沼の底に沈む物 〜シルヴァン〜
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■シリーズシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 56 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月08日〜12月23日
リプレイ公開日:2008年12月16日
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●オープニング
パリ北西に位置するヴェルナー領は、ブランシュ騎士団黒分隊長ラルフ・ヴェルナーの領地である。
その領内の森深い場所に、煙が立ち昇る村があった。
村の名前は『タマハガネ』。
鍛冶職人の村である。
鍛冶といっても他と赴きが違う。ジャパン豊後の流れを汲む作刀鍛冶集団であった。
村の中心となる人物の名はシルヴァン・ドラノエ。ドワーフである彼はジャパンでの刀鍛冶修行の後、ラルフの懇意により村を一つ与えられた。
ジャパンでの修行後期に作られた何振りかの刀が帰国以前にノルマン王国へ輸入され、王宮内ですでに名声が高まっていたのだ。
ジャパンから連れてきた刀吉と鍔九郎、そして新たに集められた鍛冶職人によって炎との格闘の日々が続いていた。
ブランシュ騎士団黒分隊に納めるシルヴァンエペは完納に至る。現在はナギナタ型武器『クレセントグレイブ』の量産を行っていた。
そして鍛冶師シルヴァンはシルヴァンエペに続く、新たな刀剣を模索中であった。
西洋製のナギナタ型武器クレセントグレイブ。
デビルスレイヤー能力はないものの、魔法金属ブランが混入された合金で出来た穂先は魔力を帯びていた。
デビルと戦うには魔法攻撃を除けば銀製か魔力を帯びた武器が必要である。定期的に冒険者に手伝ってもらいながら、タマハガネ村では作刀が続けられていた。
数は力となりうる。デビルが数で押してくるならば、なおさらであった。
ただし、そうでない状況も稀にあるとシルヴァンは新たな一振りを構想していた。
手を貸してくれる冒険者にも滞在期間中に自由な時間を与え、それぞれが満足する一振りを打つ機会も用意する。
純粋なブランで作刀する場合、時間以外に必要なものが数多くあった。
高額なブラン。魔力炉とウィザードを複数。そして竜の籠手、月雫のハンマー、太陽の箱といったアイテムである。
魔力炉についてはすでに専門家が村を訪れて建設に着手していた。
加えて持つ資格があるかどうかも試される。純ブランの刀剣は存在するだけで国家レベルの象徴になるからだ。
シルヴァンは手に入れた情報を精査し、ある沼の存在を知る。
二百年以上前に鍛冶の村があったのだが、嵐によって近くの川が決壊して水没してしまったのだという。伝説ではブランによる鍛冶作業が行われていたらしい。
ある日、シルヴァンはいつものように刀吉に冒険者ギルドでの依頼を頼んだ。
クレセントグレイブの手伝いを基本とし、自らの一品物の刀剣を打ちたければ村での滞在期間の半分は自由に使ってもよいとされる。
シルヴァンは冒険者が望んで打つ刀剣の仕上がりを楽しみにしていた。
●リプレイ本文
●相談
二日目の夕方、馬車はタマハガネ村に到着する。そして冒険者用の家屋にシルヴァン、鍔九郎、刀吉、エルザ、リエアが現れた。
まずは冒険者達の意志確認がされる。
鍔九郎と刀吉と一緒に沼の調査を行うのはナオミ・ファラーノ(ea7372)、朧虚焔(eb2927)、アレックス・ミンツ(eb3781)、クァイ・エーフォメンス(eb7692)、ヴィルジール・オベール(ec2965)、ロラン・オラージュ(ec3959)。
村に残って作業の手伝いや、自らの刀剣に時間を割くのがユニバス・レイクス(ea9976)、フレイ・フォーゲル(eb3227)、ニセ・アンリィ(eb5734)、春日龍樹(ec4355)である。
続いては各自が打つ刀剣の相談が行われた。
「名称か? グリフエギューエペで良いんじゃないか」
