●リプレイ本文
●相談
二日目の夕方、森深くにあるタマハガネ村に冒険者一行は到着した。
暖かさが恋しくなる季節だが、鍛冶屋は真冬でも薄着の場合が多い。特にタタラ製鉄の施設では誰もがまるで真夏のような格好であった。
夜、冒険者用の家屋にシルヴァン、鍔九郎、刀吉、エルザが訪れる。囲炉裏端での話し合いが始まった。
まずはクレセントグレイブを打つに際しての作業分担である。
今回穂先打ちをするコンビは三組。ユニバス・レイクス(ea9976)とニセ・アンリィ(eb5734)。朧虚焔(eb2927)とクァイ・エーフォメンス(eb7692)。ヴィルジール・オベール(ec2965)と春日龍樹(ec4355)。
すべての時間を穂先打ちに使うのではなく、他の作業と両立する予定の冒険者も多い。
主としてタタラ製鉄を手伝うのはアレックス・ミンツ(eb3781)。穂先打ちと両立させるつもりなのが、ユニバス、ニセ、春日龍樹である。
ロラン・オラージュ(ec3959)は砂鉄運びを志願する。ヴィルジールも穂先の合間に行うつもりでいた。
柄の作成をするのはナオミ・ファラーノ(ea7372)とクァイ。ナオミは合金作りのリエアも行う。
その他に食事の用意をクァイとロランが受け持つ。ユニバスは穂先の研ぎにも従事するつもりでいた。ロランは作業の合間に村の人々と剣術の鍛錬も考えている。
フレイ・フォーゲル(eb3227)はガラス作りを含めたレミエラの研究に興味があってタマハガネ村を来訪していた。
シルヴァンは悩んだ末、特別にガラス職人エルザの補助をしてもよいと許可を出す。
本来は鍛冶の手伝い以外は不許可なのだが、フレイの錬金術の知識が突き抜けて豊富なのを見込んでの事だ。
手伝いについては終わる。後は各自が打ちたい刀剣の話題となった。
「俺が作りたいのは、ジャイアント用の刀だな」
「ほう、それは興味をそそられるな。理由は?」
春日龍樹の相談にシルヴァンが胡座を直す。
「市井に出回っているもの。名刀も含めて、打っているの者が別の種族の方々なのか、ジャイアントの俺には今一しっくり来ない個所がどうしてもある。大太刀を元に初めからジャイアントのために作られた刀という物を自分の手で打ってみたい」
春日龍樹にシルヴァンは頷く。
「ジャイアントの力に合わせた重い刀剣‥‥」
シルヴァンによれば春日龍樹の考える刀剣に必要なのは、シルヴァンエペの三から四倍の鋼材である。
玉鋼で打つのなら提供分を除いて最大180G。ブランとの合金では最大480Gとなる。出来上がった刀身に拵えを用意したとして10Gを追加した合計がかかる費用であろう。
ただ後に語られる方法でもう少し抑える事は可能だ。
「レミエラには魔力付加を可能にするものもある。それが手に入るのならば、玉鋼で打つのも一つの考えだ」
「具体的に聞けて大いに助かった。しばらく考えてみよう」
春日龍樹はシルヴァンにお辞儀をし、腕を組んで構想を練り直す。
二番目はクァイである。
「より広い範囲の人が振るう事のできる刀を作れないかと考えています。上級武器扱いではなく、中級の武器です」
クァイは扱いやすさに重きを置いた刀剣を考えていた。
「どんな形になるにせよ、それならシルヴァンエペよりもかかる鋼材は少なく済む。日本刀として軽いものと考えてよろしいか?」
「その傾向で考えますが、具体的な案はまだ固まっていません。今後のヒントにさせて頂きます」
話しの最後にクァイは銀塊とブランの欠片をシルヴァンに預けようとした。しかし村の在庫と混ざるかも知れないので自身での管理をお願いされる。
三番目はユニバスの番だ。
「前回の両刃の案だが、どうせなら取り回しに特化する事にした。その分、鎧を着た相手にも対応出来るよう極限まで刀身を薄く細くし、関節部や隙間に入り込ませ易くする。叩き斬るのではなく脆い所へ手数勝負だな。俺が使う事を考えれば、こっちの方が合っていたのだ」
シルヴァンは話すユニバスの目を見つめる。
「日本刀の切れ味を保ったまま、まれに市場で見かける霞刀よりも軽くしたい。鍔は流石に必要だが、出来る限り装飾品も付けないでおこう」
「霞刀は確か中級の武器。シルヴァンエペは騎士用の日本刀として上級とした造りだ。ユニバスさんはファイター。上級の武器としての軽量の刀を求めていると考えてよろしいかな?」
ユニバスとシルヴァンのやり取りは続く。
まずユニバスは通常の鋼で試作してみるという。強度が足りない部分が出てくるのなら、そこは玉鋼に期待するしかない。
その他に分厚い包丁を参考にした武器についてもユニバスは相談した。それらのものは一般的に刃の根本部分は厚く、先端にゆくほど薄くなっている。
