじゃないのか。それなのにあいつらは‥‥いや、上の人間は私達四軍に存在意義がないと言った。確かに四軍故、甘さがあったかも知れないし、技術も足りないだろう。誰でもなく、皆それぞれに‥‥だがそれでも、そこまで言われて今更掴んだ夢から、サッカーから身を引けるか? 諦められるか?」
 皆の様子は気に留めず、だが皆を揺さぶり起こそうと‥‥事実こそは確かに述べながら、彼は熱き言葉を紡げば 「相手は一軍、リーグでも常に上位に位置する‥‥だがそれでも、決して不敗ではないし、完璧でもない。ならば私達でも‥‥だから気持ちで負けるな、顔を上げて前だけを見ろ! だが一人では絶対に挑むな、サッカーは個人ではなく十一人でする球技だ。それさえ忘れなければ私達にも勝機はある」
 敵へも、己へも屈さぬ様に両手を広げて場にいる皆へ呼び掛けると最後に一言だけ、アシュドは皆へ告げるのだった。
「だから‥‥勝つんだ! 勝って夢を掴むんだ! 私達は今からでも‥‥これからも、何でも出来る事を証明しよう!」

――――――――――――――――――――
 依頼目的:『セスティアーナ』一軍を打ち負かせ!
 対応NPC:一軍選手、全員がNPCです。四軍にはアシュド君をおまけでつけます(何)。

 傾向:ギャグ、ドタバタ、はっちゃけ全然有。まぁプレイング次第と言う事で。
――――――――――――――――――――

・解説
 サッカーチーム『セスティアーナ』の四軍に所属されている皆さん。
 皆さんにとっては急な話ですが、四軍の解散を賭けた試合が三日後に行われます。
 相手は一軍‥‥どんなに足掻いても、三日後が決戦であり皆さんの未来が決します。

 一軍に負ける事となれば言うまでもなく四軍は解散となり、また明日から生きていく為に職を探さねばなりません。
 しかし勝つ事が出来れば、上層部も観戦に来る事から大いなるアピールになると思われます。
 リスクこそ高いものの、確かなチャンスでもあるこの機会‥‥皆さんの大いなる活躍を期待しています。

□参加資格、注意事項等(PL様へ)
 参加に際し性別や年齢等の制限は特になし、どなたでもお気軽にご参加下さい。
 所持しているスキルや魔法はそのままシュート等に合成出来るものとしますが、サッカーのルールは自身が分かる範囲内で適用しますので、それに抵触するとイエローやレッドが出る可能性があります、十分にお気を付け下さい。
 無茶苦茶なシュートが審判にスルーされても、些細な振舞いや行為から審判の目に止まる可能性が十分にある事はお忘れなく(何その矛盾)。
 突っ込みは受け付けませんが(マテ)、何か気になる点があれば直接お尋ね下さい。


□セスティアーナ、一軍に付いて
 某国において最も有名なサッカーチームで、チームとしての練度は当然高いがそれ以上に時折見せる、卓越した個人技が恐ろしい。
 キャプテンのルルイエを中心に、攻撃的な布陣にて試合に臨む傾向が多い。
 四軍を相手に行なう試合でも油断は覗かせず、万全の体勢を整えている。

□セスティアーナ、四軍に付いて
 セスティアーナで一番レベルの低い軍ではあるが、情熱だけは『あった』グループ。

 夢や情熱だけでは越えられない壁にぶち当たり今ではアシュド(DF)以外、すっかりやる気をなくし、上層部の提案を甘受しようかと考えたらしいがアシュドの説得により昔、抱いていた想いを僅かながらに思い出し、一軍との試合を決意する。
 それが、皆さんである。
・マスターより
 毎度、蘇芳です!
 他にもネタはあったりするのですが、以前に公言した事もあって今回はハチャメチャなサッカーと相成りました。  NPCの性格も多少、今回のシナリオ用に補正されていますが余り気にしない様に。(ぇー


 実の所、余り詳しくはないのですが密かにサッカーは好きな部類のスポーツに入ります、自身はやらないにしても‥‥。(ぁ
 と言う事で、皆様の無茶苦茶ではっちゃけたなプレイングをお待ちしています。
 でも意外な落とし穴があったりするかも知れませんので、気を付けて下さいね(笑)。