ユニバスが刀剣の名を問われてシルヴァンに答える。鋭い爪の剣の意味を持つらしい。そして重さは3から4EPを目指すという。
「以前の話から4から6を目指すと考えていたのだが。あまりに軽すぎると威力に影響が出るのは必至。それでもよいのか再考なされた方がよい」
シルヴァンはユニバスが打った試作の剣を手にして語る。
握り周辺についても話し合われる。鍔や柄などにも彫刻を施し、なるべく重量を減らしたいとユニバスは考えていた。日本刀ならば柄には滑り止めとして糸か鮫皮を巻く。少しでも軽くするのなら糸がよい。同じ木でも部位によって硬さや重さに違いはある。
「鍔に穴を空けたり彫って軽量化するのには賛成だが、柄にはやめたほうがよいぞ。柄を作成出来る木工職人なら村に何人かいる。その者に頼むがいい。ただ、本来の仕事とは別なのでお礼は忘れぬようにな」
前もって考えるより、たくさん柄を作ってみて一番合うのを探すのがよいとシルヴァンは助言をした。
二番目は春日龍樹だ。
「ブラン合金で打つ事に決めた。ついては資金調達と、もう少し構想を練りたいので実際の作業はもうしばらく後になる」
時が来たら宜しく頼むと春日龍樹はシルヴァンに頭を下げた。
「あと一つお願いがある。クレセントグレイブについてなのだが――」
春日龍樹はジャアントの体格に合わせたクレセントグレイブを一柄打ちたいとシルヴァンに頼んだ。
考えた末であったがシルヴァンは許可を出す。外部への持ち出しは厳禁の条件で。
三番目は朧虚焔である。
「魔法の剣の中には、その内部に、聖遺物を埋め込まれたものがあると聞きます。そのような方法で剣に魔力を付与することはできないでしょうか?」
「専門外なので断言は出来ないのだが、転用可能な聖遺物とウィザードの技があればあるいは。つまり俺にとってのハニエルの護符のようなものだろうな。そのような聖遺物を探しだせれば道が拓かれるかも知れん。もしも手に入ったのなら、術を知るウィザードを捜す手配もしよう」
純ブラン用の三種のアイテムを捜す過程で、聖遺物が見つかるかも知れないとシルヴァンは付け加えた。ただ、三種のアイテムは村の備品として全員が使えるとしても、聖遺物はそうはいかない。三種のアイテムを探す際に活躍した者か、クレセントグレイブ作成に貢献した者に優先権を与えるのが道理だとシルヴァンは考える。
「まだ実際にあるかどうかも判らぬがな」
そういってシルヴァンは最後には笑った。
四番目のニセは家屋に置かれてあったクレセントグレイブを手にとって説明を始める。
「オラの作ろうとしている青龍偃月刀はたぶん華国にでも行かないと、ブランにする為の太陽の箱がないと思うズラ」
ヴィルジールは純ブランを諦めて、基本はブラン合金で打つ事に決めた。鍛造で打ちだし、クレセントグレイブを大型化する方向で進めるようである。
想定する重さは30。問題はどの程度ブラン合金を使うかだ。柄も含めるべきかが悩み所である。
「重いものでありながら切れ味も追求してみたいズラ」
バランスについてもヴィルジールは触れる。どうしても刃の部分が重くなりがちな偃月刀なので一工夫が必要であろう。その他に受けの時や騎乗の際に役立つ構造も構想中である。
ブラン合金におけるブランの比率を増やした場合にどうなるかをヴィルジールは訊ねた。
二割程度までは増やしても、何とか鍛造は可能だろうとシルヴァンは答える。性能についてはあまり向上が見込めないので無理にする必要もないとも告げた。
五番目のヴィルジールはシルヴァンの前で設計図を広げる。以前より様々な覚え書きが付け加えられていた。
「国柄から魔法武器にする場合は太刀の類は諦めるしかないかもしれぬ‥‥。よって刀ならば銀製、槍ならば魔法武器として作成にあたろうと思いますな」
「無理にとはいわないが、銀製はおやめになった方がよい。確かに玉鋼では魔法武器にはならないが、それでも刀剣の仕上がりとしての追い込みが可能だ。銀ではそれも叶わぬ。それにラルフ殿の使者から銀製の武器では傷つけられなかったデビルが現れたとも聞いた。対デビルとして考えていないのなら別だが」
