コンスタンスの裏切り 〜サッカノの手稿〜
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■シリーズシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:16 G 29 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月31日〜11月10日
リプレイ公開日:2007年11月08日
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●オープニング
「どこに行った! どこに逃げても無駄だ!」
デビノマニのエドガ・アーレンスは炎の中で叫ぶ。怪我をした腕から流れる血は地面に落ちるまでに消え去ってゆく。
夜の闇に燃えさかる建物。
エドガは山奥にあった石造りの古き建物を捨て、忘れ去られた地方領主の別荘に拠点を構えていた。
別荘とはいえかなり大きな建物であり、エドガと七人の使徒、そして悪魔の騎士アビゴールから預かっている大量のグレムリンが過ごすには充分な広さがあった。
その建物の石壁には無惨にも大穴が空き、炎が噴き上げていた。
「コンスタンス‥‥」
エドガは呟く。
すべては不意打ちを食らわして逃亡した少女コンスタンスの仕業である。
惨状からいって、少女コンスタンスは使える最大級のファイヤーボムを立て続けに使ったようだ。ソルフの実も用意して魔力の補給もしなければこうはいかない。
「報告‥‥します‥」
グレムリンの中で比較的頭のいい一体がエドガに報告する。
使徒として集めたばかりの一人が死亡が確認される。腕や足が建物の下敷きになり、潰れてしまった使徒が二人いた。グレムリンにもかなりの被害があるようだ。
「この状況で怪我をしていない者などいないであろう‥‥」
エドガは歩いて炎に包まれた建物を出て岩にもたれた。
どんな屈強な者でも就寝中を狙われれば被害は免れない。外部からの敵を警戒していても、内部からでは対策は難しい。
少女コンスタンスには監視をつけておいたが、グレムリン二体では荷が重すぎたようだ。その気になった彼女なら倒す事は容易い。エドガにもわかっていたが、それ以上の監視をつける余裕なかった。そしてこれ程早く裏切るとも思っていなかったエドガであった。
「‥‥コンスタンス。アビゴール様に対する裏切りでもあるのだぞ」
エドガは燃えさかる屋敷を見上げた。
数日後、冒険者ギルドに司祭ボルデと司祭ベルヌが現れる。
個室で受付の女性に依頼を始めた。
「手紙が届いたのです。敵であるはずのコンスタンスからの手紙です」
司祭ボルデが手紙をテーブルに置いた。
「簡単にいえば、エドガと部下の隠れ家について書かれています。どうやらコンスタンスによって最大の隠れ家は破壊されたようなのです。そこでエドガ達は山奥にある昔からの隠れ家に戻るしかないだろうと、コンスタンスは推測しています。手紙にはその山奥の隠れ家の場所について詳しく書いてありました‥‥。問題はこの内容が正しいのかどうかなのですが、はっきりいえば我々にもよくわからないのです」
司祭ボルデが口をつぐんだ。
「この前、一緒に行って頂いたアビゴールの城についても結論は出ていません。果たしてコンスタンスのいう通り、本当に12月のある日にアビゴールが一体で現れるのか‥‥。どこまで我々はコンスタンスを信じてよいものか‥‥」
司祭ベルヌが目を泳がせた。
「とにかく今まで後手に回るのが多かったのですが、この情報が正しければエドガに攻め入る事が可能です。エドガの討伐を冒険者のみなさんにお願いしたい」
司祭ボルデと司祭ベルヌは依頼を出し終えると、神に祈りを捧げた。
そして去り際に受付の女性に言葉を残す。嘘の情報だったのなら冒険者達には無理をせず引き返してもらいたいと。
●リプレイ本文
●手紙
パリを出発した一行は馬車を主にして移動する。愛馬やフライングブルーム、セブンリーグブーツなどで周囲に注意を払いながら。
今回は司祭ボルデと司祭ベルヌの同行がなく、その意味では冒険者達は気が楽であった。
依頼の目的は少女コンスタンスの手紙が本当かどうかにかかっていた。
多くの冒険者は手紙の内容を信じる。少女コンスタンスのすべてを信じるかどうかは別として、アビゴールの城での行動と確かに繋がるからだ。
二日目の夕方、山の麓に一行が辿り着いた頃には空が曇っていた。天候が気になるものの、冒険者達は野営を行う。
