●リプレイ本文
●レポート採点
今期の卒業予定者は2名である。それがユリディスが筆記試験でなくレポートを課した理由でもあったりするのだが。
対象者は二人とも地球人であり、そして技術を持っている者達だ。
白金銀(eb8388)はゴーレム製造計画や新規計画などにも積極的に携わる、開発好きである。だがアプト語はまだ不慣れなようで、先輩ゴーレムニスト達に教わってレポートを仕上げていたようである。それはもう一人の卒業予定者鷹栖冴子(ec5196)も同じで、提出されてきたレポートを見れば悪戦苦闘の影が見て取れた。
「(一期の時みたいに、各自の得意な言語で回答させればよかったかしらね‥‥)」
でもユリディスは地球の言葉を知らない。地球出身の誰かに翻訳させれば良いのかもしれないが、それだと二度手間になる。生徒達もこの世界で暮らすのだとしたら、アプト語を学んでおいて損は無いだろう。だからきっと、これは良い経験となるはず。
『私がゴーレムニストを目指すのは、技術屋として、修理、製作、開発でメイのお役に立つ為です。不自由さも増えますが、それも本分です』
銀のレポートはそんな文章で始まっていた。硬い物言いが彼の性格を物語っている。
『私が学園生活で学んだ事は、ゴーレムの本質とは「命を使って作られ、奪い、守る」ものだという事。
ゴーレム作りには様々な知識、技能が必要で、個人で全習得するのは出来ないので各人の協力が不可欠である事。
ゴーレム魔法は使用は一瞬だが浸透に時間がかかる事、また魔法をかける前にはかけた後の事を考えて素体の準備をする必要がある事。
ゴーレム技術はまだ未成熟であり、様々な創意工夫が必要である事。以上です』
「ふぅん‥‥」
ティーカップを片手に、ユリディスは銀のレポートに目を走らせていく。表情からはその心の内は読み取れそうに無い。
『これからの展望は地のゴーレム魔法を習得した後、風も習得、関連技能も少しずつ身に付けて、修理だけでなく、将来的に人型、グライダー、フロートシップ等の開発も手がけたいと思います。まずはサドルバックを上手く仕上げる事が目標です」
「ふふ‥‥夢が広がるのはいいけれど。でも目先の事はちゃんと見えているようね」
『今回試験に合格したら形の上では卒業なのですが、開発から実感している事ですがゴーレム作りにおいて卒業はなく、日々の仕事が学びの場なのだという事を忘れない様にしたいです』
「つくづく真面目ねぇ‥‥」
くす、ユリディスの口元に笑みが浮かぶ。それは可の笑みか不可の笑みか――。
『あたいは今までの経験を振り返って、これからゴーレム二ストになる覚悟。
こいつを書いていくよ。
最初はただ、自分の夢ばかり語っちまって恥ずかしい限りさ。
ゴーレムには、大勢の人が関わってる。それこそ、家造りみたいにね。木も石も、工房から溢れてくるもんじゃない。
何が欠けても始まらない。それに、ゴーレムはやっぱり兵器さ。そいつは、認める』
「こちらは夢見がちさん。でもその夢も原動力の一つだから。何か最初と変わったかしら?」
次に彼女が手に取ったのは冴子のレポートである。銀と違って簡単な言葉で、だが熱意だけは負けじと込められている。
『けどね、あたいが変えられるかも知れないよ。
現実知って、その上で夢、語ってみようじゃないか。
その為には、ゴーレムニストの腕を知識を磨かなきゃね。
研修の時もさ、精霊機関にも触れられない自分が情けないと思ったしね。
うん。あたい、ゴーレムニストに転職するよ』
「根本的な部分は分かったみたい、だけど‥‥肝心のゴーレムニストとしての技術の部分が分かったか、これだけじゃ推し量れないわね」
くす、口元に笑みを浮かべる。まさに対照的なレポートである。だが、悪くは無い。いい意味でも悪い意味でもまだ芽吹いたばかりの『若さ』を感じさせるが、それはゴーレムニストとして長い間勤務している者達が既に失ってしまったものであるかもしれないからだ。
