ルーアン・パレード 〜ノワール〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月10日〜01月18日

リプレイ公開日:2010年01月19日

●オープニング

 デビル・アガリアレプトは地獄階層で討伐された。
 ラルフ卿とエフォール卿が指揮したアガリアレプト討伐隊。そして冒険者達の活躍によって。
 ノルマン王国ヴェルナー領の中央付近に存在していたヘルズゲートは閉じ、非常に大きな戦いは終わりを迎える。
 その後、ヘルズゲートを塞ぐように建てられていた砦『ファニアール』では一部改修工事が施工された。地獄階層で散った戦没者達を弔う慰霊碑の為である。
 慰霊碑は完成し、すでに幾度かの慰霊儀式が執り行われている。
 アガリアレプト討伐に際して多大なる協力をしてくれた冒険者達を歓迎する式典の前にも開催される予定だ。
 アガリアレプトといえばヴェルナー領のみならず、ノルマン王国全体を窮地に陥らせた強大なデビル。領主ラルフ卿を手助けしてくれた冒険者達にルーアンの人々は深く感謝していた。街をあげての歓迎の準備もされているようだ。
 討伐に貢献した冒険者達に再び集まってもらう方法として依頼の形がとられる。
「大した時は経っていないはずなのに、やけに懐かしさを感じるな」
 久しぶりにパリの地を訪れていたラルフ卿は、自らの足でギルドを訪れて手続きを行うのだった。

●今回の参加者

 ea2350 シクル・ザーン(23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea5808 李 風龍(30歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ea5970 エリー・エル(44歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb5818 乱 雪華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●慰霊碑
 ノルマン王国ヴェルナー領中央に位置する砦『ファニアール』。
 砦に建てられたばかりの慰霊碑に集まっていたのはブランシュ騎士団エフォール副長と共にパリから訪れた冒険者一行である。
 アガリアレプト地獄階層で散った討伐隊の人数は百二十七名にのぼる。
 ラルフ卿、エフォール卿も慰霊碑の前に立っていた。
「花を探したのですが、ちょうどよいものがなかったので」
 寒風が吹き荒ぶ中、シクル・ザーン(ea2350)は道中で見つけたヤドリギを慰霊碑に供えた。真冬だというのに生き生きとした緑と白い実がなるヤドリギは生命力に溢れる。
 聖職者たる神聖騎士として祈りを捧げるシクルであった。
「いろいろとあったな。一緒に同じ食事をとった者もいるだろう」
 李風龍(ea5808)は慰霊碑に合掌礼をすると瞳を閉じて黙祷する。心の中で言葉を投げかけてから次の仲間に場を明け渡した。
「戦いによってこの世を去った勇者にセーラ様の祝福があらんことを」
 剣を抜いたエリー・エル(ea5970)はテンプルナイトらしく騎士道に則った上で祈りを捧げた。
(「散っていった兵士達と力を合わせたからこそアガリアレプトは倒せたのだ‥‥」)
 デュランダル・アウローラ(ea8820)は多くの者の協力があったおかげでアガリアレプトを討伐せしめたのだと噛みしめながら黙祷する。
「ありがとうございました‥‥」
「助けていただきました‥‥」
 一緒に一歩前へ出たリアナ・レジーネス(eb1421)と乱雪華(eb5818)は亡くなった隊員達へ感謝の言葉を投げかける。
「これより始めさせて頂きます――」
 フランシア・ド・フルール(ea3047)は慰霊碑の前で勇敢に戦った騎士、兵士はすべて神の新王国への階を確かに昇った事を『大いなる父』に報告した。そして主に代わって祝福を授ける。戦没者の名と出身地を諳んじるフランシアであった。
「ノルマン王国の民が今でも笑えるのは、お前達が必死に戦ってくれたからだ」
「どうか安らかに‥‥」
 最後にラルフ卿とエフォール卿が慰霊碑に声をかける。すでに何度も繰り返しかけられた言葉と思いだが、その度に新たな感謝の念がわき上がってくる。
 ラルフ卿とエフォール卿はしばしの間、慰霊碑から目を離さずに見つめ続けるのだった。

