【竜の王子 精霊の王子】陽精霊の守護地へ

■シリーズシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月14日〜05月19日

リプレイ公開日:2009年05月24日

●オープニング


 以前メイとバとの和平交渉の仲立ちをしたマクシミリアン王子は、バがメイに再侵攻したと聞いて父王にその真偽を確かめるように求めた。使者がバに送られたその後、竜を連れてエアハルト王子が人前に姿を現したのである。
 エアハルト王子は仮死状態で生まれたため、20歳になるまで死んだものとしてひっそりこっそり育てられ、このたびめでたく20歳を迎えた事で、第一王子として王宮に迎える事になった、王はそう語った。だがマクシミリアンも、王家に長年仕えるクレメンスさえも隠された王子の話など聞いた事もなく。
 元々実直で自他共に厳しいマクシミリアン王子を嫌っていた反マクシミリアン派はこれを好機とエアハルト王子に乗り換え、それだけでなく中立、親マクシミリアン派だった者達もなぜだかころっと態度を変えてしまった。マクシミリアンには決定事項だけが告げられたのである――王位継承権をエアハルト王子に、と。
 エアハルト王子はバとも仲が良く、バの後ろ立てをも得ていた。
 元々竜と精霊を崇めるこの世界、巨大な竜を引き連れてやってきたというのは最高のパフォーマンスである。エアハルト王子はそれだけで民たちの心を掴んでしまった。
 だが、それだけではすまなかった。
 エアハルト王子はマクシミリアン王子と、彼に忠誠を誓って靡かないその周りの者達を邪魔に思うようになった。そこで計画されたのが、マクシミリアン王子乱心事件。マクシミリアン王子が乱心して身近な者達を殺し、そしてエアハルト王子にも凶刃を向けた――ゆえに「仕方なく」マクシミリアン王子は討たれた――そんな筋書き。
 だがその筋書きは、素早くエアハルト王子側の動きを察知したマクシミリアン王子により壊された。マクシミリアン王子は身近な者達を船に乗せ、メイディアへと送り出したのである。だが自らは民達を置いて逃げる事を良しとせず、船に乗った者達が無事に逃げられるようにと兵士達の目を引いてジェトスを発ったのである。
 ――反逆者の汚名を着せられてでも、民を見捨てぬと誓って。

 はっきりしているのは、王宮内は全てマクシミリアン王子の敵に回っているということだ。



 王弟コスタス・ルイドの追っ手を交わし、王姉アンゼルマ・ルイドの庇護を受けた王子。アンゼルマの納めるエイデル領に拠点を定めることが出来た一行は、『竜の王子』ことエアハルト王子への対抗策を練る。そこで出てきたのが『精霊の王子』という話。あちらが高位の竜を従えているならば、こちらは高位の精霊に手を貸してもらったら箔がつく上に戦力となるだろうという話だ。
 その案を受けて一行はメイディア近郊にあるクラウジウス島へと向かった。かの島には風の高位精霊ヴァルキューレが住んでいるのである。ヴァルキューレの試練に打ち勝った一行に告げられたのは、島を離れる事は出来ないというヴァルキューレの言葉。
 だが望みは潰えたわけではない。ヴァルキューレはかつてジェトで陽精霊バハムートに出会ったことがあるという。そのバハムートは『天界王』ロード・ガイゆかりの品を守護しているというのだ。
 『天界王』ロード・ガイ伝説。紀元前4000年頃に、アトランティスの地に降り立った最初の英雄が『ロード・ガイ』だ。彼は天界からこのアトランティスに『落ちて』きたと伝えられている。『ジ・アース』と呼ばれる世界からやってきたという口伝が残っており、ジェトの国はロード・ガイの子孫によって興されたとされている。ロード・ガイの伝説は、メイやジェトの子供ならば一度は寝物語に聞いたことがある話だ。

