バンパネーラ クロード 〜血と炎の赤〜
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■シリーズシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 72 C
参加人数:8人
サポート参加人数:6人
冒険期間:10月29日〜11月05日
リプレイ公開日:2007年11月07日
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●オープニング
「ではこれを」
「ありがてぇ、さっそく知り合いに頼んで来ますわ」
青年から手紙を受け取ると、男が硬貨を渡して階段を駆け下りてゆく。
青年クロード・ベンは貧民街で一室を借りながら代筆屋で生計を立てている。仕事が終わると酒場を訪れ、歌い、酔っぱらう毎日を送っていた。たまに冒険者ギルドに顔を出すのも生活の一部になっているが、それには理由があった。
いろいろな方面から情報を得ようとしていたのである。
クロードの本名はバリオ・ロンデア。偽名を使っているのはバンパイアとして手配されているかも知れないからだ。
クロードがバンパイアだというのは濡れ衣であった。しかし人でもない。実はバンパネーラの魔導師である。
バンパイアとバンパネーラはよく混同されるが、まったく違う存在だ。
バンパイアにとって吸血が食事と仲間を増やす方法なら、バンパネーラは噛みつく行為で相手から生命力を奪う能力があるだけだ。ただその様子はよく似ているし、総じて雰囲気も似通っている。区別するのは一般の者にとって難しい。
「ルノー・ド・クラオン‥‥」
クロードは自分に罪を被せたバンパイアノーブルの名を口にする。そしてパリに逃げ込むまでを思いだした。
クロードはバンパネーラであるのを隠し、ある町の教会で司祭の手伝いをしながら子供達に読み書きを教えていた。
町では本名のバリオを名乗り、誰もクロードをバンパネーラだとは思っていなかった。
ある日、町の娘が高熱で倒れてからすべてが変わる。病に伏せる者が増えてゆく。不思議な事に若い娘ばかりであった。
二日後の夜、町の上空で飛ぶジャイアントバットが目撃された。様々な噂が流れたものの、まだ町は静かであった。
事態の急変は、最初の娘が高熱を出してから一週間後に起こる。
日の光を浴びた娘が苦しみ、最後には灰になって死んでしまったのだ。
町民達に何が起きたのかを訊ねられた司祭はバンパイアの存在を口にした。この時から町は狂気に包まれる。
教会にはクロードの他にアーミルという娘が時々手伝いに来る。
アーミルはクロードに好意を持っていた。クロードも気づいたが、人間とバンパネーラが結ばれる事はないので一定の距離を置く。いつか気持ちも離れるだろうと思いながら。
ところが最初の娘が灰になった翌日、アーミルも高熱で倒れてしまう。
町民達は高熱に倒れた娘達を火刑にして燃やしてしまおうと計画を立ていた。それを知ったクロードは見捨てておけず、アーミルを山に連れだして山小屋に隠れる。
夜が明けるのを待っていた時、山小屋に似合わない出で立ちの男が現れた。
その男は自らをバンパイアノーブルだとし、ルノー・ド・クラオンと名乗った。
アーミルの血は特にうまかったとルノーは笑う。
「パリに行けば貴婦人も多いだろうが、こんな片田舎でこのような美しい娘は珍しい」
ルノーは勝手な事をほざき続ける。果てにはアーミルを引き渡せとクロードに要求した。
我慢できなくなったクロードは封印していた俊敏な動きと黒魔法によってルノーに戦いを挑んだ。それが仇となり、山狩りをしていた町民に発見されてしまう。
ルノーは町民に見られる事なく、巨大な蝙蝠となって逃げ去る。クロードとアーミルは町民達に捕まり、引き戻され、別々に閉じこめられた。
ロープで縛られ、幽閉されていたクロードは焦げ臭さに気がつく。釘で打ち付けられた窓戸の隙間から煙が漂う。
外では大勢の者達が叫んでいた。耳を澄ませばアーミルと聞こえる。
クロードは知った。アーミルが火あぶりにされているのを。
