【先生とお勉強】グライダー製作・後編

■シリーズシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月19日〜06月26日

リプレイ公開日:2008年06月28日

●オープニング

 さて、前回素体の作成と全体への「ゴーレム生成」付与までをこなしてもらったわけだが、その機体はゴーレムニスト学園の実習室にて魔力が十分浸透するまで大切に保管されていた。
 今の所何者かが入り込んで悪戯をしたり、破損させたりという報告は無いから、安心して欲しい。

 今回の授業は「ゴーレム生成」以外の各種魔法付与が中心となる。
 まずパーツ「推進装置」と「精霊力制御装置」に魔法「ゴーレム生成」を付与した後、「推進装置作成」と「精霊力制御装置」を付与。2つのパーツを取り付けた後、最後に仕上げとして全体に「精霊力集積機能」の魔法を付与する。
 付与する機体は前回作成した3機+見本の1機。推進装置と精霊力制御装置の素体自体は各組によって優劣が出ないように、講習が始まる前に職人の手によって作られたものが用意されている。

 今回は魔法付与が中心という事で、該当の魔法を修得している者がいない組はどうしたらいいのか、という疑問も浮かんでくるだろう。
 該当の魔法を修得している者がいない場合、精霊力制御装置に関しては工房からゴーレムニストが一人助っ人として参加してくれる。風魔法である推進装置作成と精霊力集積機能については、ユリディスが付与を行う。
 ただしそれではプロのゴーレムニストが魔法を付与した方が上手く行くのではないか、不公平ではないかという声が上がるかもしれない。どうしても参加者のみで仕上げたい、その思いもあるかもしれない。
 その場合は組を無視し、該当の魔法を修得している者が他の組の機体に魔法を付与する事が許可される。魔法を掛ける者にとっては実践の機会が増えるチャンスだ。他の組の者が了承さえすれば、手伝いに行くのも悪くは無いだろう。

 最後に簡単に機体チェックを行い、そしてテスト飛行となる。
 テスト飛行はできれば各組から一人ずつ、テスト飛行パイロットを選出してもらいたい。別にグライダーに搭乗して戦闘を行えと行っているわけではない。空に浮かぶか浮かばないか、それさえわかればいいのだ。長時間稼動させる必要は無い。よってゴーレム操縦技能と航空の知識が少しでもあれば、誰でも良いといえる。
 ただし新米ゴーレムニストたちが作ったグライダーだ。飛ぶか飛ばぬか途中で堕ちるかは飛ばしてみるまで判らない。
 新米ゴーレムニストたちの作った不安定なグライダーに試乗してくれるというやさしい鎧騎士がいれば、勇気を出して参加してもらっても構わない。本職の鎧騎士の方がグライダー操縦には長けているだろうし。
 ただし、繰り返すようだが、飛ぶか飛ばぬか途中で堕ちるかは飛ばしてみるまで判らない。
 搭乗者が見つからない場合は、ユリディスが乗ってくれるという。

●今回の参加者

 ea3446 ローシュ・フラーム(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea4426 カレン・シュタット(28歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・フランク王国)
 ea9387 シュタール・アイゼナッハ(47歳・♂・ゴーレムニスト・人間・フランク王国)
 eb2928 レン・コンスタンツェ(32歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb4637 門見 雨霧(35歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb7857 アリウス・ステライウス(52歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・メイの国)
 eb7900 結城 梢(26歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb8378 布津 香哉(30歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec2412 マリア・タクーヌス(30歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・メイの国)
 ec4322 シファ・ジェンマ(38歳・♀・鎧騎士・パラ・メイの国)