●ルーアン・パレード
 慰霊を終えた冒険者一行は、ラルフ卿、エフォール卿を含めたアガリアレプト討伐隊と一緒にヴェルナー領の中心都市『ルーアン』へと出発する。
 暮れなずむ頃、ルーアンを囲む城塞門に近づくにつれていつもと違う状況だと誰もが気がついた。
 普段は見張りの兵がいるだけだが今日は特別に人々で埋め尽くされている。手を振りながら声援を送る民衆の姿がそこにはあった。
「これほどは‥‥想像していなかったな」
 愛馬・大風皇に騎乗して馬車に併走する李風龍は、握る手綱もそぞろに頭上を見上げた。声はうねりとなって個々に何をいっているのかは聞き取れない。だが、それが歓迎であるのはあきらかであった。
 城塞の巨大な門の近くでは兵士や騎士達が道の両側に並んで出迎えてくれる。
 騎乗するラルフ卿を先頭にして討伐隊がルーアン内に入ると声援はさらに膨らんだ。
「式典にはばっちりぃ、化粧しないとって思ってたのよぉん。でも街でここまでの歓迎があるなんて想像してなかったのねぇん‥‥」
 エリーは馬車内の後部で仲間達に背中を向けると本気の化粧をし始める。大急ぎで仕上げ、約十分後には窓から乗りだしてルーアンの人々に手を振った。
(「今日のところはいいだろう。しかし‥‥」)
 ペガサス・リベルテで同行するデュランダルは熱烈な歓迎の中、心に残る一点の曇りを拭いきれなかった。
「街でこれだけの歓迎ですか。式典ではどうなってしまうのでしょう」
「式典では礼儀を失する事がないようにしませんとね」
 リアナと乱雪華は馬車窓から手を振りながらお喋りを続ける。
「街中の方々がここに集まっている‥‥といっても大げさな表現ではなさそうですね」
 騎馬姿のシクルは人々を安心させる意味も込めて手を振りかえした。
 これから人々は『大いなる父』が与えた生きてゆくという大切な使命と戦わなくてはならない。ゆっくりと進みながら馬上のシクルはそんな事を考えていた。
(「ラルフ殿らが護ろうとした民と国‥‥。主の僕たるわたくしの義務にして使命でもあった主に叛きし愚かなる者の首魁討伐‥‥」)
 馬車窓の外に広がる歓迎の様子は自分達が成してきた結果の象徴であろうとフランシアは捉えていた。民の賞賛が欲しくて成し遂げたわけではないが、敢えて固辞するのも非礼だろうとルーアンを訪れる今回の式典の旅に参加したフランシアだ。
 ルーアンのヴェルナー城に到着したその後は身体をゆっくりと休めるように配慮されていた。
 晩餐の集まりは予定に組み込まれず、各々運ばれてきた個室での食事となる。丁寧に調理された料理を頂くと、柔らかいベットで眠りに就いた冒険者達であった。