『ゴーレムニストとは、何なのであろうか。
モナルコスやグライダーを筆頭に、ゴーレムシップにフロートシップ等、多種多様なゴーレム機器が存在し、運用されている。言うまでもないが、ゴーレム機器は兵器である。この先、兵器以外の運用が成されるかもしれないが、現状、兵器以外の何物でもない』
次にユリディスが手に取ったのは、補習希望者門見雨霧(eb4637)のレポートだ。彼は一期生の生徒であり、既にゴーレムニストとして何度か現場にも出ている。
『ゴーレムニストとは、それらゴーレム機器の素体に魔法を用いてゴーレム機器を作成する職業である。言い換えると、ゴーレム機器に命を吹き込む職人と言えるだろうし、ゴーレム機器という兵器を作る職人とも言える。
昨今、カオスの魔物の暗躍を始めとした異変が発生している。この異変に伴う戦火の拡大により益々ゴーレム兵器が用いられると推測される。ゴーレム機器は、戦場の兵士達の剣でもあり盾である。つまり、ゴーレムニストとは、戦場の兵士たちの剣や盾を作成する職人である。命を奪う反面、兵士達の命を救う職人とも言える』
「レポートとしては一番上手くまとまっているわね。いえ‥‥レポートというより論文に近いかしら」
羊皮紙に移りこんだタバコの匂いに頬を緩め、ユリディスは最後の一文に目を落とした。
『少しでも多くの命を救うゴーレムニスト。そのようなゴーレムニストになりたい』
彼は現場に出るゴーレムニストを希望していた。通常、ゴーレムニストは工房での仕事が主で、戦場に出ることは殆ど無い。だが彼はあえて戦場に出ることを希望している。自分が戦場に出ることで、救える命が増えると信じて。
「成長は、しているようね」
彼女が小さく呟いたとき、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「先生、宜しいですか?」
「こっちの準備は出来たけど、採点終わった?」
ユリディスの返答を待って顔を出したのは、カレン・シュタット(ea4426)と布津香哉(eb8378)。二人は卒業式の準備をしていた。
「いいわよ。行きましょう」
ユリディスは三通のレポートと、二通の書面を持って、教室へと向かった。
●卒業式典
教室の一番の前の席に、銀と冴子は座っていた。そして入室してきたユリディスを、じっと見つめる。
「まずはレポートを返却するわ」
その声にしたがって、香哉とカレンが銀、冴子、雨霧の三人にレポートを返却していく。目は通されているはずだが、添削や得点が記入された様子は無かった。
「白金銀、鷹栖冴子の二名を――」
どくん、誰かの心臓が跳ねた音が聞こえたような気がした。
「――メイディアゴーレム工房の新規ゴーレムニストとして推挙します」
わぁぁぁぁ。
その言葉を受けて、残りの三人が歓声と共に拍手を送る。ユリディスは壇上から降り、銀と冴子それぞれに名前の入った推挙状を手渡して行った。
「良く頑張ったわね」
「ありがとうございます。学園生活‥‥、長かったような短かったような、複雑な気分です」
推挙状を受け取り、銀はもう片方の手でユリディスに握手を求めた。
「姐さん、ありがとうねぇ。あたい、先の長いゴーレムニストの坂、登っていくよ!」
気合を入れる冴子に、ユリディスは頷いて微笑んで見せて。
「いいよなー、俺もユリディス先生の授業を受けてゴーレムニストになりたかったぜ」
「ふふ、でも工房長はアレでも優秀なゴーレムニストなのよ?」
溜息をつく香哉に、ユリディスは笑って。長い付き合いだからこそ、あの人の行なう授業という物が想像できたのだろう。というか、向いてないと思ったのかもしれない。
「先生、俺、知恵熱でそうなくらい頑張ったんだけど、レポートの評価は?」