 ヴァルキューレによればバハムートはロズワリア山脈の先端にある洞窟にいるという。
 マクシミリアン王子が潜伏していたリーニード。コスタス・ルイドのいるカットア。その二つを挟む形で山脈の東端は南へと伸びている。サクラアンシュの北に位置する山の奥深く、人の普段立ち入らぬ場所にひっそりと洞窟がある。そこにバハムートが住んでいる。
 ヴァルキューレは「風の澄む島のヴァルキューレに話を聞いた」といえば悪いようにはされないといっていたが、それでもバハムートを納得させ、協力を仰ぐ上にロード・ガイゆかりの武具を譲ってもらうとなればそう易々と事は進むまい。いきなり戦闘になることはないとは思うが、果たしてどう事を運ぶか――。

●今回の参加者

 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3475 キース・レッド(37歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea5229 グラン・バク(37歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea5298 ルミリア・ザナックス(27歳・♀・パラディン・ジャイアント・フランク王国)
 eb1004 フィリッパ・オーギュスト(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec1201 ベアトリーセ・メーベルト(28歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)

●サポート参加者

利賀桐 真琴(ea3625)/ シャリーア・フォルテライズ(eb4248)/ アリア・アル・アールヴ(eb4304

●リプレイ本文

●ジェトへ向けて
「ジ・アースより来たセイル・ファーストだ。よろしくな」
 メイディアから発ったゴーレムシップの中で、それぞれが挨拶を交わす。セイル・ファースト(eb8642)はアトランティスの地を検分している最中にこの依頼を見つけたのだという。軽く挨拶をした彼に、マクシミリアンは礼儀正しく頭を下げ、そして右手を差し出した。身分は一国の王子であるが今は追われる身。力を貸して貰っている立場だという事を重々承知しているようだった。
(「手配されているとは穏やかではないし聞いても信用できるかはわからないが、依頼は依頼だ」)
 セイルはその手を取り、握手を交わした。乗りかかった船には最後まで付き合うつもりだし、どんな人物かは旅の間に解るだろう。信ずるに値する人物かどうかはそれで判断するつもりだ。
「我はルミリア・ザナックス。パラディンである」
 仮面をつけた女性、ルミリア・ザナックス(ea5298)は挨拶の後、まずはパラディンの戒律について口にした。女性は仮面を外してはならず、嘘もついてはいけない。何よりも公正でなくてはならぬ為、特定の国や軍などの組織に力を貸す事も禁じられているという。
「例えば、もしあなたが後に悪にはしるような事があれば我はあなたでも討たねばならなくなる、どうか心して欲しい」
 真剣なルミリアの言葉に王子は頷き、わかった、と短く答えた。
「ジェトで顔を知られていない方々には商人のふりをお願いしたく」
 髪を切り、髭をそったルイス・マリスカル(ea3063)は同じく変装をしたフィリッパ・オーギュスト(eb1004)、風烈(ea1587)と共にその商人を護衛する冒険者として同行する事にした。
「王子は一人だけ年齢が低いから、騎士見習いという設定が妥当だと思うのだが」
 ちらり、グラン・バク(ea5229)は王子を見やる。すでに一人前たる王子には多少不服かもしれないが、それでもこの場合は――
「やむを得まい。無事にジェトに入るためには必要だろう。指示に従おう」
 頷いた王子にグランは「頼むぜ、ジェド」と仮名で呼びかけた。


