血と炎の赤

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 80 C

参加人数:6人

サポート参加人数:4人

冒険期間:05月25日〜06月09日

リプレイ公開日:2008年05月31日

●オープニング

 パルネ領に残ったクロードが、パリにいるモルオンテス夫妻へ送った手紙にはまずサルーシャの事が書かれていた。
 サルーシャは夫モルオンテスの妹にあたる。すでにバンパイアスレイブになっていたのは知っており、クロードと同じく覚悟は出来ていたが、それでも哀しみはつきまとう。
 モルオンテス夫妻は文字が読めないので、クロードから教えて貰っていた情報屋へのところへ出向いて手紙を読んでもらった。
 モルオンテス夫妻の雰囲気が苦手な情報屋のひげ面の男だが、クロードに前金をもらったので仕事として手紙を最後まで読み終える。
 すすり泣くモルオンテス夫妻に、ひげ面の男は情報を教えた。各地のペルペテュエル教徒がパルネ領に集結しつつあると。
 お礼をいってモルオンテス夫妻は冒険者ギルドへ向かう。
 そして手紙にあった通りに依頼を出す。パルネ領でバンパイアノーブルのルノー・ド・クラオン率いるペルペテュエル教団との戦いに参加してくれる冒険者を募る内容だ。
 領主トロシーネ・パルネが協力してくれる事は、世間に噂を広げたくない為に内緒にされる。
 その為かとても厳しい依頼内容となる。もっとも協力が得られるのがわかっていたとしても大変な依頼に変わりはないのだが。
 クロードから預かった依頼金を受付に手渡して依頼申請は完了する。
 モルオンテス夫妻はそのままクロードの部屋には帰らず、教会に立ち寄った。
 どうかすべての元凶であるルノー・ド・クラオンが退治されるようにとモルオンテス夫妻は祈り続けるのであった。

●今回の参加者

 ea1999 クリミナ・ロッソ(54歳・♀・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2237 リチャード・ジョナサン(39歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3537 セレスト・グラン・クリュ(45歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb8175 シュネー・エーデルハイト(26歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ec1713 リスティア・バルテス(31歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec2472 ジュエル・ランド(16歳・♀・バード・シフール・フランク王国)

