【風の澄む島】人魚を捕る魔の手

■シリーズシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月19日〜10月24日

リプレイ公開日:2008年10月28日

●オープニング

●クラウジウス島
 ステライド領の北東、リンデン侯爵領の南に当たる位置にその島はある。地図で見るとそれなりに大きな島のようだ。
 その島の名はクラウジウス島といい、一部の間では無人島であると囁かれていた。
 だが場所的にも大きさ的にも要警戒区域である事は明白で、この度改めて国からの防衛対策が敷かれることとなった。バの再侵攻が始まったというのもそのきっかけではある。
 位置的にはバからは遠く、どちらかといえばジェトのほうが近いのだが、島自体が王都メイディアにかなり近いため、防衛対策をしておく事に越したことはないという事になった。
 島の大きさ的にはリンデン侯爵領の三分の一という実はかなり大きな島で、以前冒険者達がキャンプに出掛けた場所は、本当に島の一部でしかない。

 先日その島に、調査隊として冒険者達が派遣された。島の中には3つの砦跡といつも上空に風が吹き付けている山、そして森の中にはモンスターが生息している。
 冒険者一行は砦が使用可能か不可能かを判断すべく、調査を開始した。最初に回った二箇所は手を入れれば使えるかもしれないということで報告書が提出されているが、残りの1つには――どうやら不審人物が住み着いているようだという。
 ローブを着て、恐らく風魔法を使用する男(現在バイブレーションセンサーとライトニングサンダーボルト、ウインドスラッシュの使用が確認されている)と、それに従うようにする男(棒のような武器を持っているという)。もしかしたら仲間がいるかもしれないが、彼らがやっていたのは、マーメイドの捕獲。
 クラウジウス島近くの集落に住むマーメイドのディアネイラによれば、このところ同じ集落のマーメイドたちが行方不明になることが頻発しているという。それで彼女ともう一人男性のマーメイドが様子を見に来たのだが‥‥男性の方は捕獲されてしまったという。
 怪しい男達はマーメイドを「一匹」とまるで家畜でも指すような言い方で呼び、一番北側の砦跡へと運んでいるようだった。

 今回の依頼はその不審者達の調査、及び捕縛ないしは殲滅。そしてマーメイドの救出である。場合によっては調査のみにとどめ、捕縛や殲滅は後日に回しても構わない。マーメイドたちは‥‥生かされていればいずれは助けてほしい、というのが依頼内容だ。ここでマーメイドたちを見捨てては、その集落との関係が悪くなるという見方がある。ただでさえ、マーメイドの血肉を求めて彼らを狩っていた時代があったのだから。

 この砦の不審者問題を解決しない事には、ゴーレム配備もままならない。

 慎重を期して調査に留め、突入は次回にするか今回突入してしまうか、判断は集う冒険者達にゆだねられる。
 慎重に検討されたし。


■概略地図
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三三三三三三三三三三三三三

1〜3・砦跡。1.3は修理をすればゴーレムの配置が行えそうであり、2は現在不審者が占拠している。
三・海
砂・砂浜
山・それなりに標高が高く、上部に風がいつも吹いている
崖・場所によっては岩場伝いに海に降りられるところもある

●今回の参加者

 ea3475 キース・レッド(37歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 eb4199 ルエラ・ファールヴァルト(29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb8378 布津 香哉(30歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec0844 雀尾 煉淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec4427 土御門 焔(38歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 ec4666 水無月 茜(25歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文


