【風の澄む島】海の乙女と風の乙女

■シリーズシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月12日〜12月17日

リプレイ公開日:2008年12月20日

●オープニング

●クラウジウス島
 ステライド領の北東、リンデン侯爵領の南に当たる位置にその島はある。地図で見るとそれなりに大きな島のようだ。
 その島の名はクラウジウス島といい、一部の間では無人島であると囁かれていた。
 だが場所的にも大きさ的にも要警戒区域である事は明白で、この度改めて国からの防衛対策が敷かれることとなった。バの再侵攻が始まったというのもそのきっかけではある。
 位置的にはバからは遠く、どちらかといえばジェトのほうが近いのだが、島自体が王都メイディアにかなり近いため、防衛対策をしておく事に越したことはないという事になった。
 島の大きさ的にはリンデン侯爵領の三分の一という実はかなり大きな島で、以前冒険者達がキャンプに出掛けた場所は、本当に島の一部でしかない。


 この島にバの斥候部隊が上陸し、二番砦が奪われたのは記憶に新しい。
 冒険者の力をかりてその斥候部隊は殲滅できたものの、一つの懸念があった。
 殲滅してしまった斥候部隊と連絡の取れなくなったバが、再び様子を身に上陸するのではないかという事。
 そしてその懸念は――現実となった。


「今、再び二番砦がバの部隊に攻撃されています。今回のあちらの戦力は斥候部隊というものより小隊に近いものとなっており、敵の編成もしっかりとしているようです。魔法使いも何人かいるとか。人型ゴーレムは立地の関係上上陸できないのは幸いですが、グライダーは船に積んできた自前のものを3機、使用しているとのことです」
 支倉純也はギルドに集まった冒険者達に、早口で事情を説明する。
「これに対し島側は二番砦を軸に抵抗を続けています。一番砦、三番砦からの援軍も向かっていますが、砦を空にするわけには行かないのでそれも微力です。空から攻められたときに備え、一番砦と三番砦のグライダーは待機、もしくは哨戒しています」
 ぱさり、書類を置く音が聞こえる。
「急いで島へ向かい、バの小隊を殲滅してください。ただし、敵の船は破壊しない事。隊長クラスの人間は逃がしてください」
「なぜ、みすみす逃がすのか?」
 冒険者の問いに純也は細く息を吐いて。
「逃がさなければ前回と同じことになります。連絡が取れなくなった隊の代わりに別の隊が派遣されてきます。それならいっそのこと、敵を痛めつけて逃がし、『クラウジウス島の占拠は不可能』と連絡させた方がよいです」
 つまり敵に島の残存勢力が多く、制圧は難しいと思わせるために隊長クラスを逃がすというわけだ。殺さなければ、痛めつけてもかまわないらしい。相手が逃げたくなるように仕向けるのも良い。
「こちらにはヴァルキューレが付いています。彼女の力を借りるのもありでしょう。あとは‥‥」
 純也は意味深に言葉を切り、隣室に続いている扉へと歩み寄った。そして、戸を開ける。
「!!」
 そこに立っていたのはマーメイドの少女ディアネイラ。いまはもちろん人間の姿をしているが。
「私たちにも‥‥お手伝いをさせてください。海側からの援護でも‥‥皆さんの援護でも」
 ディアネイラの住む集落では、今回の同胞の虐殺を知り、弔い合戦をする事に決まったという。
「血で血を洗う復讐はいけないことだと分かっています‥‥けれどもバは、このままだとメイディアを乗っ取ろうとする悪い人達なのでしょう? それなら‥‥力を貸す事はやぶさかではありません」
 マーメイドは水魔法が使える。一般的なマーメイドは三叉の槍を持っていることが多い。巫女と呼ばれるマーメイドはそれ以上の水魔法の使用能力があり、そして賢者と呼ばれるマーメイドはその上を行く。
 どれも直接攻撃というよりは水魔法での援護に長けているといったほうが良いだろう。
 参加するというマーメイドは一般人が7名、巫女が5名、賢者がディアネイラを含めて3名だという。彼女達にうまく動いてもらえれば、効果的かも知れない。

