【先生とお勉強】グライダー製作・前編
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■シリーズシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:9人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月02日〜06月09日
リプレイ公開日:2008年06月07日
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●オープニング
メイディアのゴーレム工房では、ウッドゴーレムやストーンゴーレムの増産が急ピッチで進められていた。職人もゴーレムニストもそれこそ休む暇がないほどに。
ユリディス・ジルベールは増産計画に携わりはしているものの相変わらずマイペースで、冒険者の今までの要望や提案などから新しいことを考えたりもしているようである。だがそれは今回とは別の話。
今回はゴーレムニスト及びその予備軍、技術者の人と共にゴーレムグライダーの製作をしようというのだ。
参加資格はゴーレムニスト、ゴーレムニスト用の課程修了済の者(工房長の講義かユリディスの講義かは問わない)、木工の技術に自信のある者となる。
また、出来上がったグライダーのテスト飛行が出来る者もいれば都合が良いが、いない場合はユリディス自らが乗ってみるという。
‥‥‥‥‥。
まぁそれはそうならないで済む事を祈るとして。
通常、グライダー製作に掛かる期間は約7日間だ。
大体の時間配分としては最初の5日間位で熟練の職人が素体を作成し、残りの2日間をゴーレムニストによる魔法付与や最終調整に当てる。
今回はその殆どを冒険者のみでやってみようということから、作成期間を多めに取っている。
講義の前半である今回は、素体製作と基礎魔法「ゴーレム生成」を掛けるところまでを行う。
木工に精通している者とゴーレム魔法「地」の「ゴーレム生成」を修得している者に主に働いてもらう事になるだろう。
だがしかし、他の者のやることがないというわけではない。
ユリディスの言葉を借りれば
「素体の仕組みも知らずにただゴーレム魔法を掛けるだけだなんて、知識だけのただの頭でっかちよ」
とのことである。
まぁ素体をしっかり見ておくことは悪い事ではないし、機体の損傷具合を把握するのにも正しい状態を知っておく必要がある。
つまりは「技術のあるなしに関わらず、手伝いながら見学しろ」との事だろう。
なにも全て冒険者達だけでできるとはユリディスも思ってはいない。一人、工房から熟練の職人が素体製作の補助に来てくれる。また、最悪「ゴーレム生成」を使える者がいない場合はユリディスが代わりに魔法を付与する。
その他の魔法付与や試乗は次回の講義内容となる。
今回冒険者達に作ってもらう機体は3機。
3つのグループに分かれて制作を行ってもらいたい。
グループ分けはそれぞれ相談して決めること。ユリディスからグループ分けについての条件は提示されていない。講義参加者達が良いと思うように3つのグループに分かれてくれれば良い。
依頼期間7日間のうちに「ゴーレム生成」を付与し終わればゴールだ。次の講義まで間が開くため、魔法の浸透時間などは気にしないで構わない。極端な話、7日目の最後の最後にゴーレム生成を付与、でもかまわないわけだ。
どのグループが一番上手くグライダーを製作できるか――暗に競わせるつもりなのかもしれない。
講義、製作は、工房は増産作業中であるため、ゴーレムニスト学園の施設を利用して行われる。
参加者達の寝泊りも、学園の寮を利用してもらう。食事は自炊だが、材料費は工房から出るため、保存食などを持ち込む必要はない。
もちろん、わからない部分は手伝いに来てくれる職人が教えてくれるし、ユリディスも木工の知識を持っていないわけではない。手本を見せてくれる者もいれば、質問に答えてくれる者もいる。そこは安心して欲しい。
この講義に参加してくれる者を、ユリディスは学園でのんびりと本を読みながら待っていることだろう。
●リプレイ本文
●グライダーを作ろう
ゴーレムニスト学園設備の中の実習室と思しき部屋。そこにはグライダー3機を作るだけの広さは十分にあった。いや、職人の見本を含めると4機になるか。
「7日間でゴーレムグライダーを作製か。グライダー乗りを目指しているし、自分でも造りたいと思っていたから渡りに船だな」