●サポート参加者

ポーレット・モラン(ea9589)/ アニエス・グラン・クリュ(eb2949)/ レア・クラウス(eb8226)/ セイル・ファースト(eb8642

●リプレイ本文

●道のり
 一日目の暮れなずむ頃、冒険者達は草原の真ん中で荷馬車を停めていた。これから先の道は二手に分かれ、一つがパルネ領へと繋がっている。
「あれじゃない?」
 シュネー・エーデルハイト(eb8175)が空に現れた点を指さす。
「娘のアニエスね。きっと」
 セレスト・グラン・クリュ(eb3537)は既に借りていた呼子笛を吹き、正確な場所を知らせる。まもなく空飛ぶグリフォン・サライに騎乗するアニエスが舞い降りてきた。
「こちらを」
 アニエスは母であるセレストに十字架のネックレスの入った袋を渡す。新たにペルペテュエルの聖印が刻まれていた。変装する為の品として欲しかったものだ。この為に待ち合わせ場所を決めておいたのである。
「クリミナおば様、借りた品物はギルドに返しておきました」
「ペンダントの加工、助かりましたわ」
 ギルド員が参考用にペルペ教の聖印入りアイテムをアニエスに貸してくれたのは、クリミナ・ロッソ(ea1999)の手紙のおかげであった。
「‥‥大丈夫、心配しないで」
 セレストは荷馬車が動きだす直前にアニエスを抱擁し、耳元で囁く。そしてシュネーが御者をする荷馬車に飛び乗った。
 アニエスは遠ざかる荷馬車に向かって祈る。母様と皆様にセーラ様のご加護がありますようにと。
「待ってる間に近道、見つけておいたでー。今見えた細道を通れば一キロが百メートルになるはずや」
「それはすごいわ。行くわよ、ヒューゲル」
 ジュエル・ランド(ec2472)のいう通りに、シュネーは荷馬車を牽く先頭の愛馬に手綱で指示を出す。
 シュネーは頭上を見上げ、グリフォン・シュテルンがついてきているのを確認した。
「途中まで話したが、ルノーの性格上簡単には城から逃げだす真似はしないだろう。ある程度は相手の目論みに乗った上で、隙を狙う。それでいいかな?」
 リチャード・ジョナサン(eb2237)は荷馬車の側面に寄りかかり、大剣を抱えていた。
「トロシーネ様へ宛てたシフール便には、色々としたためました。その中でも特に迅速な突入をしてもらえるよう、軍馬と装甲馬車の用意をお願いしたわ」
「罠は城に至るまで三個所はあると踏んでいる。その辺は小さな領とはいえ、軍隊を名乗っているのだから何とかするだろうが、一言伝えておいた方がいいだろう。城の中には、あのルノーのことだ。美学に反するので罠はまずあり得ない。注意は必要だが」
 リチャードとセレストの話しは続く。
「バンパイア相手だし、昼間に攻撃するのよね? 空からの侵入はシュネーと一緒にシュテルンに乗って行くと決めているの。ね、シュネー」
「ティアのホーリーフィールド、期待しているわ」
 リスティア・バルテス(ec1713)にシュネーが笑顔で答える。しかし内心では二人とも、クロードの事が心配でたまらない。アーミルが灰となった地でクロードが何を考えていたのかを思うと気が気でなかった。
「ウチの空飛ぶ絨毯を使ってな。隙を見て内部に侵入せんといかんし」
 ジュエルは空飛ぶ絨毯を仲間に提供する。他の仲間の飛行アイテムやペットを使えば空からの侵入には充分である。
 パルネ領は遠く、さらに入り組んだ奥地であるので旅路にかなりの時間が要された。
 五日目の日が暮れた頃、ランタンを手に空から周囲を探っていたジュエルは山の中腹に広がるたくさんのかがり火を見つけた。
 パルネ軍の待機場所である。さっそく御者のシュネーに伝えて、進路を微妙に調整する。やがて周囲の警戒をしていた兵隊達に会い、事情を話して拠点に案内してもらった。
「みなさん、来てくれてありがとう」
 荷馬車が来るのを知って、クロードが冒険者達を出迎える。穏やかなクロードの様子にほっとした冒険者が何人かいた。
「どうするか迷いましたが、わたくしもこちらに」
 領主トロシーネ・パルネも冒険者達の前に現れる。
「こちらが今回の指揮を任せたベラント男爵。パルネ軍司令です。わたしくは勝利こそ望みますが、戦いそのものには口を挟むつもりはありません」
「トロシーネ様が信頼する方々と聞いておる。何かご意見があれば仰って下され」
 トロシーネが軍を任させたベラント男爵を紹介した。
 パルネ軍の全てではないが、集められたのは百四十名弱。約三分の二にあたる。全数で比較するならばブランシュ騎士団全隊と同程度の小規模な軍である。
 復興戦争を生き抜いてきた猛者が約半数を占め、実戦経験は豊富だ。あれから十数年が経ったとはいえ、まだ三十代前半の者が多い。訓練も欠かさず、志気も高かった。
 一方の敵である古城に集まったペルペテュエル教団教徒は、一般の者が多いとの報告がされていた。中には傭兵体験を持つ者や、かつて兵であった者もいるだろうが多数ではないはずだ。ただし武装に関してはかなりのものを揃えているようだ。鎧に剣や盾、槍など騎士のような姿が目撃されている。数は仮定ながら三百名らしい。
「すでに軍が到着していた時には、城に繋がる山道途中の城塞門が占拠されていたのだ。破るのはそれ程の苦労ではないが、問題はその先に控えているであろう罠だ。攻める時は一気に城へ近づきたい。だが、罠の正体がわからないと、じりじりと進むしか手は残っていない」
 ベラント男爵の話にリチャードはやはりと心の中で呟く。
 城に繋がる道は一本である。山中は崖が多く、まず道を外れると城には辿り着けない。無理に強行すれば、敵の的になるだけだ。
「ここはウチの出番やな」
 ジュエルが偵察に向かうのを志願する。どのみち、軍が教徒共を引きつけている間に仲間と城へ侵入するのが作戦だ。その為には下調べが必要であった。
「これをお持ちになって」
 セレストがジュエルにレミエラ付きの優雅なる白銀という指輪を貸す。
「ジュエルさん、気をつけて!」
「すばしっこいから大丈夫や。待っててや〜」
 クロードが声をかける。ジュエルは手を振りながら飛び、真夜中の山林に突入した。
(「真っ暗やな。高度がないとあかん」)
 ジュエルは木々に隠れるようにしながらも、なるべく高く飛んだ。月は出ておらず、星明かりのみが頼りである。これだけの敵の近くでランタンを灯す訳にはいかない。
(「あれが城塞門か‥‥」)
 石造りの高い塀があり、たくさんのかがり火が焚かれていた。常にペルペ教徒共が巡回している。
 ジュエルは隙を見て壁に沿って上昇し、なんとか城塞を飛び越えた。
 森に身を隠しながら飛び、ひたすら仕掛けられた罠を見極めてゆく。
 一つ目は道に掘られた落とし穴である。しかしペルペ教徒が通れるように道の一部だけ手つかずになっていた。ジュエルは観察して、それを知る。
 二つ目は傾斜がある道に丸太が大量に用意されていた。転がしてパルネ軍を撃退するつもりのようだ。
 三つ目は罠というより、最終防衛ラインとして強力な布陣が整えられていた。ここを越えたならルノーの城は間近である。拓けた場所であり、決戦場になるのはあきらかであった。
 城にまで辿り着きたいジュエルだが、警戒が厳しくて諦める。かがり火の灯りを拝借して、トロシーネが貸してくれた城の外観図を確認するに留める。特に新しく敷地内に建物が建てられたり、改装された様子はない。ただしあくまでも外から観た上である。
(「しまっ‥‥」)
 ジュエルは帰りの城塞越えで物音を立ててしまう。何人かの教徒が慌ただしく、周囲を探し始めた。高く飛ぼうにも弓を持った教徒も見受けられる。
 ファンタズムを唱え、幻影で太く見える木の幹にジュエルは隠れた。息を潜める中、教徒が通り過ぎてゆく。
 聞こえる声も増えてくる。
 ジュエルは覚悟を決め、ムーンアローを放つ。レミエラの補助で多数の輝く光矢が幻影の中から飛びだす。
 教徒共が突然の攻撃に怯んだ隙にジュエルは全速で飛んだ。残念ながら一本のみ敵に当たらず、ジュエルに戻ってきて怪我をしてしまう。それでも落下せず、仲間が待つ拠点へと生還した。
「大変! すぐに治すね」
 リスティアが駆け寄り、ジュエルにリカバーを施す。
「よくなったで。ありがとーな」
 ジュエルはリスティアにお礼をいうと、罠について集まっていた仲間に話す。当然ベラント男爵に伝えられ、作戦立案に生かされる。
 六日目、七日目は用意に費やされるのであった。

