【王立ゴーレムニスト学園】卒業試験

■シリーズシナリオ


担当:天音

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月29日〜04月05日

リプレイ公開日:2008年04月04日

●オープニング

●試験の空気
 ぴん、と空気が張り詰めているのが分かる。
 教室に入ってくるユリディスに自然、生徒の視線は集まる。
 卒業試験の日。
「それでは試験を始めるわね」
 ユリディスは悠然とした足取りで一人一人の机の上に石版を乗せていく。
 使用されている言語はアプト語だけでなく、様々な言語だ。それはアプト語の読み書きが出来ない者の為には代書人にお願いをして、その者が読むことが出来る言語で問題を記してもらったからである。
「試験は今日一日だけ。採点結果と卒業式は最終日の予定よ」
 ユリディスは石版を配り終わると教卓代わりのテーブルの前に立ち、一堂を見回した。
 緊張している事が手にとって分かる者もいれば、余裕綽々に見える者もいる。
「それでは、はじめ」
 彼女の凛とした声を合図に、生徒達はいっせいに石版へと目を落とした。


●試験内容(抜粋)
 1.ゴーレムニストとは何をする職業か、30文字以内で答えよ
 2.ゴーレムニストとして大切にしなければいけないことを30文字以内で答えよ
 3.ゴーレムを作る上でベースとなるゴーレム魔法は風魔法である Yes/No
 4.素材についての問題。石と木では、石の方が膨張率が高い Yes/No
 5.ゴーレム魔法を使う際、魔法陣は必須である Yes/No
 6.現在、月や陽属性のゴーレム魔法も存在する Yes/No
 7.ゴーレムニストの仕事は、素体の加工から始まる Yes/No
 8.ゴーレム魔法付与の順番は『ゴーレム生成』→『その他魔法バリエーション』である Yes/No
 9.ゴーレム作成期間のうち、ゴーレムニストの魔法付与にかかる時間は概ね四分の一ほどである Yes/No
 10.貴方がゴーレムニストを志望する現在の動機を30文字以内で答えよ

●今回の参加者

 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3446 ローシュ・フラーム(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea4426 カレン・シュタット(28歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・フランク王国)
 eb2928 レン・コンスタンツェ(32歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb4637 門見 雨霧(35歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb7900 結城 梢(26歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec1984 ラマーデ・エムイ(27歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)
 ec3467 ガルム・ダイモス(28歳・♂・ゴーレムニスト・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●卒業試験
 試験は計30問の筆記で行われた。終始緊張し通しの者、余裕で答えを埋めてうとうとし出す者と色々いたが、無事終了したのである。

【回答(抜粋)】※ただし問い1、2、10は正答が1つとは限らないので省略。
 3.ゴーレムを作る上でベースとなるゴーレム魔法は風魔法である
 A.No。地魔法の「ゴーレム生成」がベースである。

 4.素材についての問題。石と木では、石の方が膨張率が高い
 A.Yes。石は約2倍に膨張するのに対して、木は殆ど膨張しない。

 5.ゴーレム魔法を使う際、魔法陣は必須である
 A.Yes。基本的に、魔力の注入が早まるといわれている魔法陣は必須。

 6.現在、月や陽属性のゴーレム魔法も存在する
 A.No。月や陽魔法からゴーレム魔法を作り出した人は現在の所いない。

 7.ゴーレムニストの仕事は素体の加工から始まる
 A.No。基本的にゴーレムニストが関わるのは、魔力付与のみである。

 8.ゴーレム魔法付与の順番は『ゴーレム生成』→『その他バリエーション』である
 A.Yes。基本的にその手順。応急処置的にバリエーションのみかけなおすこともある。