●行く手を阻む者
 ジェトスの港での検閲はそれなりに細かかったが、フィリッパの事前の提案でこれから仕入れに行く商人を装って口裏を合わせていたおかげか、なんとか通過する事が出来た。兵士達もまさか王子がメイディアからやってくる船の中にいるとは思うまい。
 ゴーレムシップはそのまま南下し、王子の庇護を約束してくれたアンゼルマの居るエイデル領、サクラアンシュの東の港に到着した。
 当初ジェトスやサクラアンシュに寄って情報収集をという案も出ていたが、王子の正体がばれる事を回避するため、それはやめておく事となった。
「さて話半分とは言え、かの英雄の忘れ物とはね‥‥ロマンを見出すよ」
 数時間かけて山の麓へと辿り着いた一行。キース・レッド(ea3475)がその山を見上げて感慨深げに零す。だが本番はこれからだ。
「精霊が守る山なら殺生は避けましょう。陽魔法なら尚更テレスコープでお見通しです」
 ベアトリーセ・メーベルト(ec1201)の言う通り相手は陽精霊。それも高位の精霊だ。どのような方法でこちらの動向を覗っているかも解らない。下手に山に棲むモノを退治して、後の交渉に響くのは困る。
「不要な戦いを避けるつもりがあるという意味でも、可能な限り生き物を殺さないに賛成です」
 フィリッパが頷いて続ける。
「精霊に協力してもらうなら、常日頃の行いから徹底すべきでしょうから。謎かけや試練がある場合も筋道を守る事を年頭にいれておけば、大きな障害はおきないと思われます」
「アナイン・シーはよく力を貸してくれたが、バハムートが対悪魔やカオスで動いたとは聞かないので、何か動けない理由があるのかもしれない。その場合は武具を譲ってもらう事を念頭に置こう」
 箔としてはバハムートから武具を託されたというだけでも十分だ、と烈は告げた。
「動けない理由が武具を守っている事でしたら、武具を託されればバハムートも動く事が出来る‥‥少々都合が良い考えでしょうか」
 セブンリーグブーツを履いた足を動かしながらルイスが考える。
「いや、あながち間違っておらぬかもしれぬ」
 どちらにしろ実際にバハムートにあってみなければ解らぬのは事実だが、と獣道にすらなっていない地面の草を掻き分けつつ、ルミリア。
 がさ‥‥
「「!?」」
 一行が進み行く足音とは別に、草を掻き分ける音がした。皆が足を止め、緊張気味にその気配を探す。
 がさり‥‥
 前方に姿を現したのは、片手片足のライオン。
 なぜライオンがここんなところに?
 そんな疑問を抱いた者も居るだろう。だがここは精霊の守る地。何が居てもおかしくはない。
 ガゥ‥‥
 ライオンが薄く開いた口から牙を除かせ、うなり声を上げた。その瞳は好戦的に輝いている。だが、一同はここで戦うわけにはいかなかった。
「かの戦乙女や気まぐれな月精霊もそうだが、竜もまた僕らの言動を見極めてくる。彼のテリトリーに入ったこの時点で、彼の試練がすでに始まっていると考えた方がいい」
 キースは王子を庇うように立つ。
「効くか解りませんが、スタンガンを用意しました」
 ベアトリーセは地球製の不思議な品、スタンガンを手にした。
「‥‥テリトリーに入ったのは悪いが‥‥仲間を傷つけるなら容赦をする気にはなれない」
 言葉が通じるか解らないが、セイルはライオンに語りかける。そうはいいつつも、やはり止めをさすのは避けたいという心情。
「人目にはつかなかったが、獣の目にはついたか」
 だが威嚇するライオンに対し、烈は攻撃の構えを取らない。
「我々に戦う意思はない」
「我々は戦うためにここに来たのではありません。どうか、道を譲ってはいただけませんでしょうか」
 静かに言うグラン。そして交渉を試みるルイス。フィリッパはいつでもコアギュレイトを発動できるように聖女の祈りを握り締めた。
 グルルルル‥‥
 ライオンは再び威嚇するように鳴く。だが、誰も動かなかった。しばしの間膠着状態が続いた。
 ごくり、誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。場を支配する沈黙が、緊張を導いてくる。
 ライオンはまるで何かを待っているかのように、うなり声を上げたままその場から動かない。
 そして――
「‥‥その覚悟、しかと見届けた」
 沈黙を破ったのは他ならぬライオン自身だった。
「「!?」」
 突如人語を喋りだしたライオンに一同は目をみはる。だがライオンは意に介した様子もなく、さっと道を開けた。
「あなたがバハムートですか?」
 フィリッパの問いにライオンは否、と答え
「私はミントリュース。主はもっと上に居る。全てを見ておられる。気をつけられよ」
 片手片足のライオンはそう言い、すっと森の中へと消えた。
「全てを見ている――予想通りですね。進みましょう」
 ベアトリーセはスタンガンをしまい、ならされていない斜面に足を踏み出した。