半狂乱になって叫ぶが、誰もクロードが閉じこめらている部屋にはやって来なかった。
クロードの幽閉は十日に及んだ。
今まで町にしてきた貢献から罪に問わない流れが町民達の中にはあった。しかし一部の町民がクロードの正体を疑う。
バンパイアは鏡に映らないというので確かめて事となる。クロードは鏡に映り、これで疑いは晴れたと思われたが、睡眠時にもう一度確かめられた。
バンパネーラは意識しなければ鏡に映る事は出来ない。鏡に映らず、クロードはバンパイアとされた。
クロードの火刑が迫った前日、どうしてもクロードがバンパイアと思えなかった司祭は行動を起こす。クロードを秘密裏に脱出させたのだ。
逃がしてくれた司祭にクロードは正体を教える。自分はバンパネーラだと。
町を去ろうとする際、町民達が娘達を焼いた事を笑いながら話すのを耳にする。クロードは憎しみに狂いそうになるが、自分に言い聞かせた。敵を間違えてはいけない。敵はバンパイアノーブルのルノー・ド・クラオンだと。
あてがないクロードであったが、ルノーがパリに触れていたのを思いだす。
長い旅路の末、七月の預言による混乱の際に、クロードはパリに紛れ込んだ。
「バンパイアの城? そんなのがあるのか」
クロードは酒飲み仲間から噂を聞いた。噂によればある山奥にうち捨てられた城があり、そこにバンパイアが住んでいるという。
町や集落からさらった娘達の血を食料にしているそうだ。
「ただの噂さ。どこにあるかもわからない。誰も知らない。なのに噂だけがありやがる。俺達酔っぱらいの酒のつまみだよ」
酒飲み仲間は笑い飛ばした。
「そうはいうけどさ。知ってる村では最近、娘が何人もさらわれて大変らしいぞ。もしかしてバンパイアのせいかも知れないな」
もう一人の酒飲み仲間も笑い飛ばす。
クロードも笑い飛ばすが、心情は違っていた。
翌日、クロードは冒険者ギルドを訪れる
仲間が口にした娘が何人もさらわれているという村を調べて欲しいという内容であった。
「わたしも同行させて頂きます。荷馬車はなんとか用意させて頂きますので」
「はい。村がそれでは大変ですね」
受付の女性はクロードが村の者だと勘違いしていた。
無理もないとクロードは心の中で呟く。誰が大金を払って見ず知らずの村の人さらいを依頼するのだと。
依頼を出し終えると、目立たぬように貧民街へと戻るクロードであった。
●リプレイ本文
●出会い
晴れた一日目の早朝。
依頼人のクロード・ベンは荷馬車へ寄りかかりながら、冒険者達を待っていた。今から始まる依頼の旅で、バンパイアの情報が手に入れられるか不安を抱きながら。
「わたしが依頼人のクロード・ベンです」
間もなく全員が集まり、クロードは冒険者達に挨拶をする。確認の意味も含めて今一度依頼の説明を始めた。
村では娘が何人か誘拐されている。それはもしかしたらバンパイアの仕業かも知れない。例えそうではなくても、これ以上誘拐が起きないようにするのが依頼目的である。
クロードはバンパイア対策として清らかな聖水を全員に手渡した。
「リスティア・バルテスよ☆ ティアって呼んでね。あのね――」
リスティア・バルテス(ec1713)はクロードに訊ねておかないとならない事があった。ハーフエルフについてどう思っているかである。
「わたしはハーフエルフについて特別な感情はありませんよ」
クロードは淡々と答えた。
バンパネーラは虐げられる立場だ。クロードにはハーフエルフの気持ちはよくわかる。だが素性を隠している以上、それを口にするわけにはいかなかった。
「そうかい。それじゃ、耳を隠す程度にしておくよ。これで護衛とか色々楽になるかもな」
ハーフエルフであるイリューシャ・グリフ(ec1876)がクロードの背中を軽く叩く。護衛の為に愛馬タヴァーリシシで荷馬車に併走するつもりだ。
「さあ、行きますか。私はクレリックですがハーフエルフの友人はたくさんいますよ」
エルディン・アトワイト(ec0290)は出発の音頭をとる。もしもクロードがハーフエルフによい感情をもっていなければフォローを入れるつもりであったが、それは必要なかったようだ。