着眼点はよいが、果たして止まっている食材を切るように動く敵と戦えるかが問題だ。
これも実際に試作品を打ってみるしかなさそうである。ちなみにユニバスは保存食三食分を忘れたので、旅の途中で少々お高く購入済みである。
仲間がシルヴァンに相談する間、フレイはエルザと二人で相談を続けていた。
「エルザ女史、レンズを作成したい思います。作り方は教えますのでよろしくお願いしますぞ」
「レンズ‥‥ですか? どういうものなのでしょう?」
フレイとエルザを鍔九郎がチラチラと横目で窺っている。その様子をさらにナオミが眺めていた。
しばらくしてナオミの相談の番となる。
「私の目指す所は家庭の主婦でも扱える対悪魔武器。威力はそれほどなくていいの。軽くて、次にある程度リーチが保てる。すなわち、近づいてくる小悪魔を自分や子供に近づけさせない為のもの」
「なるほど。しかし悪魔は狡猾でしつこい。下っ端デビルだとしても、簡単には退散しないであろう。長引けば魔法を使われるかも知れん」
シルヴァンはもしナギナタや刺叉のような棒状の武器を想定してるのならば、呼び笛を柄に内蔵したらどうかとナオミに提案する。
両手が塞がっていても、柄に吹き口があればなんとかなるはずだ。遠くまで聞こえるように高い音さえ出ればよいので複雑にする必要はない。
素材については一考の余地が残っていた。先端部を銀製にするのか、それとも鋼で打ってレミエラによる魔力付与にするのか。
(「健康の為のダンスとかいって皆で棒術の訓練を‥‥無茶ね」)
色々と思い浮かべるナオミである。まずは試作品を打ってみた上で、もう一度検討してみる事となった。
「私はブランの合金で打つつもりです。剣の銘は『北斗七星剣・虚焔』」
五番目の朧虚焔は具体的な形状をシルヴァンに説明する。
炎のように大きく波打った刃を持つ両刃の直刀らしい。武道家が使えるものを目指しているので中級武器なのであろう。
なるべく薄く丈夫に打ち、血溝も細工する。刀身には魔法の指輪や護符から外した宝石を埋め込む予定だと朧虚焔は話す。
「専門外で断言は出来んが、宝石を埋め込んだからといってその能力が剣に宿るとは限らない。それを承知でなさるのであれば、よいと思うぞ」
シルヴァンは満足げに頷いた。
ただ、持ってきたブランの欠片をもし試作に使うのなら止めた方がよいと助言する。ブランの混入がわずかだと鋼材に魔力が宿らない。ただ損をするだけだ。
「そしてこれは朧さんだけにいうのではない。聞いてくれ。鋼材をやりくりする場合には被せの技を活用すべきだ」
シルヴァンがいう『被せ』とは日本刀を打つ場合に使われる技法である。当然、シルヴァンエペやクレセントグレイブの穂先にも使われている。
硬さとしなやかさを両立させる為に、刃と峰の部分の鋼の質をわざと変えてあった。刃の鋼材を包み込むように峰部分の支える鋼材を被せる。それ故に被せである。
三重に被せる場合もあるが、ただ階層を増やせばよいのではない。シルヴァンエペはあえて二重の構造で打たれていた。
「刃の部分にブランの合金を使用し、峰には鋼か玉鋼を使うという手も残っている。これならば極力コストが抑えられよう。もっとも鍛冶の技量が試される。薄く作れば作るほど、大きさを求めれば求めるほど、困難を極めるはず」
シルヴァンは注意点として純粋なブランの場合、被せの技法は使えないだろうと付け加えた。左右に刃がある両刃の場合も構造上難しい。
純粋なブランだと鍛造ではなく、鋳造を基本とした作刀になるからだ。被せは鍛造ならではの技法である。
(「そういう手もあるのだな‥‥」)
アレックスは囲炉裏端に座ったまま、シルヴァンと仲間の相談に耳を傾けていた。自らの刀剣の参考にするつもりであった。
「オラはクレセントグレイブに刺激を受けて青龍刀を作ってみたいズラ。柄は玉鋼で、刃はブランかブラン合金で作ってみたいズラ」
ニセが相談したのは青龍偃月刀とも呼ばれる長柄武器だ。独特の曲線を織りなす刃を持つ華国特有の武器である。
形を真似るのはニセの腕ならば容易い。本来は鋳造と考えられるが、シルヴァンは鍛造で打ち上げた方がよいと勧めた。すると必然的に玉鋼かブランの合金で打つ形となる。
問題はどのくらいのブラン合金が必要なのかだが、こればかりは試作品がないとシルヴァンにも判断がつかなかった。一口に青龍刀といっても、形状にこれといった決まりがないからである。
ニセも自由に使える時間で、試作品を打ってみる事にする。使うのは村から提供される普通の鋼だ。細かい工夫については試作が出来てからの相談となる。
次はヴィルジールの番となった。
