【碧眼の元に集え】――試練――
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■シリーズシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月24日〜04月29日
リプレイ公開日:2009年05月02日
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●オープニング
――竜の王子に対抗するには、精霊の王子なんてどうかしら?
にっこりとそんな大それた事を言い出したのはマクシミリアン王子の叔母であるアンゼルマ・ルイドである。
敵と思しきエアハルト王子は竜の祝福を受けたいうなれば竜の王子。それならば竜と精霊を信仰するこの地に相応しく、精霊の王子となるのはどうだろうか、ということだった。
これはすなわちマクシミリアンに協力してくれる精霊を見つけるということである。
エレメンタラーフェアリーなどではなく、上級精霊でないと意味がない。
だが上級精霊とて探したからといって簡単に見つかるものではあるまい。そこでその話を聞いた支倉純也が思い出したのは、クラウジウス島の中心に住む風の上級精霊、ヴァルキューレだ。クラウジウス島はメイディアの近くにあり、以前バと通じた魔術師が住んでいた。バの兵士が乗り込んできた際、ヴァルキューレは「正義のために戦う」という冒険者達に力を貸してくれたのだった。
そこでまず、純也は単身クラウジウス島へと向かった。そしてヴァルキューレに事情を話した所、一つの条件を突きつけられた。
『わが力を欲する理由とその武勇を見せよ』
すなわちヴァルキューレの力をどのように使うのか、そしてそれにあたうる力を持っているのかという事らしい。
問答と戦闘、その両面でヴァルキューレを納得させなくてはならない。
戦闘に関しては相手はヴァルキューレのみならず、ジニールなどの中級以上の精霊も出てくるだろう。数は同行する人数に合わせるという。
試練は次にゴーレムシップがクラウジウス島の浜辺に着いたとき――すなわち次回訪れたとき。
相手は風の精霊――彼女を納得させられれば、彼女の力を借りられれば心強いのは確かだ。
●リプレイ本文
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ゴーレムシップをクラウジウス島の浜辺に接岸して冒険者達が降り立つと、すでにそこには白銀の乙女、ヴァルキューレの姿があった。
「そちらは5名か」
「そうですね」
ヴァルキューレの問いかけに、フィリッパ・オーギュスト(eb1004)が応じる。王子を合わせてこちらは5名。ヴァルキューレはさっと手を差し出し、何かに合図を送る。すると腰巻きを履いた巨人――ジニールが二体、色々な獣の姿を併せ持ったなんとも表現しがたい――ウェールズ。そして緑色の外皮を持つ翼の生えたトカゲ――ウイバーン。
彼らに加えてヴァルキューレという風の精霊が揃い踏みだ。
「約束どおり、同じ数だけそろえた。戦いの前に、まずはそなたらが何のために我が力を欲するのか、それを聞かせてもらおう」
粛々と告げられるヴァルキューレの前に進み出たのはルイス・マリスカル(ea3063)。帽子を取って礼をとり、そして問答に答える前にご理解いただきたいことがあります、と告げた。
「まず私たちは依頼を請けた冒険者であることだけではなく。各人各様の立場、考え方のもと王子に力を貸そうとしている者であります。故に意見が纏まっていないのではなく。王子が様々な人間から信を受けているというということです。それを踏まえたうえで我々の「答え」を聞いてください」
「‥‥あいわかった」
ヴァルキューレが頷くのを見て、ルイスは「まずは王子から」と進める。マクシミリアンはつ、と進み出て、そして正面からヴァルキューレを見据える。
「私は内側から侵食されている我が国を救いたく思う。自らの王位のためではなく、バという脅威にさらされつつある民達を放っては置けない。そのために戦乙女、そなたの力を借りたい」
「正義のための戦いか?」
「勿論。人々が我々を正義と定義付けるならば」
ヴァルキューレの表情は読めない。無表情に近いそれを覗いつつ、続いて風烈(ea1587)が口を開いた。
「俺は受けた恩を返すためだ」
「ふむ」