●リプレイ
●散る火花
 某国某所の某フィールド、まだ試合は始まっていないにも拘らず火花は早くも散っていた。
「来たぞ」
「ようこそ」
 某国で最も有名なサッカーチーム、『セスティアーナ』四軍の(一応)リーダー(らしい)、アシュド・フォレクシーと一軍のキャプテンであるルルイエ・セルファードが睨みを効かせているその傍ら。
「しっかし、広いなぁ‥‥」
 彼らには構わず広大なフィールドを見回し呟くDr.ノグチ、『ドクター』と言う割やたら頑強そうな筋肉に包まれているのは日々の訓練の賜物らしい。
「人数が人数だからな」
 その、筋肉いからせる彼へ敵であるレリア・ハイダルゼムも同感と言わんばかりに肩を竦めると彼女の発言から改めて確認を取るのは四軍の一員であるハンナ・プラトー。
「本気で此処でやるのかなー」
「勿論だ! フィールドが俺達を呼んでいるからには応えなければな!」
「オッケー、その暑苦しさに乗ってあげる。でも、やるからには勝つよー!」
「暑苦しいって」
 それもその筈、フィールド上には一軍と四軍合わせて十人しかおらず‥‥彼女が問うのも無理はなかったのだが、一軍に属する少ない日本人の十河小次郎が熱く叫ぶが即座、反撃の憂き目に遭えば密かに気にしている事か、肩を落とす。
「でもどうして、こんな人数でサッカーを?」
「人数が少ないからこそです。フットサルも考えましたがやはり、それでは詰まらないですし」
『何が!』
 そんな彼らを見つめつつ、何処か儚げな面持ち携える瀬戸喪はその理由を未だアシュドと火花散らすルルイエへ尋ねれば、返って来た答えに場に居合わせる一同の殆どは突っ込むも
「分かるな、その気持ち」
『分かるな!』
「‥‥それでは、始めましょうか」
 涼しい表情を浮かべる彼女に同意してかみだしろうが続けば、皆はまた一斉に突っ込むが‥‥微笑むだけのルルイエは何事もなかったかの様にセンターサークルを目指し、踵を返すのだった。

●裂ける領域 〜前半〜
「勝つ為には‥‥何でもあり、ですよね?」
「ルールさえ守ればね」
 と言う事で試合開始のその前、センターラインを境に涼しい顔にて睨み合いながら会話を交わす喪とルルイエ。
 念の為に確認したその疑問が解消されると喪は微笑んだ後に鳴り響いた笛の音と同時、ボールを前線へと送る。
「ちっと‥‥遠いぜ」
 蹴り出されたそのボールは(四人しかピッチにいないのだから下手に動く訳にも行かず当然なのだが)がら空きな敵陣の中を早く転がり‥‥その途中、サイドラインを割る直前ギリギリで中盤を担うMFのノグチに回収されると彼、ラインを背負いながら駆ければ
「はっはー! 此処から先は通さんっ!」
「偽筋肉は‥‥お呼びじゃねぇ!」
「ぐっはーん!」
「だが一応、後で治療してやるぜ‥‥」
 ゴールへ迫らんとした途中、敵DFのヴィー・クレイセアの早いチェックを受けては行く手を阻まれるが‥‥異様なまでに分厚い胸板を瞬時に偽物だと見抜いたドクターは彼の執拗な当たりを上手く腕であしらい、遂には怒り余って吹き飛ばす。
 そんな常識範囲内では無論、笛はプレイを中断する事無く鳴らなければその間にも彼は巨体を揺すり、ただゴールへ迫る。
「温いな、この程度かっ!」
「まさか」
 そしてゴールとの距離が徐々に詰まる中、悪態を付きながらドクターは次の判断を下そうとした時‥‥何時迫ったか、死角から唐突に現れた『紅蓮の猛虎』にあっさりボールを奪われる。
「前は‥‥」
 すれば即座、その身を翻し前線を駆るレリアを視界に収めればルルイエは鋭く速いパスを彼女へ送る。
 無論、スペース空きまくりなフィールドでは余程のヘボいパスでない限り通る訳で、『白銀の刃』はルルイエからの疾いパスを無事に受け取り、疾駆する。
「そっちこそ、この程度か?」
「いやいや。まだ、始まったばかりだしね〜」
「どうでしょうね?」
 そして阻む者がいないフィールドをゴール目指してただ駆けるが‥‥ペナルティエリアまで後僅かとした時、猛烈な足音を捉えれば次には前をハンナ、後ろを彼女より少し遅れて喪に塞がれれば運動量で技術をカバーするハンナが食い下がる中で優男然とした彼は涼しい顔のまま、レリアの足を容赦なく抉る。
 しかし執拗なそのプレイは生憎と審判に見咎められ直後、笛が鳴れば距離としてはやや遠いながらもゴールを直接狙える位置からのフリーキックを一軍に与えてしまえば
「今のプレイは少し危険だったぞ、もし次があったら‥‥」
「いえ、こちらも度が過ぎていました。止めて貰って感謝しています、ありがとうございました」
「い、いや。分かればいい」
 喪も審判からの警告を受ける羽目となるが、それに対して彼は素直に詫びながらも顔を綻ばせ審判を褒め称えれば彼に好印象を与えたのだろう、審判の顔を緩めさせる事に成功する。
「可愛い顔の割、やる事はえぐいな」
「そんな事はありませんよ」
 そんな光景を見たレリア、立ち上がりながら瞳をすがめ眼光鋭く様々な意味合いを含ませ彼へ言うが‥‥その当人は至って謙虚に笑い、それを否定する。
「しかし頂いた好機は遠慮なく活用させて貰いますね」
 とは言え、ルルイエの言う通りに好機を早々と与えた事に喪は少々後悔を覚えた。