●決戦
 八日目の朝、クロードは荷馬車の上に腰掛けて遠くのルノーの城を眺めていた。
 そして辺りにも目を向ける。
 一発触発の最中でも世界は輝いていた。
 朝露に濡れた葉。蟻が列をなす大地の上に射す木漏れ日。小鳥のさえずり。まるでこの世に哀しみがないかのようだ。
「クロード」
 声がしてクロードが振り返ると、リスティアの姿があった。何か喋ろうとするリスティアだが、うまく言葉が出てこない。
「‥‥頑張ろう、クロード」
「そうですね、ティアさん。やっとここまで来られました。今日で決着をつけます」
 クロードは立ち上がると荷馬車から飛び降りる。周囲では突入作戦に備えて兵隊達の動きが忙しくなってきた。
 セレストが勇猛そうな騎士に愛馬ダビデを貸していると、クロードとリスティアに気づく。
 そしてセレストはクロードにもいくつかの品を貸した。
「そろそろね。あたしとクリミナは偽装して信者に成りすますわ」
 セレストが城の方角に振り返る。
「ただ今パルネ軍の皆様に感謝と成功への祈りを捧げて参りました」
 クリミナも三人の元に近づく。セレストによっていつもと違う化粧がされていた。
「持ってゆく荷物はオッケーよ」
 シュネーがグリフォン・シュテルンに跨って四人の側にゆっくりと着陸をした。
「ここにいたか。今一度城内の見取り図を眺めていた。変わっている可能性もあるが‥‥、まず、広間にルノーがいるか探さなくてはならないな」
 リチャードが大きな羊皮紙を手に歩いてくる。
「ここに来るまでにもぎょうさんつこうてきたけど、軍からもらってきたで。ホラ」
 ジュエルはたくさんの油の瓶を抱えながらやってきた。シュネーのシュテルンに油をいくつか載せてもらう。仲間に貸す空飛ぶ絨毯にも載せておくつもりである。
「皆様‥‥必ずや、無事で帰りましょう」
 クリミナが十字架を手に祈る。仲間も各々のやり方で勝利と命を祈るのだった。

