●リプレイ本文
●港町バンゲル
二日目の昼過ぎ、冒険者一行を乗せたトレランツ運送社の帆船はセーヌ川沿いにあるブロズ領バンゲルへ入港する。
「激しい戦いが予想されますね」
冒険者達が下船するとハーフエルフのウィザード少女リノが迎えてくれた。合流する為に昨日からバンゲルで待機していたのである。
「みなさんの御武運をお祈りしています」
帆船に残るゲドゥル秘書はリノと冒険者達を見送った。
リノと冒険者一行はミュリーリア騎士団と合流し、鍛冶の町バスタームを目指す。
ミュリーリア騎士団に共感した有志四十一名の姿もある。これにミュリーリア騎士団六十名、リノと冒険者十一名を加えたのがバスターム攻略の戦力だ。
便宜的にすべてを包括し、『攻略軍』と名付けられる。
提供された御者付きの馬車を中心にして冒険者一行は陸路を進んた。
日が暮れ始めた頃、ミュリーリア団長によって進軍が止められる。
「デビルの関与が明らかになった以上、ブロズ領の悪事は明白。国が動き、ブロズ領の騎士団が罪に問われる前に、その悪事を広く知らしめる必要があります」
宵の口、レイムス・ドレイク(eb2277)は焚き火を囲む全員に語りかけた。リノと仲間達、そして騎士団長ミュリーリアと副官の姿もあって、さながら野外会議の様相となっていた。
鍛冶の町バスタームを陥落させるには城塞門を突破しなければならない。それにはまず潜入して工作する必要があった。
「どうやら町への立ち入りは禁止されているようだし、空からベゾムを借りて入り込むのが一番みたいだね」
一般の交通が許されているのであれば行商人として忍び込もうとしていたシルフィリア・ユピオーク(eb3525)である。
「私も空飛ぶ絨毯でバスタームに潜入します。夜陰に紛れればなんとかなるはずです」
琉瑞香(ec3981)はデビルとアンデッドがバスタームに潜んでいる可能性を危惧していた。もしもバスターム内で徘徊していたのなら一大事だ。
「堀があるならどこかに取水口があるはず。そこから町の中に入るつもりです」
磯城弥夢海(ec5166)は河童であるのを活かして水路から潜入しようと考える。
潜入の三名は町である噂を流すつもりでいた。
その他の冒険者達とリノは攻略軍に残ってバスターム城塞門陥落を狙う。
「私はフォルセティに乗って空から魔法を放ちますわ」
「同じく空からブリュンヒルトと共に攻撃を仕掛けますが、私は長曽弥虎徹を手にして斬り込むつもりでいます」
クレア・エルスハイマー(ea2884)とマミ・キスリング(ea7468)はそれぞれにペガサスを相棒として連れてきていた。
琉瑞香もペガサス・黎明と一緒だが役目が潜入なので、よく言い聞かせて待機してもらう形になるだろう。
「空からの戦いならば私もティシュトリヤと一緒に戦うつもりです」
コルリス・フェネストラ(eb9459)はグリフォン・ティシュトリヤと一緒に戦うつもりでいた。
「このあいだのよーにアンデッドやデビルが現れるんじゃないかって思っています。戦う心構えが必要ですね〜」
井伊貴政(ea8384)は出来るならば市街戦を避けたいと告げる。町を取り囲む城塞の兵士達を排除すれば降伏させるのは容易いはずだと続けた。
焚き火を囲む多くの者達は井伊貴政の意見に賛成した。
「私の役目はテレパシーを使った伝令役ですね。合い言葉を決めておきましょう。テレパシーは個人の特定が難しいので」
十野間空(eb2456)は予め考えておいた中からよさそうな言葉を提示する。
さらに十野間空はバスタームの現状予測を語る。
船出を見送ってくれたルディによれば、ここ最近バスターム製の武器防具類はパリで流通していないらしい。戦の準備として蓄えたか、もしくは悪政で鍛冶作業が滞ったかのどちらかであろう。
「わたしはラファエロで正面突破を試みよう。何にせよ、この領地をシャラーノから取り戻すにはバスタームを手に入れなければならないからな」
エメラルド・シルフィユ(eb7983)に賛同し、頷く者は多かった。
「明日の昼にはバスタームの城塞門が見える位置まで進軍する予定だ。敵が襲ってくるならばそのまま戦いへ。そうでなければ潜入の方々の活動を待つ意味も含めて、しばしの駐留をするつもりだ」
最後にミュリーリアが作戦の大きな流れを伝えて会議は終わるのだった。
●バスターム
三日目の昼過ぎ、攻略軍は城塞の見える丘の周辺に陣地を構えた。
琉瑞香、夢海、シルフィリアの三名は日が暮れてからバスタームに忍び込む。
翌日から活動を開始するものの、鍛冶で有名な町のはずなのに活気が感じられなかった。
