決着 〜カーゴ一家〜
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■シリーズシナリオ
担当:天田洋介
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:18 G 46 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月11日〜05月23日
リプレイ公開日:2009年05月19日
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●オープニング
北海に面する港町オーステンデ。
ミリアーナ領に属するその土地は今、偽りの主デノニーバ・カスタニアが支配していた。
真の主である領主ハニトス・カスタニアはパリ北西のセーヌ川に面するルーアンのヴェルナー城に身を寄せる。そこには息子ノミオ・カスタニアと娘カリナ・カスタニアの姿もあった。ノミオ、カリナの兄妹と母は違ったものの、デノニーバもまたハニトスの実子だ。
ハニトスは実の息子デノニーバにクーデターを起こされて、そしてもう一人の息子ノミオに助けられた事になる。
ある日、城の一室を借りて今後の相談が始まった。
出席者はハニトス、ノミオ、カリナ、そし老翁ケタニリアとカーゴ一家の女将エリスである。
「甘いといわれるかも知れませんが――」
一通りの案が出された後で、ノミオが自らの決意を語る。このような事態になったとしても腹違いの弟デノニーバの命だけはとらないでおきたいと。
「それはすべての罪をドナフォンに着せて、解決してしまうという意味か?」
「そう受け取られても仕方ありません。ですが、事後の無用な混乱を避ける為にも是非に」
ハニトス領主に問い質されてもノミオは持論を曲げなかった。
騒動の首謀者は誰かと訊ねられれば、ノミオにもデノニーバとウェールズのドナフォンのどちらかとしか答えられない。それでも出来るならばとノミオは願う。
「‥‥わかった。事が解決した時、デノニーバはミリアーナ領における政の中核から外す。それで腐るようなら、また一考しよう」
ハニトス領主はデノニーバを捕らえる指揮を自ら執ると宣言する。つまりは領主館への攻撃担当である。
「わたしの顔を見ればその場で考えを改める兵士も多いはず。心配は無用。エリス殿にはドナフォン退治を頼めるか?」
「それは構いませんが、問題はドナフォンをどうおびき寄せるかなのです。ジニールのイオリーナに協力を求めれば比較的簡単に誘えはするでしょう。ただ、いつも上空での戦いのせいであたし達の干渉が不可能な状況に陥るのが常です」
ハニトス領主はエリスに考えがあると答え、カリナを近くに呼び寄せた。
「あの石を頼む。贈ったものなのにすまないな。しばらく貸しておくれ」
「わかました。お父様」
カリナは胸元の奥から緑色の石がはめられたブローチを取りだすと、ハニトス領主に預ける。それをハニトス領主はエリスに手渡した。
「これは?」
「ノミオとカリナの亡くなった母の形見だ。元々は領主館の地下で発掘されたもの。領主館の場所には昔、古代遺跡があったと聞いておる。ドナフォンがオーステンデにこだわる理由がそこにあるのではと幽閉された時にずっと考えていた。館の兵士達の噂話によれば、ドナフォンが勝手に館の地下へ向かおうとしてデノニーバと一悶着があったようだぞ。この推測が当たっていれば、そのブローチにドナフォンも興味を示すはず。賭けになるが、やってみる価値はあるのではないか?」
エリスはハニトス領主に同意する。
「ノミオよ。例えラルフ殿がこの城にいたとしても力を借りるつもりはなかった。他に大きな案件を抱えておられるからな。今回の一連の出来事、何としても我々で解決せねばならん。これより全権を譲る。やり遂げてみよ」
「この身にかえましても」
ハニトス領主の言葉を落ち着いてノミオは受け止めるのだった。
二日後、パリの冒険者ギルドでカーゴ一家からの募集が行われる。
その内容は戦闘依頼。
はっきりと敵は書かれていなかったが、これまで関わってきた冒険者にはすぐわかるようになっていた。
●リプレイ本文
●出港と準備