そして三日目の朝に徒歩での山登りを始める。馬車については同行してくれた御者に任せる。
フライングブルームで先行するのは、リアナ・レジーネス(eb1421)とジークリンデ・ケリン(eb3225)だ。
リアナはブレスセンサーを用いて敵の斥候などが隠れていないかを探った。なるべく低く、敵に見つからないように。コルリスによれば、精霊魔法に長けた敵もいるようだ。リアナは注意をはらう。
ジークリンデはスクロールなどを利用し、目的地の近くを調査した。スモールホルスのヴィゾフニルも一緒である。木の影に隠れ、グレムリンが飛んでゆくのを覗く。しかも一匹だけでなく何匹もだ。
徒歩の冒険者達は山の木々の間を歩く。枯れかけた草が生える、道なのかわからない道を。
「‥あたりのようだ。少なくとも最近通った形跡がある。馬に、重装備のもの。負傷者もいるようだ」
屈んだキサラ・ブレンファード(ea5796)は地面に残った足跡などを観察する。仲間がキサラを囲んで推測に耳を貸した。
(「あの者の心は動いたのでしょうか‥‥」)
フランシア・ド・フルール(ea3047)もキサラの話を聞いていた。そして手紙の信憑性について今一度思いを巡らす。フランシアはパリに残る司祭の二人に少女コンスタンスが壊滅させたという隠れ家の調査を頼んだ。もっとも結果がわかるのは戻ってからである。
「あまり高く飛ぶなよ」
李風龍(ea5808)は大空を飛ぶペットの風精龍、飛風を見上げて呟く。そしてエドガ・アーレンスを思いだした。アビゴールの前にエドガを倒せるのならかなり有利になる。そうでなくても敵陣営の戦力を削いでおけば後で何かと楽になるはずだ。李風龍は自然と力が入る。
「気持ちよさそうに飛んでるじゃねえかー」
ミケヌ(ec1942)は額の汗を手の甲で拭くと、大空を舞っているイーグルを望む。イーグルはまだ幼く、とってもやんちゃであった。
「そうか。何かあるのは確かなんだな」
レイムス・ドレイク(eb2277)は枝にとまるイーグルドラゴンパピーに話しかける。パピーはある方向をじっと見つめた。習性からいって、その方向に何かあるに違いない。それはきっと目的地だとレイムスは考えて仲間に伝えた。
「結構険しいですね」
グレック・フリーゼル(eb1677)は歩きながら周囲の地形をよく観察した。現地に到着したのなら地形や建物の形状を利用して攻撃できないかを考えるつもりであった。
「この機会を利用して各個撃破できればよいのだがの」
ディグニス・ヘリオドール(eb0828)は仲間に話しかけながら険しい山道を歩いた。麓でダウジングペンデュラムを使ったところ、珍しくはっきりとエドガや敵がいるとの結果が出た。この機を逃す訳にはいかないとディグニスは心に誓う。
「遠回りに感じられるが、こっちの方が早く着くぞい」
マギー・フランシスカ(ea5985)が仲間に道を指し示す。大まかな進路は敵の辿った道と同じだが、少しでも楽な道を選んでゆく。
リアナとジークリンデが戻り、敵の隠れ家らしき蔦に覆われた石造りの建物を報告する。グレムリンが巡回する外側で野営を行う事が決まった。たき火を焚くのは取りやめられる。
「グレムリンがいるなら、エドガもいるはずだ」
李風龍の根拠がない発言だが、エドガを知る者は納得する。
夜空は曇り、月も星もない。真っ暗闇の中で冒険者達は野営をした。見張りの順番が決められると、それ以外の冒険者達はテント内で横になる。獣達の遠吠え、鳴き声を聞きながら眠りに入るのであった。
●調査
四日目の朝方、空が白んできた時に小粒ではあるが雨が降りだした。
今日すべきなのは石造りの建物の周囲を調べ、戦いに備える事だ。本格的な戦いは明日五日目の早朝に決まった。
ミケヌが崖に横穴を見つけたので、そこを雨をしのぐ野営地に変更する。
雨粒が木々の葉に落ちて弾ける中を冒険者達は動き回った。洞窟に残った者達は仕方なく洞窟の奥でたき火を行う。防寒服のない者の身体が冷え切ってしまったからだ。昼間なので煙にさえ気をつければ敵に大して目立たないはずである。幸いに洞窟の天井は高く、空いているいくつもの穴から煙は分散して薄くなる。
日が暮れて全員で集まり、洞窟の奥でランタンを灯して会議をする。
敵すべての戦力まではわからなかったが、常に十匹程度のグレムリンが交代で空から警戒をしている。その態勢からいっても油断している様子はエドガ側から感じられない。
寒い洞窟の中で早めに就寝する。ジークリンデは自らにフレイムエリベイションをかけて志気をあげておく。