「敵の数ですが――やはり20名前後。そのうちグライダーが3機だそうです。二番砦は前線となっているため、砦へ入るには前線の敵をどうにかしてからでなくてはなりません。砦の背面の空から入る事は可能です。手段があるなら。グライダーは一番砦、三番砦で借り受ける事ができます。申し訳ないですが、そこから二番砦まで飛んでください」
 ふう、と息をついて純也は椅子に付いた。
「後はヴァルキューレですが‥‥正義の為の戦いなら力を貸すと言ってくれたということですが‥‥彼女が隊長クラスを殺してしまわないように、注意は必要でしょう」
 おそらく彼女も自分の住む島にどさどさと乗り込んでこられて迷惑しているに違いない。島に行けば力を借りられると見て間違いはないだろう。
「‥‥しかし、気になりますね。バからクラウジウス島東側へまわるには、ジェトの側を通らねばなりません。前回は普通の船に偽装していたようですが、今回は明らかにグライダーを積んでいるゴーレムシップできているのでしょう。通常だったら、ジェトが黙っているはずありません」
 ジェトは昨年末、メイとバとの休戦協定を仲介した国である。そのジェトが黙っているのはおかしい。
「‥‥何かよくないことがおこっていなければ良いのですが」
 マクシミリアン王子の護衛に付いた事のある純也はぽつり、と呟いた。
 ジェトの事は気になるが、今はまずバの小隊を撃退する事が一番だ。
 頑張って欲しい。

●使用可能ゴーレム
・グライダー10機まで
※必要であれば一般鎧騎士(専門レベル)の協力を仰ぐことも可能


■概略地図
三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三崖三三三
三三三三三三三三崖森崖三三
三三三崖三三三崖森2森崖三
三三崖森崖三崖崖森森森崖三
三崖森1森崖森森森森崖三三
三崖森森森森森森森崖三三三
三三崖森山山森3崖崖三三三
三崖森森山山森森崖三三三三
三崖森森山山森崖三三三三三
三崖森森山山森崖三三三三三
三三崖森森森森崖三三三三三
三三崖森森森森崖三三三三三
三三三崖森森森崖三三三三三
三三三三砂砂砂三三三三三三
三三三三砂砂三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三

1〜3・砦跡
三・海
砂・砂浜
山・それなりに標高が高く、上部に風がいつも吹いている
崖・場所によっては岩場伝いに海に降りられるところもある

●今回の参加者

 ea3475 キース・レッド(37歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 eb4199 ルエラ・ファールヴァルト(29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb8378 布津 香哉(30歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec4322 シファ・ジェンマ(38歳・♀・鎧騎士・パラ・メイの国)
 ec4427 土御門 焔(38歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

