【開発計画】昇降用簡易グライダー・2

■シリーズシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月11日〜09月18日

リプレイ公開日:2008年09月19日

●オープニング

 『昇降用簡易グライダー(仮)』とは何ぞや?

 ユリディスによれば、フロートシップから迅速に地上戦力を下ろすための装置だという。
 ゴーレムを昇降させる装置を作るには、機体固定の問題やスペースの問題、その装置を動かす鎧騎士が座する場所の問題などで実現は難しくあるが、地上戦力――つまり白兵戦を行う人間を下ろすためのものならあるいは、という考えに至ったらしい。
 これはゴーレムや人員を下ろす際にフロートシップを停泊させると、敵の的になりやすいから何とかならないものか、という冒険者何人かからの相談により検討に至った装置だ。クリアしなければならない問題は多々あれど、ゴーレムを昇降させる装置よりは実現に近い代物らしい。
 ユリディスが工房長に相談した所、現在の技術と魔法的には多分可能だろう、という。挑戦した者はいないらしいが。

 具体的にどういうものかというと、チャリオットが垂直移動できて、フロートシップと地上を行き来するものだと考えてもらえれば簡単かもしれない。
 飛ぶというより浮かぶというものであることから、航空知識に乏しい鎧騎士でも操作できるものが望ましい。
 フロートシップを止めずに、兵士を乗せた昇降用簡易グライダー(仮)を起動させ、歩兵戦力を迅速に地上まで搬送する、それが目的だ。

「でも、動いているフロートシップから兵士達を乗せた機体を飛び立たせるには、やっぱり多少なりとも航空知識が必要なんじゃないですか?」
「そう? やっぱりそう思う?」
 工房員の問いかけに、渋い顔を見せるユリディス。確かにフロートシップを止めずに兵士達を乗せた機体を飛び立たせるのはグライダーの応用であり、高空飛行しないとはいえちょっと技術が必要になるかもしれない。
「難しいわねぇ。稼動イメージとしてはあれよ、あの、空飛ぶ魔法の絨毯があるじゃない? あれに沢山人が乗れるようになって、フロートシップから飛び立って前にも後ろにも上下にも進めるという感じ」
 前回決まった大まかな指針をメモした羊皮紙を手に、彼女は小さく呟いた。

・サイズ‥‥フロートシップの甲板にのるサイズ。一番小さなフロートシップの全長は50m位
・搭載力‥‥武装した兵士+操縦者で8人程度が乗れるくらいが目標
・素材‥‥基本はウッド
・風信器‥‥つけると重くなるため、有無は問わない。携帯型風信器を使うという手もある
・オプション‥‥機体の重さに注意して考える事
・必須機関‥‥推進装置として送風管、精霊力制御装置、浮遊機関
・懸案事項‥‥着陸時の衝撃、狙い撃ちされないよう素早い動き
・参考‥‥普通のチャリオットの全長は6mで重さは0.5t。搭載力は500EP。これで武装した兵士を5.6名乗せることが可能。ただ推進装置として送風管を載せると場所もとるし、搭載力も減る

 今回は試作品の大体の大きさを決めて、必要な材料をリストアップしてもらう。必要な職人は呼んで、実際に皆で基礎を製作してみようということだ。
 送風管や推進装置、精霊力制御装置なども機体の大きさに合ったサイズで作らなくてはならない。そう、まずは機体の完成予想サイズを大体だが決めること。
 試作品ゆえ操作性はこの際横においておく。とりあえず形が見えてこない事には話にならないからだ。
 後は自分の技術、知識と相談してできる事を考え出して欲しい。
 新しいところから何かを作り出すという事は難しい。だがやりがいがあるのは事実。
 がんばってほしい。

「あ、あといい加減仮でもいいから呼びやすい名前を決めたいわね」
 「昇降用簡易グライダー(仮)」はちょっと長いので、何か仮称でも決めてもらえるとありがたい。


 今回の人材募集は、ゴーレムニストに限定はしない。
 アイデアのある者、やる気のある者ならば来るもの拒まず、だ。
 ただしグライダーとチャリオットのいいとこどりをするとはいえ全く新規の開発となる。一朝一夕で出来るものではなく、根気の要る作業となることは覚悟してもらいたい。