朝まで寝ることはない。すべては明日朝の奇襲にかかっていた。
●奇襲
五日目のまだ太陽が昇らない朝方、石造りの古き建物は雨に濡れて山の中に佇んでいた。
雨音が支配する世界が突如変わる。
「懲りもせず、またコンスタンスか?」
デビノマニであるエドガは部屋の窓から赤い輝きを眺めた。巨大な火柱が建物の一角を吹き飛ばしている様子を。
「どうやらマグナブローのようだな」
エドガが呟くと、廊下へと繋がるドアが開く。
「エドガ様、失礼します。お考えが当たったようですね」
「いや‥‥、コンスタンスは滅多な事ではマグナブローは使わない」
エルフの女が部屋に現れてエドガに触り、レジストファイヤーを付与する。コンスタンスを警戒していたエドガは精霊魔法の火についての対策を前もって考えていた。
水精霊使いについては一人仲間にするのを逃していたエドガであったが、妹を味方に引き入れていた。
いつの間にかエドガの部屋には使徒達が集まる。水精霊使いは仲間にもレジストファイヤーを付与する。
再び窓から赤い輝きが飛び込み、部屋を照らす。マグナブローに巻き込まれたグレムリンがマグマに散っていった。
「もしや冒険者ならあの場所に誘い出せ」
伝令のグレムリンも現れ、エドガは指示を出した。
冒険者達は順調に石造りの建物に取りつく。ほとんどが一階のみの広い敷地に建てられているので、内部に入らなければエドガらの所在や生存を確かめられない。
「空いたぞい」
マギーはウォールホールを使い、石造りの建物の壁に通り道を空けた。
すかさず穴に目がけてミケヌが複数の矢を放つ。敵がいるのはジークリンデの魔法で確認済みであった。
フランシアはホーリーフィールドを展開し、不意の攻撃に備える。敵だけでなく味方の範囲攻撃をマギーとフランシアは警戒していた。
突如、マグナブローが吹き上がり、ジークリンデとキサラは濡れた地面に転げる。ギリギリの距離で逃れてダメージはなかった。このブローはジークリンデのものではない。
「私は手一杯です! 」
リアナはライトニングサンダーボルトを上空に向かって放っていた。翼をもがれたグレムリンが次々と地上へと落ちてゆく。フロストウルフのアウィスも吹雪の息でグレムリンを近寄らせず、主人を助けていた。
「そこ!」
ジークリンデはバイブレーションセンサーで敵の位置を探り、仕返しのマグナブローを放つ。だが手応えはなく、不思議な事に敵の動きが鈍ったようには感じられなかった。
「相手の懐に入るべきだ!」
キサラはウォールホールの穴に飛び込み、内部のグレムリンを一撃で打ち落とす。
「飛風、外を任せたぞ!」
グットラックをかけた李風龍も大錫杖を手に侵入した。冒険者達は次々とウォールホールを潜る。
「これは!」
グレックは潜入した瞬間、上からの降ってきた攻撃を剣で受け止める。ジャイアントの剣士が飛び降り様に攻撃を仕掛けてきたのだ。
「‥‥ここは任せたぞ」
キサラはフランシアの手を引いて奥に向かう。
「後で向かいます」
グレックを残し、他の冒険者達は廊下を移動する。石壁の穴は自然と塞がった。外では冒険者のペット達とグレムリン共の戦いが始まる。
廊下にはかがり火が用意されていて、薄暗くはあったが視認は出来る。不意をつかれないよう念の為にランタンを灯す冒険者もいた。
途中立ち止まり、怪我を負っている者は回復をする。
敵からの魔法攻撃が止み、冒険者達は不気味さを感じ始めた。魔法を駆使して敵の位置を探る。どうやら一個所に集まっているようだ。
魔法攻撃によって一気に叩こうとも意見が出たが、敵が対策を何もしていないとは考えにくい。事実、魔法攻撃があまり敵に効いていない印象があった。
手紙によれば、エドガと一緒にいる使徒は七人。コンスタンスが攻撃した事でどこまで数が減っているのかはわからない。
今いるのは、振動で調べれば敵は五人。呼吸で調べれば四人。一人の差はエドガがデビノマニであるせいだろう。グレックが戦っている一人を足せば、敵はグレムリンを除けば全部で六人ということになる。
冒険者達はマギーが石壁に作ったウォールホールを通過して近道をしてゆく。そして辿り着いたのは聖堂のような巨大な広間であった。
「ようこそ」
エドガの呟きが広間に反響する。
「わざわざ、ここに来てもらったのは他でもない。手引きしたのはコンスタンスか?」
エドガの問いに答える冒険者は誰もいなかった。
エドガの横にいるエルフの女が動き、戦端が再び開かれた。
ジークリンデのマグナブロー。リアナのライトニングサンダーボルト。
敵の火精霊使いのマグナブロー。水精霊使いのアイスブリザード。
