ペルペ教の村 〜血と炎の赤〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 72 C

参加人数:7人

サポート参加人数:3人

冒険期間:11月23日〜11月30日

リプレイ公開日:2007年12月01日

●オープニング

「生け贄が来ない‥‥というのか。なにゆえに?」
 石造りの建物の中で月夜を背にするマント姿の男は跪く報告者を見下ろす。
 透き通るような白い肌の持つマント姿の男は人ではない。バンパイアノーブルのルノー・ド・クラオンといった。
 ルノー背後のバルコニーでは後ろ姿の女性二人が佇む。
「はっ、ある村の金貸し夫婦がご用意するはずが、どうやら失敗した様子で御座いまして。パリにある冒険者ギルドからの使者によって官憲に引き渡された様子」
 報告者は冷や汗をかきながら報告を続ける。
「‥‥それはペルペテュエル教団の事が、世間に知れ渡ったと考えてよいのか?」
「それは‥‥その通りで御座います」
 ペルペテュエル教団。
 通称ペルペ教はルノーを教祖とする。バンパイア・スレイヴとなって不死を与えてもらう為に信者達は生け贄を捧げ続けていた。いつか選ばれる日を夢見て。
 咬まれる事でスレイブになるのを避ける為に、教徒達は連れてきた生け贄を焼き殺してしまう。そこには不幸の連鎖があった。
「まあ、よい。美しき女性の真紅の血でなければ意味がないのを忘れるでないぞ」
 ルノーは振り返り、月を見つめた。


 パリ貧民街にある一室。
 バンパネーラの魔導師である青年クロード・ベンは、冒険者のおかげで知ることが出来たペンダントに彫られてあった紋章の写し絵を眺める。
 クロードなりの方法で調べてみたものの、この紋章を知っている者は見つからなかった。
「いや、まだあいつが残っていたか‥‥」
 クロードは独り言をいうと出かける。向かった先は情報屋のいるゴミが積み重なった建物の前であった。たくさんの物が積み重ねられている通路を抜けてドアをノックする。鍵を開ける音がいくつもしてからようやくドアは開いた。
「あんたかい? ああ、この間の紋章の調べだね」
 出てきたひげ面の男は、クロードを部屋に通した。ここも外と変わらず、物に溢れていた。
「あの紋章についてわかったよ」
「それはよかった。やはりペルペ教と関係する何かだったのですか?」
 ひげ面の男は黙ったまま、掌を出して催促する。クロードは約束の追加金を支払った。
「へっへ。毎度。‥‥あの紋章は確かにペルペテュエル教団のものだ。あんたのいう通りルノー・ド・クラオンというバンパイア・ノーブルを崇め奉っているようだな。まったく、下僕になったとしても自我が飛ぶのも知らずに酔狂なこった。教徒って奴はよ。そこまでして長生きしたいもんかね。俺にはよくわからんよ。おっと、話がそれた。奴らはどうやら地方の教会を隠れ蓑にしているようだ。ジーザスに似せたルノーの像に祈り、十字架の裏にはこの紋章が小さく入っている‥‥。どうもこの事からもバンパイアが十字架に弱いっていう噂は嘘のようだな。あくまで俺の感想だがな」
「その隠れ蓑にしている教会はどこにあるのです? そしてルノーの城は?」
「まあ、待て。教会は一個所だけだがわかった。バンパイアの城はまだよくわらかん。ノルマンは広大だが、果たしてそんなものがあるのかどうかすらな。教会の場所はこれに書いてある」
 ひげ面の男はクロードに折り畳んだ一枚の羊皮紙を渡した。
「あくまでも噂だが、この教会のある村はやばいらしい」
「やばい? とはなんの事なのですか?」
「ペルペ教に入っていない村人を根絶やしにする計画を教徒達が立てているらしい。そして何喰わぬ顔でその村を拠点にして、組織の拡大を謀ろうとしているようだ。‥‥何度もいうが、あくまで噂だ。俺の情報網で伝わってきた、ある教徒と接触した者が酔わせて聞きだした噂だよ。ホントかどうかまでは、責任はもてん。まあ、おまけ情報だな」
 ひげ面の男からの情報に、クロードはしばらく考え込んだ。帰り道でもずっと考え込む。
「事実がどうであれ‥‥、取っ掛かりはこれしかない」
 翌日、クロードは冒険者ギルドに赴いて依頼を出す。
 村に出向いて噂が本当なのかを調べ、そして事実ならば阻止をしてもらう依頼であった。

