【開発計画】昇降用簡易グライダー・1

■シリーズシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月26日〜07月03日

リプレイ公開日:2008年07月03日

●オープニング

 『昇降用簡易グライダー(仮)』とは何ぞや?

 ユリディスによれば、フロートシップから迅速に地上戦力を下ろすための装置だという。
 ゴーレムを昇降させる装置を作るには、機体固定の問題やスペースの問題、その装置を動かす鎧騎士が座する場所の問題などで実現は難しくあるが、地上戦力――つまり白兵戦を行う人間を下ろすためのものならあるいは、という考えに至ったらしい。
 これはゴーレムや人員を下ろす際にフロートシップを停泊させると、敵の的になりやすいから何とかならないものか、という冒険者何人かからの相談により検討に至った装置だ。クリアしなければならない問題は多々あれど、ゴーレムを昇降させる装置よりは実現に近い代物らしい。
 ユリディスが工房長に相談した所、現在の技術と魔法的には多分可能だろう、という。挑戦した者はいないらしいが。

 具体的にどういうものかというと、チャリオットが垂直移動できて、フロートシップと地上を行き来するものだと考えてもらえれば簡単かもしれない。
 飛ぶというより浮かぶというものであることから、航空知識に乏しい鎧騎士でも操作できるものが望ましい。
 フロートシップを止めずに、兵士を乗せた昇降用簡易グライダー(仮)を起動させ、歩兵戦力を迅速に地上まで搬送する、それが目的だ。

 ただいくつか問題点がある。
 第一に大きさと形状、搭載量。フロートシップに搭載可能であり、かつ操作する鎧騎士1名の操縦席は確保する事。そして後部に兵士数名を乗せられる大きさと形状。何名程度の兵士を乗せることを想定するか、それによって大きさも変わってくる。沢山乗せられれば良いというものでもないだろう。

 第二に速度。フロートシップを止めずに発進できるとはいえ、その速度が遅ければフロートシップに代わり昇降用簡易グライダー(仮)が狙い撃ちされる。検討課題の一つだ。

 第三に操作性。ゴーレムグライダーやチャリオットの操作は航空や地上車の知識がある方が望ましい。だがこの昇降用簡易グライダー(仮)はフロートシップから地上まで兵士を運ぶだけの装置。特に戦闘を想定しているものではない。兵士を下ろした後は再びシップへ戻るのだろう。故に、特別知識を持たないものでもゴーレム操縦が可能な者ならば誰でも操作可能なものにしたいところだ。


 第四に名前。「昇降用簡易グライダー(仮)」と連呼してきたが、これは名称が決定していないだけで。何か呼びやすく、相応しい名前があれば提案してもらいたい。まあこれについては概要が決まってからでも構わない。

 使用できそうなゴーレム魔法としては地のゴーレム生成、浮遊機関、火の精霊力制御装置、風の推進装置作成、精霊力集積機能(風)などだろうか。他にも使えそうなものがあれば提案してもらって構わない。

 素材に関しては、基本はウッドで考えられているが、これも研究課題の1つだろう。

 今回の人材募集は、ゴーレムニストに限定はしない。
 アイデアのある者、やる気のある者ならば来るもの拒まず、だ。
 ただしグライダーとチャリオットのいいとこどりをするとはいえ全く新規の開発となる。一朝一夕で出来るものではなく、根気の要る作業となることは覚悟してもらいたい。

●今回の参加者

 ea4426 カレン・シュタット(28歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・フランク王国)
 eb2928 レン・コンスタンツェ(32歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb7900 結城 梢(26歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb8378 布津 香哉(30歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb8388 白金 銀(48歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

シュタール・アイゼナッハ(ea9387

●リプレイ本文

●案出し
 昇降用簡易グライダー。名前だけ聞いて、人はどんなものを想像するだろうか?
 その名の通りグライダー? それともフロートシップの様なもの? はたまたもっと別の何か?