●出会い
 その後一同が対したのは野生の狼や狐などの類であった。殺生は避け、予定通りこちらに危害を加えようとしたものにだけ動きを止めている間に移動を済ませたり、気絶させたりをしてやり過ごしてきた。
 さすがに四時間近くもの山登り。しかも森の木々を掻き分けて進むような事態。道がないのだから方向感覚もあやしく、時にはこの方向でいいのかと思うこともあった。
 洞窟があることは知らされていたが、詳細な位置までは知らされていないのである。第一説明されていたとしても、実地で辿り着けるとは限らないのだが。
「見えたか」
 ルミリアが顔を上げた。つられて何人かが前方を見る。木々の間から見えたのは、苔むして蔦が絡まった岩肌。その岩肌に大きめの穴が開いている。明かりが無いのか中の様子は覗えない。
「ここがその場所であるとしたら、バハムートがいるはずだが」
 少しひらけたようになっている洞窟の入り口に歩み寄り、グランが首をめぐらす。だが事前情報にあったような50mもの巨大な龍は見えない。
「常に50mだと目立ちますからね。高位の精霊ですし、姿を変えているのかもしれません」
 ベアトリーセが言ったその時、一同が来たのとは別の方向の茂みが鳴った。
「たすけて!」
 叫びながら出てきたのは少年。少年はセイルに抱きつくや、瞳に涙を溜めて彼を見上げる。
「ライオンが、ライオンが襲ってきたんだ! 助けて!」
「ライオン‥‥!?」
 そういわれて脳裏に浮かぶのは、先ほどの片手片足のライオンの姿。だが彼は、人を襲うような者だったか?
「落ち着くんだ。そのライオンは片手片足だったか?」
 視線を合わせるためにしゃがんだキースの問いに、少年はすぐさま頷いて。引っかかれたんだ、と足に走った傷を見せる。
「それはおかしいですね。私達が出会った彼は、人を試す事はあれどもむやみに人を襲うような者ではありませんでした」
 フィリッパが静かに言う。その瞳には、何か確信のようなものが潜んでいて。
 そもそもここはどこだ?
 人の分け入らない山奥にある隠された洞窟だ。大人の足でも登るのに苦労し、道に迷いそうになる山だ。このような少年が一人で、なぜここに?
「君が何かそのライオンに失礼な事をしたのでなければ」
 それに気づいた烈とルイスが跪いた。そして――
「私達は風の澄む島のヴァルキューレにあなたの事を聞いてここまでやってきました。バハムート」
 セイルに抱きついていた少年はその言葉を聞いて彼から手を離し、そしてにこり、微笑んだ。