「力があるときに利を求めてきたのではなく、困っている時に手を差し伸べ手くれた王子が、以前のメイと同様にバの脅威にさらされている。それを見て見ぬふりをするのは義に悖るからだ」
その視線に強いものを感じ、なるほど、とヴァルキューレは頷いて視線を移す。
「理由ですか。あえて言うなら『想像を絶する困難に立ち向かうため』ですわ。そんじょそこらのカオスとの戦いに戦乙女の助力を仰ぐ必要は無いでしょう。戦乙女の力を借りてなお、目もくらむ脅威があるからこそです」
「なるほどな」
フィリッパの答えにも、ヴァルキューレは小さく頷いた。
「私なりの解釈ですが」
ルイスが続けて口を開いた。
「私の力を欲する理由、力をどう使うのかへの答えとしては。王子の今までの行状を見聞きするに。人のため、国のために自分の命をかけられる仁勇兼ねそろえた人物であります。精霊から力を貸すにあたうると認められれば、王子の仁勇は広く人の認めるところとなりましょう。ゆえに、試練を課していただくことが、すなわち望む助力であると」
「ふむ‥‥そなたの意見は」
「俺、か」
最後に水を向けられたのは巴渓(ea0167)だ。こういう問答はぼろがでるから仲間任せにしておきたかったのだが、直接問われては答えぬわけにはいかない。
「理不尽な暴力に抗う力を持たない者の為に、誰かの為に戦う事。それが俺の信念だ」
孤児院の子供達など、子供達を不幸にするような正義なんざ、俺が纏めて叩き潰してやるぜ、と。
「そなたらの心意気はあいわかった。それでは武力を見せてもらおう」
相変わらずヴァルキューレの表情から心情は覗えない。冒険者達の信念が通じたのかも、今はわからない。
「こちらはジニール二体、ウェールズ一体、ウイバーン一体、そして私が相手だ。戦法は不殺で。戦闘不能になった時点で脱落だ。よいな」
ヴァルキューレの言葉を受けて、飛行系のウィバーンとウェールズが前線に展開した。ヴァルキューレとジニール二体は地上に降りたまま、後方で様子を見ているつもりだろうか。
「さあ共にカオスと戦う朋を迎えにいきましょう。もちろん、私が貴方と共に戦う意思の証明もいたしますわ」
フィリッパはインタプリティングリングを使用して、ペガサスを落ち着かせた。そして騎乗し、自らにレジストマジックをかける。ルイスはパックパックを置いて機動力を確保し、弓を持った。渓はオーラショットの準備をし、烈はオーラエリベイションを自らにかける。
ペガサスに騎乗したフィリッパが羽ばたく。それが合図だった。
フィリッパは滞空しているウェールズとウイバーンをかく乱するように動く。ウイバーンは魔法を唱えようとしていたが、ルイスの弓がその詠唱の邪魔をする。反対にウェールズはその鋭い牙をもってフィリッパに噛み付いた。上腕から血が滴る。
「おらよっ!」
渓が援護にとオーラショットを放った。ウェールズはそれを避けようとしてフィリッパから牙を離したが、避けきれずに攻撃を食らってしまった。
「戦乙女殿に敬意を表して、全力で行かせていただく」
マクシミリアンはアミュートとエクセラにコマンドを打ち込み、起動させる。全身に鎧を纏ったようなその姿はこの中において異様だったが、それだけ彼が真剣である事を示している。
「我が名は烈。参る」
烈は他の精霊が倒れるまでヴァルキューレを足止めしておく役を買って出た。名乗った事で真剣みが伝わったのだろう、ヴァルキューレは地上に降り立ったまま、槍を構える。
間合いにおいては烈が不利だ。爪での攻撃を命中させるには相手の懐に入らなければならない。予想通り烈が接近する前にヴァルキューレはその雷を纏った槍を投擲してきた。すんでのところで烈は避けたが、雷が通り抜けた余波か、肌が少しぴりぴりした。今のうちに接近を試みる。だが不思議と槍はすでにヴァルキューレの手元へと戻ってきていた。
――ヴォォォォォォ!
フィリッパの反撃を受けたウェールズは、痛みに声を上げる。そしてその咆哮は、フィリッパに逃走したくなる気持ちを与えた。だが、ここで逃げてはいられない。どうやら渓の高速詠唱専門オーラショットはかすり傷しか与えられないようで、フィリッパの剣が唯一の頼りだった。だが同時にウェールズの牙はフィリッパを狙う。渓の援護で時折気をそらす事に成功していたが、双方共に傷を負っている状態だ。
「そちらに加勢します。渓さんはウイバーンをお願いします」
「わかった」
ルイスは弓からエレメントスレイヤーの効果のある剣へと持ち替え、ソニックブームを放つ。
――ヴァァァァー!