 ゴーレムニスト学園の一室には長机が置かれ、その両端には幾つもの椅子が並べられていた。そこはさながら会議室。ユリディスは一人一人にハーブティの入ったカップを配り、銀のプレートに蜂蜜漬けのフルーツと食用の花、そして砂糖を使った焼き菓子を並べて集まった冒険者達の前に差し出した。甘味が貴重な中、随分と奮発したものである。
「甘い物を食べた方が、頭の回転が良くなるのですって」
 ティーカップを傾けた彼女の一言。それを許可ととった一同も、それぞれカップや菓子に手をつける。
 そう、今回集まった冒険者たちにやってもらうのは力仕事よりはアイデア出し。頭を使う仕事なのだ。各人の前には現存するグライダーやチャリオット、フロートシップなどの絵と搭載限界量やその他色々が書き込まれた羊皮紙が配られている。何も記入されていない羊皮紙と筆記用具までも用意されているのは、これからの会議で思いついたことをメモしろということだろう。
「さて、何処から始めようかしら。一応私達の目指すべき方向は話してあると思うのだけれど。各人のアイデアを聞くところから始めましょうか?」
 テーブルの上に肘を突き、掌の上に顎を乗せるという少し行儀の悪い格好をしながら、彼女は集まった面々を見つめる。
「要はエレベーターもしくはリフトですね‥‥」
 カップを両手で持ちながらぽそりと呟いたのは、結城梢(eb7900)。天界出身のゴーレムニストだ。
「『えれべーたー』? 『りふと』?」
 だがその言葉はこちらの世界ではスムーズに通用しない。地球人である布津香哉(eb8378)と白金銀(eb8388)はすぐにその器具を思い浮かべる事が出来たようだが、他の面子、特にユリディスに通じていないのでは何にもならない。
「えーとですね‥‥」
 梢は何も書かれていない羊皮紙に、すらすらと絵を描いていく。縦長の箱状の物体が紐で繋がれ、上に滑車の様なものが描かれる。紐はその滑車を通り、下に降りていき――。
「地球におけるエレベーターの駆動方式にはロープ式と油圧式とあるのですが‥‥まぁロープで動かすのが無難でしょうねぇ」
「滑車を使った巻き上げ機ならば、見たことがあるわ。あんまり大きなものを持ち上げていたわけじゃないけれど。この『えれべーたー』、まさか人力で持ち上げているんじゃないわよね?」
「も、もちろんです。ロープの巻き上げには電動機という機械が用いられています。この電動機が置けなかったり、荷物用のものには油圧ジャッキ式のものが用いられる事もあります。ロープの反対側におもりを使用したり、あと昔は蒸気機関を利用していたものも‥‥」
 梢の言葉はユリディスの上げた掌によって遮られる。ストップ、そういう意味だ。
「『でんどうき』とやらも『ゆあつじゃっき』というのも『じょうききかん』というのも恐らくここでは再現不可能だと思われるわ。だとすると実現可能なラインは滑車だけど、問題は――」
「ロープの強度‥‥ですかね」
「そうね。あとこの形式だと、引っ張り上げる人手はいるけれど、操縦する鎧騎士は必要ないわよね? ただ上下する機器だったら、ゴーレム機器にする必要はあまりないわ」
 そうなのだ、今回はゴーレム機器の開発会議だ。ただ上下する乗降装置がほしいわけではない。
「でも参考になったわ、有難う」
 ユリディスは梢に労いの言葉をかけ、次の発言者を待つ。
「とりあえず目的に近いものをいくつか製造して、改修しながら完成にこぎつけるって感じだと思うんだ」
 次に手を上げたのはレン・コンスタンツェ(eb2928)。ゴーレム機器の応用に関して意欲旺盛なゴーレムニストである。