 9.ゴーレム作成期間のうち、ゴーレムニストの魔法付与にかかる時間は概ね四分の一ほどである
 A.Yes。魔力の浸透時間なども含む。


●卒業
 カツカツとヒールの音を響かせながら、ユリディスが教室に入ってくる。その手には銀製の盆があり、その上には何か乗せられている。添削された石板自体はいち早く生徒の席に返却されていた。自由解答欄以外の選択問題のみが添削されており、自由解答欄がどのように評価されたかはわからないようになっている。
 かたん‥‥
 ユリディスが教卓代わりの机の上に盆を置き、生徒達を真っ直ぐ見やる。生徒達の緊張も高まる。
「名前を呼ばれた者から私のところへ来る事。特に成績順というわけでは無いから順番は気にしないで」
 彼女はいつものように艶然と笑む。そして名を呼んだ。
「カレン・シュタット」
「はい」
 名を呼ばれ、前に進み出るカレン・シュタット(ea4426)。彼女はゴーレムニストという職業を「素体に魔法という息吹を与え、動けるようにすること」だと答えた。そしてゴーレムニストとして大切にすべき事は「乗る人の安全を考慮すること。採算性も考えること。命を預かる仕事」。また講義を全て終えての彼女の志望動機は「新しい可能性に、挑戦してみたい。戦い以外でも生活に役立てるものを作ってみたい」との事だった。
「卒業、おめでとう」
 カレンの手へ差し出されたのはゴーレム工房推挙状。ゴーレム工房へ入るための許可証である。
「ありがとうございます」
 終始落ち着いていたカレンだったが、推挙状を受け取るとほっとしたように笑みを浮かべた。

「ラマーデ・エムイ」
「はぁい」
 ラマーデ・エムイ(ec1984)はひょこひょことマイペースに前へと進み出る。
「卒業、おめでとう」
 彼女はゴーレムニストを「ゴーレム作成工程で魔法を担当し、夢と未来に形を与える職業」だと答えた。そして「それがもたらす結果も含め、自分の作ったゴーレムに責任を持つこと」が大切だという。彼女の志望動機は「知識欲を満足させてくれる上、その行使で役に立つ事ができるから」だという。趣味半分、実益半分といった所だろうか。
「もう卒業なのね。長かったような短かったような」
「寂しい?」
 首をかしげるようにしてくすっと笑うユリディスに、ラマーデも思案するようにして答える。
「皆でワイワイと勉強するのは楽しかったし、寄宿舎の居心地の良い部屋と、何よりリリィとお別れするのが寂しいかも」
「工房に来るついでに様子を見に来ると良いわ」
 いたずらっこの子猫を思い浮かべ、二人はくすっと笑った。

「門見雨霧」
「はい」
 次に呼ばれたのは門見雨霧(eb4637)だ。悔いが残らないようにと挑んだ試験の成果はどうであっただろうか。
「卒業、おめでとう」
 彼の手にも推挙状が渡される。
「‥‥そういえばこれで卒業なのかな?」
「学園は卒業でも、ゴーレムニストへの道は始まったばかりよ」
「長そうだな〜」
 ちょっぴり溜息交じりの彼は、ゴーレムニストを「素体にゴーレム魔法を付与し、ゴーレムを作成・修理する職業」と答え、「相手の命を奪う覚悟と命を預かる覚悟。そして口の堅さ」が必要だと答えた。志望動機は「最初と変わらず、一人でも多くの兵士を帰還させるため」だという。彼は最前線でのゴーレムのサポートを希望していた。
「とりあえずは今までの感謝の印を」
 雨霧から差し出された手を、ユリディスはやわらかく握り締めた。

「イリア・アドミナル」
「はい」
 イリア・アドミナル(ea2564)はゴーレムニストを「国家繁栄の為、ゴーレムを研究し、作成する職業である」と捉え、「人としての心と、人の命を預かる責任と覚悟」が大切だと答えた。「脅威に対し、より多くの人を守れる機体研究の為」という志望動機は、魔道士として多くの戦場に立ってきた彼女の経験から出たものだろうか。
「卒業、おめでとう」
「先生、今まで有難うございます。卒業後はゴーレムニストとして、これからも見識を深める為に各地を回りたいと思います。その際には先輩として、これからも宜しくお願いします」
 深く礼をしたイリアに、ユリディスは推挙状を差し出しこちらこそ、と笑む。各地を回って見識を深めるという所に自らを重ねたのだろうか、その笑みは柔らかいものだった。
「それとこれを」
「あら、これは‥‥」
 イリアから差し出されたのは地球にあるという『伊達メガネ』。入学の際にイリアはゴーレムニストになったらつけてみたいと話し、ユリディスも興味を持っていた一品だ。
「どう、似合う?」
 伊達メガネをつけ、くいっと指で押し上げる動作をするユリディス。どこでそんなものを学んだのだろうか。
「お似合いです」
 くすくすと二人は子供のように笑った。