「悪くなかったわよ。先輩ゴーレムニストとしては及第点じゃないかしら」
何なら後で読み比べあってみなさいな、とレポート作成で半ばぐったりしている雨霧にユリディスは笑った。
「お二人とも、おめでとうございます」
カレンが教室の後ろから大きな花束を二つ持ってきて、銀と冴子に手渡した。どうやら事前に用意をしてあったらしいが、それは卒業祝いの花束ではなく。
「ユリディス先生、有難うございました」
「これで終わりじゃなく、これからも世話になるんだろうけどね?」
二人が花束を差し出した先はユリディスだ。感謝と、これからもよろしくの意味を込めて。
「‥‥そうね、これからも頑張るのよ? この道に終点は無いのだから」
それでも今日はめでたい日。さて皆で祝おうではないか。
●記念樹
皆の申し出で、学園の敷地に植樹をする事になった。以前木材を管理するエルフ達の集落に行った事を忘れてなかったのだろう。
「代々引き継ぐ繁栄の象徴で『ユズリハ』、安全祈願で『ナナカマド』なんてあればよかったんだが、見つからなくて。唯一分かったのがこれだったんだよな」
香哉が取り出したのは小さな木。そのままでは何なのか良く分からないが‥‥
「俺達のいたところの『松』とは違うらしいけれど、これも松の一種らしいんだ」
雨霧が言うには、地球で言うヨーロッパというところにも、松の亜種は存在するらしく、何とか花屋に説明をしたらそれに似たものが手に入ったのだという。
「『松』は不変の心や繁栄を象徴するんだ」
木を手にした香哉は、良くご存知ですね、とカレンに言われて聞いた覚えがあるだけだけど、と謙遜。
スコップを持った銀と冴子が中心になって、植える為の穴を掘る。そしてゆっくりと木を穴に入れた後、皆で順番に土をかけていく。
「立派なゴーレムニストになれますように」
ばさり、と銀。
「いつかゴーレムが平和利用できる日が来るように」
冴子はどさっと土を盛って。
「一つでも多くの命を救えますように」
ゆっくり優しく雨霧が土をかける。
「その道の達人と呼ばれるまで頑張るぞ」
香哉が均等になるように土をかぶせて。
「いつまでも私たちを見守ってください」
カレンがさらさらとかけ、そしてスコップはユリディスの手に。
「この木が大きくなる頃には、皆一人前になっているといいわね」
くす、口元に笑みを浮かべてぽんぽんと土を叩くユリディス。
「どっちが先に一人前になるか、競争ってことさね!」
「負けられませんね」
冴子と銀が小さな木を見て微笑んで。
「さて、これに名前を」
用意してきた木のプレートに、それぞれが自分の名前をアプト語で記入して、木の横に突き刺せば。
――特別な木。記念の木。
「さて、折角のお祝いだ、ぱーっといこう!」
「用意できました」
香哉が声を上げると、教室から彼の連れてきた精霊、ルゥチェーイが顔を出して。
お酒もいっぱい持ってきたんだ、と彼が指折り数える。ワイン「プランタン」、甘酒、宝酒「稲荷神」、珍酒「化け猫冥利」、桃花酒、ワイン、蒸留酒。地球で言う未成年もいないことだし、パーッと飲み明かすのも悪くはあるまい。
「料理も、届いたみたいですね」
物音と声を聞きつけてカレンが教室の中へ入った。近くの酒場に配達を頼んでいた料理を引き取りに行ったのだろう。
「先生、教室でタバコ吸うのは‥‥」
「ダメよ」
「だよね」
雨霧は取り出しかけたタバコをしまい、じゃあ御酒で我慢するか、とカレンを追う。
「先生、行きましょう」
「姐さんもいっぱい食べて飲んどくれよ」
「はいはい」
銀と冴子に手を取られ、笑いながらユリディスもついていく。
ふと振り返ると、そこには新しく根付こうとしている木がある。
それはまるで、今まさにメイの工房に根付こうとしているゴーレムニストたちの、写し絵のようであった。