煙が立ち上っている建物もわずかで、到底鍛冶が行われているとは考えられない。鎚を振るう音も聞こえはしなかった。ただ強烈に錆びの臭いだけが鼻につく。
夢海はひとまず酒場へと向かう。
「デビルやアンデッドがいると噂を聞いたのですが」
「いたらこんな所で酒なんか呑んでるわけねぇだろ。ところであんた東洋の河童だろ。俺って物知りだからよ」
夢海はコルリスが用意してくれた古着のフードを深く被っていたものの、すぐに正体がばれてしまう。人々の興味が河童という部分に向いてしまって、なかなか会話が成立しにくかった。
(「どうやら町中にはいないようです‥‥」)
琉瑞香はデティクトアンデッドを付与した上で町中を歩いて不死者の存在を探る。デビルやアンデッドならこの魔法で感じられるはずだが反応はなかった。
当てが外れても琉瑞香は町の人々にデビルの脅威を知らせた。しかし人によってはハーフエルフの言葉だといって信じてもらえずに去ってしまう。それでも懸命に伝える琉瑞香であった。
「もう少しすればわかると思うね。あのシャラーノって女領主がデビルと結託しているのがさ」
シルフィリアは城塞門閉鎖のせいで町に取り残された行商人を装いながら、町の人々との会話を求めるのであった。
●戦場
四日目の夕暮れ時、降伏勧告を記した書状が一頭の馬にくくりつけられてバスタームの東城塞門へと放たれる。しかし深夜になってもバスターム側からの返事はなかった。
五日目の早朝になって攻略軍は陣を前進させる。
その時、城塞壁近くで何かが起こった。バスターム攻略軍側が知る由もなかったが、デビルのインプ六体がバスターム側の兵士に矢を放ったのである。
バスターム側は攻略軍からの攻撃だと勘違いをし、弓矢による反撃を始めた。それが火種となって全面的な戦いへと一気に移行してゆく。
(「北側からデビルらしき敵多数。南側からはアンデッドが我らに近づいてきます」)
十野間空は何人かの兵士と連絡をとりながら、総合的な情報をテレパシーが届く限り仲間達へ伝達する。
攻略軍はバスターム東城塞門を守るの兵士達と交戦中なので、北から進攻のデビル、南からのアンデッドと三方から囲まれた形になった。
「これあるとアンデッドが退いてくれて助かります〜」
「私は守りに力を貸したいと考えています。では」
井伊貴政はバスタームから戻ってきた琉瑞香からホーリーライトを受け取る。
「リノさん、私達はデビルに集中しましょう。あの陣形の取り方は誰かが指揮しているように感じられます」
「それは‥‥ダッケホー船長ですか?」
レイムスとリノは北の方角を向いて迫り来るデビルの群れを見つめた。
ペガサスのクレアとマミ、グリフォンのコルリスは空中で集まって地上を見下ろす。
「城塞門との戦いはお互い弓矢や魔法による遠距離攻撃。攻略軍が少しだけ後退すればやり過ごせますわ」
クレアは冷静に状況を判断しようと努める。
「だとすれば対処すべきは北側のデビルか南のアンデッドになります」
マミの意見は的を射ていた。
「戦力が片寄っても問題ですし、ここは見極めが大切ですね‥‥」
コルリスは攻略軍の動きを観察する。さらに十野間空からテレパシーで情報をもらった上で三名は決断した。
クレアは南へ、マミとコルリスは北と飛んだ。
「南が微妙に手薄のようだな」
エメラルドは愛馬の向きを変えてアンデッドの群れへと駆けてゆく。その際に本陣を守る琉瑞香から井伊貴政のようにホーリーライトをもらうのを忘れなかった。
●南
「あの辺りがちょうどよいですわ」
ペガサスで飛翔するクレアは固まって移動するアンデッドの一団に注目した。
「我は導く魔神の息吹!」
高速詠唱によって放たれたファイヤーボムは大地付近で大きく弾ける。灼熱の火球が膨らみ、周辺は業火に包まれた。
仲間の攻略軍が戦う前に敵の体力を削げるのであれば、それに越したことはなかった。魔力が足りなくなったらアイテムで回復を忘れないクレアである。
まもなくアンデッドの群れと攻略軍の一部が交戦を始めた。
「郊外での戦いなら思う存分戦えますね〜」
真っ赤な鎧に身を包んだ井伊貴政は右手にアンデッドスレイヤーの日本刀を握り、左手には盾の代わりにホーリーライトの光球を手にして戦った。
輝きを避けるアンデッド目がけて井伊貴政は勢いのまま刀を振り下ろす。
腐った肉片が頬にへばりついても構わず井伊貴政は戦場を駆けた。まずは数を減らし、それから強そうな個体を探すつもりでいた。
「死者よ。私の行く手を阻むのなら蹴散らしてくれよう!」
愛馬を駆ってエメラルドはアンデッドと対峙するのであった。
●北
「あの岩の位置まで下がって」
レイムスはリノの盾となって戦っていた。迫り来るデビルに聖剣を振るい、衝撃波でまとめて深い傷を刻んだ。
