【風の澄む島】無人の島に潜む影

■シリーズシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月18日〜09月23日

リプレイ公開日:2008年09月26日

●オープニング

●クラウジウス島
 ステライド領の北東、リンデン侯爵領の南に当たる位置にその島はある。地図で見るとそれなりに大きな島のようだ。
 その島の名はクラウジウス島といい、一部の間では無人島であると囁かれていた。
 だが場所的にも大きさ的にも要警戒区域である事は明白で、この度改めて国からの防衛対策が敷かれることとなった。バの再侵攻が始まったというのもそのきっかけではある。
 位置的にはバからは遠く、どちらかといえばジェトのほうが近いのだが、島自体が王都メイディアにかなり近いため、防衛対策をしておく事に越したことはないという事になった。
 島の大きさ的にはリンデン侯爵領の三分の一という実はかなり大きな島で、以前冒険者達がキャンプに出掛けた場所は、本当に島の一部でしかない。

 今回の依頼は島の実態調査である。国からの情報によれば、島には砦の跡が3つ存在するのだという。その砦が使用可能か、修復すれば使用できるレベルなのか、それとも壊滅的で使用できないレベルなのかを調べてきて欲しい。島へのゴーレム配備はその結果次第で検討されるようだ。

 無人の島、という話ではあるが、本当に誰も住んでいないかは定かではない。
 島近くの海域で遊んでいたマーメイドが行方不明になったという、嘘か真か定かではない噂もある。
 島にモンスターが住み着いていないとも限らない。
 調査は慎重に行われたし。


■概略地図
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1〜3・砦跡
三・海
砂・砂浜
山・それなりに標高が高く、上部に風がいつも吹いている

●今回の参加者

 ea3475 キース・レッド(37歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb8378 布津 香哉(30歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec4427 土御門 焔(38歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec4666 水無月 茜(25歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文


 王都からのゴーレムシップでクラウジウス島へと上陸し、一行は砂浜から北の方角を見つめた。砂浜は島の南部分であり、そこから北は木々が連なっている。島の4分の1以上が森や山だというから、島というものは侮れない。しかもその中に砦跡までもがあるらしい。
「位置的にバからは遠いとはいえ、結構大きな島で王都とも近い。今はフロートシップもあるし、こんな場所にバの橋頭堡を築かれたら」
 砂を踏みしめ森を見つめ、布津香哉(eb8378) が声のトーンを1段落として。
「メイの国の喉元にナイフを突きつけられるようなもんだしな」
「その通りですね。まあ‥‥バの国がいきなりここに拠点を、という話は突飛だとしても、ありえないことではありませんし。それ以上にこの周辺海域の警備も必要になりますしね」
 ゴーレムシップから荷物を下ろし、ベースキャンプの設置を手伝いながら支倉純也が話にに加わった。
「でもここを再興するとなると、マーメイドが陸に上がる場所を奪う事になってしまうのが心苦しいな」
「‥‥ディアネイラさん、大丈夫かな?」
 香哉も荷物に手をつけながら呟いた。ふと、海に目を移しながらぽつり零したのは水無月茜(ec4666)。心配するのは以前一緒にこの砂浜でバカンスを楽しんだマーメイドの事。
「マーメイド失踪の噂が本当に噂ならば良いのですが」
「人魚の失踪‥‥か。ディアネイラ君は大丈夫だろうか」
 人魚の少女の身を案じて溜息をついたのは土御門焔(ec4427)、そしてキース・レッド(ea3475)。人魚の失踪については現時点ではあくまで噂であり、真偽の程を確かめた者はいない。元々マーメイドはその血肉に関する噂によって狩られた過去から、あまり人前に姿を見せることを好まない。以前三度陸に上がってきたマーメイド、ディアネイラでさえ大変な勇気を振り絞り、そしてどうしても貫徹したい意思があって上陸を決めたはずだ。
「ディアネイラに会えるといいんだが、通信手段がないんだよな」
 そもそもディアネイラがどの辺の海に住んでいるかすら香哉は知らない。以前この島に誘ってきたという事は、もしかしたらこの近くの海に集落があるのかもしれないが、それでも彼女と連絡を取る手段はなかった。
「とりあえず荷物を置いたら、一番近い砦へと向かってみようか」
 キースの提案に異を唱える者はいない。元々砦の調査が目的であるし、島にいられる日程も限られている。となればできる限り時間を有効に使うべきだ。
「それでは私はここで留守番をしていますね。茜さんご所望のタライも出しておきますので」
 何かあったときの為に砂浜での待機を請け負った純也は、いつもの柔らかい調子で四人を送り出した。