シルヴァンとヴィルジールの相談は続く。
野太刀ならば重さは16。槍ならば10の重さを目指すという。ただし、槍は適した太陽の箱が見つかった場合のみである。つまり槍の穂先は純ブラン製を目指すのだろう。
他の冒険者からの自身の刀剣についての相談はなかった。また次の機会もある。
「純ブランの刀剣‥‥想像しただけでもぞくぞくしますわね」
ナオミはシルヴァンから刀剣の構想を聞いた後、沼調査の話題を切りだす。資料には沼に沈んでいるであろう純ブラン加工に関わる具体的な道具の名前や形状は書かれていないようだ。
「僕も沼の調査に行きますが、周辺に人家はあるのでしょうか?」
「ないはずだ。あまり足を踏み入れない土地だと聞いている」
シルヴァンの答えにロランはひとまず潜るための要員として活動する事に決めた。今の季節はとても寒いはずなので、交代しなければどうにもならないはずだからだ。
「俺もそうしよう」
アレックスはシルヴァンに頷いてみせた。
「こちらを置いてゆきます。戻ってきたら、お食事も用意するつもりですので」
「これ、いいのよね。ありがと♪」
沼の調査に参加するクァイは蜂蜜と塩をリエアに預ける。汗をかく作業時にはとても役に立つ飲料用である。
「ウォーターダイブのレミエラは、沼探索が終わらないと使えません。その他のレミエラをレンズで拡大してみて、独特の波紋や色があるか確かめましょうぞ」
「そうですね。何か掴めるかも知れません」
フレイとエルザが会話する姿を見てナオミがススッと鍔九郎に近寄った。
「結果はいかがでした事?」
「まあ、いやその‥‥、つき合ってくれると‥‥、まあ、その他についてはもう少しお互いを知ってからって感じですが‥‥」
「やったわね」
「あ、ありがとう御座います」
ナオミは鍔九郎に祝いの言葉をかけると、次は刀吉に近づく。
聖夜祭について訊ねると、タマハガネ村でも行うという。刀吉と鍔九郎を除けば、殆どはノルマン王国出身者だからだ。
「そうだ、聞きたい事があった。魔力付与のレミエラは作れるのか?」
「デビルサーチのように現在頑張って作っていますが、うまくはいっていません。出来上がればとても心強いのですが‥‥」
ユニバスにエルザが答える。そして場は解散となった。
翌日の三日目の朝、沼の調査を行う冒険者達は鍔九郎と刀吉と共に馬車で出発するのであった。
●沼の調査
四日目の昼頃、馬車は目的の沼へと到着する。
森というには立っている木も少ない茂みの中に沼はあった。あまり流れがないようで、水は濁り気味だ。
潜る前に一行は野営地を完成させる。
たくさんの落ち枝や枯葉を大量に集めて、焚き火の燃料を用意した。
刀吉が持ってきたいくつもの鉄製の容器に石を入れて焚き火の中で熱する。それを鈎で引っかけて馬車内の後部に吊す。
これによって馬車内は冬とは思えない程の暖かさとなる。すべては寒い季節に沼へ潜る為であった。
まずは朧虚焔が持ってきた分水珠によって沼の水位を三メートル程下げての確認作業が行われた。
岸の周辺なら沼の底がそのまま確認出来る。ナオミがシルヴァンから預かってきた昔の村の地図と地形の凹凸などを照らし合わせた。
大体のあたりをつけた上で、レミエラ付きクレセントグレイブを手にして順番に潜る事になる。ウォーターダイブを発動させられるものだ。
入る前に充分に身体を暖めておき、さらにナオミからフレイムエリベイションをかけてもらう。ナオミ曰く、六分間の気休めである。
ちなみにレミエラは簡単に取り外しが出来ないので、クレセントグレイブは持って潜らなくてはならない。
一人が潜っている間も、他の冒険者達は作業を続ける。
新たな燃料の用意。焚き火の番をしながら石入り鉄製容器を焼く作業。分水珠による水位低下でわかる範囲の確認。
身体の中から暖める為にナオミは美味しい魚介味スープを用意していた。
ヴィルジールは試しにクレセントグレイブで枯れ木を斬ってみる。淀みなく斬れた手応えに満足を得るのだった。