「その開発初期の、物足りない製品も好評な部分があるのなら、要塞に取り付けてさっき梢さんが言ったみたいなエレベーターにするとか、チャリオットで引っ張る牽引用トレーラーにするとか」
「そうね。でもそれは完成品が出来てからのお話。レンさんの意見は?」
「まずは既存のものを大型化までは前提かな。人数もあるけどサイズで集められる精霊力も変わるみたいだから。でもあんまり大きくしてもフロートシップに搭載できなかったり、必要精神力が多くなりすぎて気絶墜落は避けたいかな」
 と前置きしてレンは続ける。
「まず1つ目、グライダーベースに移動力を積載量に偏重して振り替えたもの。これは操縦士除いてフル装備5名程度を想定。欠点は中途半端なこと。救助や冒険者輸送には問題ないけど」
「そうね。普通の兵士を下ろすには複数回行き来するか、複数台用意する必要が有るわ。その分ゴーレムを一台増やした方が良いかもしれないわね。でも少数精鋭――冒険者を下ろすためだけならば良い案だと思うわ。馬に騎乗した騎士も乗せられるとなおよしというところね」
 ユリディスの意見を聞いた後、レンは指を2本立てる。
「2つ目は、前にどこかの依頼で見た兵員輸送用チャリオットを浮遊能力重視で。こっちは10名以上を想定。欠点は高度を稼げないか安全に前後へ動けない可能性があること」
「兵員輸送用チャリオットとやらを私は確認していないのだけれど、聞いたところによると通常のゴーレムチャリオットより人が沢山乗りやすいように作られているようね。チャリオットをベースに、それを飛べるようにするのは今の所一番実用的に思われるものよね」
 そうだった、ユリディスは数年旅に出ていて、近年の新機については知らないことがあるのだ。最も基本的なものについてはしっかり学んではあるが。
「ちなみにチャリオット程度の大きさを動かすために必要な浮遊力を付与するには、専門的なゴーレム魔法の知識が必要よ。フロートシップになるとそれ以上ね」
「3つ目は最初からチャリオットとグライダーの組み合わせ。‥‥これは初めて作るものだし、恐らくバランスのおかしいものが出来上がるよ」
「それは‥‥チャリオットにグライダーの様な翼をつけてって意味での『組み合わせ』?」
「場合によってはそういうことになると思うよ」
 レンは顎に手を当てて考え込むようにしながら続けた。
「この場合搭載人数は想定せずに、装甲追加を見据えて積載実験・強度試験を兼ねたテスト用とかにね。どうなるかは正直想像つかない」
 ふとカレン・シュタット(ea4426)を見ると、彼女は梢やレンの意見を元にしながら何かを羊皮紙に書き込んでいた。どうやら設計の知識を生かして、バランスなどを考えてみているらしい。
「俺はチャリオットベースで今回は考えてみた」
 続いて口を開いたのは香哉。
「まずは形だな。海の生物のエイみたいといえば分かりは良いだろうか?」
 香哉は羊皮紙にそれらしい平べったい物体を描いてみせる。
「平べったくして滑空できるようにした方が人員が乗るスペースも確保できるかと思って。後は底に鉄板を貼り付けて弓矢からの被弾耐性を高めて、推進装置を上昇下降の離着陸と滑空中の姿勢制御に使い、着地の衝撃を緩和させるために板バネとかスプリングサスペンションとかあった方がいいだろうな」
「鉄をつけるとなると、機体が重くなってその代わり積載量は落ちるんじゃないかしら。あと‥‥『板ばね』と『すぷりんぐさすぺんしょん』の説明をお願い」