 戦いはまもなく始まった。
 パルネ軍の尖った丸太が固定された貨車が城塞門に衝突を繰り返した。
 教徒共の矢が飛び交う中で、階段が備えられた荷馬車二両が城塞壁に到達する。
 次々と兵士達が城塞の上に登り、教徒共を払いのける。
 城塞門は開き、一気にパルネ軍は進攻してゆく。クロードと冒険者達も兵士達と一緒に城へ繋がる道を登る。
 落とし穴の発見は、馬を繋げていない荷馬車を兵士達が押して調べる。穴のない通り道を見つけるとさらに進軍した。
 第二の罠に近づくと間隔を空けて長い杭が地面に打ち立てられる。転がってくる丸太を食い止める為だ。うまく機能し、丸太で負傷する者はごくわずかで済む。
 城塞門を攻撃してから二時間も経たないうちに、パルネ軍は城直前の拓けた場所まで辿り着く。
「排除せよ!」
 ベラント男爵の号令の後、太鼓が叩かれた。一斉に装甲馬車が土煙をあげて駆ける。
 教徒共が対抗し、小規模ながら戦場の様相を呈するのであった。

 その頃、冒険者達は近くの森に身を潜めて準備を行っていた。城に潜入するのなら、混乱している今が好機だからだ。
「さて、目立ちましょうか。ティア、準備はいい?」
「もちろん! じゃあみんな、後でね」
 まずグリフォン・シュテルンに乗ったシュネーとリスティアが大空に飛び立つ。教徒の中には弓を持った者も多く、まずは二人が囮となった。
 シュネーがシュテルンを操り、わざと目立つように振る舞う。その際、射程を考えて高度を保った。
 教徒の中には長弓を持つ者もいる。充分に届く矢はリスティアのホーリーフィールドで防がれた。
「えっと‥‥、大丈夫そうね。成功よ、シュネー」
 リスティアは自らの羽根、空飛ぶ箒や絨毯で飛んで城に向かう仲間を確認する。ほとんどの矢の攻撃は自分達に集中していた。
 仲間が無事に城へ到達し、内部に潜入したのを確認するとシュネーは次の行動に移る。
「覚悟しなさい! ルノーに与する者達よ!」
 シュネーはシュテルンで急降下し、城の見張り塔に接近させた。勢いのまま、剣を教徒に振り抜く。弾け飛んだ感触を得ながら、シュネーは教徒共を次々と排除していった。
 一つの見張り塔に動く教徒がいなくなる。シュネーは武器をホーリーパニッシャーに持ち替えて、城の窓にはめられた板を次々と壊してゆく。日光が差し込むようにである。
 矢による攻撃は止まらず、リスティアはホーリーフィールドを唱え続けるのであった。