●今回の参加者

 ea4426 カレン・シュタット(28歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・フランク王国)
 eb2928 レン・コンスタンツェ(32歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb8378 布津 香哉(30歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb8388 白金 銀(48歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 ec5196 鷹栖 冴子(40歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))

●サポート参加者

レフェツィア・セヴェナ(ea0356)/ シュタール・アイゼナッハ(ea9387

●リプレイ本文


 まだ暑さの残る陽気だが、窓を開け放っていればそれなりに涼しい風は吹き込んでくる。ゴーレムニスト学園施設の宿舎に近い中庭では、猫のリリィがのんびりと昼寝をしているようだ。
 そんな中、施設内で頭をつき合わせているのがゴーレムニストのユリディスと、冒険者達。新しいゴーレム機器を作成中だ。
「とりあえず、8mと12mで作ってみて、最適な大きさを見つけたいんだよー」
 できるかな? と許可を求めるのはレン・コンスタンツェ(eb2928)。
「通常のフロートチャリオットは完成までだいたい10日位かかるのよ。素体の作成に時間がかかるから‥‥今回の期間内では頑張ってもどちらか片方しか無理ね。どう、8mは通常のチャリオットを少しいじるだけだし、12mの方を作ってみるのは。頼りになる技術者さんも増えたし。もう片方は次回の集まりまでに作っておいて貰うから」
 と、ユリディスが見たのは鷹栖冴子(ec5196)。どうやら彼女は地球の大工さんらしい。
「おタカって呼んどくれ。すまないねェ、ジルベールの姐さん。あたいみたいな門外漢が依頼を受けちまって」
 恐縮する冴子だが、ユリディスは全く気にした様子はない。むしろ歓迎だ。細かに採寸した設計図を引くことの少ないこの世界では、逆に細部まで採寸して細かく計算して図面を作り出す地球人の能力は貴重だ。アトランティス人にはしっかりと図面を引くという概念は今までなかった。出来上がり予定図を絵にして、それに近づけるように作業する‥‥そんな感じ。
「けどさ、この新型が上手く軌道に乗ればあたいの夢の実現にも近づきそうなのさ」
「夢?」
 不思議そうに聞き返したユリディスに、冴子は揚々と答える。
「非戦闘用・土木作業用ゴーレムの開発運用さね!」
 なるほど。バという敵対国があり、戦争を続けている現在はやはり戦争投入用のゴーレム機器の生産が優先され、非戦闘用のゴーレム生産は後回し‥‥というかそちらを作っている余裕はない状況だ。だが、いずれ平和が訪れれば戦争兵器よりそうでないものの方が重宝されるだろう。彼女の夢は、そんな未来を見据えている。
「じゃあまずは本物のチャリオットの見学、行ってみる? それを採寸して12mの方の寸法を計算して、膨張率を頭に入れて各パーツのサイズを求めたり‥‥できる?」
 ユリディスの問いに、白金銀(eb8388)の手伝いに来たシュタール・アイゼナッハを含め、全員が頷く。皆設計の知識はそれなりにある。その上地球人が三人もいるのだ。細かな図面を引くのに十分な人材がそろっているといえる。他の者も彼らに倣っていけば、細かな図面を引くことにすぐに慣れるだろう。ちなみに膨張率云々の予想は勿論、ゴーレムニストであるレンやカレン・シュタット(ea4426)、布津香哉(eb8378)、そしてシュタールたちの出番。彼らの経験の少ない金属分野はユリディスが補佐をする。

