領主の身柄 〜カーゴ一家〜

■シリーズシナリオ


担当:天田洋介

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:14 G 89 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月14日〜04月26日

リプレイ公開日:2009年04月22日

●オープニング

 パリから北西に佇むルーアン。
 カーゴ一家の女将、エリス・カーゴはルーアンのヴェルナー城にいた。
 ミリアーナ領の次期領主となろうノミオ・カスタニアとの話し合いの為だ。
 現在、ミリアーナ領の中心地である港町オーステンデはノミオの腹違いの弟であるデノニーバによって制圧されていた。
 表向きは平穏を装っていたが、デノニーバとウェールズのドナフォンが結託してハニトス領主を拘束しているのは間違いなかった。オーステンデ内に建つ領主館から脱出してきたノミオと懇意の老人ケタニリアの証言もある。
 ラルフ卿は長期の不在になるらしく、当分の間相談をする事すら叶わない。ここはノミオ自身の力で状況を打破しなくてはならなかった。
「作戦を考えておきました。説明させて頂きますね」
 ノミオはミリアーナ領と周辺を記した地図をテーブルに広げる。
 状況からいってカーゴ一家の帆船ヴォワ・ラクテ号がオーステンデの港に直接入るのは難しかった。
 そこでオーステンデではなくブルッヘの町へ入港する選択が用意された。ブルッヘは湾から続く長い用水路を経て内陸部にあるとても変わった港町だ。
 参加の冒険者はブルッヘで下船し、馬車による陸路でオーステンデに潜り込んでもらう。
 エリス率いるヴォワ・ラクテ号は航路を戻り、オーステンデ周辺の海上で待機する。
 決行時間になれば、ヴォワ・ラクテ号は陽動としてオーステンデの船着き場を強襲し、冒険者は領主館へ侵入してハニトス領主を奪回する作戦であった。
「まずは父のハニトス領主の安全が第一です。父が私達の元にいればデノニーバがどんな理屈を捏ねようと無意味なものになるでしょう」
 ノミオの言葉をエリスは静かに聴き続ける。
「ノミオ様に忠誠を誓う十六名の兵士なら動かせまする。わしは冒険者に同行して陸路からオーステンデに入りましょうぞ」
 ケタニリアが領主館へ突入する際の援護を確保すると息巻いた。
「わかったわ。ヴォワ・ラクテ号はオーステンデの港付近でハニトス領所属の船を相手に暴れる。冒険者達は領主館に潜入してハニトス領主を助けだすって訳ね」
 エリスは作戦を大雑把にまとめた上て、さらに細かく煮詰めてゆく。
 二日後にパリに戻ったエリスはギルドで冒険者の募集をかけるのだった。

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea1987 ベイン・ヴァル(38歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea7694 ティズ・ティン(21歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb3532 アレーナ・オレアリス(35歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