●式典
 式典に使われた大広間では一つの目的の為にすべてが集約されていた。置かれた品も人々も。
 この時はアガリアレプト討伐に多大なる貢献をしてくれた冒険者七名の為だけにある。
 並ぶ騎士達の中央を冒険者達が歩む。
 その先にいたのは鎧とマントをまとったラルフ卿。傍らにはエフォール卿の姿もある。
 まず最初にブレイブ・サーコートへ身を包んだ乱雪華が数歩前に出た。
「雪華さんの弓のかき鳴らし、今でも耳に残っている。多大なる貢献を讃え、ここにヴェルナー領・獅子勇士章を贈る」
 万雷の拍手の中、侍従から受け取った勲章をラルフ卿が乱雪華の胸元に取りつける。
 乱雪華が下がって次はリアナである。
「前にも話したかもしれないが、リアナさんのクリエイトエアーがなければ山登りは非常に困難なものになっていただろう。多大なる貢献を讃え、ここにヴェルナー領・獅子勇士章を贈る」
 ジャパン風の格好で整えてきたリアナに勲章を授けたラルフ卿はそう言葉をかけた。
 続いてはデュランダルの番である。
「デュランダルさんは騎獣で空かける姿が印象に残っている。飛翔するデビルを倒す姿は永遠にわたしの記憶に残るだろう。多大なる貢献を讃え、ここにヴェルナー領・獅子勇士章を贈る」
 今すぐ戦いにはせ参じてもおかしくはない鎧姿のデュランダルにラルフ卿は勲章を授けた。
「落ち込みそうな時、エリーさんのおかげで救われた事が何度もある。多大なる貢献を讃え、ここにヴェルナー領・獅子勇士章を贈る」
 ラルフ卿は白いドレス姿のエリーに勲章をつけた。エリーは決して派手すぎず、聖職者としての本分を忘れない格好をしていた。
「これまでわたしの身を気遣ってくれてありがとう。何度も一緒に背中を合わせて戦ってくれたな。多大なる貢献を讃え、ここにヴェルナー領・獅子勇士章を贈る」
 畏まる李風龍の肩を軽く叩いてからラルフ卿は勲章を授けた。
「的確な意見を多々頂いた。時には戦略に関わるほどのものを。多大なる貢献を讃え、ここにヴェルナー領・獅子勇士章を贈る」
 ビショップの正装をしたフランシアの胸元にラルフ卿は勲章をつける。背筋を伸ばしたフランシアは丁寧な礼をしてからゆっくりと下がった。
「ミミクリーでの変幻自在な戦い方。それが特に思い出深い。多大なる貢献を讃え、ここにヴェルナー領・獅子勇士章を贈る」
 最後のシクルの胸元に勲章が輝くと、拍手はより大きく鳴り響いた。
 しばらく止まぬ拍手に包まれながら多くの冒険者は胸の奥で熱いものを感じる。
 式典が終盤に入ると比較的誰とでも話せる雰囲気となった。
「勲章、感謝します」
 シクルはあらためてラルフ卿に礼を述べる。
 すでに神に身を捧げたジーザス教黒教義のシクルにとって勲章そのものへの興味は非常に薄い。ただ、自分自身が勲章を受ければ黒教会の、ひいては『大いなる父』の御威光をノルマン王国に広める結果へと繋がる。
「戦いの状況を、あの地獄を生き抜いた者達から収集して本にまとめるつもりだ。その時にはあらためてシクルさんにお話を聞く事もあるはず。その時はよろしく頼む」
「私もあの戦いを訓戒として将来に語り継いでもらえれば、と考えていました。こちらこそ参加させて下さい」
 ラルフ卿と近い将来の約束をしたシクルであった。
 テギュリア、コンスタンス、エミリールと話していたのはフランシアだ。
「翁、今後も正邪の分別を間違えてはなりません」
「そういわれるとな。へそ曲がりなわしとしては‥‥ま、目出度い日じゃ。素直に聞いておこう」
 余計な一言をいわなければ気が済まないといったテギュリアを前にフランシアは整然とした態度を崩さなかった。
「贖罪がなったこれからもエミリール殿と共に善き道を」
 コンスタンスにもフランシアはさらなる今後を期待して声をかける。
「全ては主の御心のままに」
 フランシアはラルフ卿とは黒の試練についてを語った。そしてさらなる試練が訪れようとするのならば再び助力すると約束する。
「大恩人などと身に余る言葉を頂いて感謝している。今後も俺は冒険者として生きてゆく。もし何か俺を必要とする事があれば遠慮なく呼んでくれ。シフール便でも冒険者ギルドへの伝達でも構わない。その時には喜んで馳せ参じさせてもらおう」