「気をつけていってきて下さいね」
エルディンを見送りに来たハーフエルフのアーシャが声をかけた。
荷馬車にはシュネー・エーデルハイト(eb8175)、エルディン、リスティア、そしてクロードが乗り込んだ。御者はシュネーが行う事になる。クロードも出来ないことはないのだが、上手ではなかった。
「行方不明者が多発しているらしいのだが、思いつくことは何かあろうか? 噂のバンパイアでなければよいのだが‥」
「えっと〜」
ギルツ・ペルグリン(ea1754)はセブンリーグブーツで向かうその前にエルからバンパイアの情報をもらう。エルはお土産をよろしくと笑顔である。
「正確な情報がパリに流れないのはおかしいね。普通なら浚われた娘の親か村長が依頼してる頃だ」
諫早似鳥(ea7900)は見送りに来てくれたヘザーとジルの二人と話す。さる筋からいくつかの情報を仕入れていた諫早は、さらにバンパイアについての情報を二人から教えてもらった。ベゾムに跨り、村へ先乗りする為に大空へ飛び立つ。
「ウチは先にいって酒場で聞き込みや」
ジュエル・ランド(ec2472)は愛馬の一頭を仲間と同じように荷馬車へ繋げた。ジュエル自身は白馬で村に向かうつもりだ。
(「‥‥曖昧な依頼ですね」)
クリミナ・ロッソ(ea1999)は荷物の点検を終えると愛馬に跨る。村へはお酒の行商に来たことにするので、荷馬車には乗らずに単独で行動することにした。依頼の内容も含めて疑問は多々ある。クロードのあまりに色白な肌にも興味あったが後回しにする。これ以上誘拐をさせない為にも早く村に着く方が先決だからだ。
荷馬車が発車する。
多くの冒険者に見送られて依頼の旅は始まった。
「えっ? いつもより厚着してるって? ‥別に常に薄着なわけじゃないわ‥‥」
シュネーはリスティアとエルディンに問いかけられてとぼけてみせる。
もしかすれば敵はバンパイアである。さすがに肌の露出を押さえておいたのだ。
(「娘といえば私だけなのよね。囮というのも考えたけど‥‥」)
外見年齢で選べばシュネー以外に囮はあり得なかった。誰かが言いだすまでは黙っておこうと考えるシュネーであった。
「失礼だが、何故、無関係な村の為に大金を叩くのだ? 徳を尊ぶ聖職者でも、功名心が大きいわけでもないように見受けるが‥」
「それはその‥‥実は知り合いに頼まれたのです。これから向かう村に恩を感じている友人がいまして」
荷馬車に併走するギルツに答えたクロードは心が痛んだ。嘘を付き続けて、それでバンパイアのルノーに辿り着けるのだろうかと。
一応の答えを聞いたギルツは徐々に荷馬車を追い抜いてゆく。誰もがクロードの答えに疑問を持ったが、それ以上の追求はしなかった。誰しも隠したい事はあるからだ。
夕方になり、荷馬車は停められて野営の準備が始まる。
先行した仲間は村へ着いているはずだ。宿代はクロードが渡してある。バンパイアが敵かも知れない土地で野宿は危険すぎるとの配慮であった。
「あれ?」
シュネーはテントや防寒具を忘れた事に気がつく。だがクロードが四人用テントと毛布を用意していたので貸しだした。
「うぅ〜寒ぃ‥‥アンタも飲むかい?」
イリューシャがたき火にあたりながら、クロードに酒をすすめる。
「頂きます」
「おっ? いける口だねぇ〜」
イリューシャとクロードはしばらくの間、酒を酌み交わした。ただ何となく世間話をしてお酒の時間は終わる。今はそれでいいとイリューシャは無理に過去をほじくる真似はしなかった。
●調べ
荷馬車の一行は二日目の昼頃、目的の町に到着する。
村におかしな点はないとリスティアは感じた。
幸いに村には宿があり、部屋を借りる。先行した仲間も部屋を借りているようだ。
まだ日も高いので、荷馬車の一行は調査を開始した。
「そうなのさ。ここ一ヶ月の二人の若い女が誘拐されているんだけどさ――」
竪琴の調べと歌声が響く中、酒場は昼間だというのに盛況であった。客達は自分だけが知ってるネタで盛り上がり、自慢大会が始まっていた。
音楽を奏でるジュエルがメロディーを使って誘導していたのだ。