 彼らが向かったのはゴーレム工房の片隅、完成したチャリオットの置かれているブースだ。
「そうだ、こういう開発って工房の外部局みたいなものになるの?」
 既にチャリオットの採寸やそのデータのメモを始めた仲間をよそに、香哉が尋ねる。するとユリディスは少し考えるようにして口を開いた。
「工房内の昇降用簡易グライダー(仮)の研究班に外部から客員を招いているって感じよ。研究班といっても、私だけだけれど。まぁ、時々他のゴーレムニストの意見を聞いたり、技術者に応援に来てもらうけれどね」
 ユリディスはチャリオットの近くで冴子の質問に答えている技術者を指す。彼は今回の開発のため、チャリオットの構造を説明してくれていた。ついでに実物作成にも手を貸してくれるという。
「とりあえず採寸と、計算と、設計図作成をお願い。今日一日かかってもいいわ。それができてから、色々考えましょう」
 カツンとヒールの音を立てて、ユリディスもチャリオットの周りの冒険者達へと近づいていった。



「うーん」
 ぱく‥‥もぐもぐ。
 香哉の差し入れのリコリスのクッキーを戴きつつ、テーブルに広げた設計図を眺める一同。一応昨日のうちに何とか設計図を作り、その複製した一枚を持って冴子は技術者と共に学園の実習室で12mのチャリオット製作を始めている。とりあえず、大部分を占める木製の部分から。
「名前‥‥ですか」
 カレンがティーカップを傾けながら悩むように首を傾げる。
「『サドルバック』とか『サンダル』でいいと思いマース。兵器にロマン求めても仕方ないので」
 パキッ。クッキーを咥えて折るのはレン。そう、今はこの「昇降用簡易グライダー(仮)」という長ったらしい名前を何とかするべく、設計図とにらめっこが行われていた。
 完成形はなんとなく、チャリオットの大きい奴だろうなーと見えてきたところだが果たして。
「仮称ね。元いた世界で一番売れていた本の中にあった、ヤコブって人が夢に見た、天から地に至る梯子から取って『ジェイコブズ・ラダー』とか」
「布津さん、ちょっと長くないですか?」
 銀に指摘されて香哉が思い返してみれば、確かにちょっと長いかもしれない。
「じゃあレンさんの意見を貰って、『サドルバック』にしてみる?」
 ユリディスが選択した事に特に反対の声も上がらず、仮称は『サドルバック』になったようだ。


「提案なんですけど」
 手を上げたのは銀だ。テーブルの下からみゃお、と小さな鳴き声がそれに挟まる。煮詰まった頭を解すために寮から連れてきた猫のリリィを香哉が足であしらっていた。
「着地時の衝撃を抑えるために、下向きに噴射する送風管を設置してはどうでしょうか? できるならば送風管の向きを逆にするとか」
「それは‥‥現在できる以上の風を送るという事かしら?」
「え?」
 ユリディスの言葉に銀が首を傾げる。
「今もね、現在でも浮き上がるときに補助的に風は送っているの。でも着陸時の衝撃緩和が目的ってことならば、もっと強い風が必要でしょう? それを作るとしたら、新しく技術を開発しなくてはならないわ」
「なるほど」
「ちなみに可変式は‥‥設計図引いて試してみるしかないわね。ただしそれなりの設計の知識は必要。香哉さん位以上は最低でも必要ね」
「で、では、乗員の風の影響を抑えるため、キャノピーみたいなものを取り付けできませんか?」
 銀によればキャノピーとは、地球の飛行機などの操縦席の周りを覆うものらしい。
「んー‥‥視界を遮らない素材がないと難しいわ。透明なガラスとか透明な‥‥なんていったかしら、プラスチック? そういうのでないと視界を確保する事が困難になるじゃない?」
「うーん、難しいですね」
 地球の知識はあるが、こちらの技術や素材が追いつかない。それは香哉の提案したスプリングについてもそうだった。
「この間のスプリング、考えてみたのだけれど」
 前回香哉が作って見せたスプリング、あれを着陸時の衝撃緩和にどうかということだったんだが。
「チャリオット自体の重量は、標準で約0.5t。それを大きくする上に乗組員が乗るともっと重くなるわ。その重さを受け止めるスプリングの作成は、こちらの素材と技術じゃ無理みたい」
 軽いものを受け止めるには面白い案だったのだけど、とユリディスが告げれば、香哉もがっかりした顔を浮かべる。
「グライダーが垂直上下できるのでしたら、下に精霊力噴射はできるはずですよね? 送風管が可変式でないとしたら、精霊力が都合よく方向を変換してくれるのですか?」
 それまで黙って話を聞いていたカレンの問い。
「小さな送風管がね、いくつかの方向に向けられているというのがあるの。一般的にはその数が少なくて、反重力による浮遊を助けるものと、メイン推進力になるものがつけられているわ。着陸する必要があるなら、チャリオット的な装置も必要なの」
「着陸する必要があるなら‥‥?」
 香哉がユリディスのその言葉に何か違和感を覚えて繰り返す。それを引き継いだのはカレンだった。
「つまり、着陸する必要がなければいらないんですね?」
「そうね。低空飛行状態で、飛び降りても安全な高度で留まってもらって、兵士が飛び降りるなら着陸する必要はないわね」
 一度着陸しないで済むのなら、着陸し、次に離陸するまでの間のタイムロスを減らせる。敵に停止状態を狙われるというリスクを減らす事ができるかもしれない。
 さあ、どうする? ユリディスの笑顔は挑戦的だ。