「風向き良し、角度良し」
 間は僅かだけ、レリアがファウルを受けた場所に置かれるボールを前‥‥念入りに周囲の状況をルルイエが観察する中。
「壁はどうする?」
「いらん、人死が増えるだけだ」
「人死って‥‥まさか」
 四軍の皆はゴールを前、相談するもしろうの提案はあえなくアシュドに却下されればその理由を聞いて喪、改めて自身の失策に気付くが
「いいですか、いきますよ?」
「だが絶対に決まる訳ではない、とにかく皆はこぼれ球を確保する事に専念してくれ」
 ルルイエの声が響けば皆、止むを得ず彼に従って配置に付くとそれを審判が確認した後に笛を鳴らす。
「マグナティック・ギャラクティカ‥‥バスター!」
 すれば華奢な右足を掲げ彼女、何故かその足に業火を宿せば‥‥その名前に意味があるかはさて置いて、右足に宿った業火をボールへ移すと不意に得られた推進力を糧に白と黒の球体は地を抉りながら不思議にも破裂せずにゴールネットを揺さぶり、その後にある広告看板を砕き、更に後ろの壁に文字通り『突き刺さる』。
「‥‥何時見ても思うんだけど、あれってありなのかなー」
「笛が鳴らないから、ありなんだろう」
 無論、それを前にすれば動ける命知らずなGKはおらずゴール中央で腕組みだけしていたアシュドへハンナ、どうしても気になるのだろう事を尋ねれば彼は肩を竦めるのだった‥‥とにかく細かい突っ込みはなしだ、と言う代わり。

