【碧眼の元に集え】――合流――
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■シリーズシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 97 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月15日〜02月22日
リプレイ公開日:2009年02月27日
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●オープニング
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ジェトからの帆船を保護した事で、現在のジェトの情報をメイディア側は僅かながら把握する事ができた。情報元は王子付きのじいやであるクレメンス老人だ。
現在のジェトは、突如現れた第一王子、「エアハルト王子」に乗っ取られる形になっている。いや、あくまでマクシミリアン側から見たらそう感じるだけなのかもしれないが。
以前メイとバとの和平交渉の仲立ちをしたマクシミリアン王子は、バがメイに再侵攻したと聞いて父王にその真偽を確かめるように求めた。使者がバに送られたその後、竜を連れてエアハルト王子が人前に姿を現したのである。
エアハルト王子は仮死状態で生まれたため、20歳になるまで死んだものとしてひっそりこっそり育てられ、このたびめでたく20歳を迎えた事で、第一王子として王宮に迎える事になった、王はそう語った。だがマクシミリアンも、王家に長年仕えるクレメンスさえも隠された王子の話など聞いた事もなく。
元々実直で自他共に厳しいマクシミリアン王子を嫌っていた反マクシミリアン派はこれを好機とエアハルト王子に乗り換え、それだけでなく中立、親マクシミリアン派だった者達もなぜだかころっと態度を変えてしまった。マクシミリアンには決定事項だけが告げられたのである――王位継承権をエアハルト王子に、と。
エアハルト王子はバとも仲が良く、バの後ろ立てをも得ていた。
元々竜と精霊を崇めるこの世界、巨大な竜を引き連れてやってきたというのは最高のパフォーマンスである。エアハルト王子はそれだけで民たちの心を掴んでしまった。
だが、それだけではすまなかった。
エアハルト王子はマクシミリアン王子と、彼に忠誠を誓って靡かないその周りの者達を邪魔に思うようになった。そこで計画されたのが、マクシミリアン王子乱心事件。マクシミリアン王子が乱心して身近な者達を殺し、そしてエアハルト王子にも凶刃を向けた――ゆえに「仕方なく」マクシミリアン王子は討たれた――そんな筋書き。
だがその筋書きは、素早くエアハルト王子側の動きを察知したマクシミリアン王子により壊された。マクシミリアン王子は身近な者達を船に乗せ、メイディアへと送り出したのである。だが自らは民達を置いて逃げる事を良しとせず、船に乗った者達が無事に逃げられるようにと兵士達の目を引いてジェトスを発ったのである。
――反逆者の汚名を着せられてでも、民を見捨てぬと誓って。
これ以上の詳しい事情はクレメンスも聞いている暇は無かったという。
ただはっきりしているのは、王宮内は全てマクシミリアン王子の敵に回っているということだ。
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「王子は恐らく数人の信頼できる者達と共に、リーニードという街に身を潜めていらっしゃる。リーニードはジェトスからアンジェレッタ川を超えて南下し、西方に見えるロズワリア山脈の麓にある街じゃ。そこはルイド領とマハト領の境も近い。まずはリーニードの街中に隠れている王子達と合流するのじゃ」
クレメンスはジェトの地図を指しながら続ける。
「反逆者の汚名を雪ぐには、何をおいても拠点が必要じゃ。恐らく国内にはマクシミリアン王子の乱心説が広められ、王子を捕らえるために兵士達が放たれているじゃろう‥‥もしかしたら中にバの兵士もまじっているかもしれぬ」
彼はコップに入れられた水をぐぐいと飲み干し、かつんと音を立てておいた。
「隣のマハト領は現王の弟、コスタス・ルイド様が治めておる。王子は首都ハットアに向かい、無実を訴え拠点を築く為の手を貸してもらうように上申する予定じゃが‥‥正直、コスタス様は敵である可能性が高い」
「敵、ですか?」
空になったコップに水差しから水を注ぎつつ支倉純也が問うと、クレメンスは大きく頷いた。
「王位が転がり込んでこなかった事を恨んでいるとともにな、幼い頃のマクシミリアン王子に恥をかかされたことがあってのぅ‥‥それを恨んでおる」
「敵である可能性が高いところになぜわざわざ?」