●サポート参加者

白金 銀(eb8388

●リプレイ本文

●基礎
 さて、前回に引き続き、今回もグライダーを造っていく事になる。
 初日は「推進装置」と「精霊力制御装置」へのゴーレム生成の付与。これは前回と同じく各班のゴーレム生成修得者が、魔法陣の上の装置へと魔法を掛けていく。今回は2回連続だ。
 見本機用のパーツにユリディスが魔法を掛けるのをじっと見つめる参加者達。技術と違い、見て盗めるものはあるのかわからないが、少しでも成長したい、その思いが全員の目を真剣なものとする。
 アリウス・ステライウス(eb7857)に魔法成功率の上がるリングを借り、まずはマリア・タクーヌス(ec2412)が魔法の行使を試みる。
「落ち着いてゆっくり、確実に魔法を発動させる事に集中してね」
「わかった」
 ユリディスのアドバイスに短く返事をし、マリアはゆっくりと呪文を詠唱していく。一人で出来る事には限界があるが、出来ることなら一人でさまざまなことをやりたいと考えてしまうのが常。確実に出来ることを積み重ねていく方が、結果として意味があること自体はわかっている。それでも、もどかしく思ってしまうことも多い。
「(高望みしても始まらぬ。私は、私が今できることを全力で行うとしよう)」
 マリアの魔法はゆっくりと確実に完成して行った。
「まずは何事も基本から、かのぅ」
 続いてゴーレム生成を行使するのはシュタール・アイゼナッハ(ea9387)。彼の頭の中には次の工程での創意工夫の案がひしめいているが、その前にやらなくてはならない事がある。
「(ゆっくり、確実に‥‥)」
 口の中で呟くようにしながら行使された魔法は、見事機器に宿った。
「前回同様丁寧・正確に、そして素直なゴーレムになるように」
 そんな願いを込めながら魔法を唱えるのは門見雨霧(eb4637)。沢山の人の目がある中での魔法付与に緊張したのか、前回は一度失敗しているが今回はその反省も踏まえている。ゆっくりと落ち着いて唱えられた雨霧の魔法は、彼を淡い茶色の光で包み込み、見事に発動した。


●次のステップ
 はてさて。魔法の浸透期間を置いて次の工程へ、と行きたいところなのだが、此処で問題が出てきた。今回集まったゴーレムニストたちの中に「推進装置作成」と「精霊力制御装置」と「精霊力集積機能」を修得している者が少ないという事。つまり班を維持したままではグライダーを完成させることは出来ないのだ。
 ここでユリディスが出した代案は、工房からゴーレムニスト一人とユリディス、それぞれの力を借りることが出来るというもの。希望する班に赴いて、足りない魔法を付与するということだ。だが、生徒達は先達のゴーレムニストの手を借りることを是としなかった。
「全ての工程を冒険者達で作りたければ、班を無視して他の班の手伝いに出かけても良い」
 その言葉に従い、最後まで自分達の手で作ることを決めたのだ。それでもまだ、ここに集った者達で賄えない部分があるのは仕方あるまい。


 まず「推進装置作成」と「精霊力制御装置」の付与が行われる。「推進装置作成」を修得しているのはカレン・シュタット(ea4426)一人であり、彼女が3つ分の推進装置に魔法を付与することになる。成功率を高めるためにアリウスから魔法のリングを借り、彼女は魔法陣の前に立つ。
「落ち着いて、さっき私が見せたようにすれば大丈夫」
 ユリディスは後ろからカレンの両肩に手を置き、落ち着かせるように囁く。
「はい」
 魔法を掛けてみたいけどまだまだ自分は未熟だから――でもこうして実際に物が出来ていくのを見るといろいろと思いが沸いて来るとカレンは語った。今までは魔法が使えなくて歯がゆい思いをしたけれど、魔法を使えるようになった今は早く成長したいという思いが胸を締める。
 ゆっくりと、彼女は詠唱を開始した。


「上手く行く‥‥かな?」
 精霊力制御装置を前にして呟いたのは布津香哉(eb8378)。魔法成功率の上がるリングを借りているとはいえまだまだ成功率には不安が残る。先ほど別の魔法を付与したカレンも、3回のうち1回は失敗していたのだ。自分はもっと失敗してしまうのではないか――そんな不安が沸いて来る。
「失敗したら成功するまで繰り返せばいいのよ。最初から完璧なんて誰も求めてやしないし、誰も出来やしないんだから」
 くす、と笑うユリディス。その言葉に頷いて香哉は詠唱を開始する。ゆっくりと魔法が組み立てられ、そして淡い赤い光を纏った彼――魔法は無事に発動した。
「発動した‥‥」
「じゃ、私の担当のグライダーにもお願いできるかしら?」
「え!?」
 発動の安堵に息を吐く暇も与えられず、ユリディスに引っ張られて香哉はもう1つの精霊力制御装置の前へと連れて行かれる。
 ――彼が次に魔法を成功させるまで、3回かかったのは仕方のないことだろう。


