【王立ゴーレムニスト学園】寄宿舎にて

■シリーズシナリオ


担当:天音

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月15日〜03月22日

リプレイ公開日:2008年03月19日

●オープニング

「今回の授業は自習よ」
「「え」」
 教室に集まった生徒達に告げられたユリディスの一言。一同は一瞬固まる。
「寄宿舎にて、卒業試験に備えて各自自習して頂戴」
 ユリディスはそんな生徒達の驚きを完全無視して繰り返す。卒業試験の前だからこそ、最後の授業があるのではないか?
「ただし私からの質問を宿題として出すわ。寄宿舎にいるあなたたち一人一人を訪ねるから、その時にその答えを聞かせて頂戴」
 髪をかき上げ、真剣な瞳でユリディスは口を開く。
「質問は一度しか言わないわ。しっかりとメモすること」
 彼女の顔からは、それまで殆ど絶やされる事のなかった艶然とした微笑が消えている。
「まず、『ゴーレムニストとはどんな職業であるか』。今までの授業を踏まえて自分なりに意見を纏めて頂戴」
 生徒達の手が止まるのを待ち、ユリディスはもう一つの質問を口にする。
「もう1つは‥‥『命を奪う覚悟、預かる覚悟はあるか』」
「‥‥‥‥‥‥」
 ユリディスの口にした重い内容に、教室がしん‥‥と静まる。
「私からの質問はこれだけ。ゆっくりと考えて頂戴」
 いつもの軽い調子を捨てて、ユリディスはじっくりと生徒達を見つめる。
 ゴーレムニストはゴーレムを作ったら終わり、ではない。作ったものに対する責任がいつまでも付いて回る。それはゴーレムの修理やメンテナンスという意味だけではない。
「じゃあ順番に訪問するから、それまでに回答をまとめておくこと。あと――ねこちゃんの世話も宜しくね」
 そこで漸くいつもの笑顔を見せて、ユリディスは教室を出た。
 生徒達がどんな答えを用意してくるか――不安と期待を抱きながら。

●今回の参加者

 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3446 ローシュ・フラーム(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea4426 カレン・シュタット(28歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・フランク王国)
 eb2928 レン・コンスタンツェ(32歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb4637 門見 雨霧(35歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb7900 結城 梢(26歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 ec1984 ラマーデ・エムイ(27歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)
 ec3467 ガルム・ダイモス(28歳・♂・ゴーレムニスト・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●寄宿舎にて
 ヴェールを被った金髪の女性が、颯爽とした足取りで敷地内を歩いていく。彼女の目的地は寄宿舎として利用されている建物。今そこには8人の、年齢も違えば種族も出身も違う男女が寝泊りしていた。彼女達の共通点は唯一つ。ゴーレムニストを目指しているということ。そのゴーレムニストへの最終関門となる卒業試験を控えた彼らは、講師であるユリディスより問いを与えられ、それらの回答を考えると同時に自習に励んでいるはずであった。


●門見雨霧(eb4637)
「お邪魔だったかしら」
 彼女が尋ねたとき、彼はメモを見つつ喫煙中だった。部屋をぐるりと見回すと、ざっとではあるがこぎれいに片付けられている――何か見られては困るものでもおいてあったのだろうか。
「いや、どうぞ」
 雨霧はユリディスの入室を促すと、タバコの火を消して彼女に椅子を勧めた。
「(寄宿舎訪問ね〜。これがお酒の誘いやデートの誘いなら歓迎なんだけどね〜)」
 彼女が動くたびにさらさらと流れる金の髪を見ながら心の中で呟くと、突然ユリディスは顔を上げ、じっと雨霧を見つめて微笑んだ。
「貴方には、デートに誘ったほうが喜んでもらえたかしら?」
「――っ! げほげほげほ‥‥」
 タバコは消したはずなのに咳き込んでしまうとはこれいかに。バツの悪そうな雨霧を横目にユリディスは「それで」と促す。
 何を?
 答えを。
「簡単に言うと『和の技術者』かな」
「『和』?」
「ゴーレムニストが携わる部分は思うほどに多くはなく、鍛冶師とか他の技術者達との連携によって更なる向上を行う技術者なんだと思う」
「確かに、ゴーレムニスト一人でゴーレムを作り上げるのは至難の業だわ。けれども色々な人の手を経ているのは他のものも同じではなくて? 例えば一人で品物を造り上げるように見える刀匠も、原材料は鉱山夫の手を経ているでしょう?」
 じゃ、もう一つの答えは? ユリディスは先を促す。
「覚悟がなかったら最前線での整備を行いたいと思わないし、言えないよ。実際に直視する事がまだ無いから、そんなことを言えるのかもしれないけどね」
 自嘲気味に言った雨霧は、それでも意思の籠った瞳でユリディスを見つめ返した。
「奇麗事かもしれないけど、救う数を増やして奪う数を減らせるように足掻いてみせるよ」