広いとはいっても建物内で魔法が荒れる。石のブロックが雨のように降り注ぎ、天井が抜け落ちた。
舞いおこる埃が一気に落ち着いてゆく。強く降り注ぐ雨のせいだ。
もう朝のはずなのに、雨雲のせいで夜のように辺りは暗かった。
前衛の李風龍、レイムス、ディグニス、キサラが武器を手に敵に向かって駆けた。敵の前衛三人も駆け寄り、互いの刃から火花を飛ばす。その中にはエドガの姿もあった。
遠隔攻撃が出来る冒険者は、敵の精霊使い達を押さえるのと、上空から飛来するグレムリンの追撃に回った。
前衛達の攻防を、矢や魔法の輝きが包み込む。
隙を見てレイムスが司祭に用意してもらった発泡酒をばらまく。その匂いにつられてグレムリンの一部がさまよう。
上空に特大のファイヤーボムが現れて、辺りを強く照らす。巻き込まれたグレムリンは次々と消滅してゆく。
キサラの炎のような剣が舞う。
冒険者の誰もがエドガを狙っていた。だが、使徒達もエドガを援護する。
エドガの一撃は剣で受けただけでも骨に響く。それでも隙を見つけたキサラはエドガの脇腹に強烈な一撃を喰らわした。
李風龍はエドガの動きを先に止めようとするが避けられた。続けざまに攻撃を続け、仲間への援護を行う。
「エドガよ!」
ディグニスはデッドオアライブで攻撃を仕掛ける。一撃は強く、一気に体力が削がれるのを覚悟しながら攻撃を返す。
「エドガ、仲間の信頼を得られなかったのが、貴様の限界だ。力に溺れ、人の心を失った報いを受けよ!」
「たわけた事を!」
レイムスはスマッシュを基本にして合成技でエドガを追いつめる。ソードボンバーは仲間も入り乱れている状態なので使うのを控えた。
「ここはだめだ」
敵の精霊使い達が戸惑い始める。自分達が立つ場所に大量の石が落ちてきたからだ。
この時、ジャイアントの剣士を倒したグレックがベゾムを使って屋根に登っていた。そして敵目がけて天井を崩していたのである。
拮抗していた戦いが崩れ始める。冒険者達が徐々に押してゆく。
エドガの盾となった敵剣士の一人が倒れた。もう一人敵剣士がくい止めている間にエドガは後方に下がる。
ミケヌが放つ矢を、エドガが剣で叩き落とす。だが一本が水精霊使いの肩にめり込んだ。
「ここは退きましょう」
水精霊使いの女が土系で覚えていたアースダイブを唱える。まずはエドガにかけ、そして自分にかけた。火精霊使いには間に合わず、エドガと水精霊使いの二人は地面へと潜る。
「逃がしません!」
ジークリンデはソルフの実をかじり、最後のマグナブローを唱えた。火柱は地中にも影響を及ぼすからだ。
地面の中で直撃したはずが、どうやら敵二人は死には至らない。バイブレーションセンサーで探ると二つの振動が離れてゆく。
エドガと水精霊使いの女は建物の周辺から完全に姿を消したのだった。
●そして
五日目は治療が行われる。
六日目から七日目にかけては建物の簡単な調査が行われた。
デビルは死体が残らないので、グレムリンの倒した数はわからない。倒したエドガの下僕は四人である。
逃がしたのはエドガと水精霊使いの女の二人だ。
「確か、水精霊使いのアリーセとかいったような」
「まさか逃げだしたとは考えにくいのですが」
「顔も似ていたぞ」
前に水精霊使いによく似た敵を捕獲した覚えがあり、李風龍、フランシア、レイムスは話題にした。
八日目の朝に下山を始め、夕方には麓に辿り着く。翌日の九日目朝に馬車で発車して十日目の夕方に冒険者達はパリの地を踏みしめた。
フランシアは冒険者ギルドで待機していた依頼人の司祭二人に訊ねる。本当にコンスタンスが隠れ家を破壊したのかを。
どうやら本当のようで、手紙にあった捨てられたはずの別荘は激しく破壊されていたそうだ。いくつかの悪魔崇拝を示す品物も発見された。
もう一つの疑問は逃してしまった水精霊使いについてだ。ギルドを通じてブランシュ騎士団黒分隊に問い合わせたところ、水精霊使いのアリーセは未だある施設で幽閉中だとの返事があった。
「エドガを倒せなかったのは残念ですが、ほとんどの戦力を削いだといっていいでしょう。エドガに力を貸す者はわずかなはず‥‥」
司祭ボルデは口を閉じてから、もう一度話し始める。
「何とかもう一度、現在のコンスタンスと話す機会が欲しいと考えております」
司祭ボルデだけの意見ではない。司祭ベルヌも同意するように頷いた。
司祭二人は冒険者達に礼をいい、追加の謝礼をしてギルドを立ち去った。
「主よ‥‥」
フランシアも二人の司祭と同じく悩んでいた。コンスタンスの行く末を。