レミエラによる効果は一時間あったものの、我慢強い者で三十分、普通の者で十五分の潜水が限界である。そして潜れるのは日中のみだ。
深い沼の底には石造りの家屋が破壊されながらも未だに残っていた。ただ、土砂の堆積もあって一メートル程埋まっている状態にある。
ロランによって地図にあった一番大きな鍛冶小屋が確認されたので、その周辺を探る事が決まる。
一番泳ぐのが得意なクァイが率先して潜ってくれる。ロープの先についた網に拾った品物を放り込む。地上にいる仲間はロープを握って引き揚げてゆく。
過酷な作業をクァイ一人に任せられるはずもなく、比較的浅い場所は他の者達が担当した。
潜る事が出来ない夜は引き揚げ品の吟味を行った。主にアレックスとヴィルジールが大まかに判別した中から鍔九郎と刀吉が選びだしてゆく。
細かな品は多々あったが、とくに重要なのは太陽の箱の発見である。二つあり、片刃の剣とナイフの型のようだ。
その他の品が果たして沼に残っているのかどうかはわからないまま時間切れとなった。
タマハガネ村に沼調査の一行が戻ったのは、七日目の宵の口の出来事であった。
●暗中模索
村に残った冒険者達は自らの刀剣をどうするのかを探っていた。
ユニバスはグリフエギューエペの完成を頭に置きながら柔らかい鋼に硬い鋼を被せてゆく。それぞれの鋼はブラン合金と玉鋼を仮定したものだ。
普通の鋼なら村の厚意により無料でもよいが、ブラン合金となれば話は別である。
本物の素材で試作をしたい所だが、そんな事をすればお金に羽根が生えて飛んでゆくのは明白だ。ユニバスは被せの技術に磨きをかける。そして適した玉鋼の硬さを見つけようと試行錯誤を続けた。
ニセは普通の鋼で、より青龍偃月刀の形を追い込む作業を続けていた。身巾を広く嵩ね厚くした刃。堅牢さも兼ね備えるのが目標である。
柄については普通の鋼でもいけるのではないかとの感触を得る。つまりは玉鋼なら必要充分であろう。
春日龍樹はシルヴァンから許可を得たので、少々大きめの穂先と柄の長さを持ったジャイアント仕様のクレセントグレイブを作成する。
いくつかの藁束を斬り、そして村人に配布されたクレセントグレイブも借りて感触の違いを感じ取る。
ジャイアント仕様のクレセントグレイブは柄の長さが通常のものに調節されて、あらためて村の備蓄となった。
それからの春日龍樹は唸りながら考え込み、時折、木板に彫刻をするのを繰り返す。いつか鞘に施す春の花のデザインをしながら、刀剣の構想を練っていたのである。
フレイはレンズでレミエラの表面を確認する作業に没頭していた。しかし、これといった規則性は発見出来なかった。
休憩の時間、シルヴァンが訪れてフレイ、エルザと三人で話す機会がある。
レミエラは人々に力を貸す為に天使がもたらしたという説と、デビルが堕落へ誘う為に技術を流したという説がある。
シルヴァンは天使の説を信じているが、どちらにせよ人智の及ばぬ領域なのは間違いない。法則性を求めるより、可能な限りの品を試す方がよいのではないかと助言した。その上でもしかすると何らかの法則性が発見されるのかも知れない。
「面白いものだ‥‥。俺にも一つ、造ってはくれないか? そのレンズというものを」
シルヴァンは刀身の観る為にレンズを一つ造ってもらう。指先でなぞれば微妙な傷も発見してしまうシルヴァンだが、確認する方法はいくつもあった方がよい。太陽光を刀身に反射させて歪みを確認したりもするものだ。
沼の調査の一行も戻り、クレセントグレイブの作業にも熱が入る。
砂鉄採集、炉による融解、穂先打ち、研ぎ、柄の作成、試し斬りなどが行われた。
●ハニエル
冒険者達は十四日の朝、刀吉の馬車でパリへの帰路についた。
出発前にロランにはシルヴァンエペが贈られる。
ちなみに春日龍樹は帰り分の保存食がなかったので、高い値段で購入していった。
その日の夜、シルヴァンの夢の中に天使プリンシュパリティ・ハニエルが現れた。ハニエルによって告げられた内容は、後にシルヴァンによって冒険者達へ語られるはずである。
「インフェルノ‥‥」
朝日を眺めながらシルヴァンは呟くのだった。