「焔さん、何か見えますか?」
「‥‥‥‥‥‥どうやら森というだけあって、巨大なインセクト系のモンスターが多いようです。幸い距離がありますので、このまま素早く移動すれば気付かれる前に通り過ぎる事ができるかと」
 テレスコープを使用した焔の報告を受けながら、キースを先頭に一同は慎重に森の中を進んだ。モンスターがいるであろう事は予想していたが、できる限り遭遇せずに済ませたいというのが実際のところ。ただでさえ時間もないし人手もない。戦闘に時間を取られて無駄に消耗したくない。
「幸い、小さいモンスターが沢山いるというより、大きいモンスターがいくらかいるという感じです。このまま進みましょう」
「了解。警戒は怠らないでいこう」
 焔には探索を続けてもらうとして、キースは木々の中から歩きやすそうな道を選んで歩みを進める。
「それにしても‥‥結構高い山だな」
 香哉が左手にそびえる山を見上げたのにつられ、他の者もふ、と山を見る。山というより岩が積み上がった崖のような感じで、こちら側からは昇れそうもなかった。この上空には風がいつも吹いているという。
「地図によれば木々と崖も多いようですし、ゴーレムを配置するにしても人型ゴーレムは動きづらそうですね」
「そうだなー。陸上の敵を相手にするより海上から来る敵を相手にすることが多いだろうから、やっぱりこの地形だとグライダーが主になるかな」
 ゴーレムシップを砂浜の方に常駐させるのも手かもしれないけど、と香哉がゴーレムニストらしく茜の言葉に答えた。
「さて、見えてきた」
 少し先を歩んでいたキースが指し示したのは地図上で一番砂浜から近かった砦と思しき建物。石造りの建物で、苔むした壁が時代を感じさせる。
「エックスレイビジョンで中を見てみます」
 茜が断り、詠唱を始めた。