元 馬祖(ec4154

●リプレイ本文

●臨戦態勢
 ゴーレムシップがクラウジウス島の海岸に停泊し、冒険者が出るとすぐに白金の鎧に姿を包んだ女性が現れた。風の魔力を纏っている。
「やあ、ミズ・ヴァルキューレ。出迎えですか?」
 おどけたように言うキース・レッド(ea3475)に対し、ヴァルキューレは表情には出さないがどこか辟易とした顔で。
「もう少し来るのが遅かったら、この手で突撃するところだったぞ。煩くてかなわぬ。早くあの侵入者達を何とかしようではないか」
「勿論だ。二度とここに来ないようにしてやろう」
 レインフォルス・フォルナード(ea7641)の強い言葉に満足げに頷くヴァルキューレ。だが――
「ヴァルキューレ殿にお願いがございます」
 シファ・ジェンマ(ec4322)が礼儀正しく申し出ると、キースがその言葉を補足しにかかる。
「今回は相手が二度とこの島に来ようと思わないようにすることが大事だ。よってただの殲滅ではなく、隊長格には恐怖を与えて逃がす方針だ。故にミズ・ヴァルキューレにはまずは二番砦後方から姿を現していただき、敵の動揺を誘ってもらいたい」
「‥‥‥それは、我に攻撃をするなと言っているのか」
「それとは多少語弊があります。殲滅目的ではありませんが、ヴァルキューレ様の威容を見せていただく事になりますので、隊長格を殺さないで頂きたいのです」
「あと、敵のゴーレムシップへの攻撃もかまわないですが、推進部分への攻撃はさけてください」
 シファとルエラ・ファールヴァルト(eb4199)に言われ、うーむ、と考え込む彼女。
「正直我はこの地を騒がせし敵に情けをつけるつもりもない。ゴーレムシップとやらの構造もわからぬ故どの辺りが推進部分に当たるかも判らぬ。よって、貴殿らの指示に従おう。貴殿らは正義の為に戦うのであろう?」
 正義の為――裏を返せばバの兵士も正義の為に戦っているのかもしれない。バの兵士にとってはこの島を占拠することが正義の戦いなのかもしれない。だが、ヴァルキューレにとってはあちらは己の住処を蹂躙する侵入者。そしてこちらはメイの国を護ろうとする正義の部隊に見えるのだろう。
「そう思っていただいて結構です」
 凛と言い放ったのは今回司令塔となる土御門焔(ec4427)だ。仲間の連携の為に己の役割の重要さは十分理解している。だからこそ、彼女は凛と言い放った。
「ディアネイラ、足元気をつけて」
「‥‥はい」
ゴーレムシップのタラップを布津香哉(eb8378)に手を引かれて降り来るのはマーメイドのディアネイラ。彼女は他の賢者二名、巫女二名と共に地上部隊に加わる事になっていた。他のマーメイド達にはメイディアを出る前に海辺で彼女から指示をしてもらい、敵ゴーレムシップに対する威嚇射撃を行ってもらう事になっていた。敵のトップを逃がし、二度と侵攻不可な場所だと認識してもらわなくてはならない為、敵の足を奪うわけには行かないのだ。
「側で護るから――力を貸してくれ」
 香哉のその言葉にわずかに頬を朱に染めたディアネイラは現在人間形態で、以前彼から貰ったクローバーのネックレスと勾玉を身に着けていた。そして彼が差し出したソルフの実を両手で受け取り、ぎゅっと握り締めて頷いた。
「さて、二度とバのお馬鹿ちゃん達が上陸しないように痛めつけて追い返しますか」
 明るく、だが真剣味を帯びた声色で言い放つ香哉。だがその言葉の裏には護ると誓ったのに護れていない事への悔しさが渦巻いていて。だから今度こそ――彼女の側で彼女を護る。
「さて、人魚達の無念、ここで晴らさせていただく」
 キースの言葉に頷く一同。それは誰もが胸に抱いている一念だった。


●交戦
 敵が一番最初に動かしてきたのは、グライダー部隊だった。
 シファ率いる10機のグライダーに向けて、手練と思われる3機が二番砦攻めを中断し、こちらへと飛んでくる。
「よいですか、数では圧倒的に勝っています。後は仲間との連携を忘れず、自信を持って戦ってください!」
 事前に機織り戦法を伝えておいたグライダー操舵手にシファが風に負けない大声で告げる。
 ――展開。
 真っ先に突っ込んだのはシファのグライダーだ。敵の1機と格闘戦に持ち込み、イニシアチブを取る。それを見ていたこちらの2機が、すかさず横合いから攻撃を仕掛けた。良く見れば他のグライダー達も敵の残り2機に対して3機ずつで当たり、万全を期している。
「(数の差の有利もありますが、指示一つで戦場は変わる――!)」
 シファは実感していた。敵1機1機はこちらの鎧騎士達が1対1で当たるには強いかもしれない。だが作戦を周知し、先手を取って連携の取れた者達で攻める事で戦場は変わる。
 彼女達が制空権を得るのにそう時間はかからなかった。
 シュンッ‥‥バリバリバリバリッ!
 撃墜したグライダーの数を数え、砦に向かった仲間の援護に向かおうとしていたシファの横を稲妻の槍が走った。その槍は砦上空でこちらへ向けて魔法を放とうとしていた者に命中した。
「ヴァルキューレ様」
 シファは急ぎその精霊の元へと向かい、責めるでもなくゆったりと声をかけた。
「今回はヴァルキューレ様達の恐ろしさを相手に思い知らせ、本国に帰す必要がございますので、何卒ご配慮の程を」
「わかっておる。あの後方にいる指示している輩を倒さねば問題あるまい」
 渋々といった様子ではあるがこちらの意図は汲んでくれているらしい。
 それなら良いですと頷き、シファは地上への援護へ回る。空は、制した。