(「村の娘が誘拐されているのに、昼間から酒やなんて‥‥」)
ジュエルは誘拐とバンパイアに関係している話題があれば、声をかけてさらに誘導してゆく。
そんな中、クリミナと諫早が酒場を訪れる。
「ほー、安すぎないかい?」
「荷物になっていましたので、引き取って頂ければそれで」
酒の行商人に扮したクリミナは、酒場の主人と交渉していくつかの酒を卸す商談をまとめた。
下働きを演じる諫早は酒を倉庫へと運ぶ。試しに惑いのしゃれこうべを使ってみるが反応はなかった。昨夜のうちに村の中心部と思われる場所でも使ったみたが、その時も反応はない。
(「バンパイアそのものが動いているわけじゃなさそうだね」)
諫早は誘拐犯の正体をおぼろげながら固めつつあった。
「ところで――」
クリミナが村での誘拐について主人に訊ねる。ジュエルのメロディーのおかげもあって、ペラペラと話してくれる主人であった。
「ご心痛のところ申し訳ないが、少し話を聞かせていただけないだろうか‥」
ギルツは誘拐された娘達の家を訪ねていた。
複数の話を総合すると、夜に必ず誘拐された訳ではないようだ。バンパイアなら日中だと行動が制限されるはず。決めつけはしないが、まずはバンパイアが直接誘拐している事はなさそうであった。
「村唯一の教会ですね。入りましょうか」
「そうね。やっぱり寒いわ、早く入りましょう」
エルディンと震えるシュネーは教会の門を潜る。酒場はたくさんの仲間が向かったので任せることにしたのだ。
司祭が二人の話しを聞いてくれた。
「ここ最近が激しいのですが、遡ってみれば二年前から全員で七人が行方不明になっています」
「誘拐犯の目星はついているのでしょうか? 例えば盗賊とか?」
「ほとんど誘拐の現場が目撃されていないので、特定されていないのです」
「ほとんど?」
エルディンはさらに詳しく訊ねるが、司祭は沈黙した。
「いいたくないようね。でも教えてくれるかしら? 私達は事件を解決する為に来たのだから」
シュネーも司祭に言葉を投げかける。
「あるご夫婦が盗賊が誘拐するのを見かけたそうです。それ以上の事はわたしの方からなんとも」
司祭はそれ以上語らなかった。
日が暮れる前に、全員が宿へ戻る。
宿の者が寝たのを確認して集まり、外にランタンの光がもれないようにして情報を交換する。幸いに泊まっているのは仲間だけだ。
誘拐犯を見かけた夫婦が怪しいと意見が一致する。必要以上に警戒されては元も子もない。直接会うのは後回しにして、周辺から情報を固める事が決まった。
●疑惑
三日目の日中も調査に費やされる。
昨晩と同じように宿の者が寝た後で集合する。
夫婦は長く村に住んでいた。人に恨まれやすい金貸しを生業としていたが、それほど評判は悪くない。かといって好かれてもいなかった。いざという時に頼れなくなる為、腫れ物に触るようなつき合いを多くの村人はしていた。
誘拐の依頼が今まで出されなかったのも、なぜか夫婦が金の力で誘拐された肉親達を黙らせていたからだ。
二年半ほど前、赤子を亡くしてから様子が変わる。妙に人付き合いがよくなったという。
夫婦が誘拐犯ではないかと疑う村人もいるにはいた。だが、前記の理由で声高にいう者はいなかった。
夜の間に諫早とクリミナは夫婦の家に向かった。
クリミナがグットラックを諫早にかけると侵入が実行された。クリミナは外で待機である。
金貸しだけあってそれなりに大きな家ではあった。諫早は隠れて夫婦の会話に聞き耳をたてる。
(「ペルペテュエル教団? なんだそれ」)
諫早は夫婦の会話を聞きながら、寝静まるのを待った。そして二人が祈りを捧げていた祭壇を覗いた。
諫早は悩んだが、いくつかの品を持ち帰る。
無事脱出した諫早はクリミナと共に仲間のいる宿へと戻った。
●誘拐
「そろそろ捧げないと忠誠が疑われてしまう。だが冒険者とやらが来ているみたいだが平気なのか?」
「あんなヘナチョコ共なんて気にする事はないよ。やっとあの家の娘が出かけるチャンスを逃せられるかい。わかっているね、あんたたち」
夫婦は振り向いて、下っ端の男三人に言い含める。