「結城梢」
「は、はい‥‥」
 緊張でガチガチの結城梢(eb7900)は前に出てくる際に脚を机に引っ掛けてしまう。何とか転ぶのは避けたものの、それでもユリディスの前へ出たときはガチガチだった。
「結果はともかく頑張りました‥‥もし、今回だめでも、今後も頑張ります!」
「こら、だめなんていわないの。はい」
 そんな梢の前に差し出されたのは推挙状。彼女は一瞬きょとんとしてユリディスと推挙状を眺めている。
 彼女はゴーレムニストを「精霊魔法の一種であるゴーレム魔法を使用できる特別な魔法使い」だと捉えている。そして大切な事は「機密を護り、日々の実践を通じて技術を磨き、研究を重ねる事」だと。彼女の志望動機は「物資や人、情報などを運搬する為だけに使うものを作りたい」という現在のメイでは多少難しいと思われるものだが、いつの日かそういうものへ手を回す余裕が出るかもしれない。
「卒業、おめでとう」
「あ、ありがとうございますっ‥‥!」
 梢はまだ驚き覚めやらない様子で推挙状を抱きしめた。

「ガルム・ダイモス」
「はい」
「卒業、おめでとう」
 ガルム・ダイモス(ec3467)は差し出された推挙状をしっかりと握り締める。
 長いようで短い学びの時。その間で彼が学んだ事は、ゴーレムニストは「ゴーレムを研究し、その品質向上と、生産性向上を目指す職業」であり「人の命を預かる責任と覚悟を持ち、人の安全を重視する」のが大切だということ。彼は「現場により多くのゴーレムが配備される生産性を作り出す事」を志望動機としている。
「先生、今まで有難うございます。俺達第一回の卒業生は先生の教えを忘れず、命を預かる覚悟と共に、これからも頑張ります」
 相変わらず気合十分のガルムの言葉に、ユリディスは頷く。
「ところで」
「?」
 その後ガルムの口から飛び出したのは最後の最後で質問。ナーガのゴーレム研究参加についてだ。
「どこでその情報を得たのかはあえて聞かないけど」
 ユリディスは少し困った顔をし、唇に立てた人差し指を当てるようにして答える。
「工房に彼らがいること、それは本来あまり口外すべき事じゃ無いわ。これから気をつけてね。そして簡単に協力を仰ぐことは出来ないの。国家機密だから」
「なるほど‥‥さすがゴーレム工房、機密が多いですね」

「レン・コンスタンツェ」
「はい」
 レン・コンスタンツェ(eb2928)の回答はどれもシンプルなものだった。ゴーレムニストとは「多くの人と共にゴーレムを作り、研究する」職業。大切な事は「造った物と過程に責任を持つ」事。志望動機は「みんなで何かを作ってみたい」と。けれどもその答えの中には規定の文字数に収まっていなかっただけで、独創的なゴーレム技術応用の案が詰まっている。固定概念に囚われず、考え方を変えれば色々と未来が見えてくると彼女は考えている。
「卒業、おめでとう」
「今まで有難うございました。時間は過ぎ去りますが、思い返せばいつでも再会できるように、また何処かで出会えたら良いですね」
 笑顔で推挙状を受け取るレンにユリディスも「そうね」と笑顔を返した。