大宗院 亞莉子(ea8484

●リプレイ本文

●出港
「もうすぐ出港よ〜!」
 エリス・カーゴが声をあげると、船乗り達の威勢のよい返事が帆船ヴォワ・ラクテ号に轟いた。
「かんばってってカンジィ」
「それでは‥‥」
 絡ませた腕を名残惜しそうにほどきながら大宗院亞莉子は大宗院透(ea0050)を見送った。渡し板が外される寸前、大宗院透はヴォワ・ラクテ号の甲板に降り立つ。
 ヴォワ・ラクテ号は船着き場からゆっくりと離れて下流へ船首を向けた。
 いつもなら港町オーステンデへ赴く所なのだが、今回は素通りしてまずは港町ブルッヘを目指す。すべてはオーステンデの領主館に囚われている領主ハニトス・カスタニアを助ける為であった。
「港に着いても下船の許可が下りなかったの。それで疑問を感じて――」
 甲板にいたアレーナ・オレアリス(eb3532)はベイン・ヴァル(ea1987)に頼まれて、この前の依頼の内容をつぶさに説明する。
「そうか。ルーアンで同乗する予定のケタニリア殿とはそのような人物であったのだな」
 ベインは以前に領主館を訪ねた時の事を思いだす。
 ハニトス領主を助けるにあたって、領主館内の構造は重要な意味を持っている。記憶に頼るだけでなく、より詳しいであろうケタニリアから聞き取りをして領主館の見取り図を作成しようとベインは考えていた。
「権力や欲望は人を醜く変えてしまうのかな‥‥」
 ベインに話し終えた後でアレーナは視線を下へと向ける。
 しかしすぐに顔をあげて遠くの空を見つめた。少しでもいい未来を目指していこうと心の中で呟いて。
「出来れば襲撃は月夜が望ましいと考えています」
「そうね‥‥。他の人の意見も聞いてから決めるわ。でもその作戦はいいわね」
 船室を訪ねた宿奈芳純(eb5475)はムーンシャドゥの活用をエリスに進言する。
 達人クラスになれば他人であっても一瞬で五百メートル先に移動させられるのがムーンシャドゥという魔法だ。ただ月光で落ちる影がどうしても必要であった。
「うぅん、領主さま救出なんて、何か重大任務だね」
 ティズ・ティン(ea7694)もエリスの船室にいた。さらにもう一人、大宗院鳴(ea1569)の姿もある。
「ハニトス領主、早く助けないと‥‥」
 大宗院鳴はうつむくが、すぐに顔をあげる。
「きっと、満足な食事がでずにお腹がすいているはずです。なので戻ってきたら美味しいものが食べられるように、ティズさんに頼んでおきました」
「頼まれた通り買い込んだけど‥‥」
 大宗院鳴からお金を預かったティズはパリで買った食材をヴォワ・ラクテ号に持ち込んでいた。その量ははんぱではなく、ティズ自身も少々引き気味である。
「ま、その料理が美味しく食べられるようにがんばりましょ」
 エリスの言葉に大宗院鳴は大きく頷く。
 ヴォワ・ラクテ号は二日目の昼頃にセーヌ川沿いのルーアンへ立ち寄り、ケタニリアを乗船させる。すぐに出港し、その日の夕方にはセーヌ河口を通過した。
 海上を航行し、オーステンデを遠目に眺めながら通過したのは三日目の暮れなずむ頃。小さな湾へと入って水路を南下し、内陸部のブルッヘに入港したのは宵の口だった。

●オーステンデ
 一晩をブルッヘの宿屋で過ごした一行はケタニリアが用意した馬車に乗り、陸路でオーステンデを目指す。
 エリスは船乗り達と共にヴォワ・ラクテ号で北海へと戻ってゆく。ハニトス領主救出の際に陽動として港付近で暴れる為だ。
 馬車に乗った一行は夕方にはオーステンデに到着する。ノミオの想像通り、陸路からの進入は比較的簡単であった。
 ケタニリアに導きによって一行は石造りの家に身を寄せた。ノミオに忠誠を誓う兵士のの家だ。
 この家でより細かな準備が行われる。
 ベインはケタニリアだけでなく、兵士達の意見も加えて見取り図の完成させた。
 大宗院透とアレーナは時間が許す限り、見取り図を眺めて頭に叩き入れる。その他に兵士達から領主館内の情報を引きだすように努めた。
 宿奈芳純はリシーブメモリーでハニトス領主の姿を知り、ファンタズムで仲間に見せようとしたが失敗に終わる。リシーブメモリーは文字の形で記憶を読みとる魔法なので、まったく見た事がない者の姿を把握するにはあまりに大きな省略があるからだ。
「いつからそこにいたのですか?」
「ごきげんよう。相変わらずの食いしんぼですね」
 家の炊事場で魚を焼いていた大宗院鳴の横に、いつの間にかジニールのイオリーナが立っていた。
「丁度いい。ドナフォンに関連して手伝ってもらいたい事があるのだが――」
 ベインもイオリーナの存在に気がついた。そして今回の作戦の手伝いを頼んだ。ハニトス領主を救出する際、領主館に隠れているはずのドナフォンの行動を阻止して欲しいと。
 イオリーナは二つ返事で引き受ける。
「館で戦うなら風以外の精霊魔法も気をつけた方がよさそうだ。ウィザードを集めているらしい」
「それは危険ですね。戦うとしてもなるべく遠くでやりませんと」
 情報に感謝したイオリーナは、オーステンデから少し離れた海上で待機するヴォワ・ラクテ号との連絡役も引き受けてくれる。
 海上のエリスとの調整の上、決行は八日目の深夜と決まった。

