秘密調査 〜トレランツ運送社〜
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■シリーズシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:9 G 99 C
参加人数:10人
サポート参加人数:4人
冒険期間:01月13日〜01月23日
リプレイ公開日:2008年01月19日
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●オープニング
パリから北西、セーヌ川を下ってゆくと『ルーアン』がある。セーヌ川が繋ぐパリと港町ルアーブルの間に位置する大きな町だ。
セーヌ川を使っての輸送により、商業が発展し、同時に工業の発達も目覚ましい。
ルーアンに拠点を置く『トレランツ運送社』もそれらを担う中堅どころの海運会社である。新鮮な食料や加工品、貴重な品などを運ぶのが生業だ。
「対外的にも問題だよ。こりゃ」
トレランツ運送社の女社長カルメンは男性秘書ゲドゥルと社長室で話し合いをしていた。
フレデリック領に存在する職人寄り合いの上層部が集まった組織『オリソートフ』。闇に包まれた組織である。
リノ・トゥーノスなるハーフエルフの少女によれば、オリソートフで冒険者が手に入れた『羊皮紙を綴じた束』は所属者の名簿であるらしい。
ヴェルナー領内の有力者の名前も名簿にはあった。これが本当ならば大事である。
トレランツ運送社率いる女社長カルメンと、グラシュー海運率いる女社長シャラーノは敵対関係。
トレランツ運送社のあるヴェルナー領と、グラシュー海運のあるフレデリック領は不穏な関係。
カルメン社長はヴェルナー領のラルフ領主を味方につけているが、シャラーノ社長は闇の組織オリソートフの幹部のようだ。
ものすごく単純化するならば、カルメンとシャラーノの命を懸けた意地の張り合いである。そうと思っていても、カルメン社長の前でゲドゥル秘書は言葉にはしなかった。
シャレでは済まされない被害も起きている。武器密輸や暗殺、船の遭難などだ。
武器商人のメテオス、人間を恨むセイレーンの姉妹エレン、エレナなど、様々な者の思惑も絡み合う。
フランシスカなる娘もセイレーンとマーメイドが混同されないように様々な行動をしている。
「ラルフ様はどのように仰っていたのでしょうか?」
「‥‥まずは調査といっていたよ。城内にいる名簿の人物はラルフ様の方でなんとかするそうだ。うちにはその他の人物について調べて欲しいそうだよ」
ゲドゥル秘書の質問にカルメン社長は答えた。
まずは調べて欲しい人物は二人。
一人はトレランツ運送社と同格の海運業者『マリシリ』の男性社長バリジリ。
もう一人はルーアン内で酒の大商いをしている問屋『ローオー』の女性社長ラリオネ。
もし名簿が本物ならば、これらの人物が手引きしてルーアン内の重要人物暗殺に繋がるかも知れない。
この二人を調べてもらう内容の依頼を冒険者ギルドに手配するゲドゥル秘書であった。
●リプレイ本文
●分担
冒険者達はパリを出航し、二日目の昼頃にルーアンへ入港した。
変装が必要な仲間には出航前にシルフィリアが手ほどきをする。最後の仕上げはエメラルド・シルフィユ(eb7983)に任された。
まずはトレランツ本社へと出向き、カルメン社長とゲドゥル秘書から詳しい説明を聞いた。
リノに質問する冒険者もいたが、のらりくらりとした答えしか返ってこない。彼女曰く、問題の二人がオリソートフ関係者だと断定されない限り自分の発言が正しいのかわからないはずだと。今何をいっても無駄だという事らしい。
海運業者『マリシリ』の男性社長バリジリ。
酒問屋『ローオー』の女性社長ラリオネ。
この二人が果たしてオリソートフのメンバーなのかを軸にして調査が開始されるのであった。
●お留守番
本社にいるエル・サーディミスト(ea1743)はご機嫌である。何故ならばルーアンに残り、セイレーンのエレンとの時間が作れそうだからだ。
エレンと会う前にしておかなければならない事が一つ。リノから暗号の解読法を聞きださなくてはならない。
仲間と一緒の時にも訊ねてみたが、リノはろくな答えをしてくれなかった。解読法を完全に教えてしまったら自分はお払い箱であり、ラルフ領主にとって価値がなくなってしまうというのがリノの考えだ。いくら違うといっても納得はしない。
