【第三次カオス戦争】内通者を救助せよ・後

■シリーズシナリオ


担当:天音

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月30日〜12月05日

リプレイ公開日:2007年12月05日

●オープニング

 戦争というとある意味つきものなのが内通者だ。だが理由はどうであれ敵と通じている者が内部にいるのは好ましくないのは確かである。
 今回の戦争でも内通者として疑われている貴族が何人かいた。秘密裏にその調査を行ってきたのは『王立復興騎士団』という組織である。だが、内通者候補の貴族を三人にまで絞ったところでその調査は行き詰っていた。
 『王立復興騎士団』が組織を維持できていないのか他に理由があるのかわからないが、この調査の続きは冒険者達に依頼されることになった。


 内通者として疑われていた三人の貴族、シュッテンバイン子爵、ベイグズ子爵、マーグスタ男爵。その三人全てが内通者であることが前回の調査で発覚していた。しかもそれぞれが子供や孫を人質に取られている。その人質達はいずれも10歳の男女で、情報の中継所に監禁されていた。
 各家に侵入し三人と連絡を取っている情報の運び手の目星はついたが、彼らが情報を渡していたという証拠は出ていない。文章として各家にそれらが残されていないのだ。
 残る手は彼らに揺さぶりを掛けて自白を促すことだが、その方法では彼らは動揺こそすれ自白はしないだろう。大切な家族を人質にとられているのだから、その安全が保障されない限りは。
 また、前回冒険者が行った『売国奴』と書かれた差出人不明の脅迫状の送付だが、これによって彼らはかなり動揺した。誰だかわからない者に自分のしている事が知れているのだ。内通者をあぶりだす事に役に立ってくれた脅迫状だったが、この脅迫状は同時に新たな危険を孕んでいる。
 自らが置かれた立場に動揺した三人のうち誰かが、運び手に『自分が内通している事が誰かにばれた』などと話していた場合、彼らは運び手側にとって『(無理矢理従わせているにしろ)協力者』から『危険の火種』となるのだ。自らの脚を掴まれるかもしれないと。よって彼らを『用済み』と判断して『消す』可能性も出てくる。
 ギルド職員曰く、貴族達が内通者であることを自白するのならばその取調べという名目で彼らを王宮に『保護』できるという。さすがに単なる運び手でしかない彼らが王宮にまで侵入し、内通者に危害を加えられるとは思えない。内通者として王宮に身柄を拘束される=運び手からの保護となるのはなんと皮肉な事か。
 だが、人質をとられている現在の状態で彼らが自白をするとは思えない。となると、このままでは運び手に消される可能性が高くなる――複雑な状況で堂々巡りとなってしまう。

 この状況を打破するためにはまず人質の救出が第一段階だとギルド職員は言った。彼らは人質を取られて仕方なく運び手に情報を流していたのであり、自ら進んで内通者となったわけではないのだから、人質さえ救出してしまえば彼らと家族の身柄の安全確保を条件に彼らに自白を促すことが出来ると考える。
 今回冒険者に求められるのは、情報中継所である小屋に囚われている四人の人質を救出し、情報中継所ないしそこに集っている運び手たちを潰す事である。
 前回の調査により人質は10歳の少年少女四人。うち一人は負傷していると思われる。
 また、人質に対する脅しの為なのか小屋の外には騎乗恐獣が1体繋がれており、小屋の中には出入りを繰り返す運び手達の他に監視役として数人が常駐している――うち一人はカオスニアンだ。
 運び手は、貴族達との連絡役として男が二人、女が一人。中継所で情報を受け取る運び手の数は現在の段階では不明だ。
 人質の救出が第一だが出来る限り運び手を潰すに越した事はない。現在は貴族との連絡役三人が中継所に戻っており他の運び手を待っている状況だ。情報を受け取る運び手がいつ現れるのかはわからない。相手の人数が少ない今のうちに救出に移るか、情報受け取り役が到着するまで待って纏めて相手にするかの判断は冒険者達に委ねられる。