「それは実際に見せたほうが手っ取り早いかな?」
 香哉は実習室から丁度よさそうな銅の細い棒を持ち出してきた。何が始まるのかと思えば彼が唱えたのはヒートハンドの呪文。その灼熱の手で熱された銅の細い棒は線状にまで細くされ、彼の思い通りに曲げられていく。くるくるくるくる‥‥螺旋状にだ。
「これを下につけて、衝撃を緩和するんだ」
 香哉が出来上がったバネの上に手を乗せて、そして手を離すとぴょんっと縮んだバネは跳ねて元に戻った。
「着地の衝撃緩和を考えたのは‥‥航空知識のない者でも安全に操縦できるため?」
 確かに懸案事項の中に「航空知識や地上車知識のない者でも容易に操縦できること」というものがあった。航空知識のある者なら着地もお手の物だろうが、それ以外の者では着地時に衝撃を与えてしまう事が考えられる。
「まぁ、そういうこと」
 天界で学んでた機械類が恋しくなるなぁなどと心中で考える香哉。先ほどの梢のエレベーターの説明も、天界の機械があれば簡単なのに、とか思ったりして。
 でもこちらの世界は電源がない。となれば機械があっても動かない。難しい所だ。
「一部とはいえ鉄が空を飛ぶ‥‥ね」
「加工次第では飛ぶと思うんだ。やってみないとわからないけど」
 実際地球では鉄の乗り物が空を飛んでいるという。鉄の船が海を走っているという。この世界の人々にとっては考えにくい事だが、そういう世界もあるのならば、もしかしたら出来るかもしれないと望みを抱くのは間違いではないだろう。
「私はシュタールさんに色々と話を伺ったのですが」
 続けて口を開いたのは銀だ。彼のサポートとして訪れたシュタール・アイゼナッハもその隣に座っている。
「チャリオットに空中での推進装置、精霊力集積機能(風)をつけ、必要なら精霊力制御装置を取り付けるというのを考えました。利点は輸送能力の確保が容易ということで、問題点としては空中での安定性――これには乗員の安全性を含みます――が低くなりそうなことと、チャリオットの操縦手の確保が問題になります」
「んー‥‥全てのゴーレム機器には精霊力集積機能がついているの。それとチャリオットには元々小型の精霊力制御装置が搭載されているの。小型のゴーレムシップやフロートシップになるともう少し大き目のがね」
 ユリディスはくす、と小さく微笑んで続ける。ゴーレムニストでない銀がゴーレム機器に詳しくないのは仕方のないことと思っているようだ。
「推進装置に目をつけたのは良いかもしれないわね。フロートシップにはシップの大きさによってサイズは異なるけど、グライダーに搭載されているような送風管が搭載されているの」
 続きをどうぞ、と彼女が促すと、銀は頷いて続けた。
「次はグライダーに浮遊機関を付与し、地上付近での安定性を高め、輸送能力も向上させての使用です。利点は空中での機動性の確保が比較的容易で、乗員も現在養成中の人員が育って教官を務めれば確保が容易になります。欠点は輸送量の向上と、それに伴う耐久力の確保が難しいことです」
「着眼点は悪くないわ。フロートシップにも浮遊機関は使われているの。けれども『乗員を養成する』という部分は今回の主旨からは外れるわね。今回は『航空や地上車などの特別な知識がなくても稼動させられるものを作ること』よ。大型船舶もそこに入るわね。はっきり言うと、人型ゴーレムにしか乗ることの出来ない兵士でも簡単に稼動させられるものを目指しているわ。実際戦場でその機器を使える人がいなければ、宝の持ち腐れでしょう?」