三日を費やして説得してみたがダメである。『ハーフエルフの少女、手強し』と肩を落として呟き、エルは諦めた。
リノについては改めて考えるとして、エルはエレンの元に向かう。アースダイブを使って土の中を泳ぎ、誰かにつけられないようにして外に脱出する。
「元気にしていた?」
倉庫に着いたエルはエレンに挨拶をした。そしてマーメイドについてそれとなく話題にしてみた。
「そのマーメイドについては知っている。マーメイドとセイレーンについてもだ。父さん、母さんはマーメイドに間違えられて人間に‥‥」
エレンが俯く。
エルは落ち込んだエレンの姿に迷う。エレナも別の場所で捕らえられているのを話すべきかどうか。
「とにかく!」
エルは両膝に手をつけて大きく声を張り上げる。
「エレンは海、見たいよね。カルメン社長に頼んでみるよ。海に返してあげるのは先になるだろうけど‥‥」
エルはエレンに向かって大きく頷いた。
●商人
ゼルス・ウィンディ(ea1661)はフレデリック領の港町バンゲルの酒場にいた。
ゼルスが敵地を訪れたのには理由がある。
オリソートフが要人暗殺を行う組織だとしても、ラルフ領主などの重鎮を容易に殺せるとは考えられない。ならば殺すのが比較的簡単な他の邪魔者を狙うのではないかと。
そしてオリソートフの目的の一つとして、ゼルスは市場の操作を疑っていた。物資の供給を狂わせられれば、簡単に利益を発生させられる。例えば酒の供給が断たれたところに、隠し持っていた酒があれば大もうけが出来るはずだ。
ゼルスはワインを一杯呑んでは酒場をはしごした。
今日の所は下調べに徹し、明日以降の空いている時間に訪れようと考えるゼルスであった。
「最近、海難事故が多くて物騒ですよね。皆さん商売には慎重になるでしょうし、不景気な方も多いと思うんですよ。でも、もしそうでない商人さんがいたら、ちょっと教えて頂きたいかなと」
ある日、ゼルスはお金に握らせて目立たない片隅で酒場の女性と話す。彼女にいわせるならバンゲル町の商人で海難事故により損をした者は少ないという。
同じような行動をゼルスはルーアンの酒問屋『ローオー』の直営店でもとった。バンゲル町とは反対にかなりの商人が何かしらの損をしているようだ。数少ない損をしていなさそうな人物を何名か聞き出してメモをとったゼルスであった。
●酒場
「いらっしゃいませ〜。いいお酒が入りましたよ〜」
井伊貴政(ea8384)は訪れた客に挨拶をする。場所は酒問屋『ローオー』の直営店の酒場である。
井伊は料理関連の知識をかわれて一時的に職を得ていたのだ。
ゼルスも昼間に客として訪れている。クレア・エルスハイマー(ea2884)も客として酒場の片隅で行動をしていた。
別動の仲間としてはエメラルドとレイムス・ドレイク(eb2277)がいるが、二人にはより深く潜入して『ローオー』の女性社長ラリオネに近づいてもらう予定だ。
井伊が行っていたのは、まずゼルスの考えの裏付けである。お酒の流通の状況を台帳を見て調べてみる。少々の仕入れ価格の上下はあるものの、そんなには激しくない。これがオリソートフの一員である事の証であるのかは今の所定かではなかった。他の酒問屋との比較がなければ断言は無理であろう。
他の店員に関しては、極普通の人々だ。酒場といってもいろいろある。怪しい商売と繋がっているものもあるが、この直営店は違う。
ここの経営者が暗殺集団の一員だとは思えない井伊であった。
「このお酒美味しいですわ。少し買っていこうかしら」
クレアはカウンターでお酒を嗜みながら、酒場の雰囲気を楽しんでいた。馴染みの客になる事が第一歩と考えたからだ。
「これをどーぞ。結構いけますよ〜」
井伊のフォローもあってだんだんと他の店員とも仲良くなる。しかし知るほどに怪しさが薄れてゆく。
(「この酒場だと尻尾は出さないのかも知れないわ」)
クレアは途中で考えを変え、怪しい人物がいないか探す事にした。よく観察すれば大して呑まずに帰ってゆく人もいる。
「あの人の呑んでいたお酒、頂けるかしら」
店員に何かを渡し、かけつけで一杯呑んで帰っていった人物をクレアは話題にした。店員によれば別の酒場の関係者らしい。残念ながらそれ以上はわからなかった。
●酒問屋
「ここですか」
レイムスは建物を見上げながら、隣りのエメラルドに声をかけた。