◎小屋内のおおよその位置関係(敵の位置は不明)
┏━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃∴∴■■■■■■■■■■■■■■┃
┃∴∴■∴∴∴∴∴∴∴∴●●∴∴■┃
┃∴恐■∴∴∴∴●●∴∴●●∴∴■┃
┃∴∴■∴∴∴∴∴∴∴∴∴●∴∴■┃
┃∴∴■∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴人■┃
┃∴∴扉∴∴∴∴∴●●∴∴∴∴質窓┃
┃∴∴■∴∴∴∴∴●●∴∴∴∴達■┃
┃∴∴■∴∴∴∴∴∴∴∴∴●∴∴■┃
┃∴∴■∴∴∴∴∴●∴∴●●∴∴■┃
┃∴∴■∴∴∴∴∴∴∴∴●●∴∴■┃
┃∴∴■■■■■■窓2■■■■■■┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━┛
窓‥高い位置にある窓。窓枠の高さ40cm弱の小さなもので、通常の人間が出入り出来る大きさでは有りません
窓2‥こちらは人一人が出入りできそうな大きさの窓です
恐‥騎乗恐獣1体
●‥木箱や椅子、テーブルなどの障害物

・貴族達と連絡を取っていた運び手三人とカオスニアン一人、そして常駐の監視役数人は確実に小屋内にいます。
・人質は四人。うち一人負傷している模様。
・小屋は木で出来ている。

●今回の参加者

 ea0827 シャルグ・ザーン(52歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea2449 オルステッド・ブライオン(23歳・♂・ファイター・エルフ・フランク王国)
 ea4868 マグナ・アドミラル(69歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea5934 イレイズ・アーレイノース(70歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb4171 サイ・キリード(30歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4322 グレナム・ファルゲン(36歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4395 エルシード・カペアドール(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb5520 リリアナ・シャーウッド(24歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)

●サポート参加者

ルーク・マクレイ(eb3527

●リプレイ本文

●襲撃
 冷たい風が木の葉を揺らし、一同の頬を撫でていった。
 一同は情報を受け取る運び手が小屋を訪れるのを待っていた。これだけの人数が揃ったのだ、運び手が小屋に入ったのを見計らって一気に事を進めるのが吉と判断がなされた。
 中継所の側で気配を殺してどのくらいが経っただろうか、夕闇に紛れるようにして一人の男が小屋の側に近づいてきた。あからさまに警戒している様子は見せないがそれは演技であり、実際は十二分に辺りに注意を払っているのだろう――仮にも相手は一種のプロだ、一同に緊張が走る。
 キィ‥‥パタン‥‥
 小さな音を立てて小屋の扉が開閉され、同時に男の姿も小屋の中に消えた。息を殺してそれを見守っていた一同も、気づかれなかったことに安堵して息を吐き出す。
「子供を人質に脅迫し、国を裏切らせるとは! まったく許しておけぬ奴らよ」
「ああ。幼子を利用してその家族を利用するとは許せん」
 シャルグ・ザーン(ea0827)の怒りのこもった言葉にマグナ・アドミラル(ea4868)も同意を示す。それはイレイズ・アーレイノース(ea5934)も同じだった。
「子供達を思うベイグズ子爵の心境を思うと、彼らのやり方は許せません」
「子供達の安否が気がかりである。通常、誘拐犯は人質を殺すような真似はしないが、二人以上の人質がいる場合は見せしめに殺す事もあると聞く。もしも倒れているのがベイグズ子爵の次男であれば‥‥」
 孫娘という代わりもいるので見せしめに傷つけられ、放置されている可能性がある――。
 シャルグのその言葉に、辺りに重い沈黙が下りる。それを破ったのはグレナム・ファルゲン(eb4322)だった。
「罪なき子供達を救う為、カオスニアン共を打ち倒す」
「ああ。子供達が笑顔で暮らせる世界を作るために戦う」
 武器をぎゅっと握り、ファング・ダイモス(ea7482)も同意を示す。口にこそしないが、皆気持ちは一緒だった。
「‥‥では、急いで作戦実行と行こうか‥‥」
 オルステッド・ブライオン(ea2449)の言葉に各自、事前の打ち合わせ通りに散開する。中でもリリアナ・シャーウッド(eb5520)はすい、と上空をすべるように飛び、小屋の屋根の上に陣取る。
「(‥‥前後左右を警戒できても真上には気付きにくいのが陸上を生きる動物の習性‥‥)」
 屋根の上からひょいと顔を出すと、入り口側に繋がれた騎乗恐獣の姿が見えた。小さな声で、アイスコフィンを唱える。屋根の上で、リリアナの身体が淡い青色の光に包まれ、同時に騎乗恐獣の身体が凍りついた。これで第一段階終了。彼女は氷の棺に閉じこめられた恐獣を振り返りもせずに、そのまま東側の窓へと向かった。