「大変な戦いになるみたいだけどぉ、大丈夫ぅ?」
夜明け前のパリ船着き場。大宗院透(ea0050)の前に立ったエリーが心配そうな顔で表情を浮かべる。
「決戦の時です‥‥。行ってきますね‥‥」
大宗院透は腹違いの妹、大宗院鳴(ea1569)と一緒にカーゴ一家のヴォワ・ラクテ号へと乗船してゆく。後ろ姿を目で追うエリーは無事を神に祈った。
夜明けと共に出港したヴォワ・ラクテ号はセーヌ川の流れに乗って河口を目指す。
「鵺を撃退しておいしい食事をするのが楽しみです」
大宗院鳴のいつもと変わらぬ様子にエリスは笑う。
「わかったわ。うまくいった時には、このあたしがどうにかしましょ♪」
約束してくれたエリーに大宗院鳴は両手を挙げて大喜びである。
「ひとまずお昼の食材は任せて下さいね〜」
初参加のアーシャ・イクティノス(eb6702)はさっそく荷物の中から釣り竿を取りだす。そして鼻歌混じりにエサを釣り針につけると川面へと糸を垂らした。
「祝勝は横に置くとしても、これでカタがつくなら‥‥やらねばな」
ベイン・ヴァル(ea1987)は船縁に寄りかかって遠くの空を眺めた。
「ドナフォンは人を憎む思いが強すぎたんだろうね‥‥」
アレーナ・オレアリス(eb3532)は一度うつむいてからエリスに向けて顔をあげた。出来るならばもっと穏便に事を収めたかったアレーナである。
「その理由が領主館の地下にあるのかも知れないが‥‥、今は考えないでおきましょう。それよりもデノニーバからの奪還に集中しないと」
エリスの言葉にアレーナは頷いた。
「何にせよ連絡は私に任せて下さい。テレパシーで中継させて頂きます」
宿奈芳純(eb5475)はルーナのラードゥガとアースソウルとアルカンシェルの傍らで仲間達に話しかける。
それからしばらくは海上での戦いをどうするかの相談になった。
肝心のウェールズのドナフォンとの戦い方だが、緑色の石がはめられたブローチをどう使うつもりかがエリスから説明される。
まずはブローチをジニールのイオリーナに預けてドナフォンを海上までおびき寄せてもらう。そしてドナフォンが視認出来るようにイオリーナからエリスに手渡される段取りだ。
ブローチにドナフォンが興味を示すかは賭けだが、ハニトス領主の自信からいってもまず間違いないだろうとエリスは考えていた。
うまくいけば、最終的にヴォワ・ラクテ号甲板での戦いになるはずである。
飛行可能な騎乗ペットを甲板上で隠す為に古い帆が利用される事となった。退避帯用の砂利を入れた麻袋はルーアンで用意する予定だ。
ヴォワ・ラクテ号は二日目の昼前にルーアンへ立ち寄る。必要な物資とノミオ、ハニトス領主、老翁ケタニリア、兵士十六名を乗せて出港した。
三日目の暮れなずむ頃、オーステンデ近海上空を漂っていたイオリーナがヴォワ・ラクテ号を発見して乗り込んできた。
エリスは事情を説明してイオリーナに協力を願う。
イオリーナにとってドナフォンは仇敵である。お互いに風精霊ではあるものの、考えに大きな隔たりがあった。それはオーステンデを護る存在と侵略する存在に分かれて今に至る。
「もちろん協力させて頂きますよ」
即答したイオリーナとエリスは握手を交わす。側にいた冒険者達とも強く握りあった。
夕方頃、小さな湾に辿り着いたヴォワ・ラクテ号は水路を南下し、宵の口に内陸のブルッヘへと入港する。
四日目の早朝、ノミオ、ハニトス領主、ケタニリア、兵士十六名を残してヴォワ・ラクテ号はブルッヘを出港した。ノミオ等は陸路でオーステンデに向かう予定だ。
暮れなずむ頃には北海のオーステンデ近海に到着し、監視と警戒の体制がとられる。
ノミオがオーステンデの街中を掌握、そしてハニトス領主がデノニーバを捕らえる為に領主館に攻め入ってからがヴォワ・ラクテ号の出番だ。
決行の時は七日目の早朝。その時までにすべての準備を整える冒険者とヴォワ・ラクテ号の者達であった。
●奪還の時
戦いは夜明けと共に始まる。
ノミオはオーステンデ到着から決行の今までケタニリアと共に街中の詰め所を秘密裏に訪ねて説得を続けていた。
ハニトス領主の威光を意味する書状を持っての行動であったが、ノミオの人となりで心動かした兵士も多い。