●今回の参加者

 ea1754 ギルツ・ペルグリン(35歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea1999 クリミナ・ロッソ(54歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb3537 セレスト・グラン・クリュ(45歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb8175 シュネー・エーデルハイト(26歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ec1713 リスティア・バルテス(31歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec1876 イリューシャ・グリフ(33歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec2472 ジュエル・ランド(16歳・♀・バード・シフール・フランク王国)

●サポート参加者

麗 蒼月(ea1137)/ 鳳 令明(eb3759)/ グリゴーリー・アブラメンコフ(ec3299

●リプレイ本文

●出発
 ギルドにはほとんどの冒険者が集まっていた。
 個室に入るとクロード・ベンがパリにやって来た理由を話す。バンパネーラの魔導師であるのも含めて。
 以前の依頼で既に打ち明けたクロードであったが、初参加であるセレスト・グラン・クリュ(eb3537)にも説明する必要があったからだ。
 セレストは聖書に手を置き、秘密を守ることを誓う。
「神を呪った事もあるでしょうけど‥聖職者を装った方が安全だわ」
 セレストは聖なるロザリオをクロードに貸しだした。
「正直に打ち明けてくれたのは嬉しいし、目的も理解できる。私はあなたを信用することにしたわ。そこで使える魔法の詳細を聞きたいの」
 シュネー・エーデルハイト(eb8175)がロード・ベンの肩を叩いた。セレストも興味があるので耳を澄ませた。
「ありがとうございます。使える魔法ですか」
 クロードは五つの神聖魔法黒を並べた。ブラックホーリー。デティクトライフフォース。ニュートラルマジック。ホーリーフィールド。レジストマジック。高速詠唱は使えず、専門に少し慣れた辺りである。
「この前打ち明けてくれた時、少し驚いたけど嬉しかったよ。正体を隠さなきゃならないこともあるもんね」
「ティアさん、そういってもらえると」
 リスティア・バルテス(ec1713)がクロードの前で十字を切って祈る。
「ウチの一頭、また貸しだすやさかい。ぼちぼち出発しとこうか」
 ジュエル・ランド(ec2472)が個室にやって来た。一人の冒険者が現れなかったので探しに回ってくれてたのだ。残念ながら姿は見えず、荷馬車で出発することになる。
「みんな乗ってくれ」
 御者を受け持ったイリューシャ・グリフ(ec1876)が仲間に声をかける。愛馬で移動するジュエルを除く全員が乗り込むと手綱をしならせた。
「それにしてもバンパイアの下僕になって不老不死ねえ‥‥」
 イリューシャにはペルペ教徒が理解しがたい。どのみち自分のような冒険者や聖職者に狙われる立場で、長生きなど出来ようもないというのがイリューシャの考えだ。
「これをどうぞ」
「ありがとうございます。ですが――」
 クリミナ・ロッソ(ea1999)からクロードはアンチセプシスがかかった果物を一旦受け取るが、残念な事を伝えなければならなかった。植物から生命力を吸収しているクロードだが、生きているそのままの状態でないと無理だったのだ。
「そうなのですか。これはみんなで頂きましょう」
 クリミナは果実を仕舞うと、今一度仲間にバンパイアについての情報を伝える。
「クロードはパリで何をやっているの?」
「普段は代筆屋をしています」
 リスティアが何気なくクロードに話題を振る。
 揺れる荷馬車でセレストがグリゴーリーからの手紙を読んでいた。
 出向く村はフレデリック領内。領主の名はフレデリック・ゼルマ。他の領主との仲が悪いので有名である。
 セレストはギルドから借りた十字架のペンダントを眺めた。計画にこのペンダントは欠かせない。
 クロードはみんなに薬を渡した。いざという時に回復に使ってくれと。
 荷馬車は土煙をあげながら順調に村へと向かうのであった。