「コスタス様を差し置いてほかに助けを求めたと知ったら、自分を差し置いて、と激昂するじゃろう。だから敵であっても一度助けを求めた、という形式が必要なのじゃ」
つまり自ら敵の懐に飛び込まなくてはならないという事だ。
今回の依頼目的は大きく二つ。
1つはリーニードで潜伏している王子と合流する事。リーニードのどこにいるか分からないので、少し頭を使う必要がありそうだ。ただしクレメンスが雇ったメイからの冒険者だと分かれば、向こうの兵士から接触してくるだろう。その代わりマクシミリアンを探しているバの兵士やジェトの兵士はメイからの冒険者が何をしにきたのか疑うだろうから注意が必要だ。
もう一つは王子と合流後、コスタス・ルイドと面会し、無実を訴えて拠点を得られるように交渉すること。ただしコスタスは敵の可能性が高く、王子側は交渉が決裂するだろうと踏んでいる。交渉が決裂した場合はコスタス側は王子を捕らえようとするだろう。コスタスの手から王子を守り通し、無事にハットアを出ること、それが目的である。
●リプレイ本文
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ジェトの首都ジェトスに到着した一行は商人とその護衛を装ってリーニードへと向かった。売り物は調香師石月蓮から仕入れた香水である。
「まあ、20になるまで仮死状態だった‥‥ってとこでな。フィリッパさんの推理、あながちってやつだ。眉唾もいいとこだぜ」
「ああ、違うんじゃ、生まれた時に仮死状態でな、不吉な上に身体が弱く大人になれるかわからんという事で隠されてきた御子という話じゃ」
巴渓(ea0167)の言葉に馬車の奥から答えるのはクレメンス老。彼を連れて行くのはリスクも高かったが、変装させた上で同行させる事にした。
「エアハルト王子は間違いなく黒でしょう」
言い切るのはフィリッパ・オーギュスト(eb1004)。ジェトスではその竜とやらこそ見ることが出来なかったが、渓の言う通り怪しいところ満載だ。
「王に何かあった時に身分の保障し、日ごろ帝王学を教える後見人が居ないなど多くの状況証拠が積み重なっています。今回のようにドラゴンの保障などは普通ありませんし。そもそも最高の治療を施せる、マクシミリアン王子と合わせて2人分の排除が難しいので叔父君の野心を抑えるとか、公表するメリットの方が大きいですしね」
「うむ。その通りじゃ」
フィリッパの言葉にジジ‥‥、クレメンスは満足気に頷いている。
「追っ手はないようですね。それでは方角を戻しましょう」
一度リーニードとは別方向へ向かって追っ手の有無を確かめたルイス・マリスカル(ea3063)は、馬車の行き先を変える。特に追っ手らしいものはついてきていないようだった。後はリーニードでの動き次第か。
「まずはマクシミリアン王子殿下との合流ですね」
「気づいてもらえるといいんだがな」
シファ・ジェンマ(ec4322) の言葉に風烈(ea1587)が香水をしまってある木箱を見る。『パフュームofハセクラ』という名でそれを売り歩く事を目印とするつもりだが、はてさて自分の名前を香水につけられてしまった支倉純也は馬車の隅で苦笑していた。
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クレメンスを宿に隠した一行は(だって連れて行くと王子と合流したときに騒ぎ出しそうだし)、香水を持ってリーニードの町へ繰り出した。
「私たちはメイディアから商売に参りました」
ギルド証と品物を見せれば、簡単な検閲の後許可は出た。ただ街の中を歩いて売るのではなく、市場の決まった場所で売ること、注意されたのはそのくらいだった。
「さてさて珍しい香水だ。腹はふくれねぇが色気の足しになる。そこのお嬢さん、一つどうだい?」
「まあ、いい香りですのね」
渓の呼び込みに反応したのはフィリッパ。さくらだ。烈は警備を装って後ろに立っている。
「パフュームofハセクラといいまして、メイで近頃売り出された香水です。安いとはいえませんが、この機会を逃すと次はいつお届けにあがれるか判りません」
足を止めるのは一般市民が多い。興味を持ったとしても気軽に手を出せる金額ではない。そんな相手にもルイスは「香りだけでも」とためしに蓋を開けてみたりして。
中には商人だという男が纏めて購入を申し出たが、どうせ高値をつけて転売する気だろうからそれは丁重にお断りする。何ならメイの調香師へ紹介状を書きますから、直接交渉をなさってくださいと。
「(‥‥どうも動きのおかしい女がいますね)」
市場に出始めて二日目。一人皆から離れて様子を伺っていたシファが目をつけたのは一人の女。粗末な町人風の服に身を包んでいるが、背筋がぴんと伸びていて、体つきもどちらかといえば筋肉質だ。