その攻撃は強力だったらしく、これまで蓄積したダメージとあいまってウェールズはふらふらの状態になっていた。後一押しだ、とフィリッパが迫る。
「巴さん!」
地上での戦いとなった烈はウィングシールドを渓へと放る。それを受け取った渓はその魔力で浮かび上がり、ウイバーンと対峙した。拳は命中、相手の尾の攻撃は余裕で回避できる。これならいけそうだった。
ヴァルキューレに付き従うようにしていたジニールが動いた。フィリッパとルイスによってウェールズが倒されたのだ。ジニールのうち一体をマクシミリアンが引き受ける。
――バリバリバリッ!
ジニールの手から雷撃が放たれる。レジストマジックを付与しているフィリッパが盾となり、それを防いだ。そのままペガサスを駆り、急接近してジニールを斬りつける。ルイスはその場からソニックブームを放ち、精霊達に深い傷を与えていた。
対ヴァルキューレの状態にいる烈は懐に入り、コンバットオプションを駆使していた。時々盾で防がれたが、攻撃が当たればダメージは入っているようだ。ヴァルキューレの攻撃は槍よりも魔法のほうが痛く感じた。飛翔されて上空から達人レベルの魔法を放たれたら、被害はどれほどだろうかと考えてしまう。
一体、また一体と精霊達がリタイアしていく。もちろん冒険者側とて無傷とはいかなかったが、それでも何とか凌ぎきり、残すはヴァルキューレのみとなった。そして。
「ふむ‥‥そなたらの意思、認めよう」
一同を見回し、ヴァルキューレは厳かに言った。
●
傷を癒した後、ヴァルキューレに詳細な説明をした。
メイの南にあるジェトが、内々にバの侵攻を受けている事。
王都を奪還し、バを駆逐するために共にジェトへとわたってほしい事。
しかし――ジェトへとわたるという点で、ヴァルキューレはあまり良い顔をしなかった。
「我はこの島を守る役目がある。故に同行は出来ない」
「そんな‥‥」
思わず漏れたフィリッパの言葉を、彼女は手で制して。
「だがかつて我はジェトの山にてバハムートに出会ったことがある」
「バハムート‥‥確か陽の上級精霊だな」
山海経をめくりながら告げられた烈の言葉に、ヴァルキューレは頷きを返して。
「かの者は、ジェトに伝わる武具を守護しているといっていた。正当な使い手が現れるのを待つ‥‥と」
「ジェトの? まさかロード・ガイの残したものでは」
マクシミリアンが身を乗り出す。
『天界王』ロード・ガイ伝説。紀元前4000年頃に、アトランティスの地に降り立った最初の英雄が『ロード・ガイ』だ。彼は天界からこのアトランティスに『落ちて』きたと伝えられている。『ジ・アース』と呼ばれる世界からやってきたという口伝が残っており、ジェトの国はロード・ガイの子孫によって興されたとされている。ロード・ガイの伝説は、メイやジェトの子供ならば一度は寝物語に聞いたことがある話だ。
「ロード・ガイですか‥‥正統なジェトの子孫の王子にならば、バハムートも力を貸してくれるやもしれません」
「騙されたと思っていってみるのも手だな」
「我は騙しなどしない」
渓の言葉にヴァルキューレは眉を顰めた。
「悪ぃ、そういう意味じゃなくてだな」
「わかっておる。ともかく場所は教えよう。風の澄む島のヴァルキューレに話を聞いたといえばあからさまに警戒はされまい。後はそなたらがどうバハムートと対峙するか‥‥上手く気に入られるように祈っている」
「感謝する」
「ありがとうございます」
マクシミリアンとルイスに合わせて、一同は礼を述べた。
ジェトの国にいるという陽精霊バハムート。彼の助力と、彼の守っているというロード・ガイゆかりの品が手に入れば、心強いはずだ。
舞台は再び、ジェトへと移る――。