●突入
 ドガンッ、ベリベリ、ドゴッ。
 小屋中が揺れる。それは一体どこからの音だろうか、それを確かめる間は与えられなかった。だが彼らとて素人ではない。突然の敵襲にもうろたえず、それぞれの武器を手に侵入者へと向き直る。
 が、そのうち二人――子供達の監視として常駐していた者達――は戦闘態勢に移ろうとしたまま動きを止める。ルメリア・アドミナル(ea8594)による高速詠唱アイスコフィンの2連射だ。これで小屋の中で動ける者は後5人のはず。戦闘も大分楽になるはずだ。
「(見つけた!)」
 西側のドアを蹴破ってそのままの勢いで小屋へ突入したエルシード・カペアドール(eb4395)は、一番近くにいる女性に狙いを定めた。踊り子を装っていたという事から彼女がジプシーである可能性を考慮して、魔法を使われる前に優先的に戦闘不能にするつもりでいた。案の定、女性は詠唱を始めた。だが何かに気がついたように途中で詠唱を切り上げ、短刀を持ち出す。その隙は致命的なものだった。エルシードがダガーとナイフを両手に持ち、肉薄してくる。女はそれを短刀で受け止めようとしたが間に合わない!
「く‥‥今が昼間だったなら‥‥」
 エルシードの二刀を肩口と鳩尾に受け、女が苦しげに呟いた。そう、現在の時刻は夕方過ぎ。女は陽魔法の一つでも使おうとしたのだろう。最初から短刀で立ち向かっていれば、傷を負うことはなかったかもしれない。だが彼女もそれで諦めようとはせず、エルシードに短刀を振りかざす。が、それは空しく空を切るだけだった。
「諦めて大人しくしていて頂戴」
 再び、エルシードの二刀が女の身体を傷つける。だが女は屈しようとはしない。エルシードに攻撃を当てるのは諦めたのか、がら空きの扉から外に逃げようとする。彼女はそれを追わなかった。外には逃げ出す者に対するべく、仲間が待機しているのだから。
 外からか細い悲鳴が聞こえた気がする。扉の外に待機していたマグナが女を気絶させるのに成功したのだろう。


 カキンッ!
 剣と剣の合わさる音が室内に響いた。場の混乱の隙に普通の窓から侵入して人質の側へ辿り着いたサイ・キリード(eb4171)は、一人の男からの攻撃を受けていた。が、そこを動こうとは思わない。彼の後ろには人質達がいる。彼が動いてしまっては人質達に危害が加えられる可能性が高まるのだ。
「はっ!」
 合わせられた剣を押し返し、男に斬りつける。子供達に血なまぐさい戦闘を見せたくないなどといっている余裕はなかった。
 一方、壁となり人質を守っているサイの後ろで、東側の高窓から侵入したリリアナは怯える子供達を落ち着かせるように微笑んで見せていた。
「大丈夫、もう心配要らない」
「シャーウィが、シャーウィがね、起きないの!」
 助けという光を見出した事で安心と、それまでの恐怖が湧き出たのだろう。子供達は一様に涙を浮かべている。そのうち一人の少女が涙ぐみながら倒れた少年を揺さぶるようにして訴える。恐らく倒れているのがベイグズ子爵の次男シャーウィであり、その少女が孫のメーリアなのであろう。
「怒られて蹴られて、叩かれてからね、ずっとそのままにされてて‥‥シャーウィが、死んじゃう‥‥」
 ぽろぽろと涙を零す少女に、リリアナはもう一度微笑んで見せる。
「‥‥大丈夫。悪い人たちをやっつけたら仲間が手当てをしてくれる。もう少しだけ待ってて」
 リリアナは壁となってくれているサイと対する敵を見、詠唱を開始する。サイは男に何度か斬りつけていたが、自身もいくらかの傷を負っていた。彼の背後で青い光が発生し、目の前の男が氷づけになる。男が動きを止めたのを見て、サイは振り返った。
「有難うございます、助かりました」