●行動
「これでいいわ。シュネーは妹娘役ね」
「健気な姉役で入信を願う。怪しまれないようにしないとね」
 セレストはシュネーをヴェールとヘアピンでより美しく飾り付ける。
 二日目の昼頃、荷馬車は村から離れた場所に停車していた。ここから徒歩で向かう者や、愛馬で向かう者などに分かれる。
 クロードは既にセレストから巡礼者の格好をさせられていた。より病弱に見えるように化粧を施され、姉娘役としてクローディアを名乗るように言い渡される。
 セレストが母、姉娘のクローディアことクロード、妹娘をシュネーとして疑わしき教会に潜入する計画だ。
 用意が終えると、セレストが御者をして荷馬車を走らせる。村に入るとそのまま教会へと向かった。
 セレストは司祭に紋章の入った十字架のペンダントをみせる。
「夫だけでなく、クローディアも不治の病に‥‥」
「そうなのです。教会の事を金貸しの親戚から聞き及び、訪ねた次第なのです。どうか姉を助けてあげて下さい!」
 セレストとシュネーは跪き、司祭の前でクローディアを抱きしめた。涙を呼び起こす玉葱の薄切りを手袋に忍ばせて。
「望みが叶うのなら相応の用意は御座います。不死の奇跡を賜る為店を畳みました。こちらの村に移住を‥」
 セレストは持ち金の袋をわざと落として、金貨を何枚か零れさせる。
「私達はこの村の宿屋に滞在し、こちらに伺おうと考えております。どうかお許しを」
 シュネーが倒れかけるクローディアを支えると司祭に訴えかけた。
 セレストは持ってきた酒を献上する。
「お気持ちはわかりました。ただこの場ですぐに決める訳にはいかないのです」
「承知しております。せめてこの娘がジーザス様の像のお近くで祈る事のお許しを」
 セレストの願いは聞き入れられて、クロードは像に近寄った。

 愛馬で村を訪れたジュエルは真っ先に酒場を探しだした。酒場の主人に許可を得た後でシフールの竪琴を手に演奏を始める。
 メロディーをのせて歌い続ける間に、ジュエルは十字架をつけている村人に目を付けた。
「今、パリでは聖夜祭の準備で賑わっているんや。知っとる?」
「ほう。この村ではまだまだだよ」
 メロディーの効果が残っているせいか村人の口は軽い。ジュエルは話題を徐々にシフトさせてゆく。
「噂やけど、王様やブランシュ騎士団のお見合いがあるらしいで。どんなお相手を探すのやろか。えらいべっぴんやと思うけど」
「パリには綺麗な女性が多いだろうけど、この村も捨てたもんじゃないぜ。結構な女性も何人かいる」
「へぇ〜。どこに住んでるん?」
 ジュエルはこの村で若くて美しい女性を調べた。
 人によって美人の定義も違う。ジュエルは何人かの客に話しかけるのだった。

「なるほど。そこに向かってみますね」
 クリミナは酒場からこっそり出てきたジュエルから話を聞いた。すぐにジュエルは酒場へと戻る。
 情報を得たクリミナは一人の村娘の家を訪ねてみた。
「すみません。実は――」
 クリミナは遠縁の親族を装って村娘の家を訪ねた。出てきた娘はとても若くて美しかった。
 数日の宿を願い、聞き入れられる。クリミナは人気がない場所でデティクトアンデットで探ってみるが反応はない。
 ジュエルの話によれば他の娘の可能性もあり得る。
(「この村では今まで誘拐された形跡はないようね。周辺の村や集落、そして旅人にはいるようですが‥‥」)
 クリミナは村娘に聞いた話を思いだす。
 もしかすると村人を襲わないことがペルペ教徒の中に不文律としてあるのかも知れない。しかしこの村の完全占拠の噂もある。この前の依頼で誘拐を阻止された事で、新たな生け贄をすぐに欲している可能性もあった。
 数日は様子見と決めるクリミナであった。