 波の音ですら緊張して聞こえるのは気のせいだろうか。
 浜辺に停泊させたゴーレムシップから外へ出た一同は、静かに問題の砦のある方向を見つめていた。
「‥‥これでよし、ディアネイラ、来てくれるかな」
 布津香哉(eb8378)が祈りをこめるようにして翡翠のリボンをつけた木を砂浜に立てる。これがマーメイドのディアネイラとの合図。彼女がこの合図に気がついてくれたら、これから砦に囚われた人魚達を救出しに行くと伝えたかったのだが――
「前回より時間が経過している分、捕らわれているマーメイドの状態が気になるところだな」
 香哉の言う通りである。どのくらいの人魚が捕らわれて、どのくらいの敵がいるのか分からないが急がなければならないのは確実。
「ディアネイラ君が来たらよろしく頼む。あと、もしかしたら負傷の酷いマーメイドを運び込むかもしれない」
「了解しました。ディアネイラさんとは前回面識があるのであちらも気付いてくれるでしょう。皆さんが救出に向かったこと、報告しておきますね」
 出発準備を進めるキース・レッド(ea3475)の言葉に、浜辺に残る支倉純也が頷いて返した。
「まったく。一匹だなんて‥‥なんてひどい人たちなんでしょう」
「その酷い人達から人魚達を助けられるように頑張りましょう」
 水無月茜(ec4666)と土御門焔(ec4427)が強い意思を込めて頷きあう。
「それでは予定通り、別働隊として動きます。布津さん、どうぞ」
 ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)が自身のペガサスに香哉を乗せ、飛び立つ。
「もしものときは発炎筒の合図で!」
 茜の声に上空に舞い上がったルエラは頷いた。発炎筒とは地球のアイテムで、オレンジ色の炎を吹いて、白煙を出す。合図としてはもってこいだ。その上もしかしたら敵を驚かせることができるかもしれなかった。
「いこう」
 レインフォルス・フォルナード(ea7641)が短く告げる。一行はそれぞれの思いを抱いて、砦目指して森の中へと分け入った。



 森を進み、砦に近づくごとに緊張が高まる。右手方面は崖なのだろう、岩に当たった砕ける波の音が耳に届く。
「‥‥‥。砦の一階に、人影は見受けられませんでした。ただ」
 テレスコープとエックスレイビジョンを使用した焔の報告。
「地下へと繋がる階段のようなものは見えました」
「敵は地下でしょうか。虎穴に入らずんば虎子を得ず。多少の無茶は覚悟してます」
「無茶と無謀は違う」
 茜の明るい言葉に、前を行っていたレインフォルスが呟いた。確かにその通りなので反論はできなかった。
「とりあえず僕達の役目は敵を誘き出す囮だ。砦の中に入ることになっては、折角の上空からの奇襲が無駄になる」
 その通り。今回は砦を強襲して敵を引っ張り出すのがこの一同の目的。だが敵が地下にいるとなれば、やはり何とかして誘き出すしかあるまい――さてどうする?
 キースが一瞬考え込む。その時ペガサスに乗った雀尾煉淡(ec0844)が急降下してきた。
「パッシブセンサーで魔法を探知しました。敵に気付かれた可能性が高いです」
 探知魔法――予想されているのはブレスセンサー。それを使用されたとしたら、こんなに大人数の団体が近づいてきている事に違和感を覚えるはずだ。
「‥‥一階にローブの男の姿が見えます。唇を読むことができそうです。内容は――」
 テレスコープとエックスレイビジョンを使用した焔が、読唇術に挑戦してみる。
『にんぎょではないおおきなえものがひっかかったようだ。おってか?』
「追っ手、ですか‥‥」
 茜が呟く。という事はローブの男は何かに追われているということだろうか。
「気付かれたならば外に出てくる可能性が高い。攻めるぞ」
「ああ、行こう」
 レインフォルスが素早く森を飛び出す。キースがそれを追う。焔も煉淡も茜も、後を追った。
「砦の1階から生命反応が4つ。地下は‥‥とりあえず1つですね」
 煉淡のディティクトライフフォースの結果。この場合、出てくる敵は最低4人と考えて間違いないだろう。
 がちゃり‥‥ぎぃぃぃ。
 潮風で弱った扉がゆっくりと開かれた。まず中から姿を見せたのは斧を持った戦士風の男。それに引き続いて剣を持った戦士風の男、そしてフードの男ともう一人、小柄なフードの人物。
「お前達は追っ手か? それとも敵か?」
 焔がこっそりリヴィールエネミーのスクロールを使ってみる。ローブの男の言葉でも分かる通り、男達がこちらを警戒しているのは間違いなかった。
「君達の言う『追っ手』の意味を僕たちは知らない。だが、キミ達がマーメイドを捕獲しているのだとしたら、僕達は敵に当たるだろう」
 キースの言葉に特別反応を見せた様子はない。だがローブの男は軽く手を振った。すると二人の戦士が冒険者達との間合いを詰める。
 ――戦闘は突然始まった。
 素早く前に出たレインフォルスが男の斧をかわし、素早く掠めるような動きで斬り付ける。同じく男の剣を避けたキースも、レイピアを突き出す。
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」
 ローブの男の掌から放たれた雷が後衛の焔と茜を貫いた。
「合図を!」
 高速詠唱で彼女達の前にホーリーフィールドを作り出した煉淡が敵を見つめたまま指示を送る。煉淡のペガサスによるリカバーで傷を癒されながらも、茜が発炎筒を使った。筒はオレンジ色の火を噴いて、煙を吐き出す。
「なっ‥‥」
 敵たちは明らかにその不思議な道具に驚いていた。その隙にレインフォルスが、キースが戦士風の男を攻め立てる。
「今度こそ‥‥」
 先ほどローブの男を狙ったが抵抗されてしまった。焔は今度はその後ろに控えている小さなローブの人物に狙いを定めて高速詠唱でスリープを放つ。
 がくり、小さなローブの人物が膝をついた。
「!」
 ローブの男の意識が一瞬倒れた人物へと注がれる。
「起きている敵三人に!」
 いまだ、と茜はレミエラを発動させ、3本に増やしたムーンアローで敵を狙いにかかった。