 オルステッドは窓から侵入後、人質の盾となって戦うサイに向かおうとするもう一人の男を捕まえていた。桃色の刀身を持つダガーで斬り付け、その注意を自分に引く。彼が男を斬りつけるごとに薔薇の花びらが散って見えるのはあくまで幻影。だがオルステッドの美しい金髪とあいまって、相手が女性だったらその美しさに見惚れてしまったかもしれない。
「このっ!」
 対する男の剣技は拙い。戦闘要員としての訓練を受けていないのかそれともオルステッドが上手なのか――彼は男の攻撃をかわしては薔薇を咲かせていた。
「卑劣な連中め、覚悟しろ」
 と、オルステッドにのみ集中していた男のわき腹にグレナムのスマッシュが決まる。彼は西の扉から侵入し、近くにいた女がエルシードと対峙し始めた事からオルステッドに加勢することに決めたのだ。この男を倒せば、人質の子供達に及ぶ被害も抑えられるだろうから。
 一対二。男がサイに対して取ろうとしていた攻撃態勢は、皮肉にも男自身に向けられる事になった。こうなってしまっては彼我の戦力差は明らかである。


 スマッシュEX+バーストアタックで小屋の北の壁に穴を開けたイレイズは、そのまま一人で小屋の中に突入していた。彼の目の前にいたのは大柄なカオスニアンの男。騎乗恐獣が声を上げなかった事に驚いているのだろうか、その隙にスマッシュを叩き込む。
「ぐぅ‥‥」
 重い一撃を喰らったカオスニアンは騎乗恐獣を使おうと、小屋の外に出ようとするが既に小屋の中は混戦状態であり、氷づけの人が所々障害物にもなっている。とてもじゃないが正規の入り口から外に出られる状態ではない。
 イレイズがもう一度スマッシュを打ち込もうとした時、カオスニアンは彼が開けて来た穴から脱出を図った。恐らく西側に回り、恐獣を操るつもりなのだろう。だがすでに恐獣は氷の棺の中。そして――
「お前達を逃がすわけには行かない」
 北側に潜伏していたファングが待ってましたとばかりにスマッシュEX+バーストアタックEXを浴びせる。
「うぐあぁぁぁぁぁ!」
 態勢を崩したカオスニアンに、オーラを施術したシャルグの攻撃が襲い掛かる。彼は南側の窓の警戒に当たっていたが、窓から逃げ出そうとした敵を牽制している間にルメリアが凍らせてくれたので北側へと回ってきたのだ。更に、小屋から出てきたイレイズのスマッシュが追い討ちをかける。カオスニアンには反撃の機会が与えられなかった。


●解放と保護と
 マグナのヒーリングポーションとエルシードのリカバーポーションで怪我をしていた子供は一命を取り留めた。掛けられる優しい言葉に子供達はそれまで我慢していた分存分に泣き、冒険者達に感謝をした。
 アイスコフィンで固められた敵はそのまま王宮へと運ばれ、氷が解けてからそれぞれ尋問される事になるという。
 子供や孫を無事に帰してもらった貴族達は涙ながらに喜び、感謝をした。だが彼らにはまだなすべき事がある。人質を取られていたとはいえ敵と内通していた罪を償う事だ。彼らは身の安全と引き換えにしばしの間王宮で『保護』される事となる。
「子供達が自らが人質になった事で、親が窮地に陥る状況にはしたく有りませんわ」
 ルメリアやイレイズを中心とした数人は、子供達の未来を考えて情状酌量の要素を見出した報告書と、貴族達の罪を減じるための嘆願書を作成した。
 これから『保護』を兼ねた取調べが始まる。貴族達の罰が決まるのはまだ大分先だろうが、冒険者達の見てきた真実と見出した善悪の天秤が、その判決に影響するだろう事は間違いない。

【おわり】