「バンパイア‥‥セーラ様におつかえする身としては見逃せないね。許せないわ」
「クレリックとしてはそうだろうな。俺は力を尽くすのみだ」
 夕暮れ時、リスティアとイリューシャはそれぞれの愛馬に乗って宿屋に向かう途中であった。
 リスティアは聖職者としての聞き込みを、イリューシャは村の地理的状況の確認をしてきた。
 わかった事は、村の三分の一が疑わしき教会の信者である事。人数にすれば20人弱。他の村人もジーザス教白教徒だが、胡散臭い現在の司祭が仕切るようになってから教会に出向いていないという。
 村の治安はよくも悪くもない。イリューシャは村人以外にペルペ教徒らしき者がやってきてないかも調べたが、誰も見かけていないようだ。
「あれは‥‥?」
 イリューシャはランタンを持った女性を遠くに見かけた。正しくは見かけたような気がした。
「どうしたの?」
「いや、すごい美人がここにいたような‥‥、気のせいだったようだ」
 愛馬で駆け寄るイリューシャであったが、その場には誰もいなかった。

 夜になり、冒険者達は宿の主人には見つからないよう一室に情報を持ち寄った。ランタンの灯りが洩れないようにして。クリミナは村娘のいる家に世話になっているので、後でジュエルが連絡する。
 クロードが祈ったジーザスの像には例の紋章があった。間違いなくペルペ教の拠点である。
 教会近くの外でセレストが布を被せた惑いのしゃれこうべを使ってみたが反応はなかった。
 どうやら生け贄候補はクリミナが守っている村娘。そしてシュネーである。到着して間もないのにシュネーの事もかなり噂されていた。
 イリューシャが見かけた謎の美人についても話題になるが結論は出なかった。

●美女
 三日目は調査の続きと警戒に費やされた。
 クリミナは家の者に近頃の村の様子を訊ねる。
 教会の教徒達の活動が日増しに秘密主義になっているらしい。村娘は監視されているような気配を感じた時もあるという。
 偽親子三人は教会を再び訪れた。入信を願うふりをしながら様子を観察する。
 未だペルペ教だと司祭は真実を明かさない。仲間に引き入れるつもりがないのなら、自分達は金と生け贄としか見られてないのだろうとセレストは結論を出した。
 シュネーは教徒達の隙を見て名簿を探してみるが見つからなかった。
 食事の席に呼ばれた偽親子三人は覚悟を決めて食事を口に運んだ。体調に変化はなかったが、念の為にセレストから渡された解毒薬を飲んでおくのだった。

 四日目も三日目と同じような時間が過ぎてゆく。
 夕方時、イリューシャが村を囲む塀を確認している途中で立ち話を聞いた。
 ペルペ教徒二人の会話である。明日の夜、この村を占拠し生け贄を残して後は根絶やしにすると。
 注意をそらす為に周囲の村や集落に火付けをする予定らしい。
 イリューシャは捕まえるより、仲間に知らせる方を優先させる。宿に戻るとジュエルに頼んで仲間を集めてもらった。
 シュネーが司祭を捕まえる事を提案した。今夜の食事の席で、自分を含む偽親子三人を司祭は捕らえるつもりなのだと強弁した。セレスト、クロードは賛同する。
 他の仲間も賛成した。敵が作戦を実行する前に叩きつぶしてしまおうと。