●イリア・アドミナル(ea2564)
 彼女は図書室にいた。もっと色々な事を知りたい――知識欲が彼女を突き動かす。彼女の座る図書室の机の上には、何冊もの本や巻物が置かれていた。
「ゴーレムニストとは国家規模の重要な軍事力の生産に関わる技術者で、その期待と責任は他の職業より遥かに重く、その事を自覚し、進むべき理想と国家の為に尽す職業で有ると思います」
 ユリディスの質問に彼女ははきはきとそう答えた。
「貴方の答えだと、ゴーレムニストは国家の僕よね」
「そうですね。でもそうであるべきだと先生が仰いましたから」
「ええ、言ったわね。でもこれだけは忘れないで。ゴーレムニストも『人』だから」
 何か深い含蓄があるのだろうか、だがユリディスはすぐに次を促す。
「覚悟はあります。冒険者として戦場に出たときにもその覚悟は常にありました」
 そう、彼女はかなりの戦場を経験している一流のウィザードだ。命を預かる覚悟、奪う覚悟だけでなく奪われる覚悟もしてきた事だろう。
「ですがそれは僕個人の責任の範囲内に納まることでした。これからはその責任に国の威信とゴーレム機器を使う者達の信頼が掛かります。その事を踏まえ、覚悟と、保障できる仕事を行います」
「なるほど、ね」
「ところで先生、質問してもいいでしょうか」
 ユリディスが納得したようなのを見計らい、イリアは控えめに質問を投げかける。
「将来に対しての質問ですが、ゴーレム機器を作るには個人では到底不可能だと思います。これから国家よりの作成依頼というのはありえるのでしょうか。また、依頼を受けた際に作成費用などで冒険者に出来る事はありますか?」
「そうね…金属ゴーレムは素体の確保に手間取っているのだけれど、ストーンゴーレムやグライダーは増産計画が実行間近だからその時は工房に属さないゴーレムニストや新人に声が掛かるかもしれないわ。費用に関しては基本的に何もしてもらう事はないわね。国庫に対する寄付であれば受けつけるけど、それによって個人に何か便宜が図られることはないんじゃないかしら」

●ガルム・ダイモス(ec3467)
 彼もまた、図書室にいた。今までの事を纏めた物に目を通したり、更なる知識を得るために本を読み漁ったり。今まで以上の心構えでいることが傍からも見て取れた。そんな彼が出した質問の答えは
・今や国家の威信を代弁する力となったゴーレムを製造し、その発展の為に全力以上の努力で、より理想に近い技術に手を伸ばす技術者集団
・その為互いに協力し合い、様々な発想を持って国家の安全を担うゴーレム達を生み出し、育てる事を常に心に置いて日々邁進する者で有る
「そう‥‥でも覚えておいて。研究に没頭するあまり採算性を無視しては意味がないわ。地に足が着いていないと」
「そうですね」
 ガルムは彼女の言葉をしっかりとメモする。
 そしてもう一つの質問には
「自らが先頭に立ちその覚悟をして来た時代と違い、自らが作り出した物に対しその覚悟を必要とする以上、常に最新の注意を払い、最良の品を作り出す事でその覚悟を形にして見せます」
 意気込み十分だ。
「貴方の意気込みは分かったわ。けれどもあまり肩肘を張り過ぎないように。一つの事しか見えなくなるのはよくないわ」
「わかりました。すいません、質問いいですか?」
「どうぞ」
 ガルムの言葉に彼女は小さく首を傾げる。
「ゴーレムニストとして従軍する際に、最初の予定ではゴーレムが貸与されない依頼でも必要とされる理由があればゴーレムの貸し出しを願い出て借りることは出来ますか?」
「金属ゴーレムは素体の確保に手間取っているけれど、ストーンやグライダーは間もなく増産計画が開始されるわ。増産が出来れば、可能になるかもしれないわね。増産された暁には国内の大きな騎士団や冒険者ギルドへの配備も検討されているから」