ゆくゆくは自分の考えたグライダーを作ってみたい、そんな希望を胸に秘めながら布津香哉(eb8378)は作業場を眺めた。
「講師殿。このグループ、あくまでも3組作る必要が有るのか? 冒険者で人手が足りない場合は工房の諸氏が補ってくれるのか。それとも冒険者だけで可能な範囲でグループを作ればよいのか?」
ローシュ・フラーム(ea3446)の質問にユリディスはそうね、と少し考え込むようにしてから口を開く。
「あえて3組にしたのは、さすがに10人近くで1機、というのも‥‥と思ったからね。勿論、冒険者でまかなえない部分は申し出てくれれば工房から人材を派遣するわ。さすがに次回の各種魔法付与を全部冒険者でしろ、というのは無理があるでしょうしね」
「ふむ、ならばよい」
まずは工房から協力に来てくれた木工職人が素体の作製を見せてくれることになった。設計図を見たいと言う者もいたが、この職人はすでに設計図を見ないでも作業が出来る腕前だという。
はい、これよ、とユリディスから差し出された設計図を見て、特に地球人は「これが設計図?」と驚かずにはいられなかった。地球で良く目にする設計図といえば、細かい寸法や細部の部品に至るまで綿密に描かれたものを想像する。だが今目の前にある設計図は、完成予想図を大まかに描いてあるだけの代物なのだ。正に設計図というより完成予想図、である。
「まさか‥‥この絵から実物を起こすのか?」
設計図に興味を記していたマリア・タクーヌス(ec2412)が愕然として呟く。正に絵から実物を作り上げろ、そういわれているも同然だからだ。
「職人は現場に立って己の身体で色々と覚えていくものだから、特に細かい設計図はないのよね。というか、細かく寸法を測って地球の様な設計図を描く人がいないだけ、とも言うわ」
「じゃあ、俺が図面を引いても良いですか?」
手を上げたのは地球出身の門見雨霧(eb4637)だ。彼は現代物理学の知識も用いて、設計図がなければ自身で作製してみようと考えていた。
「構わないわよ。ただし採寸する場合は職人さんの作業の邪魔にならないようにね」
ユリディスの許しを受け、雨霧は羊皮紙を取り出して図面を作る準備をする。
「あ、木をそのまま掘り出すわけじゃないんだ?」
職人がパーツごとに掘り出し作業をしているのを見て、レン・コンスタンツェ(eb2928)が呟く。
「単純に無垢の木をそのまま掘り出すわけではあるまいとは思っていたが‥‥どうやらパーツごとの組み立てのようだな」
ローシュも職人の作業に見入る。一つでも多くの知識を吸収しなくては。
「メイでは各パーツをそれぞれ作って、組み合わせたグライダーを使用しているわ。けれども職人の知識や技術の問題できちんと組み上げられない場合とか、あとは工房長のセンスで彫刻を重視することもあるわ。組み合わせた木だと空中分解するんじゃないかっておそれられて彫刻になる場合もあるのよ」
「材料はどの木でも良いのですか?」
首をかしげて問う結城梢(eb7900)に、ユリディスは軽く首を振る。
「材料はその地域で手に入る加工が可能な、最も硬い木材を使用するわ。完全に強度を無視しているというわけではないのよ」
「強度といえば、防御力制御を付与すれば防御力の高いグライダーが出来るよね?」
今度はレンの問い。
「可能といえば可能よ。でも「ゴーレム生成」によって付与できるランクまでしか効果を発揮することはないの。ウッドなら初級程度までね。まだ開発されていない技術が開発されたとしたら、足りない魔力を補ってより上級の効果を付与できるようになるけれど」
質疑応答を繰り返している間も、職人は手早く作業を進めていく。
「ハボリュム殿、いかがですか?」
アリウス・ステライウス(eb7857)は設計図と職人の技を見ながら、手伝いに来てくれた友人ハボリュム・フォルネウスに尋ねる。
「難しそうな箇所といえばやはり翼のラインだろうか」
「左右対称に造らなくてはならないでしょうしね」
「へぇ〜こんなパーツになるのか。これって職人皆同じに作るの?」
香哉の質問に、ユリディスはさすがに、と苦笑する。
「設計図がアレだし、皆が皆全く同じものを作るわけじゃないわ。国や職人によって多少形が違ったりするわよ」
「うーん、ここを少し厚くした方が風の流れが良くなる気がするけど?」
「航空力学的に考えると‥‥もう少し滑らかなラインの方が」
設計図を引きながらぽつりと漏らしたのは雨霧と、それを覗いていた梢。二人とも地球人だ。
「グライダーですか‥‥バランスをとるか、スピード重視でいくとかあるけれど‥‥」
カレン・シュタット(ea4426)も職人の作業を見つつ、意見を漏らす。