 結局一番近い砦は海側が半壊しており、かなり手を加えねば使えない状態であった。香哉が携帯電話のカメラで写真を撮り、キースと二人で羊皮紙に記録をした。
 2箇所目は、地図で左側に位置する砦を選んだ。到着までに多少モンスターとの戦闘があったものの、それほど傷を負うことはなく済んだ。砦自体も少々の修繕で機能しそうな様子である。ゴーレム駐留スペースも、元々グライダーベースに考えられていたのだろうか、建物は低めだが屋上が広く造られていた。
 変化は――3箇所目、地図でいう最北の砦を訪れようとしたときに起こった。
 道中、焔のテレスコープに映し出されたのは――
「‥‥! 人魚!?」
 彼女のその呟きに、他の三人がぴくり、と反応を示す。
「人魚が、どうかしたのですか?」
 茜の不安げな問いに、焔は地図を開いてもらい、そのうち一点を指した。
「今向かっている砦よりやや南よりの崖――砦から見て東南の崖は、崖というよりごつごつした岩が集まっている岩場になっています。そこに、下半身が魚の女性が倒れています。酷く傷つけられた様子で――」
「っ!」
 皆まで聞くのがもどかしく、香哉は木々を掻き分けて走り出した。あわててキースがその後を追う。女性二人もその位置を目指して木々の間を走り抜けた。
 どれくらい走っただろうか、森が途切れ、視界が開けた。そしてごつごつした岩場の下の方にぐったりと横たわる髪の長い女性の姿が――
「ディアネイラ!?」
 香哉がその名を呼び、慎重に岩場を下りる。キースは女性二人、茜と焔に手を貸しつつ滑らないようにと配慮してその歩みを進める。その間にも香哉がぐったりしているマーメイド、ディアネイラの上半身を抱き上げ、揺する。その肌には火傷したような跡と鋭利な刃物で切り裂かれたような跡があった。
「ディアネイラ君の様子は?」
「今、ポーションを飲ませてみます」
 リカバーポーションエクストラを取り出した香哉は躊躇い無くその封を切り、彼女の口に含ませる。
 こくん‥‥。
 彼女が嚥下したのを確認すると、一同はほっとして肩を撫で下した。ゆっくりと、ゆっくりとだがディアネイラの瞳が開いていく。
「‥‥‥あなた方は」
「一体、何があったのですか?」
 弱弱しいディアネイラの声に茜が優しく尋ねる。だがその答えを遮るように焔がすっと手を出した。テレスコープで警戒していた彼女は、何かを捉えたらしい。
「近くの砦から、人が出てきました。こちらへ向かってきます」
「「!?」」
「今、リヴィールエネミーのスクロールとテレパシーで確認を‥‥」
 バックパックをあさる焔。だがその手はひんやりとした指に阻まれた。振り返るとディアネイラが怯えた瞳で彼女の手を掴んでいた。
「‥‥‥ダメ、です‥‥。危ない‥‥岩の下、下りて隠れて‥‥」
「ディアネイラに傷を負わせたのはその人か?」
 香哉の言葉に頷くディアネイラ。とにかく早く、と必死に請われれば、拒むわけにもいかない。相手が敵か味方かと問われれば、ディアネイラに傷を負わせている時点で敵である可能性が高い。
「‥‥‥上手くやり過ごせるといいが」
 ディアネイラを含めた五人は岩場を下り、下半身を海水に漬からせて岩陰に隠れた。キースが影から崖上の様子を伺い、焔は続けてテレスコープで様子を伺う。
 程なくして現れた人物は、ローブに身を包んだ男とそれに従うようにした男。
「む‥‥もう一匹は逃げたか」
「姿は見えません」
「まだ近くにいるかも知れぬ。どれ」
 そんな言葉が風に乗って聞こえる。ローブの男は何か呪文を唱え始めた。その身体が緑色の光に包まれる。
「! 皆さん海に潜ってください、早く!」
 その光景をテレスコープで見ていた焔が顔色を変えて皆に指示をする。詳しく説明している暇は無い。だがローブの男が使用していた魔法が焔の予想通りだったら――

 ジャブンッ‥‥ジャブンッ‥‥

「む?」
 男が訝しげに岩場を見やる。
「ふむ‥‥波が岩にはじける音か、大きなモンスターかの。一瞬大きなものが探査に引っかかった気がしたが‥‥モンスターだったのかもしれぬ」
「あの人魚を追いますか?」
「いや、またで良かろう。既に今日は一匹手に入れたことだしな」
 崖上ではそんな会話が交わされている。だが海へともぐった冒険者達にはその声は届かない。息が続かなくなる前に、男達が去ってくれるのを祈るのみ――。