「ローシュ・フラーム」
「はい」
 ゆっくりと立ち上がったローシュ・フラーム(ea3446)。彼は実際に様々なことをその長い人生で経験してきている。ゴーレムニストは「ゴーレム作成においてゴーレム魔法の付与を担当する者」。必要なのは「バランス感覚」。そしてその志望動機は「メイの人々を守る術を得るため。職人としての向上心と好奇心」だという。
「卒業、おめでとう」
「ありがとうございます、講師殿」
 推挙状を受け取ったその手とは反対の手に、ローシュは何かを持っていた。
「それは?」
「記念に、と自ら鋳造したものです」
 それはシンプルな銀の指輪。ユリディスの分だけでなく、生徒全員の分がある。卒業の良い記念となるだろう。それは生徒全員に配られた。世界に9つしかない、特別な指輪。
「推挙状をもらい忘れた人はいないわね? じゃあ最後に私からのアドバイスを。まず、ゴーレムニストになったらゴーレムニストとしての勉強をするのに手一杯で、それまで学んでいた武術や魔法を学ぶ時間はなくなるわ。注意してね」
 二兎を追うものは一兎を得ず――そんな感じだろうか。
「またより幅広く開発計画へ参加したければ、冒険者ギルドへの依頼に率先的に参加することと、日頃から関係分野の勉強をしておくこと。これはゴーレム魔法だけでなく、鍛冶分野や航空分野、大型船舶分野なども含むわ。そういう努力で重要な案件に登用される可能性が上がるわ」
 ゴーレムニストはただゴーレム魔法のみを学べば良いというものではないということだ。
「そして、多分ゴーレムに乗る機会も出てくると思うの。実践・テスト問わずね。だからいつでも自分が乗る場合を考えて、ゴーレムを作って頂戴」
 他人が乗るから自分は関係ない、ではなく自ら乗ることを考えて作れと彼女は言いたいらしい。
「最後に、今までありがとう。私もゴーレムニストを育てるのは初めてのことで色々と至らない点もあったかと思うけれど‥‥こうして皆で卒業式を迎えられて嬉しいわ」
 ユリディスはいつもの艶然とした笑みを浮かべ、そして数ヶ月前を思い出すかのように目を細める。
「先生、少し時間を下さい。俺達が練習した歌を聴いてください」
「歌?」
 ガルムの申し出に彼女は不思議そうな顔をする。どうやら採点待ちの数日の間に吟遊詩人から歌を教わり、皆で練習をしたのだという。ユリディスは椅子に腰を掛けて脚を組み、微笑を浮かべながら生徒達の歌声に耳を傾けた。

 ♪〜夢を抱き学び舎の 門をくぐりし日々を思う
 ♪〜厳しく優しき指導者と 共に過ごした日々を思う
 ♪〜いざ旅立ちの日は来たり 師の手を離れ 旅立つ我ら
 ♪〜感謝いかばかりか 思い出いかばかりか
 ♪〜学び舎で過ごした日々 永久に忘れぬ

「先生、今までの感謝の気持ちとして花束を作りました。受け取ってください」
 歌が終るとイリアが隠していた花束を持ち、ユリディスに差し出す。ユリやカスミソウを中心とした8種の花の花束。生徒一人一人がその花を選んだという。
「なによ、もう‥‥感動しちゃうじゃない」
 口元に笑みを浮かべながら目尻に浮いた水滴をヴェールで拭き取り、花束を抱くように受け取るユリディス。

「「今までありがとうございました!」」

「こちらこそ、沢山の思い出を有難う」
 声を揃えて言う生徒に、ユリディスは涙を堪えて微笑んで見せた。ここまで保ってきた講師としての威厳というものがある。あまり涙を見せるわけにはいかない。
「これからが更に大変だと思うわ。身体を壊さない程度に頑張ってね。悩み事があればいつでも相談に乗るわ」
 最後にユリディスを囲み、皆でシルバーリングをはめて教卓の前に並ぶ。なんとご丁寧に絵師まで呼んであったのだ。小さなキャンバスに九人の絵を描いてもらい、後日その複製品を各自に配ってもらうこととなった。

 よき思い出。よき日々。試行錯誤ばかりだった第一回生の育成。
 その記念の絵とシルバーリングは、ユリディスの机の上にいつも飾られている。