「じゃあ、それは貴方達が実際に作る時に試してみたら?」
そんな彼らを見て、ユリディスはくす、と笑んだ。
「ところでのぅ、ユリディスさん。地球人の友人に聞いた話じゃが、あちらでは金属製の飛行機器があるらしいが、こちらで作ることは可能かの?」
「金属製‥‥? そうね、私も聞いたことがあるけれど、ここでは、鉄の船は笑いの種になるわ。鉄で船を作ったら沈むじゃない?」
「まぁ、そうじゃのぅ」
シュタール・アイゼナッハ(ea9387)の質問に、ユリディスは首をかしげるようにしてねぇ? と同意を求める。
「けれども全く望みがないというわけではないわ。設計図をきちんと引ける人がいて、それを実現する鍛冶師がいて、きちんと飛ぶ形になるまで試行錯誤すれば出来るかもしれないわね。ただ‥‥ここの金属加工技術では数mの金属人形を作るのが精一杯だから、開発にはすごい時間と労力が掛かる作業になるに違いないわ」
「なるほどのぅ」
「ユリディス先生!」
振り向くと、そこに立っていたのは香哉。又質問を携えてきたのだろう。なんだか彼の顔は生き生きとして見える。
「今までの失敗事例とかあったら教えて欲しいんだけどな?」
「あら、工房の恥を聞きだすつもり?」
「い、いやそういうわけじゃ‥‥」
揶揄するように言うユリディスに困惑した香哉だったが、彼女はそれに構わず口を開く。
「強力な推進器官をつけたら機体がついていかなかったり、パーツごとに違う素材を使用したらゴーレム生成魔法が全体に行き届かなかったりしたことはあるわね。後はゴーレム魔法はまだ研究期間が浅いから、後日成功した組み合わせで何回も失敗する事もあるのよ?」
「え、そうなの?」
「そう。ゴーレム魔法はまだまだ未知の魔法なの。だから新しいものの開発も、できる可能性はゼロではないけれど決して高いとも言いきれないわけ」
「形状やサイズの研究を重ねれば微妙に航続距離や飛行速度で性能が上がるのかもしれないけれど、これだけの手間を考えたら、長距離なら二人乗り機体を途中で降りながら交代で、あるいは小型の一人乗り機体で速度重視とかやった方が早いのかもね」
実際にパーツを扱いながら、レンが呟く。彼女と同じ組のアリウスは主に木工技術を使ってパーツの掘り出しに、そして雨霧は出来上がったパーツを採寸して設計図に記載しつつ、翼の厚さなどのアドバイスをしていた。
「設計知識はあるがあくまでも机上の知識だし、現実に組むとなるとやはり判り辛い部分が多いな」
額ににじみ出た汗を拭いながらアリウスが呟く。
「今後役に立つように、精密な設計図を作っておくことにしよう」
そうすれば今後の開発に役立つかもしれない、と雨霧は設計図に書き込みを続けた。
「ふむ‥‥図面より実物を見ながらの方がやりやすいな」
ローシュは見せられた設計図よりも、職人の作った見本を見ながらその手を進める。同じ組のマリアや梢もパーツ運びなどを手伝いながら、しっかりとその機体の構造を頭に叩き込んで行った。
「わしはまずはグライダー作成の基本を押さえる事が優先と考える。ので改修案などには取り組まない方が良いと考えるが、どうかだろうか?」
「そうだな、私達はまだスタートラインに立っただけの状態だ。まだまだ素人でしかない。今後の為にも基本を押さえておくのに賛成する」
ローシュの提案に重々しく頷くマリア。梢も滑らかなラインを提案したものの、無理強いするつもりはなく、むしろ基礎知識を押さえるのに異論はなかった。
「パーツといっても意外と重いですね‥‥」
パーツを機体に組み合わせるべく持ち上げたカレンの呟き。
「強度の高い木材となると、必然的にそれなりに重くなるのかもしれんのぅ」
同じグループのシュタールが図面を引きながら答える。
「ふーん、ここにこれをつけるんだったかな」
香哉も取り付けを行うカレンの手伝いをしながらも、ユリディスを見かけては呼び止める。
「先生、また浮遊機関の話なんだけど」
そう切り出した香哉に、ユリディスは笑いを隠さない。
「こんなくらいの板切れ‥‥俺のいた世界の『スケボー』って道具の大きさなんだけどさ。そのにゴーレム生成を付与して、浮遊機関の魔法も付与したらこの板自体は浮いていて上に乗ることが出来る?」
「そうね‥‥初歩じゃ無理だけれどある程度の熟練度以上でかければ可能ね。でも浮遊機関は1m四方につき20〜30kgの物を乗せることが出来る程度よ」
「む、じゃあ人が乗ったら‥‥」
「浮いていられなくて沈むわね」
ユリディスの言葉に若干の落胆を隠せない香哉だったが、彼の好奇心は尽きない。