「リスティアとシュネーが外の誘導なら、城内の誘導は私がしよう」
 窓がない薄暗い廊下の十字路でリチャードは、一つの方角を指さした。仲間以外に誰もおらず、とても静かである。
「魔法で補助しますので、わたしはリチャードさんについてゆきます」
 クロードはリチャードに視線を向ける。
「ウチは混乱させてくるわ〜」
 ジュエルは飛翔して姿を消した。
「それでは、集合地点に必ず」
 ペルペ教徒に変装したセレストとクリミナは、リチャードとクロードとは別方向に歩いてゆく。
 リチャードとクロードは注意深く進んだ。
 戦闘が想定された山城らしく、とても入り組んでいて、狭い個所が多々ある。元々はパルネ家の物件であり、ある程度は見取り図によって内部が判明している。だが組まれている石の大きさが違う壁もあり、改装された形跡があった。
 二階分の吹き抜けのあるフロア手前で、二人は歩みを止める。何事もなく辿り着ける事に不審を感じたのだ。
 クロードが生命探査をしたところ、二階の踊り場付近に十名が確認された。
 教徒共は侵入してきた者達に物を落としたり、遠隔攻撃をするつもりのようだ。
 先制の攻撃として、クロードが廊下に隠れながらブラックホーリーを放つ。踊り場から身を乗りだした教徒一人に当たり、一階へと落下する。
 続いてクロードはフロア一階の部分にホーリーフィールドを張った。リチャードが飛びだし、降り注ぐ矢をホーリーフィールドでかわす。そのまま踊り場に繋がる階段を駆け上った。
 近接攻撃を想定していなかった教徒共は懸命に武器を持ち替えようとする。だが一呼吸遅れたのが致命的であった。
 振り下ろされるリチャードの大剣は、一撃で行動不能に追い込む。それを見た教徒共はたじろぐ。悲鳴をあげて逃げだす教徒もいた。
 クロードは凄まじい素速さで教徒共を奔走する。弓を引く動作のうちに懐に入り、邪魔をするなど造作もないことであった。
 フロアを制圧すると、リチャードは息のある教徒を尋問をした。ルノーがどこにいるのかを。

 セレストとクリミナはペルペ教徒共の中に紛れ込んでいた。
 武装して戦う以外にも、ルノーの像に祈りを捧げる者や、食事の用意などをしている姿を見かける。急拵えの集まりで、敵か味方の判断は聖印に頼るしかないようだ。
「お手伝いをさせて下さい」
 クリミナは門を管理する教徒に声をかけた。
「ここは男の仕事だ。間に合っている。女には他に手伝う事があるはずたろ」
 門を動かす教徒は男ばかりである。人数は六人だ。
「ルノー様の仰せのままに」
 クリミナは祈ってから、立ち去るフリをする。先程セレストに輝きが見えないように手伝ってもらい、デティクトアンデットで探ってある。門の近くにアンデッドはいなかった。
 クリミナと入れ違うように、今度はセレストが教徒に近づいた。
「今度はなんだ? 教団の志気を乱すんじゃない!」
 呆れ気味で教徒は声をあげる。セレストはフードを下ろして顔が出す。
「教団? ルノーが生き血を確保する為の人間牧場でしょ?」
 セレストがクルスダガーで武器が握れないように教徒の手の甲を突き刺した。すかさずクリミナはコアギュレイトで他の教徒一人の動きを止める。
 セレストが戦って時間稼ぎをしている間に、可能な限り早くクリミナはコアギュレイトを使い続けた。
 教徒全員が動けなくなった所で縛り上げる。
 門は仕掛けを外しても、とても重いものであった。セレストとクリミナは近くに用意されていた四頭の牛を門の金具に繋いで引っ張らせる。
「ここはお願いするわ」
「わかりました。お早く」
 少しずつ門は開き始め、セレストは牛の扱いをクリミナに任せる。
 セレストは隠してあったベゾムを取りだし、わずかに開いた門の隙間から外に出る。そして上空に舞い上がり、娘が作ってくれた呼子笛を吹いた。
 パルネ軍が呼応の太鼓を打ち鳴らす。陣形を変え、一点突破を開始する。
 ペルペ教徒共の陣を切り裂き、パルネ軍が一気に城へと向かった。辿り着いた頃には、門は全開となっていた。
 セレストが城全体を見下ろすと、所々に火の手があがっている。ジュエルが教徒共の混乱を引きだす為に点けたものだ。
 グリフォン・シュテルンに跨るシュネーとリスティアが空中のセレストに近づいた。
「行きましょう!」
 シュネーが力強くセレストに声をかける。
「クリミナを連れて、天窓を壊し、城内の集合地点に向かいましょう。他の仲間も待っているはず」
 セレストは答えた。
「これで終わらせる‥‥」
 リスティアはシュネーの背中に抱きつきながら呟くのだった。