一部の兵士達はハニトス領主が指揮するデノニーバ捕縛突撃隊と合流して領主館へと突入。残る多くの兵士達は説得が不可能なデノニーバ寄りの者達の制圧する。
ハニトス領主率いる突撃隊による急襲が始まってしばらくすると、黒き翼を広げたドナフォンが現れる。
それを待っていたイオリーナが本来の巨人の姿へと戻り、空中でドナフォンの前を遮るように飛んだ。緑色の石がはめられたブローチを見せつけながら。
地上の突撃隊へと攻撃を仕掛けようとしたドナフォンが急上昇してイオリーナを追いかける。
ドナフォンは確かに緑色の石の正体が何かを知っているようだ。ちなみに冒険者達がイオリーナに石について何かを知っているかと訊ねたものの、はっきりとした答えは返ってこなかった。果たして本当に知らないのか、とぼけているだけなのかは謎として残る。
ブローチの助けによっていつもより簡単にドナフォンの誘導に成功する。イオリーナはそのまま海へと飛んだ。
●甲板の上で
「来ました。エリス殿、準備を!」
ヴォワ・ラクテ号の甲板に立つ宿奈芳純は、テレパシーでイオリーナと連絡がつくと即座にエリスへ伝えた。
「目でも確認したわ!」
マスト上の見張り台にいたエリスが空へとウインドスラッシュを放ち、イオリーナに準備完了の合図を送る。
帆の間近をイオリーナが通り過ぎてゆく。その瞬間に放り投げられたブローチをエリスは受け取る。そして持っていた布をロープにかけてぶら下がり、一気に甲板へと降りた。
「俺が奴の攻撃を受け止めよう。用意してもらった砂利袋の退避帯をうまく使ってくれ」
ベインは魔力が込められている剣を盾を構えてエリスの側に立つ。そして頭上を通り過ぎてゆくドナフォンを見上げた。
「出番です‥‥」
大宗院透は船乗り達と一緒に甲板に被さっていた古い帆を取り去る。すると下からグリフォン・影飛に跨る大宗院鳴、ペガサス・プロムナードに乗ったアレーナ、ペガサス・ベガのアーシャが現れる。
「それでは始まりですね」
宿奈芳純は旋回して戻ってきたイオリーナへテレパシーで告げる。すべては整ったと。
「ドナフォン!! 何やってるのよ! ブローチはあたしが持っているんだからね!」
エリスは低空でイオリーナが飛び去っていった後で叫ぶ。ちょうど追いかけるドナフォンがヴォワ・ラクテ号近くを通過しようとした時だ。
声が届いたのかドナフォンは速度を緩めてイオリーナを追いかけるのを止めた。そしてしばらく空中に停止したまま、ヴォワ・ラクテ号を見つめる。
やがてエリスがブローチを持っているとドナフォンは理解した。
少し前から天候が崩れ始めていた。まるでドナフォンの感情を表すが如く、黒雲が天を覆う。
「鵺の攻撃では服も『縫え』ませんね‥‥」
駄洒落を呟きながら大宗院透は魔弓を構えて矢を放ち、ドナフォンの肩を射た。ドナフォンは大きく咆哮をあげて激しく黒翼を羽ばたかせる。
「来るぞ!」
ベインが海上スレスレを迫り来るドナフォンに立ち向かう。タイミングを計ってソニックブームを放ち、そして構えた盾で歯牙の攻撃をやり過ごした。
「エリスさんを傷つけさせませんよ!」
ペガサスを駆るアーシャは上空で待ちかまえる。あらかじめ発動させておいたレミエラのソニックブームでドナフォンを黒翼を狙った。
「ここです!」
宿奈芳純はテレパシーで仲間達の連絡を助けながら、ムーンアローをドナフォン目がけて飛ばした。
徐々に天候が悪くなってゆく中、黒色のドナフォンを視認するのが難しくなる。それをムーンアローの軌跡が補助してくれた。
「空腹は最高のスパイスって聞いたことありますか?」
大宗院鳴はグリフォンでドナフォンとすれ違いながら剣を叩きつける。ここは仲間達と同じように黒翼を狙う作戦である。
「ドナフォン! 覚悟を!!」
小雨が降りだした頃、アレーナはドナフォンの攻撃を盾で受け止めながら強力な一撃を背中へと加えた。
激しい音と共に右黒翼が折られてドナフォンが錐もみしながら落下してゆく。海中に落ちるかと思われたが軌道を変えたドナフォンはヴォワ・ラクテ号の甲板に衝突する。
「さすがはドナフォンね‥‥。落下のダメージはヴォワ・ラクテ号の甲板だけって感じ‥‥」
エリスがドナフォンの状況を呟く。右黒翼は折れたものの、ドナフォンはまだ充分に活動の状態にある。完全に抜けてはいないものの、甲板は大きく拉げていた。