「じゃあ次。バイクみたく一人乗りの移動車両ってものも考えているんだけど」
「『ばいく』が何なのか良くわからないけれど、さっきも言った通り浮遊機関の魔法にも限度があるから‥‥推進機関込みで地球で言う『たたみ』一畳位のものにゴーレム魔法を付与すれば超小型のフロートチャリオットは作成可能だと思うわ」
「じゃあ‥‥」
喜びかけた香哉にストップ、と手を差し出し、ユリディスは続ける。
「それでも武器や防具はつけられないし、荷台を引くことも出来ないわ。それなら一人だけで走るなら馬で十分じゃない? そう考える人が多いと思うわ」
「ちぇー」
香哉の夢実現は、なかなか難しそうである。
●魔法の付与
なんとか7日目までにグライダーを形にし終えた3組は、これから今回最後の課題であるゴーレム生成付与にかかる。
「そういえば、ゴーレムシップやフロートシップもやはり全体に魔法を付与するのか?」
自らの作った機体を眺めながら、ローシュが問う。
「推進機関は個別に『推進装置作成』などで魔力を付与するわね。その後魔法と職人によって組み上げて、で全体やそれぞれの機器に『精霊力集積機能』や『精霊力制御装置』などをかけるのよ」
ユリディスは職人が見本として作った機体に歩み寄り、話を続ける。
「明確に言えば一次魔力の付与に当たるのは『ゴーレム生成』魔法のみね。工房はわりと分業制で、かつ集団での製作が前提だから『ゴーレム生成』を修得していないゴーレムニストも沢山いるのよ。だから多人数が集まって、一度に実行できる作業や魔法付与は行ったりすることもあるの」
「それは‥‥以前私が問うた事への答えですね?」
アリウスの言葉にユリディスは頷く。
「ごめんなさいね、工房の説明があまり親切じゃなくて。手が開いたらもう少し判りやすく説明するように工房長に進言しておくわ」
さ、始めましょう、と彼女はパンパンと手を叩く。ここで出番となるのは『ゴーレム生成』を修得しているシュタール、雨霧、マリアだ。
マリアの組のグライダーは職人の作った見本に忠実な形に仕上がっている。
雨霧の組のグライダーは、少しばかり翼が厚くなっている。
シュタールの組のグライダーは色々悪戦苦闘した様子は見えるものの、実際に改造までは至らず、通常の形に近く仕上がっている。
「別に強制するようなものじゃないし、よかったら好きに使ってくれ」
魔法を使う三人にアリウスが差し出したのは、マジックパワーリングとアデプトリング。三人はありがたくそれらを借りて、自らの組の機体の前に立つ。他の皆も後学の為に、とその様子を真剣に見守っていた。
「じゃ、まず私からね」
ユリディスが魔法陣の上に置かれた見本のグライダーに対して詠唱を開始する。印を結んだ後に彼女の身体が淡い茶色の光に包まれ、魔法の発動を示す。
「ふぅ‥‥こんな感じ。通常詠唱の初級で良いから焦らないでゆっくりと掛けてみて」
「じゃあ俺から」
最初に手を上げたのは雨霧だ。
「門見さん、毛だらけだよ?」
「いや、ここに来る前にリリィと遊んでいたら毛がついて‥‥」
レンの言葉に自らの身体を見回す雨霧。リリィとは学園寮で飼われている子猫の名前だ。払っても払っても落ちきらぬ毛はこの際無視して、彼はゆっくりと詠唱を始める。印を組み、魔法が発動する――ように見えたのだが、残念ながら発動の光は見られなかった。
「はい、落ち着いてもう一度」
誰でも最初は失敗するもの。実際に工房にいるゴーレムニストだって失敗することがあるんだからというユリディスの励ましで、もう一度挑戦する雨霧。
「(素直なゴーレムになるように‥‥)」
そんな彼の願いを含んだ魔法は、今度は淡い茶色の光を放ち、無事に発動した。
「次は私が」
次に手を上げたのはマリア。家族の為に金を稼ぐ事を目的としてゴーレムニストになったが、現状ではその対価を得るだけの実力を持てているとはいえない。少しでも己を高めて行きたいと願うマリアの魔法は、見事に一度で成功した。
「最後はわしじゃのぅ」
最後となったシュタールが緊張して面持ちで詠唱を始める。魔法の成功率を高めるリングのおかげか、彼の魔法も一度で上手く発動してくれた。
「はい、ご苦労様。初めてにしては上出来じゃない?」
まだちゃんと飛ぶかはわからないけど。
そんなことを言いながらもユリディスの表情はいつもの微笑だ。
「次回からは各魔法の付与ですか?」
「ええ。そうなるわね。次回までには少し時間があるから、ゆっくり休んで頂戴」
梢の問いに笑顔を返し、ユリディスは一同を見回した。
こうしてグライダー製作前半は、無事に終了したのである。