二人が訪れようとしているのは酒問屋『ローオー』である。
「とにかく入ってみよう」
エメラルドはレイムスと一緒に問屋内に入った。
地下室へと繋がる階段を降り、薄暗い空間に辿り着く。
「おや、新顔だね。何をお求めだい?」
一人の中年女性がエメラルドとレイムスに近寄る。
エメラルドとレイムスは似顔絵で知っていた。目の前の人物こそがラリオネである。
簡単に会えて拍子抜けする二人であったが、同時にまずいとも感じた。あくまで酒問屋であるローオーを調べるつもりで来たのにラリオネに遭遇してしまったからだ。
不幸中の幸いとしてエメラルドもレイムスも変装をしていた。ラリオネに顔を覚えられる事はないだろう。
「我々は旅の者です。こういうお酒を持っていますが、買ってはもらえませんか?」
レイムスは咄嗟に嘘をつく。
「そうなのです。この人がどうしてもといって」
エメラルドは夫婦のフリをして話しを合わす。
二人が用意してきた四本をラリオネに見せる。エメラルドが出した二本はコルリス・フェネストラ(eb9459)が提供してくれたものである。
「ほう、面白い酒もあるね。まあ、数がなけりゃうちみたいな問屋では扱えないが、個人的に買わせてもらおうか。楽しみに呑ませてもらうよ」
気さくなラリオネは二人の酒を買った。その分のお金は後に食事代へと化ける。
「また、珍しい酒でもあったら寄っていってくれ」
ラリオネが建物の外までエメラルドとレイムスを送る。生きた心地がしなかった二人は建物から離れた後で大きくため息をついた。
それでも怪我の功名というか、ラリオネとの接点が持てた。これは後で大きな武器となるかも知れない。
エメラルドとレイムスは、仲間が多く集う酒場へと向かうのであった。
●海運
ルーアンにある海運業者『マリシリ』に潜入するのは二組であった。
十野間修(eb4840)とカスミ・シュネーヴァルト(ec0317)の秘書と弟子組。クァイ・エーフォメンス(eb7692)とコルリスの鍛冶商人組である。
両組ともゲドゥル秘書から手引きをしてもらい、無事に潜入を果たした。
カスミは『ミスティ』と名乗り、事務職としてマリシリに潜入する。
同時に友人から預かったという十野間修を何でもいいから使って欲しいと上司に頼み込んだ。十野間修は風を意味する『ヴァン』を名乗る。船乗りにとって凪は大敵。風は味方である。アガリ船長から教えてもらった名前だ。
最初は小間使いをしていた十野間修だが、だんだんと飽きてくる。それは演技であったが、十野間修の年齢なら不思議ではない事だ。
カスミは政治、経済、法律に通じていた。それらの知識をかわれて書類を書き上げてゆく。中堅といった企業では少ない人材の為、雇われて間もないが重要な書類にも触れるようになる。
「あの子はまた逃げ出して‥‥」
カスミは机につきながら、軽いため息をついてみせる。職場で十野間修が消えた事へのフォローであった。
十野間修は船乗り達に近づく。憧れを持つといいつつ、様々な話を訊いた。
「そうなんだ。大変なんだね」
社長のバリジリは人使いが荒いので有名なのだそうだ。ろくに休ませずにこき使われるという。
「ちぇっ、別に見られて困るようなもんじゃないだろ?」
いくつか木箱を覗いてみる十野間修であったが咎められる時もある。そんな時は子供なのを利用しておとぼけを決めた。
そうしてゆくうちにいくつかわかる事がある。
カスミもいくつかのヒントを手に入れ、ギリギリまでマリシリに勤めるのであった。
「なにとぞよしなに」
クァイは海運業者『マリシリ』の建物内でバリジリ社長に品物を差しだす。側には代書人としてコルリスの姿もある。
二人は独自の製造ルートを持つ鍛冶業者としてバリジリ社長と対面していた。
クァイはバリジリ社長と話しながら思いだす。
より信頼を得ようとルーアン内の鍛冶の寄り合いに身分証明の許可を求めた時の事だ。慌ててゲドゥル秘書がクァイを止めると、代わりに鍛冶の寄り合いへ交渉しに向かったのである。
特別に許可を取ってきてくれたが、はっきりいえば非合法極まりない方法だとクァイは諭された。
ルーアンは無法地帯ではない。そして商売というのはルールがあって成り立つ。
いくら正義があっても、騙してもいい事にはならない。それをいったら潜入捜査などは出来なくなるのだが、鍛冶の業者を名乗って海運業者を騙すのは、個人がちょっとした悪さをしたのと同等ではない。これからの展開によっては、鍛冶の寄り合いと海運業者の寄り合いを敵に回す可能性が高いのだ。