 ユリディスの指摘に、銀は「うぅむ」と唸ってみせたが、まだ諦める様子は見せない。そうでなければ開発企画になど携われないだろう。新規のものを作り出すということは、簡単なことではない。持ち寄った案が全て却下されたとしても、諦めないでそこからまた新しい案をひねり出す、その根性と発想力がなければ勤まらない。
「‥‥いっそのこと、F5型のコンテナ部分を切り離しするような輸送ユニットを作り、それに簡単な浮遊機関と制御装置と装甲を取り付けて降下させる方法もありでしょうか?」
 これにはユリディスが目を丸くし、そして笑った。馬鹿にしたのではない。その発想力が面白いと思ったのだ。
「F5型って5型輸送艦のことよね? あのコンテナは人型ゴーレムを乗せるスペースだから‥‥それを船体から切り離したら、残されたフロートシップは凄い事になりそうよ? バランスを始めとして。それにそれだと、フロートシップから作り直さないとならないわね」
「そうですよねぇ‥‥」
 発想力は買うわ、といわれたがやはり少しがくりと肩を下ろす銀。
「なかなか難しいものですねぇ‥‥」
 梢が焼き菓子をぱくり、と口に入れながら呟く。そう、一筋縄では行かないのが開発。
「つまり」
 そこで口を開いたのは、今まで黙って色々と羊皮紙にメモを取り続けていたカレンだ。ハーブティの入ったカップや菓子などをつまんで一息つこうとしていた一同が、それらを片手に彼女に注目する。
「グライダーとチャリオットを合わせたものということは、機能としてはフロートシップのようなものが求められているのであって。それがどこまで小型化され、かつ積載量を確保して移動速度も確保できるかが問題というわけですね?」
 カレンの言葉に、ハーブティで喉を潤したユリディスが「そうね」と頷く。
「フロートシップとチャリオットの中間くらいの浮遊機関を持っていて、その大きさに合ったサイズの精霊力制御装置を載せて、グライダーやフロートシップについている送風管をつけて推進装置をつける。これだけで結構な重さね」
「それに機体自体の重さと、操縦士の重さと、運ぶ兵士の重さを加えて‥‥」
 レンがはちみつ漬けの花を口にしながら計算するように天井を見上げた。
「それだけのものが置けるサイズ、浮かぶサイズで作らないといけませんね」
 銀が腕を組み、うぅむ、と唸る。
「確かチャリオットには風信器がついていましたよね? あれを外せば積載量が増えるのではないでしょうか」
 確かにグライダーには積載量の関係で風信器は乗っていないが、チャリオットには乗せられている。この昇降用簡易グライダー(仮)の目的はフロートシップから地上、地上からフロートシップの行き来であるからして、風信器はなくても問題はないかもしれない。これを乗せないで済むとなると、それなりに重量削減にはなる。
「確かにね。通信する必要がなければただの無駄な箱。取り外してしまっても問題ないと思うわ」
 カレンの言葉にユリディスは頷いてみせる。
 ただし、本艦(フロートシップ)との通信が必要になる場合が出ないとも限らない。確実に「外してしまっても良い」とは断言しにくい内容だ。
「今日はこれまでにしましょう。浮かび上がった問題点などを元に、各自また案を練ってきて頂戴」
 ぱさり、と自分の前に広がった羊皮紙を纏めてユリディスが席を立つ。
「この後は自由にして良いわよ。自室に帰るもよし、このままここでもう少し意見を交わすもよし」
 また、あしたね、と軽い調子で言ってユリディスは部屋を出た。自分がいない方が自由に気軽に案を交し合えるのではないかと思ったからだった。