「ちょっと、山の方に近づいてもらえますか?」
 香哉の希望に従い、愛馬を島の中心にある山へと近づけたルエラだったが、襲い来る強風に眉をしかめる。
「風が強くてこれ以上近寄るのは危険かと思います」
「山というより岩山って感じだ‥‥ありがとう」
 感じた風はまるで何かを拒むようだった。
「(ここだけ気圧が違うとか? いや、こっちの言葉で言うと、風の精霊力が強い、っていうのかな)」
 多少なりとも精霊魔法の心得がある香哉としてはそんな予想を立ててみる。もっと魔法に詳しい人物がいればもしかして何か分かったかもしれないが、今回の目的は山の調査ではないため仕方あるまい。
「布津さん、合図です。しっかりつかまっててください!」
 前方を見ると、砦の辺りから煙が立ち上がっていた。ルエラが天馬を駆る。
「まずはローブの男を狙う」
 香哉がレミエラを発動させ、魔法の矢を作り出す。そしてルエラが愛馬を駆り、香哉が射やすい場所へと動く。
「因果応報」
 しゅんっ‥‥
 矢はローブの男の背中に、見事に突き刺さった。


 突然の予期していない方向からの攻撃に、戦士風の男達はローブの男を守るべく後退するか否かの決断を迫られた。だがここで後ろを見せては、確実に斬られる。仲間のうち一人は眠らされ、守るべき主は矢を受けて蹲っている。だがその手からは高速詠唱で作り出された雷が。
 バリバリバリっ!
 そんな音が聞こえたような気がした。ルエラのペガサスによるホーリーフィールドで多少威力は抑えられたが、その余波をルエラと香哉は受けた。だが幸いにも、酷く痺れが残るほど威力は残っていなかったらしい。
「布津さん、しっかりと」
 つかまっていてくれといわれ、香哉はルエラの腰に腕を回す。
「セクティオ!」
 ノヴァクの剣を手にしたルエラが一気にローブの男との距離を詰め、コンバットオプションを利用してその身体を切り裂く。
「う‥‥かはっ‥‥」
 ローブの男は鮮血を吐き、再び地面に膝を突いた。