近づく前にリノのアイスブリザードで衰弱しているので、仕留めるのに大した手数は必要ない。但し、デビルの数は尋常ではなかった。
そんな状況下でもミュリーリア騎士団が魔力武器を所持していたおかげで、デビルと互角に戦えるのは心強く感じられた。もっともその武器を運んだのは冒険者だったのだが。
「これを喰らいなさい!」
コルリスはグリフォンで空を舞い、迫り来るデビルに手から放つオーラショットで対抗する。
衝撃を受けたデビルが螺旋を描きながら大地へと落下する。もしもの反撃に備えてコルリスは視界の隅に置いてはいたものの、注目せずに次の敵を探した。
鳴弦の弓は使わずにコルリスは戦いに奔走する。
「あの敵です。ブリュンヒルト」
マミは空中でネルガルを発見し、ペガサスで天を駆け上る。
「我は磨魅キスリング、悪を断つ義の刃なり!」
マミが突きだした長曽弥虎徹の刃がネルガルの肩を傷つけた。隊長格を倒せば配下の動きは鈍くなる。好機だとマミは心の中で呟く。
「北東の窪地にダッケホー船長を発見!」
ダッケホー船長の存在に気がついたコルリスがレイムスとリノに大声で教えた。
「陸上とはいえダッケホー船長がデビルとアンデッドを統率しているでしょう。そうならば納得がゆきます」
レイムスの考えにリノは同調する。
さっそく攻略軍にも伝えられ、ダッケホー船長への集中攻撃が始まる。
レイムスはリノの魔法攻撃による援護を受けながら、先頭を切ってダッケホー船長に駆け寄った。
「戦うのなら女性がいいのですけど。どなたかと交代してもらえませんか?」
レイムスの剣撃をかろうじて避けたダッケホー船長はグレムリンの群れを呼び寄せて煙に巻く。
「見つかってしまっては仕方がありませんね」
戦いを諦めたダッケホー船長はゴーストシップを出現させる。陸上なので動かすことは叶わないが、巨大な障害物としては充分だ。
ダッケホー船長はゴーストシップを利用して姿を眩まし、やがてデビルすべてが撤退する。南のアンデッドも同様に撤退を始めるのであった。
●西の城塞門
攻略軍はデビルとアンデッドを退かせると、そのままバスターム東城塞門へと進んだ。一旦退く案もあったが目算もあったので変更はしなかった。
「私達はデビルやアンデッドを排除しました。町の方々はお守りします!」
ペガサスに跨った琉瑞香は城塞に沿って飛び、兵士達に呼びかける。
(バスタームの兵士達は、デビルとアンデッドが自分達の味方をして攻略軍と戦ったのを目撃しています」)
十野間空からのテレパシーを城塞の中で受け取ったシルフィリアと夢海はすぐに動き始めた。町中でもデビルが飛んでいたのは容易に目撃出来た。説得をするのならば今が絶好の機会である。
「このまま兵士達に力を貸したのなら町の人々もデビルやアンデッドに与するものとして王国より弾劾されるでしょう」
夢海は塔の上に登って叫ぶ。
「悪魔に組するシャラーノの配下とされる事は、悪魔崇拝者の烙印が押されたのと同じ事さ。それでもまだ戦うっていうのかね?」
シルフィリアは町の中から東城塞門を守る兵士達に呼びかけた。
バスタームの兵士達は攻略軍の進攻に手も打たず、東城塞門を放棄する。そして西城塞門から敗走していった。
シルフィリアは余裕で東城塞門開放の仕掛けを動かすのだった。
●そして
一部の敵兵士達はバスタームに残って攻略軍に投降する。デビルとの関わりを否定し、潔白を主張していた。
残念ながら町にはブランなどの高価な品は残っていなかった。但し、納品前の魔法武器が倉庫の中で大量に保管されていた。
ミュリーリア団長はバスタームの鍛冶ギルドと魔法武器の提供についてを交渉する。これまでの領主シャラーノへの協力を不問にする事で話がまとまった。
デビルへの関与がないのは、前もって潜入した夢海、シルフィリア、琉瑞香からの報告から明らかであった。
攻略軍はバスタームの町をこれからの拠点と決める。バスタームを抑えれば、地形的に港町バンゲルへ直接シャラーノの軍が向かうのは難しいからだ。
それでも無防備には出来ないのでミュリーリア騎士団の一部が戻される。代わりにバスタームで新たなる有志が募られた。
リノと冒険者一行はミュリーリア騎士団の一部と共に港町バンゲルへと戻る。
トレランツ運送社の帆船へ乗り込んでルーアンへ立ち寄ったのは八日目の昼前であった。
カルメン社長に報告をした際、追加の報酬とレミエラが冒険者達に贈られる。戦いの際に消費した矢や回復の薬も補充された。
ゲドゥル秘書とリノがルーアンに残り、冒険者達を乗せた帆船は再び出港する。九日目の夕方、パリの船着き場へ無事入港するのだった。