得意の風精霊魔法がドナフォンには効果がない事にエリスは歯ぎしりを立てる。
「ドナフォン!!」
ベインがエリスが持つブローチを狙うドナフォンに剣を深く食い込ませる。
飛翔可能な騎乗ペットで空を飛んでいた仲間も甲板へと降りてドナフォンに対抗した。
「イオ‥‥リーナ、それでよい‥のか‥‥。こんなくだら‥‥ない人と手を組むなどと‥‥‥‥」
傷ついたドナフォンの額にある老人の顔が口を開ける。
「デノニーバと組んでいたあなたがそんな事をいっても説得力がありませんわ」
「それは‥‥違う‥‥。利用した‥‥。デノニーバも利用する‥‥それだけの事だった‥‥」
イオリーナがドナフォンに体当たりをするとヴォワ・ラクテ号が大きく揺れる。
傷つきながらもドナフォンは去ろうとはしなかった。冒険者達が阻止していた部分も多分にあったが、いつものような撤退の意志が感じられない。理由は定かではないが、それだけブローチにはめられた緑色の石が欲しいのであろう。
「ドナフォン‥‥」
アーシャはマストをかばうように戦っていた。他の部分は比較的簡単に修理出来るが、マストとなると話は別だ。
ドナフォンがマストに衝突しそうになると攻撃をもってそらせてゆく。アーシャは悲しみを瞳に浮かべながらも戦いに徹する。
「さよなら、ドナフォン‥‥」
止めを刺したのはアレーナであった。ドナフォンの喉元に刀を突き立てると、しばらく痙攣した後で動かなくなる。
テレパシーで会話を試みたアレーナであったが、ドナフォンからの返事は何もなかった。
雨が激しく打ちつける甲板の上にドナフォンの死骸は横たわる。徐々に薄くなってゆき、やがて欠片すら残さずに消えていった。
●オーステンデとデノニーバ
ドナフォンを倒したヴォワ・ラクテ号に乗る一行は、しばらくしてオーステンデの船着き場へと入港する。
夕日に染まるその頃にはすべてに決着がついていた。
ノミオによって大きな混乱には発展せずにオーステンデは沈静化する。領主館のデノニーバの捕縛もハニトス領主の指揮の元で成功した。
滞在中に冒険者達はデノニーバを目にする機会を得る。常にうなだれていて生気を失っていた。
ドナフォンをそそのかそうとして失敗したのか、それともそそのかされて失敗に至ったのかはデノニーバのみが知るのみである。
九日目の夜には領主館で晩餐会が開かれた。
「オーステンデのお魚はすごく美味しいのです。しばらく来られないかも知れないので食べ収めしないと」
大宗院鳴は頬をまんまるに膨らませて料理を頬張った。ちなみにエリスとの約束は別のようで、パリに戻ったらもう一度美味しい食事が待っている。
「本当によく食べますね‥‥」
大宗院透は妹の大宗院鳴に、もう少しで料理をとられそうになった。
「腹が減っては戦ができぬと言いますから、いっぱい食べるのです!」
「アーシャ殿、もう戦いは終わったのではないのかな?」
「ヴォワ・ラクテ号の修理がまだ終わっていないので、航行中もお手伝いするのですよ。その為には体力をつけないと!」
「なるほど、そういう事か。それにしてもやはり領主館の料理人とはすごいものだな」
アーシャとアレーナはテーブルに並んで眩い料理を頂いた。
「私も出来るだけお手伝いしましょう。魔法ではどうやらうまくいかないようですが」
「それは助かります」
宿奈芳純も修理を手伝ってくれる事となる。
「結局、ブローチの秘密はわからないままか。ま、それが本題ではないからな」
「イオリーナの奴、そそくさと姿消しちゃったし。問いつめられるのがきっとわかっていたからね」
ベインとエリスはブローチの石についてを話題する。大宗院鳴も気にしていたのだが、イオリーナがいなくなってはどうにもならない。領主館の地下を調べる時間は残っていないし、それを許してもらえるとも限らなかった。
冒険者達への追加報償はハニトス領主から贈られた。
九日目の朝、ヴォワ・ラクテ号はオーステンデから出港した。
修理をしながらの航行だが、予定通り十二日目の夕方にはパリへと入港する。
「それじゃあ〜みんなで食べにいきましょう! 今日はあたしのおごりよ♪」
エリスは冒険者と船乗り達を引き連れてパリの街へと繰りだしていった。