●ロッカールーム
 前半は結局あれから体勢変わらず0−1で終えた四軍は今、ロッカールームにて地団太を踏んでいた。
「完封、だな」
「っそ!」
「まぁまぁ‥‥落ち着いて、まだ後半があるからね」
 呟いたアシュドに反応してしろうは手近にあったロッカーを殴り飛ばすも、四六時中動きっぱなしだったハンナが息を切らせながら彼を宥めるが
「とりあえず、攻めなきゃ勝てないぜ!」
「そうだね、でもそうなるとやはりそれぞれがやるべき事をやらないと」
「うっ」
「こう言った形式が初めてとは言え、連携が取れていませんでしたね」
 FWにも拘らず、守備にまで回っていた彼は歯痒い現状から皆へ意見するも‥‥それは喪が次に紡いだ言葉に押さえ込まれれば呻く他にないしろうは次いで肩を落とすが、それは彼だけのせいではない事を添えると次いで皆を見回し、再び口を開き問う。
「けど、もう大丈夫ですよね?」
「あぁ、任せろ!」
 すればすぐに返って来たノグチの答えと、彼と同様の答えを抱く皆の頷きを見れば涼しげな悪魔はその表情を綻ばせると直後。
「そろそろ時間だな」
「あぁ。だがその前に万全の調子で臨まないとな、特にこれから攻の要になるお前は」
「ん、あぁ大丈夫‥‥」
「まぁそう言うな、俺のは特別利くぞ」
 時計を確認したアシュドが後半の開始が近い事を告げると皆はピッチへ向かおうとするが‥‥何故かしろうだけ、ノグチに捕まると彼がその理由を尋ねる間もなく彼に押し倒されたしろう、声にならない絶叫を響かせれば筆舌し難い光景が広がる中でハンナはそれでも楽しげな笑みを浮かべ、合掌するのだった。
「うわぁ‥‥南無三だね」

●裂ける領域 〜後半〜
 そしてフィールドに再び集う十人の選手達、一軍の顔ぶれは重量級のノグチに吹っ飛ばされたヴィー以外、変わりなし。
「‥‥大丈夫?」
「敵に同情される程、落ちぶれちゃあいないさ」
 対する四軍は勿論、面子に変わりなく‥‥だが冴えない表情を浮かべるしろう。
 ノグチのマッサージを受けた結果なのだが、そんな事は知らずに苦悶の表情を浮かべたままの彼を心配し、自身の陣へ下がろうとしたエドに声を掛けられればしろうはそれを無遠慮に突っ撥ねると一軍ボールで始まる後半戦、開始を告げる笛が鳴らされた。

 しかしそれより繰り広げられる光景は前半と裏腹、執拗に一軍が攻め続ける。
「体が‥‥軽い!」
 しかしそれでも四軍は負けておらず攻めはノグチのマッサージにより体のキレが増したしろうを中心に、守りはハンナが動き回る事で辛うじてだが均衡を保っていた。
 だが不意にそのバランスは崩れる‥‥四軍の手によって。
 一軍の動きは後半の半分を過ぎても変わらず、均衡が取れていたとは言え攻め入る回数は間違いなく一軍が勝っていたのだが‥‥それ故に一軍のオフェンス陣は喪の執拗なチャージに遭い、その回数を重ねる毎に上手く審判を取り込んで行く彼に対して警告が徐々になくなって行けば
「やっと、利いた様ですね」
「くぅ‥‥」
「可愛いですよ、その表情」
 遂にはレリアがその毒牙に掛かり、脛に巻かれていたシンガードの上からとは言え飽きる事無く幾度も喪に削られた足がいよいよ屈し、ボールを取り零せばそれを回収した彼が顔を綻ばせながら彼女に手向けの言葉を送ると同時、ボールを中盤のノグチへ送る。
「よっし、行ける!」
「今が‥‥チャンスだなっ!」
 無論笛は鳴らず未だインプレー、このプレーが止まるまでは数的には優位になった四軍が久々の好機を逃す筈なく、喪から受け取ったパスを山なりに前線へと送るノグチのパスに追い着こうとしろうが一気に駆ければその動きに対応すべくオフサイドを仕掛けようと動くエドだったが
「エド、下がって! それじゃあオフサイドが取れ‥‥」
「ないよな、最後尾がセンターラインを越えているんだから!」
「ぁ」
 中盤が厚い故に一軍唯一のDFである彼なのだが、攻め気の余りにセンターラインを越えており‥‥ルルイエとしろうの指摘にエドが声を詰まらせるも、しろうがその間に彼を引き離せば漸く送られてきたパスを受け取って、勢いに乗った彼は更に駆ける速度を増す‥‥無駄にグランドを削り飛ばしながら。
「追い着きました!」
「お疲れさん、でも残念!」
 だがそれでも『紅蓮の猛虎』は諦めず、一体どんな速度を持ってしてか彼に追い着けばやっとその眼前に立ちはだかるもトップスピードであるにも拘らずしろう、ボールを思い切り逆サイドへと更に送る。
「なっ‥‥誰もいないスペースに!」
「ざんねーん、いましたー!」
 無論、誰もいる筈のないスペースにボールを送る行為にルルイエは唖然として身軽になったしろうからボールの行方を視線で追えば、唐突にそのスペースへ駆け込んで来たハンナを見て驚愕の余り、目を見開く。
 さっきまで、間違いなく自陣のゴール近くにいた事を確認していたから。
「あー、もう限界かも‥‥」
 だがそれ故に彼女は無駄な位に動いている故、足取りこそ覚束ないのだがそれでも寸での所で彼からのパスを受け取れば右足を大きく振り被ってインパクトの瞬間、残された力の全てをボールに注ぎ込んだ!
「でも、くっらえー!」
 名前は思いつかず叫びだけ上げれば同時、放たれたシュートは風を孕み闘気を纏って大地を抉りながらグラインダー気味にゴールへ一直線に進む‥‥がそれでもまだ、一軍のゴールを守る小次郎が阻む!
「この程度のシュート、意地でも絶対に止めるぅっ!」
 生憎とハンナが放ったシュートは彼の真正面、威力こそ目に見えて恐ろしくはあったがそれでも彼は怯まず望めば、螺旋に回転するシュートを両手で確かに押さえ込んだ。
「‥‥へ?」
 だがそれは一瞬にも満たない時間だけ、次いで己が視界が回転している事を悟れば小次郎は次の瞬間、その体毎ゴールに突き刺さるのだった。

