彷徨のコンスタンス 〜サッカノの手稿〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:12 G 26 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月14日〜11月23日

リプレイ公開日:2007年11月20日

●オープニング

「まったく‥‥。あんな雑魚でも数が多いと大変‥‥」
 夜の森。猟師が使う小屋に潜り込んだ少女コンスタンスは呟く。雨音を聞きながら、暗闇の中で藁の上に横たわった。
 エドガ・アーレンスを裏切り、少女コンスタンスは追われる身となる。今までは下僕であったグレムリン共が牙を剥き、襲いかかってくるのだ。
 持っていた薬も底をつき、回復もままならない。
 少女コンスタンスは自分の姿が見えない事に感謝する。怪我の状態を見なくても済み、ボロボロになった漆黒のドレスも気にならないからだ。
「感謝? 一体誰に?」
 自問自答をした後で笑い転げる。おじさまと慕った悪魔の騎士アビゴールを裏切った自分が何にすがるのかと。
「ハニエル‥‥」
 少女コンスタンスの脳裏には天空から現れたプリンシュパリティ・ハニエルの姿が蘇る。
「デビルがダメならエンジェルを頼ろうだなんて‥‥。そんなに簡単ならもっと楽に生きられるわ‥‥」
 少女コンスタンスは唇の端を噛んだ。
 なぜここまでプリンシュパリティ・ハニエルに惹かれるのか少女コンスタンス自身にもよくわからなかった。身体に流れる過去のコンスタンスの血がそうさせるのかも知れないと、ふと考えが過ぎる。
「エミリールに一言だけ、いわなくては‥‥‥‥」
 次第に眠気が傷の痛みを上回ってゆく。少女コンスタンスは瞼を閉じた。

 数日後、少女コンスタンスは傷だらけのフライングブルームに跨り、ルーアンに向かった。
 人々がごった返す広場に立ち、周囲を見回す。
 今は市場だが、この場所でサッカノ司教は火刑に処されたのだ。
 酷い格好の少女コンスタンスを、往来の人々は横目で見てゆく。
 少女コンスタンスは気にせずに右足を引きずるように歩き始める。過去からやってきた女性、エミリール・アフレに会う為にサン・アル修道院へと。
「彼女への面会は制限されている。お引き取り願おう」
 サン・アル修道院を護る女性衛兵二人が、エミリールとの面会を拒んだ。無理矢理に通ろうとして少女コンスタンスは衛兵に掴みかかる。だがバランスを崩し、数段であったが階段を転げ落ちた。
「エミリール!」
 倒れたまま、少女コンスタンスは叫んだ。
「何事です?」
 声と共に扉が開く。現れたのは修道女であるエミリールであった。
「あなたは‥‥コンスタンス様の末裔。なぜここに」
 エミリールが倒れている少女コンスタンスを起きあがらせる。
「エミリール、これまでの事、取り返しのつかないのは承知しているわ‥‥。だが、わたくしがすべてを終わらせるつもりよ。いいたかったのはそれだけ‥‥」
 少女コンスタンスはエミリールの手を振り払って歩きだすが再び倒れた。
「コンスタンス、コンスタンス様!」
 少女コンスタンスは意識を失っていた。エミリールはサン・アル修道院に運び入れるのであった。

 その日の夜、エミリールは少女コンスタンスの看病をしながら、一通の手紙をしたためていた。パリの司祭ボルデと司祭ベルヌ宛てである。
 少女コンスタンスはプリンシュパリティ・ハニエルと話したいと強く願っていた。うわごとでも口にする程に。
 プリンシュパリティ・ハニエルが出没した場所といえば、ルーアン近くの古き小さき教会であるが、現在ルーアンの兵士達で護られている。悪魔崇拝者である少女コンスタンスを連れてゆく訳にはいかなかった。
 今こうしてサン・アル修道院に匿っているのも重大な問題である。修道女の誰かがラルフ・ヴェルナー領主に通報しても、責めることは出来ない。それほどの悪事を少女コンスタンスは犯してきたのだから。
 エミリールは滝裏の鍾乳洞内遺跡に少女コンスタンスを連れて行きたいと考えた。
 一部の鍾乳洞が崩れてしまったが、それでもあの場所は過去にプリンシュパリティ・ハニエルが降臨した事実がある。小さき古き教会が無理ならば、鍾乳洞内しかあり得ない。
 エミリールは手紙に、自分と少女コンスタンスを鍾乳洞内遺跡に連れて行って欲しいと記す。二人の司祭ならば、冒険者を手配してくれると信じて。
 ただ、依頼を出す際には少女コンスタンスの名を出さないようにと付け加える。今、少女コンスタンスが捕まってしまえば、すべてが水泡に帰すような気がしてならなかった。
 責任はすべて自分が負うとエミリールは覚悟を決めていた。