「どうぞ、奥の席に」
 偽親子三人は教会広間のテーブルについた。クローディアを支えながらタイミングを計るシュネー。
 セレストは先端を布で隠したシルバーメイスを携える。
 司祭が一人になった時、シュネーが隠していた剣を司祭の喉元にあてた。セレストとクロードは廊下に繋がるドアの前で見張った。
「何を‥‥?」
「わかっているのよ。あなた達が実はペルペ教だということを」
「そんな事は‥‥」
「『冒険者に捕まり、全てを吐いた』と噂を流してから解放するのはどう?」
 司祭は諦めて事実を吐露した。やはり明晩に村人を殺して村を占拠する予定だったらしい。
 シュネーは司祭を席につかせる。目の前のテーブルの下にはクロードが隠れ、剣を司祭に突きつける。金属は苦手なクロードだが、今はそんな事はいってられない。
 シュネーとセレストは司祭に近い席に座り、教徒達が集まるのを待った。クローディアは体調が悪くて来られないと誤魔化しながら。
 三十分程で全部の席が埋まった。
 乾杯が催されようとした時に冒険者達は動く。
 部屋に飛び込んだジュエルがすべての灯火を消し去る。
 暗闇の中、教徒達はざわめき、打撃音が響く。
 ジュエルが天井近くでランタンを灯す。
 部屋の出入り口は大きめの窓を含めて二個所。
 イリューシャが教徒の一人を足蹴にしてドアの前に立つ。リスティアはレジストデビルを仲間にかけてゆく。
 シュネーは大きめの窓の近くで剣を構える。
 クリミナはホーリーライトを作り、バンパイアを警戒した。
 セレストはクロードと交代して司祭を後ろ手にする。
 クロードはもしもに備えてホーリーフィールドを展開していた。
「司祭のようにおとなしく捕まったほうがいいで」
 ジュエルが頭上で教徒達に声をかける。それでも何人かの教徒は逃げだそうとしたが、イリューシャとシュネーによって死なない程度に倒された。
 教徒達をクロードが用意していたロープで縛り上げた。
「近くにアンデットが何体かいるわ!」
 念のため惑いのしゃれこうべを使ったセレストが叫ぶ。次の瞬間、人が通れない程狭い窓から何かが飛び込んできた。
 異臭を放つ、四匹のズゥンビ犬であった。
 かき鳴らすクリミナの弓の音と胸元の光、クロードのフィールドに遮られて司祭にズゥンビ犬は近づけない。リスティアのピュアリファイに怯えるズゥンビ犬を、シュネーとイリューシャが切り裂いた。
 ジュエルが叫ぶ。何者かの馬車が去っていったと。
 イリューシャとセレストはかけ声で愛馬を呼び寄せて飛び乗った。ジュエルは自らの羽根で飛ぶ。
 留守に残るクリミナを除く他の者達はジュエルの魔法の絨緞に乗った。
 外に飛びだした冒険者達は馬車を探したが、見つける事はできなかった。
「ちらっとだけ見えただけやけど、イリューシャさんがいうとったような美人が乗っておったで‥‥。すごい色白の肌やったし、もしかしてバンパイアかも知れへん」
「女に見えたんですか?」
「そうや。どうみても女やった」
 ジュエルにクロードが質問を続ける。ルノーは美形ではあったが、女性に見えることはない。きっと下僕のスレイブであろうとクロードは考えた。

 五日目の朝が訪れる。冒険者達は村長に教徒達を官憲に引き渡してくれと頼んだ。
 フレデリック領主は信用しづらいが、それ以外に手はなかった。
 ギルドに報告すれば王宮にも話が伝わる。さすがに表だってのかばい立てはしないだろうと考えたのだ。
 不安があるのなら、パリのある教会で匿ってもらうようにとクリミナは村人に伝えた。
 残る時間は司祭の尋問に費やされる。
 謎の美人は教祖ルノーからの使者であり、教徒らが望む不死の姿であるスレイブだという。名はサルーシャ。村を拠点とする計画の見届ける為に派遣されていた。同時に生け贄をルノーに届ける役目もあったという。
 司祭と教徒達は震えていた。どうやら人の裁きより、ルノーに見放される方が今は辛いようだ。
 教会の物品も改めて確認される。ほとんどに例の紋章が刻まれていた。

●パリ
 六日目の昼に冒険者達はパリへの帰路に着いた。
 七日目には無事に到着してギルドに報告を行う。借りた物を返し、そして王宮への連絡を願った。ただしクロードの正体については内緒である。
「想定していた事ですが、すでにスレイブになった者がいるのですね。彼女が望んでルノーの下僕になったのか、そうでないのかはわかりませんが、一筋縄ではいかなくなったようです。わたしもさらに情報を手に入れようと考えています。これからもどうかよろしくお願いします」
 クロードは犠牲者が出なかった事に感謝して冒険者達に礼をいった。