「(エアハルト王子側の見張りでしょうか‥‥それとも)」
その女が人ごみに近づいていくのにあわせて、シファも女の後をついて行った。もしもの時、対処しやすいように、と。
「ちょっとごめんなさい」
「おう、姉ちゃんどうした?」
人ごみを掻き分けて進み出た女を見て、渓は声を上げる。ルイスは女の後ろについているシファとアイコンタクトを交わした。隣で香水の壷を手にしているフィリッパも、ルイスや渓の後ろで様子を伺っている烈や純也にも緊張が走る。
「私はとある貴族のお坊ちゃまに仕えています。そのお坊ちゃまがこの香水とやらの評判を聞きつけまして。ぜひ館に直接売りに来て頂けないかとお願いに上がりました」
「それはとても光栄な事ですが、その方のお名前をお聞かせ願えませんか。これから末永いお付き合いが続くであろう顧客の名前は、早いうちに覚えておく性分でして」
ルイスが答えるとその女性はじっと強い視線で彼を見つめ返して。
「『クレメンス』と申します」
その名を聞いて一瞬、冒険者達の動きが止まった。だがそれもほんの一瞬の事。不自然さを悟られないようにそのまま動きを続けて。
「左様ですか。それはうちの調香師も喜ぶ事でしょう。『マクシミリアン』と申します。なんでもこちらの王子様も同じお名前だとか」
にっこり笑んだルイスに、女性は満足気に頷き、
「それではお屋敷にご案内いたしますので、支度が出来ましたらお声をおかけください」
そう言って頭を下げた。
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他の客に侘びをいれてとりあえず店じまいをし、渓、ルイス、烈、純也が女性についていき、その少し後を他人の振りをしてフィリッパとシファがついて行った。クレメンスにはまだ伝えていない。万が一この女性がエアハルト王子側の者だった場合を考えて。
案内されたのは町外れの区画。倉庫街のようであり、中で一軒だけ酒場がある。恐らく倉庫で働く者達の憩いの場なのだろう。女性は迷わずにその中へ一同を招きいれた。後からついてきた二人も、少し時間をおいて店内へと入る。
「マスター、遠くから来たお客様なの。奥で休ませて上げてもいい?」
「ああ、勿論だとも」
マスターと呼ばれた男はカウンターの扉を開け、一同を案内する。時間は昼下がり。夕方へ向けての仕込みの時間で、店内はがらんとしていた。
奥へ、という事は奥の部屋か二階か奥の部屋なのだろうと思ったが、女性は木箱をどけて裏口の扉を開けたかと思うと――そこは外ではなく隣の倉庫と繋がっているようだった。そしてその更に奥、積み上げられた木箱の向こうの床に扉があった。地下室があるというわけだ。
さっ!
「「!?」」
階段を下りきったその時、女性と階段下の陰に隠れていた者達が一斉に刃物を冒険者達に向けた。
騙された? そう思ったその時、女性が剣はそのままで部屋の奥へと声をかけた。
「お間違いありませんか」
「間違いない。あの時メイの酒場で見た顔もある」
威厳のあるその声に突き出された剣が下げられる。そして奥から姿を現したのは――
「久しいな、支倉殿。そして‥‥風殿だったか」
町人の服に身を包み、長めの金髪を首の後ろでくくったマクシミリアン王子、その人だった。
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「覚えてもらえているとは思わなかった。久しぶり、かな」
「人の顔と名前はなるべく忘れないようにしている。特に言葉を交わした者はな」
烈の言葉に床に座ったマクシミリアンは少し笑んで。
地下室。恐らくここを隠れ家として提供したマスターの好意なのだろう、城にあるものと比べれば上等とはいえないが絨毯が敷かれ、そのまま腰を下ろすことができるようになっていた。椅子を置くとただでさえ広くはない地下室が、更に狭く感じるからという事らしい。ざっと見たところ、贅沢は出来ないが生きていくのに不自由はしていないようだった。
「君達が来てくれたということは、アルトゥールが無事にメイディアに到着し、クレメンスから大体の事情は伝わっているという事だな?」
「はい、大体の流れは」
「クレメンスさんには今、宿で待っていてもらっています」
フィリッパとシファが答え、ルイスが「彼は色んな意味で目立ちますから」と告げれば王子は「賢明な判断だ」と頷いた。
「ところで救援要請をしにいくハットアってどんなところなんだ? コスタスって奴はどんな奴なんだ?」
渓の問いに王子は、絨毯の敷かれていない地面に木の棒で地図の様な物を書きながら状況説明を始めた。