「そうならない事を祈ろう。ただ、一時期より減ったとはいえデビルがまったくいなくなった訳ではない。頼むぞ、友よ」
 李風龍とラルフ卿は強く握手を交わす。
「ちょっと付き合ってぇん」
 エリーは他の者達に会話を聞かれないところまでラルフ卿を誘う。そして相談したのは孤児院建設についてだ。
「私ってぇ、神聖ローマ帝国の出身でぇ、復興戦争の敵側だったんだけどぉ、パリで聖堂騎士としてぇ、孤児院を兼ねた教会とかぁ、建てても大丈夫ぅん。あとぉ、ツテとかないぃん?」
「パリはわたしの領地内でないし、教会については詳しくはないのだが‥‥」
 ラルフ卿はエリーの相談について考えた末、ルーアン大聖堂の大司教への紹介状を用意してあげる事にした。ラルフ卿としてはルーアン内の教会ならば少々の助力は可能だ。後はエリーの交渉次第である。
 感謝しながら紹介状をラルフ卿から受け取ったエリーはテギュリアへと近寄る。
「一緒にぃ、孤児院建設に協力してほしいなぁん?」
「孤児院とな?」
 エリーは一生懸命にテギュリアを説得した。少なくとも大司教との面会に同行してもらえる約束を取りつけるのだった。
 デュランダルは一人になったラルフ卿に話しかける。
「めでたい席で無粋な話で申し訳ない。アガリアレプトは倒れ、ヘルズゲートは閉じた。これは大きな転機だが、すべてが終わったわけではない。大物は倒したとは言え、まだノルマンには相当数の悪魔が残っているだろう」
「その通りだ。先程も風龍さんともそう話していたところだ」
「統率者を失った奴らは、捨て鉢になって攻撃をしかけるか、現地に根を下ろして潜伏を企てるだろう。これからは今までのような大規模な正面きっての戦いではなく、より小規模で神経を使う戦いに備えなくてはならないだろうな」
「今は身を潜めているようだが、おそらくはそうなるだろう」
 デュランダルとラルフ卿は今後のノルマン王国の行く末を案じて、次々と懸念をあげてゆくのだった。
「また何かございましたら依頼を出して頂けたらありがたく存じます。その時はすぐにお力添えのため参ります」
 リアナはラルフ卿、エフォール卿、一緒に戦った騎士達に挨拶をして回る。
「他の方々とも話したが、そうならないことが望みだ。だが、そうなったときにはよろしくお願いしたい。その勲章があればこの城への出入りは自由。もし何かを耳にする事があれば活用してくれ」
 ラルフ卿の言葉にリアナは頷いた。そして仲間達の元に戻って感謝を伝える。
「皆様と共に戦い、共に協力し合い、立ち塞がる困難を乗り越えた日々は私の宝物です。今度はいつまた集まれる機会があるかわかりませんが、いつかまたお会いできる日まで。どうぞ皆様がお元気でいられますよう、戦いに関わった1人の冒険者としてお祈り申し上げます。本当に、ありがとうございました」
 リアナは仲間達と固い握手を交わす。
 乱雪華も仲間達に思いを伝えた。
「貴方がたと共に戦えた事は、私にとって最大の僥倖でした。また一緒に集う機会がある事を祈っています。できましたら今度は戦い以外の、もっと明るい状況でお会いできるといいですね」
 涙を浮かべながら乱雪華は仲間一人一人と目を合わせる。
 その後、コンスタンスを見つけて乱雪華は近寄った。
「地獄での戦い、お疲れさまでした。終わってみればあっという間のような気もいたしますが、私は貴方と出会えた事。貴方が無事更生の道を歩んでいく姿を見られた事、共に戦えた事。他にもいろいろとございますが、貴方と共に過ごした時間は私にとってかけがえのない宝物です」
「いろいろと助けて頂きました。ありがとうございます。昔を思いだせば――」
 乱雪華とコンスタンスは式典が終わる直前まで長く話し込むのだった。

●そして
 式典のあった夜には晩餐会が催される。
 七日目の昼頃、歓迎の数日間を過ごした一行はルーアンの船着き場からセーヌ川に浮かぶパリ行きの帆船へ乗り込んだ。遠ざかってゆくルーアンを全員が見つめ続ける。
 そして八日目夕暮れ時。夜の帳が下りようとするパリの景色に郷愁を感じる冒険者一行であった。