●煮詰まり
 次の日ユリディスが昨日の部屋を訪れると、すでに全員が揃って何か議論を交わしているようだった。
「おはよう」
 そんなことは構わずに飄々と入室してきたユリディスに一番最初に駆け寄ってきたのは香哉である。
「質問! ゴーレム魔法って木と鉄とかの複合物にも有効だったっけ?」
「それは混ざり物という意味じゃないわよね‥‥。木で出来た部品と鉄で出来た部品を組み合わせた機器にも有効かってこと?」
「そう、そういうこと。可能だとしても、割合によってはどっちかに魔法が優先されて効いたりするの?」
 木と鉄の混合で昇降用簡易グライダー(仮)を作ろうとしている香哉らしい質問だ。ユリディスは自身も席につき、彼にも席につくよう指し示しながら答える。
「例えば木と鉄で組み立てたものにゴーレム魔法を掛けてゴーレム化させた場合、素材の一種類にしか付与されないわ。分かりやすく言うと、木と金属だと金属の方が先に魔法付与されるの。そこで魔法のかかった金属は大きく膨張するから、あらかじめ木と組み合わせてあった場合、木の部分が破損するわね」
「ということは、金属の膨張後のサイズも考えて木の部分を作らなくちゃいけないということ?」
 香哉の問いにユリディスは頷いてみせる。
「金属も種類によっては膨張率が違うから。だから普通はゴーレム生成などの魔法を付与した後に各素材を物理的に組み合わせて、その後最終調整をするの」
 彼女は未使用の羊皮紙をテーブルの中心に置き、他のメンバーにも見やすいようにしてペンを取る。そしてフロートシップと思われる船を描いた。
「フロートシップで例えれば、送風管や浮遊装置、風信器を作った後、ゴーレム化した船に取り付けて調整するの」
 フロートシップと思われる絵の横に送風管や風信器、浮遊装置らしい絵が描かれ、それが矢印でフロートシップにつなげられる。説明の通り、個別で作ってから積み込む、それを現しているのだろう。
「人型ゴーレムでも素体完成後に鍛冶師たちが鎧や剣やらを別に作って調整するでしょう? これは素体が膨張するからなのよ。膨張した後の素体に合わせて鎧やら剣やらを作らないとならないでしょう? だからこういう工程になるの」
「だからゴーレム作成にはかなりの日数が掛かるんだね」
 レンが頷く。確かゴーレム魔法を掛けてから素体の膨張が終るまでにも日数が掛かったはずだ。ゴーレムが一朝一夕では出来ないということが、よくわかる。
「ところで、普通のチャリオットの全長は6mで重さは0.5t。搭載力は500EP。これで武装した兵士を5.6名乗せることが可能との事ですが、これに推進装置として送風管を載せると場所もとりますし、搭載力も減りますよね?」
「ええ、そうね。昨日の話にあったみたいに風信器を削る事も出来るけれど」
 銀の言葉にポットからハーブティを注ぎながら答えるユリディス。
「一番小さいフロートシップの全長はどのくらいですか?」
 どれくらいの大きさまで昇降用簡易グライダー(仮)を拡大できるかを知るためだろう、カレンが尋ねてくる。
「そうね‥‥多分50m位じゃないかしら」
「推進装置として送風管つけて、精霊力制御装置つけて、浮遊機関をつけて、それで人が何人か乗って上下左右に自在に動ける装置の限界の大きさってどのくらいなのでしょう‥‥?」
「さぁ?」
 梢の質問にユリディスは首を傾げて答える。試した事がないのだから、わからなくても仕方あるまい。
「やはり、何か一つ目標みたいなものがないとやりづらいですね」
 カレンがふぅ、と大きく溜息をついた。確かに上を見始めればキリがないだろう。
「分かったわ。じゃあこうしましょう」
 ユリディスが立ち上がり、パンパン、と手を叩いて自分に注目を集める。
「装置のサイズはフロートシップの甲板に乗るサイズ。搭載力は武装した兵士+操縦者で8人程度が乗れるくらい。風信器の有無は問わないわ。チャリオットのサイズと一番小さなフロートシップのサイズを参考にして、大きさを考えて頂戴。また、素材は基本はウッドで考えてみて。それ以外のオプションをつけたい場合は、機体の重さに注意して考える事」
 『それ以外のオプション』のところでユリディスはちらっと香哉を見る。香哉はそれに頷いて見せた。
「実際に設計図を引いてみて、バランスやその他を計算してみましょう」
 カレンが大きな羊皮紙を広げ、ペンを持つ。
「先生、実際に作ってみないとわからないこともあると思うんだよ」
 レンの言葉にユリディスは「わかっているわ」と頷いた。
「次回以降、作業室の方にそれなりの道具と材料を用意しておくわ。だから試作品の大体の大きさを決めて、必要な材料をリストアップして頂戴。次回は職人も呼んでみないとね」
 実際、ユリディスにとってもこれは手探りの作業だ。機体が上手く出来ても、ゴーレム魔法が上手く作用するかが分からない。
 グライダーやチャリオットに付与できる大体の熟練度、フロートシップにまで付与できる大体の熟練度、それらは分かっているが、その中間の物体にはどれくらいの魔法を掛けたら良いのかが分からないのだ。
 しかも送風管や推進装置、精霊力制御装置なども機体の大きさに合ったサイズで作らなくてはならない。これは今までの様な「なんとなくこんなのが出来上がる」というような完成予想図の設計図では埒が明かない。綿密な計算が必要になりそうな作業だ。

 何はともあれ今回の案出しで、それなりの方向性は固まったといえる。
 だがこの方向性もあくまで「第一次」であり、これがダメなら第二次第三次の案が必要となってくる。
 完成まではとてもとても長い道のりだろう。
 それでも研究者達は歩みを止めることはしない。歩き出してしまったのだから。