【第三次カオス戦争】内通者を救助せよ・前
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■シリーズシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月18日〜11月23日
リプレイ公開日:2007年11月24日
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●オープニング
戦争というとある意味つきものなのが内通者だ。だが理由はどうであれ敵と通じている者が内部にいるのは好ましくないのは確かである。
今回の戦争でも内通者として疑われている貴族が何人かいた。秘密裏にその調査を行ってきたのは『王立復興騎士団』という組織である。だが、内通者候補の貴族を三人にまで絞ったところでその調査は行き詰っていた。
『王立復興騎士団』が組織を維持できていないのか他に理由があるのかわからないが、この調査の続きは冒険者達に依頼されることになった。
今回の依頼の趣旨は次の通りである。
・三人の貴族のうち、誰が内通者か突き止めること
・内通者と連絡を取っている情報の『運び手』達が帰る場所、つまり他の『運び手』に情報を中継している中継所を突き止めること
最終的に内通者の可能性があるとして絞り込まれた貴族は次の三名。
・シュッテンバイン子爵/35歳男性/人間
家族構成/妻、長男12歳、長女10歳、次女6歳
・マーグスタ男爵/47歳男性/人間
家族構成/長男17歳、次男15歳、三男10歳、長女5歳
・ベイグズ子爵/50歳男性/人間
家族構成/妻、長男28歳、長女23歳、次女17歳、次男10歳、嫁26歳、孫・女10歳、孫・男7歳
この中の何人が内通者であり、何人が潔白なのかは解らない。
ただ本当に彼らのうちに内通者がいたとしても、自ら進んで内通者となったとは思いたくないのが同じメイ国民としての情だ、とギルド職員は告げた。
具体的な調査方法については冒険者達に一任されるが、相手は貴族である。調査に当たる冒険者達が『犯罪者』とみなされる恐れのある行動は慎んだ方が良いだろう。
『王立復興騎士団』より渡された情報は上記のもののみであり、これ以上の情報を現在の騎士団から得る事は難しいと職員は言う。
情報は少ない。地道に調査をするより他ないかもしれない。
難しい任務かもしれないが、何とかして任務を成功させて欲しい。
●リプレイ本文
●結論
「結論から言えば、三人共クロだ」
ケヴィン・グレイヴ(ea8773)の言葉に集まった仲間達――リリアナ・シャーウッド(eb5520)以外は目を見開く。
「あなた達も、自分の調べていた貴族が内通者だと確証を持ってこの場に集まったのでしょう?」
リリアナの言葉に残りの4人は渋い顔をしたまま頷く。
この短い期間でケヴィンは自らの技能と隠身の勾玉、インビジブルのスクロールの力を借りて各家に潜入していた。リリアナはギルド職員に代筆してもらった、アプト語で『売国奴』と書かれた手紙をシフール便を装い各家に届け、その様子を窺った。
オルステッド・ブライオン(ea2449)と服部肝臓(eb1388)はそれぞれの屋敷に出入りする人物に話を聞いた後、マーグスタ男爵をマークしていた。
ベイグズ子爵の元へ向かったのはイレイズ・アーレイノース(ea5934)。シュッテンバイン子爵の元へ向かったのはサイ・キリード(eb4171)だ。
●ベイグズ子爵邸
(「子爵殿が、内通者でなければ良いのだが」)
イレイズは子爵邸出入りの酒屋から聞いた情報を元に、正面から屋敷を訪れた。その酒屋によれば最近子爵はなんだか情緒不安定であり、塞ぎこむことが多くなったため心配した執事が信頼の置ける話し相手を探しているという。だが身元の確かでない者をやすやすと雇うわけにもいかないので、適当な人材が見つからなかった場合は冒険者ギルドにでも話し相手募集の依頼を出そうかと思っていたところらしい。渡りに船、とはこの事だ。