ゲドゥル秘書は涙を流しながら話した。どうかギルドや寄り合いが、一緒にお茶を飲むだけの、ただの集まりでない事を知って欲しいと。
クァイはバリジリ社長との繋がりを作る程度に留めるつもりでいた。正直にいってゲドゥル秘書のいうことは大げさだと感じたが、ルーアンの事は自分より詳しいはずである。他の地域のギルドや寄り合いはともかく、この地ではそうなのだろう。
クァイは日本刀「霞刀」を見せてバリジリ社長を信用させる。そして釣りに誘う。
海幸彦の釣り針を進呈したりして接待を続けた。バリジリ社長との会話から情報を得ながら、後の事を考えて信頼関係を作り上げておく。
もう一つ、バリジリ社長を接待する理由がある。
コルリスが動きやすいように誘導するのがクァイの役目であった。
コルリスは休憩の時間にマリシリの人達に向けてリュートを奏でた。すべては周囲に溶け込む為の策である。
代書人として事務室に通されたコルリスは、カスミと他人のフリをしながら情報をやり取りする。
クァイがお供連れのバリジリ社長を外出させると、コルリスは行動を開始する。
ゲドゥル秘書から借りた船着き場付近の地図も利用して物的証拠を探した。
同じマリシリを探る十野間修とは別行動をしながら倉庫の奥で発見したのは血文字の書かれた布であった。
(「これ‥‥」)
指につけた血で書かれたものなのだろうが、コルリスには読めない。ゲルマン語のようで、そうではない。まるで羊皮紙を綴じた束にあった暗号文のようだ。
コルリスは布を持ち帰る。リノに見せれば何かがわかるかも知れないからであった。
●すべて
九日目の朝、冒険者達全員がトレランツ本社社長室に集まった。カルメン社長とゲドゥル秘書の姿ももちろんある。
ここで意見の集約が行われた。
エルは元気のないエレンに海を見せてあげたいとカルメン社長に頼んだ。出来ればエレナも一緒に。そうする事で心を開いてくれるかも知れないと。
考える時間が欲しいとカルメン社長は答える。
ゼルスは現在注目されていない暗殺されそうな人物を報告した。
ルーアン内で商売をする二人が該当するらしい。
井伊は現状報告を行う。ローオーの直営店酒場を円満に退社し、また雇ってくれるように頼んだそうだ。長期戦を考えてだ。給料も次回にまとめてでいいといったらしい。井伊は太っ腹である。
クレアはローオーだけでなく、他の酒場も何らかの形でオリソートフと関係するのではと推論する。酒問屋という立場上、他の酒場や酒店にも強い影響力を持つと考えられるからだ。
エメラルドとレイムスはラリオネと接点を持った事を報告する。かなり危険ではあるが、手強そうなラリオネの正体を暴くにはもっと懐に入る必要があると、今では考え始めていた二人であった。
カスミがマリシリの重要書類から手に入れた情報とは増便の事である。事故が起きた日程に合わせて、見事なほどの運用がなされていた。これが偶然なら余程バリジリは神に祝福されている事になる。
十野間修が手に入れた剣を調べたところ、武器商人メテオスが流通させていたものとよく似た品なのがわかる。経路はわからないが、どうやらグラシュー海運の代わりにマリシリがヴェルナー領内に武器を流そうとしているらしい。
クァイはバリジリ社長との接点を持った事を話す。武器に対してはバリジリ社長はあまり興味を示さなかった。十野間修の報告から推理すると、武器の在庫をかなり持っているようだ。今はあまり必要ないのだろう。
コルリスは持ってきた血文字の布をリノへ見せる。あまり表情を変えないリノが大きく瞳を見開いた。
カルメン社長が訊ねてみたものの、口を噤んだままだ。気分が悪くなったといって別室に移動してしまう。
酒代の一部はトレランツで負担してくれる事となった。それとお礼の品がゲドゥル秘書から手渡される。
冒険者達が調べてくれたすべてに手をつける時間はないが、いくつかは優先順位をつけてはっきりとさせる事をカルメン社長は約束する。
現状において女性社長ラリオネはこれといって怪しい点はなし。バリジリ社長は限りなく怪しい事がわかった。
昼になり、冒険者達はパリ行きの帆船に乗り込んだ。調べた結果がどういう形に進展するかを考えながら、セーヌを漂う冒険者達であった。