●海上と陽動
 月夜のオーステンデの船着き場で鐘の音が鳴り響く。
 ミリアーナ領直属の軍船の帆を風の刃で刻んだのは、ヴォワ・ラクテ号の船首に立つエリスであった。
 中には深く刻まれた跡によって自重に耐えきれず、鈍い音を響かせながら倒れてゆくマストもある。
 この前の騒動に対処しきれなかったのを反省したのか、かなりの軍船が集められていたが訓練の錬度が追いついていない。船数の多さのせいで全体の連動が損なわれていた。
「まったく歯ごたえがないったらありゃしないわ! この程度で軍船を名乗るなんて!」
 碇泊する軍船周辺を、ヴォワ・ラクテ号はわざと掠めるように航行する。そしてエリスは鼻で笑った。
 軍船は帆船だけでなく多人数で漕ぐガレー船も存在する。すぐに反撃の矢がヴォワ・ラクテ号に射かけられ、追走が始まった。
「ついてきてるわね‥‥」
 エリスは後方の軍船の集団に目をやる。
 港には無関係の貨物船などが多数碇泊する。派手な陽動が必要だとはいえ、エリスは巻き込まないよう少し沖で戦うつもりでいた。
「普段は重い貨物を積んでいるから並の速度だけどね。本気のヴォワ・ラクテ号がどんなものか、あいつらに教えてあげるわ。いい! みんな!!」
 エリスに呼応して船乗り達が叫ぶ。
 帆船ヴォワ・ラクテ号一隻対ガレー軍船七隻の海戦がここに始まるのであった。

●領主館での陽動
「なんだあれは!」
 領主館の正門を守る衛兵達は槍を構え、近づいてくるいくつもの灯りに目を凝らす。
 それはたいまつやランタンを手にしたノミオを慕う兵士十六名と冒険者達の一団であった。
 ケタニリアからの情報と作戦によって、陽動の一団は正門を難なく突破する。
「私達は、ハニトス様の解放のために行動を起こしています。あなた方もハニトス様の騎士であるのなら、領主のために命を捧げるべきではないのですか」
 愛馬ガッガで乗り込んだティズは武器を持たず、盾のみを構えて領主館の庭を駆け回った。
「ハニトスさんを解放してください。そこまでして親の七光りで領主になりたいのですか」
 その場にデノニーバはいなかったが、大宗院鳴は敵衛兵達に向けて語りかける。
 ティズと大宗院鳴の言葉に一瞬動きを止めた敵衛兵達だが、すぐに攻撃を再開した。多くの衛兵にとってデノニーバの言葉こそが真実だからだ。巷に流れる噂を耳にするものの、信じるに値しないと一蹴していたのである。
(「退路の確保が優先だな‥‥」)
 突入の馬車から飛び降りたベインは魔剣を振るいながらも、敵衛兵の攻撃をいなす程度に留めた。
 今はデノニーバの配下とはいえ、将来ノミオに仕えるかも知れない者達である。将来の禍根に繋がらないように配慮する必要をベインは感じていた。
(「エリス嬢もがんばっているようね」)
 ペガサス・プロムナードで空中に浮かぶアレーナは一瞬だけ港方面に意識を向ける。
 月夜とはいえ、さすがにヴォワ・ラクテ号を目視できない距離だが、騒ぎの怒号は風に乗って領主館まで届いていた。
 飛んでくる矢をかわしながらアレーナは急降下する。
 アレーナは敵衛兵の剣や槍などを激しい剣撃で破壊してゆく。この際、少々手荒なやり方は仕方ないと考えていた。
「さわると感電しますよ」
 大宗院鳴はライトニングアーマーをまといながら笑顔で敵衛兵達を脅かす。ライトニングサンダーボルトによる稲妻もおびえさせるのに効果があった。
「仕方ないね」
 ティズは愛馬に備え付けの槍を手に取って敵衛兵達と刃を交えた。ただアレーナと同じように武器破壊を心がける。
「来たか!」
 頭上にも注意を払っていたベインは黒い影を発見する。月の逆光で浮かび上がるシルエットは、間違いなくウェールズのドナフォンであった。
「それではお任せを」
 馬車から下りたイオリーナが巨人の姿へと戻り、ドナフォンを目指して上空に飛び立つ。
 ちょうどその頃、本館方面から敵ウィザードによる攻撃が始まった。
 すでに混戦になっていた為に範囲魔法攻撃は行われない。それがノミオ側の一団にとって有利に働く。
 領主館の正門では長く混乱が続いた。