「これがロズワリア山脈。こに今いるリーニードがある。発音が間違って伝わったか。これから行く町はハットアではなくカットアだ。カットアはロズワリアの丁度低い部分を挟んで向かいにある。山道も整備されているのでそこを進めばいい」
「整備されている山道を通る事で、敵が待ち伏せをしている可能性はないのですか?」
ルイスの問いも最もだ。だがマクシミリアンは首を振って。
「追っ手は出てるだろうが、マハト領内で確実に捕まえた方が自分の手柄として上げやすい。コスタスはそういう奴だ。カットアの城の中までは確実に通されるだろう。代わり、カットア城内から出るのは容易ではない事を覚えておいてくれ」
「コスタス・ルイドという方は、ぽっとでの王子をすぐに信用するような方ですの?」
「というよりも、私のことを極端に嫌っている」
フィリッパが王子が叔父の事を呼び捨てにしているのに気がつき、王子の方もコスタスを信頼していないのだとわかった。それでも後で文句をつけられない為には危険を承知で『一番にコスタスに助けを求めた』という事実が必要なのである。
「幼い頃に叔父の不正を厳しく追及したことがあり、大勢の家臣の前で論破したことがある。それ以来何かにつけて私は叔父の機嫌を損ねているようだ。自分が硬いのはわかっているが、だからといって不正を見逃すわけにはいかない。恐らくエアハルトと一番に裏取引をしたのだろうと私は考えている。私を捕らえて差し出せば、今以上の地位や領土を約束されているのかもしれない」
ジェトは王城のあるルイド領、コスタスが納めるマハト領、そして王姉の治めるエイデル領の3つに分かれている。領土を増やすといっても限界があるはずなのだが。
「まあ今彼らの取引内容を推測していても仕方がない。カットアへ向かう準備をしよう」
王子の言葉で、綿密な計画が立てられた。
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カーテンの陰に隠れていた兵士が一斉に弓を放つ。入口を固めた兵士達が槍を構える。コスタスの横についていた男達が、魔法を放った。
「おらぁ!」
渓がレミエラの光を胸に宿し、オーラショットを放つ。入口は固められている。烈は壁をぶち抜いて退路を確保。フィリッパは王子を守るようにホーリーフィールドを展開した。
「王子、先に行って下さい!」
コンバットオプションを駆使して防御と反撃を繰り返しながらシファが叫ぶ。
王子の性格からして仲間をおいて先に逃げるという事はしたくないようだったが、そんな事を言っている場合でない事は本人も十分承知している。王子は頷いて、烈の後へと続いた。
全て予想通りだった。
形ばかりの濡れ衣の釈明と救援要請をしたが、コスタスは最後までそれを聞いて意地悪く笑んだ。
「初めに私の所に来たのは褒めてやろう」
そう言い、頭を下げる王子をとても楽しそうに笑いながら上から見ていたのだ。そしてフィリッパの説得にも耳を貸さず――恐らく王子の話を聞いていたのも、王子が頭を下げて自分に力を乞うているのを長く見たかったからだろう――控えさせておいた兵士達に一斉攻撃をさせたのである。
かくいう冒険者側はこういう事態を予測していた。通された部屋は3階の角部屋であり、入口は封鎖されて窓から飛び降りる事も叶わなかったが、幸いにも一箇所廊下へと続く壁があった。そちらをぶち抜いて、彼らは逃走を開始したのである。
勿論廊下にも兵が配置されていた。だが殆どの者が武術に長けているので、魔法さえ受けなければそれほど傷をこうむる事はなかった。負った傷は直ちに手持ちの薬で治療し、そしてただただ城から脱出するだけを考える。
こちらをわざと迷わせるかのようにぐるぐると遠回りして目的の部屋に案内されたように見えた。初めて訪れる建物では、勝手がわからない。出来れば最短距離で外へと向かいたいのだが――
その時先頭を走る烈の目に入ったのは、窓の外に見える馬車の側で手を振るルイス。方角さえ判れば、後は突き進むのみだ。
階段を駆け下り、そして下り途中で壁をぶち破る。1階まで降りきっていないので多少の高さはあるが、飛び降りられないほどではない。
「王子、行けるか!?」
「無論!」
烈に引き続き、王子が飛び降りる。その後彼はフィリッパが飛び降りるのに手を貸すのも忘れない。
「走れ!」
後方から渓の声が響く。先頭の三人は急いで馬車へと向かった。ルイスは御者台に座り、いつでも馬車を発車させられるようにしておく。
「今行きます!」
シファが飛び降り口で男一人を転倒させたことで、階段を下りてきた勢いが収まらなかった他の兵士達が、積み重なって倒れる。中には勢いづいてそのまま外に落ちる者もいた。
「義理は果たした。長居する必要は無い、急いでくれ」
「わかりました」
王子の声を受けて、ルイスはカットアを脱するべく、馬車を走らせたのだった。