「しつこい連中だな」
 砦に群がっていた敵が、新手の出現を察知して冒険者達へと攻撃対象を変えてきた。レインフォルスは奥にいる魔法使いらしいローブの男に目をつけ、素早くその距離を詰める。単身敵の真ん中に乗り込む事になるが、そうそう傷を負うようなヘマをするつもりはなかった。
「セクティオ!」
 上空からペガサスに跨ったルエラがその機動力を生かしてチャージングとポイントアタックを合成させて繰り出す。横合いからその攻撃を受けた剣士は首筋に受けたその重い一撃に、膝を追った。そこにキースのレイピアが止めを刺す。
『後方に魔法使いと思われるのが3名。うち1名はレインフォルスさんが交戦中です。援護、お願いします』
 司令塔の役目を果たす焔が、グライダーで上空を飛んでいるシファへと指示を出し、シファはそれを他のグライダー達とヴァルキューレに伝えた。
 海の方でがたがたという音が聞こえる。恐らくマーメイド達の攻撃に、ゴーレムシップに乗っている者達が驚いて急ぎ対処しようとしているのだろう。船が壊されては困る――勿論こちらは破壊までするつもりはないのだが。
 シュンッ‥‥
 香哉の射る矢が剣士の腕を射抜く。そしてその後にまるであわせるようにしてディアネイラの手から水球が飛ぶ。何も言わずとも息のあった連携。敵ではあるとはいえ人を攻撃する事が彼女には辛いようで、その表情は泣きそうなものであったけれど。
 だからこそ、それを護りたいと思う。護ると誓った。
 香哉は敵の弓兵から矢傷を受けた仲間のマーメイドに近寄り、ポーションを飲ませる。そして再びディアネイラの側に戻って、仲間の援護となるように矢を射る。
「(君が辛いのならば、俺がその倍矢を射ろう)」
 彼女の悲しげな表情に気づかない振りをして、けれども彼女からは離れないようにして。
 今離れたらきっと、彼女は悲しみで泡になって消えてしまいそうな気がするから――。