四日目の夕方、誘拐犯達は村から出たばかりの木々が生い茂る場所で待機していた。馬も用意されて追跡の準備は万端だ。
二騎が村の門から出てきた。フードを深く被っている方が村娘に間違いはない。
「もう一人は護衛で雇った冒険者かね? まあ、一人ぐらいなんとかできるだろ」
妻が呟く。
周囲に目がないのを確認すると、誘拐犯達は二騎の後ろをついていった。
「やっぱりあの夫婦やろか」
はるか上空からジュエルが誘拐犯とおぼしき五人を監視していた。何かがあればすぐにでも仲間に知らせるつもりであった。
「ついて来ているようだ」
イリューシャは、ゆっくりと併走する娘に向かって声をかけた。ちらりとフードから娘は顔を出す。
娘の正体は変装したクロードであった。自ら囮役を志願したのである。
空からはジュエル、地上は諫早によって誘拐犯とおぼしき五人は監視されていた。他の仲間は囮役の二人とかなり離れた位置で待機する。
日が沈まぬうちにすべてを終わらせたい一行であったが、証拠もなく捕まえてもなんの解決にも繋がらない。敵が動きだすまで我慢であった。
「始まったわ!」
シュネーが勢いよく手綱をしならせて馬車を走らせる。上空から地上へと輝くムーンアローの一筋が見えたのだ。
星空に浮かびながらジュエルはランタンを灯す。諫早は離れた位置から矢によって牽制して仲間が到着する時間を稼いだ。
馬に乗るギルツに続き馬車も現場に辿り着いた。
「バンパイアではなさそうだが」
ギルツは騎乗したまま剣を奮う。敵は力こそ強そうだが、技量は大した感じではない。高く振り上げた剣を振り下ろし、一気に攻めたてる。
「こちちに」
クリミナはクロードを馬車内にかくまう。そして仲間に有利な魔法を付与してゆき、鳴弦の弓をかき鳴らした。
「あとで吐いてもらうわ」
御者台から飛び降りたシュネーは夫の方と対峙する。
「おとなしく捕まりなさい!」
エルディンはグットラックを仲間にかけ、コアギュレイトで敵の動きを止めて支援した。
「どこも怪我はない?」
リスティアは馬車内でクロードに声をかける。クロードは無事のようだ。
「甘い!」
イリューシャは剣を手にして敵とすれ違う。敵の腕が宙を舞う。
戦いは間もなく終わる。
夫婦を捕まえた一行は村に戻った。それから五日目の夕方まで夫婦の尋問をし、その日の夜に村人へ説明した。
この夫婦はペルペテュエル教団、通称ペルペ教の信者であった。どうやらバンパイア・ノーブルが教祖であり、不死を与えてもらう為に生け贄を捧げるのが教徒の役目のようだ。
生け贄となった娘達はバンパイア・スレイヴになる前に教徒が焼き殺すのだという。不死が与えられる者の数は決まっているらしい。
夫婦は最初、病弱な赤子を救う為に入信した。しかし途中でどうでもよくなり、ついには赤子を生け贄に捧げたようだ。
それでは足りずに娘達を誘拐して生け贄として捧げ続けていた。親切を演じたのも、疑われずに事を遂行する為であった。
夫婦は決められた場所で生け贄を引き渡すだけで、ペルペ教施設を知っている訳ではなかった。
●パリ
夫婦を村人に任せた一行は、六日目昼に村を出発する。
バンパイアは現れず、残念に思う者もいたがほっとする者もいた。もし誰かが咬まれたのなら、どう処置するかが問題であった。
最悪の場合、焼かなくてはバンパイアになってしまう。時間が許すならば、エルディンの頭の中では救済を頼めそうな教会がパリにあった。以前デビルに占拠された教会を調べる依頼を出していた別の教会である。
諫早の手に入れた品は報告の際にギルドに提出される予定だ。ペルペ教に関係するペンダントなどの装飾品であった。
七日目の夕方にパリへと到着した。
「‥‥隠していましたが、実はある程度なら魔法を使えます。そして――」
クロードは仲間に真実を話す。自分がバンパネーラであり、バンパイアノーブルのルノー・ド・クラオンを探して復讐を果たそうとしていると。
すべてをさらけ出して協力を得なければ、ルノーにまでに辿り着けない。自分の立場をかばっていては駄目だと考えたのだ。
すでに勘づいていたり、納得したりなどと冒険者達も様々だ。
クロードは参加してくれた冒険者達に深く謝るのだった。