●ルノー・ド・クラオン
「こっちにいるで!」
 ジュエルがムーンアローを放ってはルノーへの道案内を行う。
 シュネー、セレスト、リチャードは通りすがりに塞がれた窓があれば武器で破壊する。暗い城内に日光が差し込んだ。
 廊下には反響する怒号が届く。城内でパルネ軍と教徒共が戦っている証拠だ。
「この方向は‥‥、塔のはずだ」
 リチャードは記憶した見取り図から行き先を探る。城の中で一番頑丈な塔の中にルノーは潜んでいるらしい。
「クロード、大丈夫?」
「平気、大丈夫ですから」
 リスティアが深刻な表情のクロードを心配する。その様子をシュネーは黙って見ていた。
「手を乗せてもらえますか?」
 塔に入る直前、クリミナが出した手に仲間が手を重ねる。祝福が二度行われた。
 他にも各々に魔法防御が施される。シュネーはマギ・ミルラを使う。
 セレストが塔へ繋がる扉を開く。
 まず冒険者達とクロードの目に飛び込んできたのは、武装した教徒十名の姿であった。奥の中央祭壇にルノー・ド・クラオンはいた。
「来たわよ、ルノー! これで終わらせるわ!!」
 リスティアが叫んだ。
 シュネー、リチャード、セレストが武器を手に前へ出る。
 安全地帯を確保する為、リスティアとクロードがホーリーフィールドを展開する。
 ジュエルは何か仕掛けられていないか、高さがある塔の天井に向けて舞い上がる。
 クリミナのホーリーを合図に戦闘が始まった。
「精鋭か!」
 リチャードは教徒と剣を交え、今までと違う手応えを感じる。どうやら教徒の中でも選りすぐられた者共のようだ。
「窓はどこに?」
 セレストは教徒と戦いながら窓を探す。床近くに一個所だけあったが、鉄製の厚い板がはめられていて、少々の攻撃ではびくともしない。
「シュテルン!」
 シュネーは連れてきたグリフォンの名を呼んだ。大きく翼を広げて飛んだシュテルンはシュネーが戦う教徒に爪で攻撃を仕掛ける。
「止まれ!」
 クリミナはコアギュレイトを放つが、必ずしも一回で動きを止められない。魔力を回復しては、ひたすら繰り返す。
「フィールドを張りなおしてじりじりと前進するつもり。‥‥クロード、チャンスがあったらルノーを倒しにいってね。でも、死んじゃダメだからね」
 リスティアは近くにいるクロードに小声で話しかける。
(「塔の中頃に偽装されておったけど、簡単に空けられそうな窓があったで。ルノーが考える最後の逃げ道やと思う」)
 ジュエルがルノーに悟られないようにテレパシーで仲間に伝えた。
「バリオ・ロンデアよ。トロシーネ・パルネをそそのかし、こんなつまらぬ事をして何が楽しい。アーミルとサルーシャもいなくなった。あのような美しさの者をまた探さねばならぬ、わたしの苦労も考えよ」
「何を勝手な事を‥‥」
 嘆くルノーの姿に、クロードは怒りが沸き上がった。しかし、冷静を保つように心がけた。すべてはルノーを灰に帰する為である。
 セレストが一人の教徒を倒し、塔の内壁に沿うように作られている螺旋階段を駆け上り登り始めた。
「お前達の敵は私!」
 セレストを追いかけようとする教徒共にリチャードが立ちはだかる。
「クロード!」
 シュネーがオーラショットを放ち、三人の教徒を怯ませて活路を開いた。クロードはホーリーフィールドを飛びだして、ルノーのいる祭壇に向かって駆ける。
「思いだす。初めて戦った時の事を。お前が熱にうなされるアーミルを連れて逃げようとしていた時だ」
「忘れたよ。そんなこと」
 ルノーのディストロイをクロードが避ける。クロードは仲間からもらった聖水を使ってルノーを攻撃した。
 膠着状態の中、突然、日光が塔の床にまで差し込んだ。
「何が!」
 ルノーは手でひさしを作り、日光を避ける。
 セレストが塔の中頃にある窓を開け、鏡のような盾を使って日光をルノーへと注いでいた。当たった部分のルノーの肌がみるみるうちにただれてゆく。
 ルノーはジャイアントバットに変身し、飛び立とうとする。
「やらせないわ!」
「待たせたな!」
 教徒共を倒した終わったシュネーとリチャードがジャイアントバットに変身したルノーの翼を切り落とす。両翼とも半分になったルノーがよたよたと飛んだ。
「この日の為に用意した‥‥ん?」
 ジュエルはアイテムによるサン・レーザーを使おうとしたが、ルノーを見上げるクロードの姿に動きを止める。
(「そやな、クロード。止めは任せたわ」)
 ジュエルはテレパシーでクロードに意志を伝えた。
 通りすがるクロードにリスティアはレジストデビルをかけ直す。クリミナはグットラックで祝福した。
「アーミル‥‥、サルーシャも‥‥」
 クロードは螺旋階段を駆け上る。窓から逃げようとするルノーを追いかけて。
「クロード、好きにしなさい」
 窓の近くにいたセレストが登ってくるクロードに優しく声をかける。
 クロードはついにジャイアントバットに変身しているルノーの耳を掴む。そして窓の外に引きずりだした。
 窓の外はテラスになっていた。
 クロードは人型に戻ったルノーを押さえ続ける。
「放せ! たかがバンパネーラの分際で!」
 ルノーの身体から煙が立ち昇る。
「黙れ‥‥」
 クロードはルノーの髪を掴むと頭を思いっきり石床に叩きつけた。吸血に使う長く鋭い犬歯が折れて転がる。
 ルノーの身体は徐々に灰になってゆく。最後には崩れ落ち、跡形もなくなった。
 クロードは呆然とする。しばらくして振り返ると、テラスには仲間がいた。
「クロード‥‥私達と‥‥冒険者をやってみない?」
 シュネーがとまどいながらクロードに声をかける。
「考えてみます。シュネーさん」
 無理だとわかっていて、そうクロードは答える。シュネーの気持ちが伝わったからだ。バンパネーラの立場はクロードが一番理解していた。
「ルノー・ド・クラオンを倒すことが出来たのは‥‥みなさんのおかげです。とてもわたし一人では無理でした」
 クロードは深々と冒険者達にお礼をいう。
 城内の戦いもパルネ軍の勝利で決着がつく。ペルペテュエル教団に完全なる終わりが訪れた瞬間だった。