「ふっ‥‥」
 敵の攻撃を悠々と避けたレインフォルスは、振り向きざまに己の剣を一閃させる。ぎゃあ、と背後からこちらを狙っていた敵の悲鳴が聞こえた。そして、振り下ろす。
 焔の指示を受け、ルエラが上空から敵を狙う。キースが壁となって敵の攻撃を避け、後衛から魔法で援護してくれるマーメイド達に向かう者が出ないようにと細心の注意を払う。弓や魔法で狙われるのは防ぎようがないが、剣や槍などを持っている者達の接近を許さないようにするのも役目だ。彼のレイピアが敵を突き刺していく。
 焔が自身の忍犬へと指示を出した。前衛が少ない分の補助になればと愛犬にクナイでのポイントアタックを命じる。そして彼女は他の者との連絡をこなしながら、スリープで後方の敵を無力化していった。
「ヴァルキューレとマーメイドの加護がある俺らに、負ける要素など見当たらない気がするな」
「‥‥ヴァルキューレ‥‥だと‥‥?」
 香哉の言葉を拾った兵士はそう言い、力尽きた。その時丁度、ルエラと共にゴーレムシップへと向かっていた白銀の乙女が戻ってきたのだった。
 後はもう流れるまま。連携のおかげもあってか、終始こちらのペースで物事は運んだ。残すところ敵は隊長格の男と、足を負傷した兵士のみ。
 空にはグライダー、とペガサス、海からはマーメイド達。地上には冒険者達と人魚達――そして。
『こちらには精霊のご加護があり、この地は精霊様が守護する島です。これ以上の戦闘は無意味です』
 ――降伏勧告。
 ふわり、その男達の前へ浮かび出るのはヴァルキューレ。その美しい面差しには慈悲の色はなく、己の住まう島を侵した者達を冷たく見下ろしている。
『何度貴方がたがこの島にやってこようと、この島に住まう精霊様が貴方がたを決して許さず、何度でも貴方がたを叩き潰すでしょう。二度とこの地に足を踏み入れない事をお勧めします』
 焔のテレパシーで伝えられるその言葉は、ヴァルキューレの威容を借りてこれでもかというほど真実味を帯びて伝えられ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 隊長格の男は、負傷した兵士を置いてゴーレムシップへと駆けていった。それに乗り込むところをしっかりとシファとルエラが上空から確認する。
「後は」
 足を負傷して動けない男。その男の得物を自らの剣でキースがはじき落とし、レインフォルスが組み敷く。
「捨てられたようだな」
「くっ‥‥」
 悔しそうに呻く男。だが事実は事実。海のほうからはシップが出航しただろう波音が響いてきていた。
「それでは、少しお尋ねしたい事があります。ジェトは今どうなっているのでしょうか」
 焔がリシーブメモリーを使用する。このような下っ端がどの程度の情報を持っているのかはわからないが――。
 ふい、顔を背ける男。だが魔法からは逃れられない。
『あっちの戦線も長引いているらしい』
『何故ジェトに侵攻するんだろう』
「――詳しくは判りませんが、バの軍がジェトに進軍したのは本当のようです」
 この男は念の為に国へと差し出すことにしよう。


●勇猛なる戦士達へ
「この度は感謝をする。正義の為に戦うお前達の心意気、確かに見せてもらった」
 ヴァルキューレがふわり、浮いたまま告げる。彼女の言う「正義」の定義ははっきりとわからないが、どうやら一同は彼女の機嫌を損ねないで済んだようだ。
「何かあればまた、力を貸してやっても良い。そうだ――こちらへ」
 ヴァルキューレがさっと手を上げると、風が吹いて――現れたのは雲に乗った、男女の精霊。薄布を身に纏っている。
「ジニールだ。つれていくが良い」
「え‥‥良いのですか、ヴァルキューレ様」
 シファに問われ、ヴァルキューレは同じ事を二度繰り返すのが嫌なのか、頷いて男性のジニールをシファの元へと寄せた。
 男性には女性のジニール、女性には男性のジニールが渡されたが――
「あの男には、水の加護があろう」
 その言葉で一同が海辺を見やると、海の真ん中から顔を出している人魚集団と、浜辺に一対の男女の姿が。香哉とディアネイラだ。
「これでこの島も平和になるといいんだが‥‥あ、そうそう、ディアネイラ今度地上で聖夜祭ってのがあるんだけど。よかったら来てみないか」
「え?」
 俯くようにしていたディアネイラは顔を上げて香哉を視界に納める。
「最近は暗い事ばかりだったし、新年を迎える最後ぐらいは楽しく過ごしたいじゃないか」
 これが最後の出会いだなんて事にしたくない、そう思ったのはどちらなのか。
「ありがとうございます‥‥ぜひ伺わせて貰います」
 そう言った彼女の指にはめられたのは、女性を護ると言われている純潔の花の指輪。
 それはまるで、何かの儀式のように――。

 私は一度集落に戻らなければなりません。ですから、彼女を代わりに――そう言ってディアネイラが香哉に渡したのはフィディエルという精霊だった。

 ヴァルキューレとマーメイド達の見送りを受けて、冒険者達の乗ったゴーレムシップはメイディアへと帰る。
 風の澄む島は精霊の澄む島。
 精霊の加護を受けた、聖なる島だった。