●今回の参加者

 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea5796 キサラ・ブレンファード(32歳・♀・ナイト・人間・エジプト)
 ea5808 李 風龍(30歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ea5985 マギー・フランシスカ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb0828 ディグニス・ヘリオドール(36歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb2277 レイムス・ドレイク(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb3979 ナノック・リバーシブル(34歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5818 乱 雪華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec1942 ミケヌ(31歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)

●サポート参加者

ベルナルド・カスパーニャ(ea4020)/ コルリス・フェネストラ(eb9459

●リプレイ本文

●ルーアン
 二日目の昼過ぎ、冒険者達はルーアンの地を訪れた。依頼人である二人の司祭が用意した馬車や自らの移動手段を使って。
 パリ出発の際、シクル・ザーン(ea2350)はベルナルドを呼び、仲間の変装を行った。この時少女コンスタンスの絵を描き、似せる方法をベルナルドに聞いたのが後で役に立つ事となる。
 変装は司祭二人に監視がついているとの想定で行ったものだ。少女コンスタンスが本当にアビゴールを裏切ったのなら、新たな監視者がいると考えた方が自然であった。コルリスからデビルに襲われる危険性についても助言されていた。
 サン・アル修道院奥は男子禁制である。エミリールを迎える為に女性陣は奥に入り、男性陣は入り口の側にある個室で待っていた。
「えっ?!」
 レイムス・ドレイク(eb2277)は、エミリールに続いて現れた人物を見て驚きの声をあげる。
「なんと‥‥コンスタンスがいるとは‥こいつは驚いた」
 李風龍(ea5808)は椅子から立ち上がった。
「俺はカムイラメトクのミケヌってんだー よろしくな!」
 男性陣の中で驚いていないのは初対面のミケヌ(ec1942)だけである。
 司祭二人は冒険者達に謝る。この修道院に着くまではくれぐれも内緒にしてくれとエミリールに頼まれていたのだ。
「すみませんでした。実は――」
 女性陣には簡単に説明したエミリールであったが、あらためて全員の前で話す。鍾乳洞内遺跡にどうしても少女コンスタンスを行かせたいという。
「エミリール様の存念に従います」
 乱雪華(eb5818)は一言、力強く答える。
「わたくしはおじさま、いやアビゴールとは袂を分かった。今までの事、どう償ってよいのか‥‥。だが、どうかわたくしをあの鍾乳洞まで連れて行って欲しい。よろしくお願いしたい」
 少女コンスタンスは冒険者の前で跪いた。
「真実が全ての物事を進ませる、か」
 ディグニス・ヘリオドール(eb0828)は呟く。こうなったからには全力でエミリールと少女コンスタンスを護る覚悟をディグニスは決めた。
「背負った罪に対して裁きを下すのは俺の役目ではない。俺達がルーアンに来るまでの間にも事態は動いている。余り猶予が無さそうだ」
 ナノック・リバーシブル(eb3979)はテーブルに白光の水晶球を置いて発動させ、警戒をしていた。ルーアン内とはいえ、気を抜く事は出来ない。チラチラとデビルの反応が現れていた。遠くからであるがエミリールもデビルに監視されているようだ。
「ほう、これは出かける前に、片づけなくてはならないようじゃな」
 マギー・フランシスカ(ea5985)は白光の水晶球の反応を見て、窓から外を眺める。監視に適しているのはインプ、もしくはグレムリンである。仲間からの情報によればグレムリンの可能性が高い。
「私はこの地の領主たるラルフ殿に事情を全てお話しし、許しをえるべきだと考えます」
 フランシア・ド・フルール(ea3047)は仲間に相談する。これからを考えるなら筋は通しておいたよいと考えたからだ。
「人間としてのお前はナニをしたいのだ?」
 仲間同士の話し合いをよそに、キサラ・ブレンファード(ea5796)は少女コンスタンスに訊ねる。護衛をするのに特別の感情はない。だがデビルに与していた者の行動としては突飛過ぎる。理解しがたいのだ。
「わたしくは取り返しのつかないことをしてしまった。償えきれない程の事を‥‥何をしたいのかと聞かれれば、何もする資格がないわたくしには答えようがない‥‥。ただハニエルに会いたいという気持ちだけでは、理由にならないのだろうか‥‥」
 少女コンスタンスはぽつりと呟くように答えた。