●カレン・シュタット(ea4426)、結城梢(eb7900)
 二人は図書館の片隅で雑談を交えながら自習をしていた。カレンも梢も風系の魔法の使い手である故に、ゴーレム魔法も風系のものに興味があるようだ。
「質問の答え、ですよね‥‥『人を助けたり、命を奪ったり救ったりするもの』だと思います」
 カレンの答えは至ってシンプルだ。使い方次第では色々な可能性が生まれる職業かな、と付け加える。
「私は『敵の脅威から身を護る為の「道具」を作り出す人々』‥‥で良いでしょうか」
 梢もシンプルな答えを出した。物資や人、情報などを運搬する為に使うものを作る方に出来れば進みたい、と彼女は付け加える。
「覚悟の方は‥‥そうですね、入る前は漠然とした感じでしたけれど学んでいくうちにそういうものだという事を理解しつつあります」
 カレンは机の上に広げた書物に目を落とし、続ける。
「きちんとした整備をしていなければ戦場であろうと移動中であろうと命を落とす可能性があるのだから。一度目指した夢である以上、現実と向き合った上で覚悟をしなければならない、と思います」
「戦闘や移動中だけじゃなく、新兵器開発中の事故というのもあるのよ。自分の作ったもので誰かが命を落とす可能性はどこにでも転がっているの。じゃ、梢さんは?」
 実は少し心配なのだけれど、とユリディスは付け加える。彼女はチキュウ人だ。それも戦とは無縁の国から来たようで。そんな彼女が人の命という難しい問題を受け止められるのかという懸念がユリディスにはあった。
「難しい質問です。結果的に私達が作る物で敵を殺めているわけですから‥‥ね」
 梢は深く溜息をつき、それでもユリディスをきっと見つめる。
「ですが今後はそういう覚悟を心のどこかに置いて制作などに携わらなければいけないですね‥‥これに関してはずっと付いて回る問題でしょうから、今後変わるかもしれませんし‥‥。ですが、できるだけ今の信念を変えるつもりはないと思います」
 彼女はきっぱりと言った。


●レン・コンスタンツェ(eb2928)
「さて、質問ですね。その前に掌を前に出していただけます?」
 日当たりの良い所で眠っているかに見えた彼女は、ユリディスが近づくとぱっと目を開き、そう言った。そしてユリディスが言われた通りにするとその上に自分の手を置いてパンっと音を立てる。
「今の音は二人の手で作り出したものですよね? ゴーレムニストも同じだと思います。一人じゃ出来ないし、出来ても限りがある。複数のゴーレムニスト、技術者達、そして作り出しても司令官や鎧騎士たちが使ってくれないと動かない」
 常に誰かとの共同作業。誰かと誰かの手と手、心と心をつなげる合言葉のような職業だと彼女は言う。
「二つ目の答えは――ゴーレム魔法にも、他の事に応用できそうな技術は沢山ありますよね? 使い方次第では平和なアイデアなものが」
 そこで彼女は笑顔を消し、真剣な表情を作って続けた。
「でも例えば村や町に水力制御の装置を作ったとします。でももしかしたら水が枯渇したり鉄砲水になったりするかもしれません。だから私はこのアイデアを勧めるとしたら、結果的に命を奪うことを覚悟します」
「性能や新しい技術を追うあまり、乗る人や使う人の安全を無視したら意味がないわよね」
「わかっているつもりです。ましてや当面望まれているゴーレムは兵器。殺したり殺されたりする物だから、目を背けたりは出来ませんから」
 そう、ならいいわと告げて去ろうとするユリディスを、彼女は引き止める。
「先生、ゴーレム生成のレベルが専門になると銀・金への付与以外に少ない石・木で足りるようになりますか?」
「まず中堅と呼ばれる人手、木、石、鉄、青銅、銅、銀まで魔力付与が可能よ。金はより達人からね。それとその質問は素材の分量を減らすということかしら? それともサイズダウン?」
 ユリディスは小さく首を傾げる。
「残念ながら素材の分量を減らすことは出来ないわ。サイズダウンも人が乗り込む都合上、検討されたことはないと思うわ。人が乗り込む部分の大きさは決まっているから、サイズダウンしたらその分安全性が落ちる可能性もあるしね」