●勝者
 そして崩れた均衡は戻る事無く、激しい攻防がそれより以降続く事となるが‥‥それも永遠ではなく、やがて終わりを迎えれば得点が記されている簡素な板を見つめ、アシュドが呟く。
「同点、だったな」
 最後の攻防は正しく熾烈を極め、お互いに好機は幾度となくあったのだが‥‥決め手に欠いたまま、ホイッスルは無情に鳴り響いたのだった。
「残念だったね〜」
「でも最後とは言え、いい試合が出来ましたね」
 しかし試合の結果はさて置き、ハンナと喪の二人は何処か満足した様な表情を浮かべ言うとアシュド。
「‥‥まぁ、な」
 それは確かに自身も感じており、やがて二人に倣って顔を綻ばせるも
「何処に行くんですか?」
「帰るんだよ、明日から職探しをしなきゃならないんでな」
 その中、誰よりも早く場より去ろうとしたしろうを見止めルルイエが尋ねれば彼はぶっきら棒に言い、歩き出すも
「あぁ、そう言えば」
「何だよ、黙って静かに帰らせろよ」
「いえ、変則形式の試合にも拘らず私達と引き分けた事‥‥貴方方の勝ちと同義にしてもいいかな、と思って」
「と言う事は?」
 何か言い淀む彼女に振り返らずしろうは不平の声を上げるが‥‥次に響く、彼女の言葉へしろうが口を開く早く喪、その真意がすぐには理解出来ず再度問えば
「四軍は存続させてもいいでしょう、と言う事です。上層部には私から掛け合いますので‥‥どうですか?」
『やったー!』
 明確な意味を持って返って来たその答えに四軍一同は諸手を挙げて喜んだ。
「そう言う話なら俺も一肌脱ごう! 一軍(男性)には無償でマッサージをしてやる!」
 すると次、大分疲れていたにも拘らず飛び跳ねる四軍の傍らでさっきまで帰る準備に勤しんでいたノグチが叫ぶと、その提案を聞いたしろうが回れ右をする中で彼。
「とりあえずそこの偽筋肉には‥‥粉砕マッサージだな!」
 好みの者がいない事を確認すれば、ヴィーの元へ歩み寄るなり半ば八つ当たり気味に己が神の手を振り下ろすのだった。
「めでたしめでたし、かな」
 そして繰り広げられる光景に皆が唖然とする中で試合中、飼い慣らす事が出来た審判を傍らに、相変わらず涼しげな表情で喪は緑映えるフィールドへ視線を向けて微笑み湛えるのだった。
 まだ当分、このフィールドでサッカーを出来る事が嬉しくて。

 〜Happy End?〜

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