 意見がまとまり、冒険者達は行動を開始する。
 ラルフ領主の元にはフランシアと李風龍が向かう。ヴェルナー城には現在戻っているようなので直接面会を求める。
 問題はラルフ領主の立場であった。普通に考えれば、どんな理由があろうとも少女コンスタンスを捕まえなくてはならない。本意は違っていたとしてもだ。どこまでの交渉があり得るかはわからないが、まずは直談判である。
 ミケヌはパリで教えてもらったことが役に立っていた。もしもを考え、嫌々ながら少女コンスタンスの身代わり役として女の子の姿に変装してゆく。
 他の冒険者達はルーアンに潜むグレムリン共の退治を行った。修道院を監視していたデビルは、石の中の蝶が反応する範囲のみを警戒していてたので容易く発見できる。
 結果、グレムリンを修道院近くで3匹、少し離れた場所で5匹を消し去る事が出来た。
 ざっとであるがナノックはペガサスのアイギスに跨り、ルーアンの上空をなるべく低く飛んで石の中の蝶の反応を調べるが、これ以上は見つからない。
 夕方、一行は新たにエミリールと少女コンスタンスを馬車に乗せて、サン・アル修道院を出発した。
 敵がデビルなら問題はないが、衛兵となると別である。ラルフ領主なら少女コンスタンスの姿を知っていてもおかしくはなく、ヴェルナー領内で指名手配している可能性もあった。
 馬車はルーアンを囲む城壁に差しかかる。門では衛兵達が通行者を確認していた。
「乗っている者達、全員顔を見せろ」
 衛兵数人が馬車を取り囲んだ。少女コンスタンスは底に横たわるように隠れる。手には返してもらったフライングブルームが握られていた。
 馬車の扉を衛兵の一人が開けようとした時、新たな衛兵が近づいてきて耳打ちする。
「いいぞ。通ってよし」
 衛兵が突然の許可を出したおかげで調べられることなく、馬車は門を通過した。
 何人かが安堵のため息をつく。どうやら城に向かった李風龍とフランシアのおかげのようだ。
 ディグニスが愛馬で馬車より先行し、乱雪華が空飛ぶ木臼で上空の監視を行う。ナノックはセブンリーグブーツで馬車に併走した。空には自由に飛ぶアイギスの姿がある。馬車に繋がれるのをアイギスは嫌がったのだ。
 レイムスが御者をする馬車は夕日の中を駆ける。目指すは鍾乳洞内遺跡であった。

●鍾乳洞内遺跡
 安全なルートを選択したせいで、馬車一行は四日目の夕方に山の麓へ到着する。セブンリーグブーツなどでフランシアと李風龍も合流して野営を行った。
 忘れていたとエミリールが冒険者達に薬類の提供をする。
 冒険者達はなるべく少女コンスタンスと会話をするように心がけた。敵であれ、味方であれ、相手を知らなくては何も始まらない。
「こうやってわたくしが鍾乳洞内遺跡に向かっている事すら、アビゴールの手中で踊っているだけなのかも知れぬ」
 一行とたき火を囲みながら、少女コンスタンスは話し続けた。
 アビゴールはプリンシュパリティ・ハニエルに対して異常な復讐心を持っていた。サッカノの手稿を狙った理由はいくつかある。
 主なものは、自分の過去の抹消、デスハートンの白き玉の入手、そしてハニエルへの復讐である。
「ハニエル様を降臨させる為にわたくしを生かしているのかも知れない‥‥。それでもわたしくは‥‥」
「コンスタンスの心変わりを信じる。そして必ず守る。だから安心して欲しい」
 ずっと俯きながら話す少女コンスタンスをレイムスは元気づけた。