●そして
 九日目、十日目と怪我をした者の治療などに費やされる。冒険者達も手伝い、時間はあっという間に流れた。
 領主トロシーネとも、勝利の挨拶をしただけで細かい話を出来ずに終わった。
 シリディアは領主館の地下に閉じこめられているようだが、今頃変化をきたしているかも知れない。主がいなくなったからといって、スレイブが人であった頃の記憶が蘇る訳ではないからだ。そのことがセレストには気がかりであった。
 十一日目の朝、クロードと冒険者達は荷馬車で古城を後にする。
 長い帰り道の間、クロードはほとんどを寝て過ごした。余程疲れたのだと、冒険者達はそっとしておく。
 十五日目の夕方にパリへ到着すると、クロードはギルドで待っていて欲しいと冒険者達に頼んだ。
 小一時間してクロードが現れる。手には知識のペンと呼ばれる品が握られていた。
「特別な品なんです。ようやく手に入れてみなさんにと思っていたのですが、この前はパリに戻らなかったので渡しそびれてしまって。どうぞ、お持ちになって下さい」
 一人ずつ感謝を込めて、クロードはペンを手渡した。
「少し落ち着いたら、もう一度会ってもらえますか? 今は何にも考えられない状態なので」
 そう言い残してクロードは冒険者ギルドを立ち去った。