「旦那様、少しお話でもして気分を晴らされてはいかがですか?」
許可を得て部屋の扉を開けた執事の問いにも子爵は半ば上の空で答える。ソファに座り窓の外を見つめるその瞳は曇りがちで、食も細くなったという執事の心配を裏付けるかのように少々頬がこけて顔色も良いとはいえない。先頃届いた差出人不明の手紙を受け取ってから更に状態が悪化した、まさか暗殺予告などでは‥‥と執事は心配してイレイズにこぼした。
「イレイズ・アーレイノースと申します。少しでも私の話が子爵様のお心を慰められればと思い、参上しました」
「ああ‥‥」
イレイズの丁寧な口上にも子爵はあまり興味を示さない。執事が茶を運んできた事で彼も子爵の向かいのソファに腰を下ろした。
「(何を見ているのだろうか?)」
子爵は先ほどから窓の外をぼんやりと眺めている。何かあるのだろうかと彼の視線を追ったイレイズの目には10代半ば過ぎ頃の少女が幼い少年を遊ばせている姿があった。
「お子様ですか?」
「‥‥次女と、孫だ」
「お子様とお孫さんですか。ご家族が多いのですね。ということは、さぞかし食卓などもにぎやかなのでしょう。羨ましいことです」
ぼそりと答えた子爵と何とか会話を繋げようと、イレイズは言葉を紡ぐ。だがそれに答えたのは気を使ったのだろう、後ろに控えていた執事だった。
「現在はご次男とご長男のお嬢様のお二人が勉学の為に別荘へおいでの為、いつもよりは少しばかりおとなしくはありますが、普段はそれは和気藹々とした食卓であります」
ぴくり、と執事の言葉に子爵の肩が震えたのをイレイズは見逃さなかった。
「あ、ああ‥‥メーリアはともかくシャーウィは活発だから、大人しくしているか、心配だ‥‥」
執事に見えないような角度で子爵は拳を握り締める。その指が掌に食い込むほどに。
「(確か次男と長男の娘はどちらも10歳。本当に別荘へ行っているのか調べる必要がありそうだ)」
●シュッテンバイン子爵邸
「サイ、こちらへ。もっと私の近くにいて欲しい」
「はい」
サイはシュッテンバイン子爵邸へ『子爵を狙う不穏な動きがあるので念の為に警護に参りました』という名目で入り込むことに成功していた。リリアナの送付した差出人不明の手紙に子爵は動揺した後だったので、心理的にいつもより過分に護衛を欲したのだろうとは子爵が手紙を受け取る様子をこっそり見ていたケヴィンの言だ。
「お二人とも元気なお子さんですね」
陽精霊の輝きの元庭で遊ぶ少年と幼女を見てサイが告げると、子爵の隣でお茶を飲んでいた夫人が困ったように口を開いた。
「実は末娘の上にもう一人娘がおりますのよ。今は素敵なレディとなるための教育でこの家にはおりませんけれど。あの子にも兄上だけではなく、姉上を見習って素敵なレディになってもらいたいと思っておりますのに‥‥ねぇ、あなた?」
庭で兄を追いかけて走り回る6歳の娘に困った表情を向けながらも、婦人のその瞳の奥は優しい光で満ちている。だが婦人のその言葉に子爵は相槌を打たない。ソファの後ろにつき従うように立っているサイからは子爵の表情は見て取れなかった。
「あなた?」
カシャン‥‥
「あ、ああすまない。考え事をしていた」
婦人に再度問われ、子爵は我に返って平静を装うとしたがカップを取ろうとした手をぶつけてしまい、中の液体を絨毯の上に零してしまう。急いで駆け寄ってきたメイドがそれを始末にかかったが、ふとサイが目をやると子爵の手の震えは止まっていなかった。
子爵は屋敷内でも常にサイを共につけて歩く信用ぶりだったが、夜だけは違った。何かあった時の為に部屋の前で待機を、と申し出た彼の言葉を子爵はあっさりと辞退し、そそくさと部屋に引き取っては扉に鍵を掛けてしまったのだ。
「(これでは護衛の意味が‥‥まぁこちらも仲間と連絡を取る良い機会ですが)」
●マーグスタ男爵邸
「‥‥貴族とは何がなくても注目されるものだな‥‥」
「そうでゴザルな」