「‥‥‥」
 アリウスは右手のアデプトリングに念を込める様にして詠唱を始める。彼の前に在るのは自班の精霊力制御装置。他の仲間達も、じっと彼を見つめている。
「おおー」
 彼の身体が淡い光を放ったのを見て、誰かが声を上げた。魔法は成功したのだ。
「一発成功、さすがね」
「まだまだ初級ですから」
 パンパンと手を叩いて激励するユリディスに、アリウスは殊勝な答えを返す。
「ふむ、アリウス殿、わしの班の精霊力制御装置への魔法付与もお願いできないか?」
 ローシュ・フラーム(ea3446)の班には精霊力制御装置魔法の使い手がいない。他の班員の同意を得られた事も確認して、彼は二つ目の装置へ魔法付与を行う。こちらも1回で成功したのはいうまでもない。


「ふむ、「推進装置」と「精霊力制御装置」の組み込みは終った」
 ローシュの手によって各機体に組み込まれた装置たち。これで後は仕上げの魔法を掛けるだけとなる。ちなみにローシュは組み込みをしながらそれらの装置がどんなものであるのかを観察していた。今回魔法を修得していない自分は役立たずだと言っていたが、しっかりと次へ繋がるための研究は怠らない。それは職人魂故だろうか。
「組み立て終わった所になんなんじゃが、ユリディスさん、例の件は‥‥」
 遠慮がちに問うシュタールに、ユリディスはああ、あれね、と苦笑しながら答える。
「一応工房長に聞いてみたのだけれど、サイレントグライダーの作り方を公表して、皆に作ってもらうにはまだ時間が掛かるというのよ」
 「あれ」というのはサイレントグライダーのことである。シュタールはグライダーに浮遊機関の魔法を付与してサイレントグライダーが出来上がらないかと考えていたのだ。
「工房長の頭の中では出来上がっているみたいなのだけれど、上手くレシピとして皆に公表できるほど整理はされていないんですって」
「残念ですね‥‥」
 シュタールと同じ班で、彼の考えに賛同を示していたカレンが呟く。
「楽しみにしてたんだけどなぁ」
 同じく呟くのは香哉。ユリディスはごめんなさいね、と二人にも苦笑を向けた。
「そのうちサイレントグライダーを造ってもらう事もあると思うから、気を落とさないで今回はこのグライダー作成に専念してね。まずは基本からよ」
 彼女がぽんぽんと叩いたグライダー。そうだ、サイレントグライダーに出来なかったとしても、これが皆で協力して作った愛機に変わりはないのだ。
「そういやこのグライダーって国に納めらるのか? それともギルド預かり?」
 香哉の質問にユリディスはそうね、と一瞬だけ考え込む様子を見せて答える。
「ギルドに預けて、使用できるようになるとおもうわよ」
「それじゃ、私達の作ったグライダーが依頼で使われることもあるかもしれないんだね?」
 隅っこのテーブルでお茶とティーセットを使って魔力とパーツに見立て、前回の復習を行っていたレン・コンスタンツェ(eb2928)が顔を上げる。
「そういうことになるわね」
 そこにいた誰もが思い描く。自分達の使ったグライダーに冒険者が乗り、そして依頼を解決していく姿を。
 自分達の作ったものが形になり、そして働く姿を思い描く事により、本当にゴーレムを作る仕事についたのだと実感が沸く。
 そう、その実感を持ったからこそ更に注意しなくてはならない事もある。それは――
「先生、講義の時に、ゴーレムニストの出国は制約があるという話だったと思うけど、例えば友達やお世話になった人に会う為に一時出国したい場合、許可は下りるのかな?」
 雨霧の質問に、ユリディスは一瞬眉根を寄せた後、困ったように微笑んで答える。
「工房に毎日勤務している者ならゴーレム二ストに限らず、休暇申請の際には目的地や日程、使用する移動手段などは何らかの形で報告してから出掛けることが必須よ。世情不安定地域に向かう場合には護衛が付く――その名目で見張りが付くことなどもあるかもね」
「工房に毎日勤務しているわけじゃない冒険者の場合は‥‥?」
「講義の時に言ったとおり、貴重な人材だからできるだけ出国を留めたいのは確か。それと注意点としてはゴーレムニストであるとあちこちに触れ回らないことと、出国した場合には予定通りに帰国すること。出来ない時の連絡を必ず行うことなどね。前者は――『私は他国のゴーレムニストです』なんて他の国の工房で言ってごらんなさいな。あちらの工房での信用は最低ラインになるだけじゃなく、こちらに戻って来た時に工房に入れてもらえなくなるわよ? 下手にゴーレムニストであることを明かすと、結果、どちらからも信用されなくなるわね」
 ゴーレムニストは工房の秘密を握っている。ゆえにその命は――‥‥皆まで言わないユリディスであった。