 五日目の朝、一行は山登りを開始した。
 馬や馬車などは麓に住む木こりの家に預ける。
 キサラが先行して斥候を行う。山の地理に詳しい乱雪華が登りやすいルートを仲間に提案する。
「元気だせよー。な!」
 変装をやめて元気を取り戻したミケヌが、落ち込んだままの少女コンスタンスの肩を叩く。ちいさな声で少女コンスタンスは『ありがとう』と答える。
「エミリール殿を気にかける想いは、貴女の心に灯った光。復讐ではなく、其を高く掲げなさい。変えられぬ生き方など無く、堕落から自ら立ち上がらんとの意志を主は嘉し賜います」
 フランシアも少女コンスタンスに声をかける。心の片隅にでも言葉が残っていれば、立ち直るキッカケになるかも知れない。そうフランシアは考えていた。
「もしも追っ手がいたらこれで迷うじゃろう」
 マギーはフォレストラビリンスを使い、通った跡を迷いの森にしておく。
 山登りは順調に進み、昼には目的の鍾乳洞遺跡の入り口になる滝まで到着した。
 しかし、ここから入るのも面倒という事で前に敵の攻撃によって陥没した場所から入る事にした。
 陥没の穴はかなりの大きさに広がっていた。
 乱雪華の空飛ぶ木臼や、少女コンスタンスのフライングブルームなどで穴の底に下りる。
 陥没した時以上に周囲は崩れ、古代遺跡は埋まっていた。
「ハニエル様!」
 少女コンスタンスの声が崩れた鍾乳洞内で反響する。
 エミリール、二人の司祭は、聖書の一文をラテン語で口にしながら祈りを始めた。これでプリンシュパリティ・ハニエルが降臨するかはわからないが他に方法がなかった。
 冒険者達は野営の準備と共に、周囲の警戒を行う。
 日が暮れて夜が訪れる。
 四人の身体が心配だが、ここは思うとおりにやらせてあげようと冒険者達は口出ししない。
「ラルフ殿は数日の間、知らぬ事として下さりました」
「ああ、ラルフ黒分隊長は猶予をくれたよ。パリで待つとだけいっていた。こればかりは仕方ないな」
 フランシアと李風龍が仲間にヴェルナー城での謁見についてを伝える。
 祈る四人の近くでたき火を用意し、冒険者達は交代で見張りを続けた。
 六日目の朝が訪れる。
 空は明るくなってきたが、まだ穴の底には太陽の光は届かなかった。
 突然に立ち上がった少女コンスタンスに駆け、そして地面に座りこんだ。一生懸命に素手で地面を掘り始める。
「どうしたのです?」
 レイムスが近づいた。他の者達も集まりだす。
「この下に何かが‥‥、うつらうつらした時に見えたの! わたしにそっくりな人がこの下を指さしたのを」
 少女コンスタンスは手を止めなかった。
「それじゃ時間もかかるじゃろ。任せておくのじゃ」
 マギーは少女コンスタンスに退いてもらい、ウォールホールを使う。そしてロープを垂らして底に降りた。
「こんな物が見つかったのじゃ」
 穴から上がってきたマギーが手にしていたのは、汚れた金属片であった。泥を払うと銀貨であるのがわかる。
「これは‥‥」
 エミリールが銀貨を手にして涙ぐむ。
「これは‥‥わたしが祖母からもらい、そしてサリオール様のお守りとしてエミリール様に差し上げたもの。この隅に刻んだ文字は証拠」
 エミリールの手にしていた銀貨はどこの国のものかわからないが、ジーザスが刻まれていた。
「サリオール様とは、過去、デビルにさらわれた赤子の名」
 司祭ボルデが呟く。
 陥没した鍾乳洞内の底に太陽の光が射し込んだ。
「いや‥‥違う」
 司祭ベルヌは気がつく。眩しいのは太陽のせいだけではなかった。
「ハニエル様!」
 少女コンスタンス、エミリールは同時にハニエルの名を叫んだ。