●交渉――新事実
「僕のジニールはかの戦乙女から与えられた者」
 キースはジニールを呼び出し、そして少年の姿をしたままのバハムートに見せる。自らが戦乙女の信を受けているという証拠として。
「風の澄む島のヴァルキューレとはね。また懐かしい名前だな」
 バハムートは少年の姿のまま、だが泣きついてきた時とはまた別の威厳と、そして威圧感をかもし出している。
「まずは仮面を取れぬ非礼をお詫びする。偉大なる龍精霊よ、あなたのお力をお借りする機会をどうかいただきたい」
「ジェトの王子に力を貸していただきたい」
 ルミリアと烈の言葉に、バハムートは小さく首を傾げて。
「そこにいるのが現ジェト王家の第一王子、マクシミリアン・ルイドである事は知ってるよ。それと、君達が極力殺生を避けてこの山道を登ってきたことも。だから僕は獣達を道案内に遣わしたし」
 よくよく考えて見れば、獣達は一同が洞窟までの経路を外れそうなときに限って現れていたのだ。ということは、そもそも最初の試練はミントリュースとの対面だったというわけか。
「僕はジェトを興した者――天界王ロード・ガイの子孫からガイの持っていた武具を預かってにここに居る。その子孫である王子に力を貸すのはやぶさかではない、けど」
 現状を話してほしい、とバハムートは言った。
「ジェトが仲立ちした休戦協定を破ってバがメイに侵攻して来ました。バはカオスの力を得ている事が、カオスゴーレムの存在から判明しました。カオスの力はいずれアトランティスもジ・アースも地獄にしてしまうでしょう。カオスの勢力は生物と精霊の共通の敵です。ゆえにバの援助を受けている『竜の王子』から権利を取り戻すため、マクシミリアン王子は『精霊の王子』となるべくここまでやってきました。アトランティスの信仰において、竜に対抗できる説得力があるのは精霊ですから」
 一気にそこまで述べて、ベアトリーセが息をつく。続いてルイスが言葉を引き受けた。
「天の陽精霊の下の出来事はほぼ把握していらっしゃるでしょう。あなたが人の世の利害に興味があるのかはわかりません。ですから私が王子に力を貸す理由を話しましょう。それは彼を正しい人間だと信じている為です」
「僕が王子に助力する理由は簡単さ。愛する女性の美しい歌を、こんな美しいものがある世界を闇どもは壊そうとするからさ‥‥」
「ふむ‥‥」
 続いたキースの言葉にバハムートは少し考え込むようにして。そこに烈が言葉をかける。
「何もバハムート自身に矢面に立って戦ってほしいというわけではない。人の手で事態を打開するために協力を願いたい」
「他の者の意見は?」
「五分五分といったところかな。彼がどう転ぶかは判らないロード・ガイを継ぐ者であるかどうかは」
 グランははっきりと言い切った。
「ただ彼に『未来』がある。無限の道筋と選択を持つ未来が。陽精霊の王、未来を見据える王よ。今は『彼』の想いを引き継ぐには力不足かもしれないが、彼の資質と歩みを見つめる目をつけるのも悪くはないと思う、どうだろう」
 続けられた言葉に、バハムートはマクシミリアンをじっと見て。
「いや、王子がここに来たという事はすなわちヴァルキューレの信を受けたという事。そこに疑いはないけど。ただ‥‥君達は、王家を取り戻すために戦う勇気と覚悟はある? はっきりいって相手は本物の王子じゃない。少なくとも僕はマクシミリアン以外の第一王子を知らない。それに奴の連れてきた竜は非常に不快だよ。カオスの臭いがする」
「普通のドラゴンではなく、カオスドラゴンではないかと私達も考えています。当たっていますか?」
 フィリッパの問いに、バハムートはこくりと頷いた。
「バがカオスの力を受けているのだとしたら、ドラゴンはカオスに関わる者には屈服しない。でもカオスドラゴンなら別」
「求められる覚悟とは、厳しい戦いに身を投じるという事か、それともロード・ガイ縁の品をこの手に受ける覚悟をということか」
「両方」
 ルミリアの言葉にバハムートは端的に答え、一同をぐるっと見回した。
「バハムートよ、騎士として最大の礼を取らせてもらう。どうか、力を貸してもらえないだろうか?」
 皆の様子を見ていたセイルは、思い切って頭を下げた。皆の、そしてバハムートの話からマクシミリアンが信頼に値する人物だと知れたからで。
「覚悟はいいね?」
 バハムートの言葉に他の者も頷き、そして頭を下げた。
「では正当なるジェトの王子と勇敢なる仲間達。君達を洞窟内へ招待するよ」
 バハムートは子供姿のまま、それでも言葉の端々に威厳を乗せて、冒険者達を見つめた。
 王家奪還の戦いは、始まったばかりである。