●領主館への潜入
 陽動の仲間達とは別行動をとった潜入の大宗院透と宿奈芳純は、領主館を囲む石壁より高い建物の屋上にいた。
「始まったようです。それでは‥‥」
 宿奈芳純は正門周辺で戦うアレーナとテレパシーで連絡をとり、陽動が始まったのを知る。
 まずはムーンシャドゥを唱え、視界内にある領主館二階付近のバルコニーに落ちる影へ宿奈芳純を移動させた。続いて唱え、宿奈芳純自身もその場からいなくなる。
 一瞬にして領主館内に潜り込んだ二人はひとまず壁の隙間へと隠れた。
 大宗院透が周囲を見張る中、宿奈芳純はソルフの実を呑み込んで魔力の補給をする。まずはケタニリアが提供してくれた実から消費していった。
(「こちらです‥‥。ついてきて下さい‥‥」)
 大宗院透も指輪の力を借りてテレパシーを使えるようになる。道案内は大宗院透に任せて宿奈芳純は後をついてゆく。
 仲間の陽動のおかげか、館内を見張る者は少なかった。注意さえ怠らなければ今なら館のどこにでも辿り着けそうな雰囲気である。
 地下へと向かい、ケタニリアから預かった城内の殆どを開けられる鍵セットを使って部屋を一つずつ調べた。四つ目の部屋でハニトス領主は発見される。
(「ノミオさんに頼まれた者です。脱出をお手伝いしますので、ついてきて下さい‥‥」)
 大宗院透に念波にハニトス領主は頷いて答えた。
 人目を避けながら三人は館の一階に辿り着く。しかし二階のバルコニーへ向かうとした途中で館内の者に発見されてしまう。
 目撃したのは五人の護衛に囲まれたデノニーバであった。
(「ここは任せて下さい‥‥」)
 大宗院透は微塵隠れでデノニーバ等を翻弄する。
 その間に宿奈芳純はハニトス領主と共にバルコニーへ辿り着く。そしてムーンシャドゥでハニトス領主を館の外へと移動させ、自らも足下の影に潜り込んで姿を消した。
 二人が逃げたのを確認した大宗院透は微塵隠れで移動し、その後疾走の術で石壁を越えて脱出に成功するのだった。

●そして
 宿奈芳純はテレパシーで正門周辺の仲間達へと成功を知らせる。
 さっそくアレーナが現れてハニトス領主をペガサスの後ろに乗せ、オーステンデの外へと連れだした。
 正門で陽動をしていた一団も撤退する。
 その際に大宗院鳴が真上に向かって撤退の合図を込めた雷光を放つ。運が良ければ海上のヴォワ・ラクテ号からも見えたはずである。
 オーステンデ近郊の待ち合わせ場所で合流した後、ハニトス領主の救出に尽力した全員がブルッヘを目指した。
 道中で九日目の朝が訪れる。ブルッヘに到着したのは昼過ぎであった。
 それから約一時間後にヴォワ・ラクテ号が迎えに現れた。さすがのカーゴ一家でも軍船七隻には手こずったのか、かなりの損傷が見受けられた。
 ベインがエリスに聞いた所、航行に支障はないらしい。
 追っ手を考えて、ヴォワ・ラクテ号はすぐにブルッヘを出港する。
 さっそくティズは腕によりをかけて、大宗院鳴のお金で買ってきた食材を調理した。ここはやはり体力を回復する為にも肉料理である。
 ヴォワ・ラクテ号は可能な限りオーステンデから離れた航路を選んだ。
 途中で空飛ぶイオリーナが顔を出す。ドナフォンとの戦いは引き分けに終わったといってオーステンデへ戻ってゆく。
 ノミオとカリナが待つルーアンに着いたのは十一日目の昼前である。
 冒険者達はヴォワ・ラクテ号に残り、ハニトス領主とケタニリア、そして十六人の兵士は下船する。
 船着き場まで迎えに来ていたノミオは冒険者達に追加の報酬と感謝の言葉を贈った。当然の事ながら、エリスとヴォワ・ラクテ号の船乗り達にもだ。
 ヴォワ・ラクテ号はすぐにルーアンを出港する。パリに入港したのは十二日目の宵の口であった。