 ガバッ‥‥ぜーぜー‥‥。

 一同が息を切らして水面から顔を出したとき、幸いにも男達は既に崖上を去ったところだった。



「恐らくもうでてこないと思いますが、念のため警戒を続けます」
 岩場の浅瀬を伝い、ディアネイラと共に一行は南下した。途中で岩を登り、森へと入る。海水に濡れた肌や衣服がべたべたして気持ち悪かったが、そんなことを気にしている場合ではない。
 焔はテレスコープで警戒を続けながら、歩く。
「ディアネイラ、君は何でここへ?」
 まだひれが乾かぬため歩けない彼女を抱いた香哉が尋ねると、彼女は弱弱しい声で事情を語り始めた。
「‥‥以前から時々、同じ集落の仲間が帰ってこなくなることがあったんです。でもそれは地上に上がって狩られてしまったのだとか、他の集落に移ったのだとか、そんなかんじで考えられて、あまり重要視されていませんでした」
 でも、と彼女は続ける。
「最近、この付近で‥‥消息を絶つ仲間が増えたのです。きっと、私のせい‥‥私が、良い遊び場よ、ってここを仲間に紹介したから‥‥」
 顔を両手で覆い、ディアネイラはすすり泣き始めた。だがこのまま泣いていても何も始まらないのだ。事情を詳しく知る必要がある。
「ディアネイラさん、それで、お仲間を探しに来たのですね?」
 ゆっくりと優しく茜が問いかけると、ディアネイラはこくり、と頷いて続きを話し始める。
「仲間の男性と一緒に、帰ってこない仲間を探しに来ました。もしかしたら人目が無いここの島での、生活を楽しんでいるのかもしれない、と思って。好きな時にひれを乾かして人間のように歩き回る、そんな生活に憧れる子達がいないわけではありませんから‥‥」
「そして、あの男達に出会ったと?」
「はい‥‥ローブを着た男の人が、岩場にいた私達に雷を放ちました。そうしたらすごく、びりびりとして‥‥」
「感電‥‥ですね」
 キースの問いに返された言葉に、茜が続ける。下の岩場にいたということは彼女達は水に漬かっていたのだろう。だとしたら魔法の雷が感電を引き起こしたとも考えられる。
「恐らくライトニングサンダーボルトでしょう。先ほど見た男の発光色は緑でした。私の予想が正しければ、先ほどはブレスセンサーを使用したのだと思います」
「ああ、だから海に潜れって」
 焔の講釈に納得の表情を見せる香哉。ブレスセンサーは精霊力の関係で水中の物の呼吸は探知できない。
「‥‥その後風に切り裂かれて、仲間は棒のようなもので叩かれて‥‥意識を失ったところをもう一人の男性に担がれました‥‥。『もう一匹は後で取りに来ればいい』そんな声を聴いた気がしますが‥‥そのまま意識が」
「‥‥気に食わないな。『一匹』か‥‥」
 ぽつり、キースが呟く。それは他のものたちも同感だった。
「あの男達が人魚を狩っているってことだよな‥‥」
「恐らくあの砦跡を利用しているのでしょう」
「何のために?」
 香哉の呟きに答えた焔だったが、その質問には答えられない。だが香哉とて答えを期待して問うたわけではない。
「最北の砦は怪しい男達に占拠されている。彼らはマーメイドを捕えて何かしているようだ、ということですね」
 状況の確認の為に茜が事情を言葉に表す。もう一度砦に近づいて中を調べる事ができればよかったのだが、相手が探知魔法を使えるとなると下手に近づくわけにはいかなかった。それにメイディアへ帰還する期日が迫っている。
「ディアネイラ、一人で帰れるか?」
 砂浜に戻り、すっかりひれが足になったディアネイラは余っていた布をその肢体に巻きつけ、香哉の言葉に頷いた。
「これ、渡しておく。ネックレスは以前身につけてくれたから。勾玉は――迷子になりやすそうに見えるし」
 クローバーのネックレスと八咫鴉の勾玉を差し出した香哉は、それから、と続けた。
「今後の連絡手段として、俺たちが島を訪れた時は翡翠のリボンをつけた木を砂浜に立てておくから、それが見えたら会いに来て欲しい。他の人も、もしも真似されたときの為にそれぞれ印を考えておくといい」
 その言葉に、ディアネイラは貰ったアクセサリをぎゅっと握り締め、頷く。だが瞳は不安げで。
「大丈夫です。一旦メイディアに戻らなければならないですけど、ディアネイラさんのお仲間はきっと助け出して見せますから」
「そうだな。砦が占拠されたままでは国も防衛対策を敷くどころではないだろうし」
「ゴーレムを配置するにも、まずは砦を不法占拠している不審者を追い出してからですからね」
 茜、キース、焔の言葉に希望を見出したように目を輝かせるディアネイラ。そんな彼女の頭を、香哉はそっと撫でた。
「まずは戻り、一旦報告を。そしてその怪しい人物に対する対策を仰ぎましょう」
 荷物を纏めた純也が冒険者達を促す。
 この事件が報告されれば、そのまま放置される事はまずありえないだろう。恐らく、近いうちにまた冒険者が派遣される事になる。