 ペガサスを連れたプリンシュパリティ・ハニエルが自らの羽根で冒険者達の側に舞い降りた。
「コンスタンスよ。知っています。何かわたくしに訊ねたい事がおありなのでしょう」
 ハニエルは優しく声をかける。
「ハニエル様、わたくしの祖先であるコンスタンスは、サッカノ司教は、何か子孫達に言葉を残さなかったのでしょうか? それがとても知りたいのででございます」
 少女コンスタンスは跪いた。
「もしその言葉があったとしてどうするのです?」
「アビゴールに強く加担したわたくしは許されざるべき存在。死すべきか、生きて命ある限り償い続けるべきか‥‥悩んでおります。窮地にあって二人が何を考えていたのかを知りたいのです」
「過去のこの場所で、わたしくがアビゴールと戦っていた最中、コンスタンスが呟いた言葉があります。『サリオール』と。サッカノ司教も救えなかった孫である『サリオール』の名を何度も呟いていました。つまりはサリオールに繋がる今の貴女も愛されていたということです。決して貴女の名前がコンスタンスなのは偶然ではありませんよ。それを心してこれからを歩みなさい」
 ハニエルは話し後で空を見上げる。そしてホーリーフィールドを展開した。
 ディグニスとレイムスは少女コンスタンスの前に立ち、急降下してきたグレムリンを武器で弾き飛ばした。
 上空に次々とグレムリンが集まり、陥没の底は暗くなる。
「コンスタンスよ。よくやった。ハニエルよ。ここに来て戦え!」
 空中を漂うグレムリン共の中からヘルホースに跨る悪魔の騎士アビゴールが現れた。
「違う! もうわたしくはあなたをおじさまとは呼ばない。敵! わたくしを、そして先祖を苦しめた敵よ!!」
 少女コンスタンスの叫びに対して、アビゴールは笑いで返す。
「アビゴール!」
 シクルは降りてきたアビゴールに向かってミミクリーで腕を伸ばして剣を叩きつける。
「これだけの冒険者がいるのは計算外か。プリンシュパリティともあろう者が、人に護られているのは笑止千万」
「アビゴール、人の生き方は人が築くもの。わたくしは託したのです。きっと彼、彼女らは答えてくれるはずです」
 ハニエルは羽根を広げて羽ばたいた。そして銀の長槍でアビゴールを突く。間一髪で避けたアビゴールを後目にペガサスに跨り、ハニエルは姿を消した。
 ナノックがアイギスで飛び立とうとするのを見て、アビゴールは退き始める。
「コンスタンスよ。人の世界で裁きを受けずに済むとでも考えておるのか‥‥。まあよい。お前が生きていた方がハニエルと会う機会も増えよう。せいぜい人の世の浅ましさを知るがいい」
 ハニエルがいなくなって興味が薄れたのか、アビゴールはグレムリンと共に去っていった。

●パリへ
 一行は陥没の穴でハニエルを待ち続けたが、再度現れる事はなかった。
 七日目の昼頃、鍾乳洞内遺跡を出発し、夕方に麓へ辿り着く。
 八日目の朝に馬車で出発して、九日目の夕方にパリへ到着した。
 パリではラルフ率いるブランシュ騎士団黒分隊が待機していた。
「ありがとう」
 少女コンスタンスは冒険者達に一声かけてから黒分隊の元へと歩く。
「コンスタンス!」
 レイムスは叫んだ。
「コンスタンスの処罰は‥‥、今は語るのを止めておこう。最悪もあり得るが、これからの彼女の証言次第で変わる可能性はある。だが、無罪放免というは無理だ。こうやって自ら現れた事も進言はしよう。ただ、過大な期待はしないで欲しい」
 ラルフ黒分隊長は冒険者達に礼をいうと、少女コンスタンスを連れて部下と共に立ち去った。
 その様子を司祭ボルデと司祭ベルヌ、エミリールは遠ざかってゆく少女コンスタンスの姿を目で追った。
 冒険者達もしばらくはその様子を見続けていた。