●ローシュ・フラーム(ea3446)
 シュッシュッ‥‥小刀で木を削る音が木陰に響く。ローシュは何か作っている方が落ち着くということで得意の木工細工に手を出していた。ユリディスが質問を投げかけても彼の手は止まることはなかったが、別段彼女はそれを気にした様子はなく。
「ゴーレムニストというものを特別視しすぎているのではないのか」
 単に作っているものが少々特殊であるだけの、ただの職人だと考えていると答える彼に、ユリディスは声を立てて笑った。
「確かに人材が少ない、作っているものが戦争兵器だからこの国ではかなり特別扱いされるわ。でもやっていることはただの職人よね。貴方には二つ目の質問も愚問だったかしら?」
 彼女の、実に4倍以上もの年を重ねてきた彼は、これまで様々な戦いに携わってきただろう。そんな彼に命を奪う覚悟、預かる覚悟を聞くというのは正に愚問かもしれない。
「いつかゴーレム技術も人々の生活の為に使われる時が来ることを信じている」
 技術に善悪はなく、使う者次第であるということを実体験として語るローシュ。
「時に講師殿は何故ゴーレムニストの道を選んだのか?」
 その質問にユリディスは一瞬目を丸くしたが、口元にイタズラっぽい笑みを浮かべて答えた。
「最初は素質を認められて。次は現実の壁にぶつかって。そして今は向上心から、かしらね」
 彼女は若くして才能を認められてゴーレムニストとなったが、新しいアイデアを得る、ゴーレム技術に貢献するためにはゴーレム分野だけの勉強では駄目だと悟り、工房を説き伏せて国内巡遊の旅に出ていた知識欲旺盛な女性である。
「こうして生徒達と触れ合って色々と意見を聞くのも私にとって良い勉強なのよ」
 そういった彼女は、珍しく年齢より幼く見えたという。


●ラマーデ・エムイ(ec1984)
「名前、リリィに決まったのね?」
 ヴェールをまた取られないように若干警戒しつつも、ユリディスはラマーデの隣に徐に座る。彼女のお気に入りの場所は陽精霊の沢山差し込む廊下の一部だ。
「可愛い名前でしょ?」
「ええ」
「ゴーレムニストは‥‥んー『夢と未来に形を与える、騎士物語の介添役』かしら」
 彼女もユリディスが自分の元を訪れた理由を把握しているが故に早速本題へ入る。
「今まで色々教わって、現実はもっとしがらみがあって地に足をつけなくちゃ駄目だって勿論わかってる。でもだからこそ、斯くありたいって意味を込めてね」
 明るく言った彼女だったが、続ける言葉は多少重みが加わる。
「‥‥けど、目を背けられない現実もあるのよね。元は建物の設計がお仕事なの。生活の土台を作る以上ほんの少しの失敗でお客様は人生も命も失うんだって何度も聞かされたの。だから自分の作る物で命を預かるって覚悟は大丈夫。でも‥‥」
 ラマーデは言葉を切り、隣に座っている愛犬を撫でる。
「奪う覚悟はまだ難しい、かな。口では覚悟があるって言える。だけど本当に背負えるかどうかは‥‥もう少し待ってもらってもいい?」
「それが貴方が今出せる最善の答えなら、それでいいわ」
 ユリディスもラマーデの愛犬の背を撫でる。その時二人の手が、少しだけ触れ合った。

●訪問終了
 実はユリディスの出した二つの質問、正しい答えなんて一つもない。
 それぞれが、授業を受け始める前とどう変わったのか、それを知りたかっただけ。
 ゴーレムニストという職業を知って、どういう気持ちになったのか、それを知っておく必要があった。

 実際に兵器だからという点をどう考えるかも大事。性能を追うあまりに乗る人の安全を無視しても駄目。それに採算性を度外視したら誰がその金を用意するために働いているのかという問題にもなる。
 兵器だから危急の際には大量投入、使い捨て覚悟の物量戦も当然だが、そのために実験で貴重な素体を山ほど無駄にしてもいいというわけではない。
 その辺の均衡が難しい職業なのだ。

 新人ゴーレムニスト八名を送り出すまであと少し。
 彼らがどんなゴーレムニストに育ち、どんなことをするのか――それこそ彼らの未来の行動はユリディスの評価に繋がるだろう。それはゴーレムニストが自分の作品に背負うものと似たようなもの。彼女はそれを良くわかっている。

 卵が孵化するまであと少し。
 何が生まれるのか――それは楽しみでもあり、重い責任を背負うということでもある。