●運命のテスト飛行
「お初にお目にかかります。鎧騎士のシファ・ジェンマと申します。この度皆様のグライダーへの試乗希望のため参りました。よろしくお願いいたします」
 一同の前で折り目正しく挨拶したのはシファ・ジェンマ(ec4322)。パラの鎧騎士である。彼女は完成したグライダーの試乗の為に来てくれた。
「シファさん、じゃあ手始めに見本に作ったグライダーからお願い」
 ユリディスに指示された機体に、シファは乗り込む。
 ちなみに最後に全体にかける「精霊力集積機能」の魔法は修得者がいなかったため、4機全てにユリディスが付与して回った。結果はいうまでも無く成功である。
「それでは、行って参ります」
 シファがグライダーを起動させる。彼女の実力を持ってすれば起動に失敗する事はほぼないだろう。そして機体はゆっくりと滑り出し、空へと舞い上がる。
「あ、飛びましたね‥‥」
 テスト飛行の順番を待つ結城梢(eb7900)が胸元で腕を組むようにしてそれを見上げている。次に飛ぶのが自分だと思うと、緊張で胸がドキドキする。
「念のためにフェアリーダストを配ったから、万が一の時もある程度は大丈夫じゃろう」
 シュタールが空を旋回し、戻ってくる機体を見て言う。
「次はわしらの班か」
「梢殿、気をつけられよ」
 ローシュが最後に機体を満遍なくチェックし、マリアが緊張しているような梢の肩を叩いた。
「操縦の方は何とかなりますが‥‥操縦中に機体の色々な部分を見ながらとなると‥‥。でも、皆さんと一緒に作った物ですから‥‥きっと大丈夫だと思いますけどね!」
 笑顔を見せ、気体に乗り込む梢。ゆっくりと慎重にグライダーを起動させ、浮かせる。この班のグライダーは基本に忠実に作られている。形は先ほど飛んだ見本のグライダーに一番近いが果たして――
「飛んだ!」
 誰かが叫んだ。梢の乗ったグライダーは上手く上昇し、くるりと旋回してみせる。勿論墜落する事など無かった。
「さて、俺達の番だな」
 梢が無事に戻ってくると、今度は香哉がグライダーに乗り込んだ。今回はサイレントグライダーを作ることこそ出来なかったが、普通のグライダーとしては満足行く仕上がりになっている、そう自負している。
「いくぜ!」
 自分で作った初めてのグライダーだ。自分達で作ったグライダーはきちんと飛ぶんだという自信をつけたい、そんな思いを籠めて香哉は機体を浮かせる。その様子を同じ班のシュタールとカレンは固唾を呑んで見守った。
 滑らかな滑り出しで機体が高度を上げていく――飛んだ!
 香哉が片手でガッツポーズを作るのが見える。無事に着陸できたら、今度は他の人を後ろに乗せて飛ぼう、他の人にも空を飛ぶ気分を味わってもらいたい、彼はそう感じていた。
「さて、最後は僕達だけど。僕よりシファさんの方がゴーレムの扱いにはなれていると思うから、シファさんにお願いしようと思う」
 雨霧がテストパイロットを辞退したので、この班のテストはシファが行うことになった。雨霧は双眼鏡を用意していたので、それで同じ班のレンやアリウスと飛んだグライダーの様子を確認することにする。
「少し、機体が重い感じがしますね」
 機体を起動させつつシファが言う。この班のグライダーは確か翼が少し厚くなっていたはずだ。
「翼を厚くした分、搭載できる限界量もかわっちゃったかな?」
 レンの問いにユリディスはたぶんね、と答える。
「だが、二人乗りできぬほどの変化ではないだろう」
 アリウスの言うとおり。少しばかり翼が厚くなっただけであり、二人乗りが出来なくなったわけではない。
「では、行って参ります」
 シファが滑らかに機体を発進させ、そして飛んだ。雨霧たちは双眼鏡でそのグライダーが飛ぶ様子を眺める。
「せんせー、俺達も二人乗りで飛んでいい?」
 待ちきれなくなったように香哉が問いかける。後部座席にはカレンが乗り込んでいた。
「気持ちはわかるけど、ちょっとだけ待ってね。王宮の敷地内でグライダー同士が衝突して墜落、なんて嫌でしょう?」
 ユリディスが笑って少しばかり冗談を漏らす。

 こうして新米ゴーレムニストたちの作った3機と見本として作られた1機のグライダーが、新たに冒険者ギルドに配置されたのである。
 新米ゴーレムニストたちの初めての作品といえるそれらは、十分に実用に耐えうるものとなった。