不自然ないように井戸端会議に混ざったり酒場で使用人を捕まえたりして世間話をした結果、思ったよりも色々な情報が集まっていた。出入りの商人や下っ端の使用人は、貴族の他愛もない話に花を咲かせることを仕事中の生きがいにしていたりもするということか。
「‥‥シュッテンバイン子爵はお気に入りの占い師がいて、時々夜に自室で占わせているらしいな‥‥」
「ベイグズ子爵の所にはここの所頻繁に旅の商人が訪れているらしいでゴザルね」
「‥‥マーグスタ男爵は美貌の踊り子を抱えている‥‥か。夫人を亡くしているから、まるでその心の隙間を埋めるように――と使用人たちは言っていたが‥‥」
オルステッドと肝臓の報告に、各家へもぐりこんでいたケヴィンが加わる。
「3つの家が繋がった」
「‥‥どういうことだ?」
「3家共に10歳という同い年の子供や孫がいただろう。それの子供達をきっかけに付き合いがあったらしい」
「なるほどでゴザル」
シュッテンバイン、ベイグズ両子爵家へ入った二人との連絡役も勤めたケヴィンは、淡々とそちらからの情報を告げる。
「両子爵家の10歳の子供と孫は現在屋敷にはいない。マーグスタ男爵家にも侵入してきたが、見つけることは出来なかった。一応、正面から世間話をしつつ揺さぶりをかけてもらえると助かる」
「了解でゴザル。同時に踊り子のことも探りを入れてみるでゴザル」
「‥‥準備をするか」
オルステッドと肝臓は天界の文物を扱う商人として男爵家へ向かうことになっていた。
「ちなみにリリアナによると、手紙を受け取ったマーグスタ男爵の反応はクロに近かったという」
「――――」
気の進まない仕事だと思ってはいたが、よもや自分の担当する相手がクロに近いとは。オルステッドは軽く溜息をついた。
「となると踊り子と10歳の三男の行方に要注意でゴザルな」
そんなオルステッドを励ますかのように肩を叩く肝臓。
男爵家へ入った二人は、「踊り子の不在」と「三男は勉強の為に別荘に詰めている」という言葉を告げられる事になる。
●運び手と中継所
「中継所を付き止めたわ」
マーグスタ男爵邸から出る踊り子を追っていたリリアナは、王都から南西に行った所にある小さな森を抜けた先に小屋を見つけていた。イレイズとサイと連絡を取った後シュッテンバイン子爵邸から外出する占い師をつけたケヴィンも同じ場所に辿り着いていた。化粧を落とした踊り子も占い師も特に特徴のない、どこにでもいるような顔をしていて、気を抜いてしまえば雑踏に紛れて見失ってしまいそうになったが、何とか追跡に成功することが出来た。
「中には10歳位の男の子と女の子が二人ずつ――ただ、男の子が一人怪我をしているのか、ぐったり床に横たわるようにしていたわ」
窓から中を覗いた様子をリリアナが告げる。恐らく長期に渡る捕縛状態に耐えられず反抗し、見せしめに傷を負わされたのだろう。
「やはり人質を取られていましたか。ベイグズ子爵は次男が活発だから大人しくしているかどうか心配だと言っていました。恐らくその子では」
「‥‥無事であって欲しいが」
オルステッドの言葉に一同は重々しく頷く。
「でも不思議なのよね、運び手達って皆集まると誰が誰だか区別がつかないくらい平凡な顔をしているのよ。多分街の雑踏に紛れ込んだら、ちょっと目を離した隙に見失ってしまうでしょう」
「そういう者達の方が色々な場所に潜入するのに都合がいいのかもしれません」
サイの言葉になるほど、とリリアナは頷いた。
これで解ったことは、三人の貴族が三人とも他の家族の知らぬところで人質を取られて内通者としての協力を強いられていたということである。幼子を選ばなかったのは、理のわからぬ年頃の子供に泣いて暴れられるよりは多少なりとも理がわかり恐怖で制圧できる年頃――ただし身体のまだ出来ていない中途半端な年齢――が丁度良かったからかもしれない。
愛国心が無くなったわけではないのは『売国奴』の言葉に動揺するところから解るが、人質を取られて仕方なくとはいえ、国の情報を流していたのは事実。だがこのまま追求しても、各邸宅に文書として証拠が残されていなかった以上自白を促すことも出来まい。せめて人質を救出してからなら――。
【つづく】