「魔法武器の作成は、竜の籠手、月雫のハンマー、太陽の箱が必要との事‥‥どこで手に入るか知っておる方はおるまいか?」
ヴィルジールは純粋なブランでの作刀を願っていた。シルヴァンは必要となる魔力炉と合わせて説明する。
魔力炉の手配は整っているが、これに関しては専門家に任せてあった。ただし、レミエラによる拡張を加えるなどの特別仕様になる予定である。
魔力炉建設を手伝おうとしていた何人かの冒険者は残念がった。
肝心の三種のアイテムだが、シルヴァンも手に入れたいと考えていた。現在、ロングソードの太陽の箱に残っていた羊皮紙文書の解読中である。
「これを見てほしいのですわぃ」
ヴィルジールは野太刀の設計図をシルヴァンの前で広げた。
ドワーフが扱いやすいように長さは控えめにしながらも、幅広の重量感のある刀がよいのではないかというのがシルヴァンの意見であった。
彫金についても質問されたが、シルヴァンは専門外だと答える。刃紋を浮き立たせる日本刀に魅入られたシルヴァンにとって彫金は興味の対象から外れていた。
鞘や鍔などに施す場合もあるが、それは専門の職人の仕事だ。
野太刀だとすればシルヴァンエペの約三倍と考えられ、純ブランだとすると最大で3600Gを用意しなければならないようだ。
槍の構想についてもヴィルジールは相談する。
穂先だけなら純ブランで作りあげても600G前後で収まるかも知れない。ただし、穂先の形をした太陽の箱を用意する必要がある。当然、野太刀も専用のものが必要だ。
「ブランが合金の約十倍の値段がするからといって、能力も十倍になる訳ではない。俺がブランでの刀剣作りが必要だと考えているのは、ラルフ様のもしもの時を考えてだ。あの方は常にデビルとの最前線に立っているようなものだからな」
シルヴァンは純ブランで作刀するならば、最終的に相当の信用を領主などの有力者から問われる事もヴィルジールに伝えた。
純ブランの刀剣は存在するだけで国家レベルの象徴となるものだからだ。
最後はロランの番である。
「先程お話に出てきました三種のアイテムについて、何かお手伝い出来る事はありませんか?」
「それなら一つ説得してもらいたい相手がいるのだが――」
シルヴァンはロランにある村に足を運んでもらう事にした。説得相手はその村の鍛冶屋である。刀吉も馬車で一緒に行くので移動や食事の心配はいらなかった。
夜も遅くなり、シルヴァン達は各自の家屋へと戻ってゆく。
冒険者達も就寝するのであった。
●そして
クレセントグレイブの作成は順調に終わった。
試作の刀剣もそれぞれに打ち終えた。ただシルヴァンが時間をとれず、試作の刀剣を見ながらの相談は次回への持ち越しとなる。
ロランは頼まれた村から古びた羊皮紙の束を持ち帰った。これによって三種のアイテムの在処に近づいたかどうかはまだ誰も知らなかった。
十三日目の夕方。
「そう? そうならいいけれど‥‥。がんばってね」
ナオミは誰も見ていない木陰で、一度は鍔九郎に渡した魅了のリングを受け取る。
鍔九郎は本気でエルザに告白する覚悟をもったようである。
ナオミの考えていた通り、エルザの側にフレイがいたのが刺激になっていた。
「大丈夫だ。大丈夫‥‥」
告白にアイテムの力は借りないと鍔九郎は息巻く。ただし実際の告白は冒険者がパリに帰った二日後に行われる。
同じ頃、ガラス工房はとても騒がしかった。
「やったぞ! これを研磨すれば」
錬金術のフレイと職人のエルザが力を合わせて作り上げたのは透明なガラスであった。直径五センチ程度の円盤で、レンズにするのにはまだ研磨が必要だ。
元々珪砂などの色つきガラス用の材料は工房に揃っていた。さらに材料の選別と工程を何度も変えての試行錯誤の果てに出来上がる。
ウォーターダイブのレミエラ研究についてはほとんど進んでいない。ただ、フレイが手伝った事もあってデビルサーチの量産は順調であった。
十四日の朝、冒険者達は刀吉の馬車でパリへの帰路についた。よくやってくれた感謝として追加の報酬とデビルサーチのレミエラが贈られる。
「どうでした? 鍔九郎殿」
揺れる馬車の中で春日龍樹がナオミに小声で訊ねる。春日龍樹も鍔九郎とエルザの仲を気にしている一人だ。
「告白するっていってたわ。後は本人同士次第だわね」
ニコリと笑うナオミ。どうやらうまくいくと確信しているようである。
十五日の夕方、馬車は無事パリに到着するのであった。
●六段階貢献度評価
ナオミ エペ進呈済
ユニバス エペ進呈済
朧 エペ進呈済
フレイ 1 計1
アレックス エペ進呈済
ニセ エペ進呈済
クァイ エペ進呈済
ヴィルジール エペ進呈済
ロラン 1 2 2 計5
春日 エペ進呈済