 痛めつけた男達を縛り、ローブの男はしなれては困るという事でペガサスに命じて治療をさせる。そして他のメンバーはキース、レインフォルス、香哉が地下へと下りている間に情報を引き出そうと試みる。
「‥‥っ! この子、女の子ですよ!」
 焔が眠らせた小さいローブの人物は依然眠ったままだったが、茜が抱き起こすとフードが取れ、その中からは長い耳が覗いていた。年の頃は10代前半だろうか、あどけない寝顔が「何故こんな悪事に加担していたのか」という疑問を呼び起こさせる。
「何故人魚を攫うなどという悪行を?」
 静かな煉淡の問い。だが男は答えない。リードシンキングに頼れば、『追っ手ではないなら何故ばれたのだ』という疑問が流れ込んできて。
「それならば私が」
 焔が歩み出て、リシーブメモリーを唱える。

 私を追放した師に復讐を
 研究を成功させて目に物見せてやる
 私の思想が過激だと?
 研究嗜好が異常だと?
 後で後悔するがいい
 偉大な弟子と共に大事な娘を失った事にな

「‥‥‥‥‥」
 焔が読み取った思考に誰もが口をつぐむ。
 想像するに、この男は危険な思想と異常な研究嗜好から師に追放された。だが自分の研究の正当性を信じる男は師の娘を連れてこの島に隠れて研究を続けていたということだろうか。
「では、この子がきっとその娘さんなのですね」
 茜が自分の腕の中で眠る少女の寝顔を眺める。
「‥‥‥」
 ざっざっ‥‥音を立てて砦内へと向かっていた男たちが戻ってきた。その表情は一様に硬い。
「まだ探索が必要でしたら私も同行しますが」
 ルエラが申し出たが、キースが手でそれを制する。
「いや‥‥女性は見ないほうがいい」
 その言葉で、想像ができる。この男が、マーメイドに対してどんな「研究」を行っていたのかが。
「‥‥先ほど地下でも生命反応を確認しました。そちらは?」
 遠慮がちに尋ねる煉淡に、レインフォルスが首を振った。
「香哉の腕の中で息を引き取った」
 それは先日捕えられたマーメイドなのだろう。男性であり、そして遺言とも言うべき言葉を残していた。



 ゴーレムシップの側に戻ると、焚き火の側に純也と、ひれを足にしたディアネイラが座っていた。彼女は一同を見かけると、立ち上がって慣れない足で駆け寄った。
「あの‥‥」
 だが、誰も一言も口を開かない。何人か捕えた人物を連れていたが、黙ったまま彼らの身柄を純也へと引き渡す。
「ディアネイラ‥‥ごめん」
「なにを‥‥謝るのですか?」
 香哉の言葉にまさかとは思いつつも、疑問を返すディアネイラ。
「俺達が到着したときには殆どの人魚はあいつらに‥‥その、殺されていて。この間捕えられた彼だと思われる男性のマーメイドは、俺の腕の中で‥‥」
 ぎゅ、その時の暖かさを思い出して自分の腕を握る香哉。ディアネイラは一瞬呆けたような顔をした後、膝から崩れ落ちて。
「『ディアネイラと集落を頼む』‥‥それが彼の遺言だ」
「うそ‥‥うそ、みんな‥‥死んでしまったの?」
「ごめん‥‥ごめん」
 取り乱しかけたディアネイラを、香哉は思い切って抱きしめる。
 香哉のせいじゃない。冒険者達のせいじゃない、それは彼女も十分分かっている。
 だからこそ、涙が出て。
 この世には、どうにもならないことが存在するのだと、思い知らされて。

 月精霊の支配する浜辺に、波の音と共に嗚咽が響き渡った。