「風信器はきちんとつけたほうがいいに越した事はありませんが、重量の関係で無理が出るようならば携帯用でもいいと思います」
「それには賛成です」
 図面をじっと眺めていたカレンの言葉に、銀が賛同する。
「せんせ、この際操作性に関してはばっさり切ろう。全部求めてたらいつまでたってもできないよ」
 レンがテーブルに肘を突き、掌の上に片頬を乗せて溜息交じりで言った。
「浮遊能力+前後への移動を基本にしたマニュアルで、ゆっくりなら誰でも可能にする。横への移動で微調整してスムーズな昇降ってのは一部の熟練者や、精鋭を乗せた訓練の一環で身につければいいと思うよ。そういうのが可能でありはしても、誰でも可能な事を重視して開発・教本みたいな」
「確かにね。取捨選択は必要ね。じゃあ操作性は後回しにして、今よりも強力な風を噴射して着陸の衝撃を緩和する件と可変式の送風管を作る件、そもそも着陸をさせるかどうかという点。これはどうしようかしら?」
 判断は実際に戦場に出る事の多いあなたたちの意欲に任せるわよ? ユリディスの笑顔はそう語っていた。
「ちなみに、グライダーにつけられている巡航速度100km/h、最高速度200km/hのグライダー用送風管ではなく、中型フロートシップまでに使用される中型送風管をつけてみる‥‥という手も実験手段としてないとはいえないけど、これはやってみないとどうなるかわからないわ」
 ‥‥‥そう、新しいものの開発には、常に実験と危険が付きまとうのである。



「結構大きいな」
「いやー、徹夜は覚悟してたけど、少しばかりきつかったな」
 出来上がった12mのチャリオットの木製部分。ぽん、とそれを叩き冴子は笑う。与えられた日数は少ない上にサイズは大きい。かなり無茶なスケジュールだと思ったが、それでも彼女はこちらの技術者と協力して「外側」を作り上げた。職人として、細かいところまで手の行き届いた仕上がりを目指した彼女にとっては、満足の行く出来上がりなのだろう。疲れているはずなのにその笑顔は晴れ晴れとしている。
「内部に取り付ける装置の加工を金属技術者に任せてあるけれど、まだできないみたいだから、とりあえずこの機体に基本のゴーレム生成をかけるわ。他の魔法はこれが浸透し終わってからだから、次回以降になるわね」
 今回の参加者の中にゴーレム生成を修得している者がいなかったため、ユリディスがその付与を行う。
「次回は色々装置を積み込んで、そして試乗するわよ。覚悟しておいてね?」
 それは‥‥参加者が乗り込むということなのだろうか。
 それとも、ユリディスが操縦するという事なのだろうか?

 とりあえず8mサイズは次回までに暇を見つけて素体を作っておいてくれるという。次回は他の装置への魔法付与、今回新しく出てきた選択肢の決定、そして試乗まで行えれば十分というところだろう。

 完成までの先は、短いようで長い――。

 ちなみに銀の提案した、5型輸送艦の改造計画については、一応工房長へ打診してみるとユリディスは言っていた。