【眠りの螺旋】覚醒円舞曲
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■シリーズシナリオ
担当:天音
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 47 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月03日〜05月09日
リプレイ公開日:2008年05月07日
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●オープニング
「皆さん急いで出立の準備をしてください。あまり時間はありません」
集まった冒険者たちに対して、遅れてギルドに駆け込んできた支倉純也は少々慌てた様子でそう告げた。どうやら彼はリンデンからゴーレムシップで戻ってきたばかりらしく、冒険者を集める事自体はリンデンからシフール便でギルドへと手配していたらしい。それほど急を要する件だというのか。
「準備をしながらで構いません、いえ、むしろ出立準備をしながら聞いてください」
純也は自身も何か羊皮紙の束を捌きながら、口だけは止めない。彼がこれほどに慌てているということは、事態はそれほど切迫しているということだろう。
「先だって、私はセーファス様に呼ばれてリンデン侯爵邸へ参りました。その時のセーファス様との会話を皆さんにお話します」
+−+−+
「‥‥‥義母上が失踪しました」
純也を応接室へと通したセーファスは、人払いをしてそう告げた。その声は暗く、覇気が感じられない。先日の夫人による罵倒が、やはり彼の心に深く突き刺さったのだろうか。
「それも、ディアスと共にです」
「!?」
幸い二人の失踪は夜間であり、朝方夫人とディアスの部屋を訪れた一部の使用人しか知らないため、彼らには口止めをした上「ディアスと共に別荘に行っている」という事にしているらしい。
「それで‥‥お二人は見つかったのですか?」
「街の入り口で知らない女の人に頼まれたという子供が、羊皮紙を持って私を訪ねてきました。その羊皮紙に、義母上とディアスの居場所が書かれていました」
セーファスはその羊皮紙を純也へと差し出す。それにはこう書かれていた。
『アイリス西、泉の湧き出る洞窟にてセーファスを待つ。
ディアスの命惜しければ、その命差し出すこと』
「これは‥‥‥」
純也は言葉に詰まる。
脅しとはいえ愛息子ディアスの命を盾にすることは、夫人にとって最終手段なのではないだろうか。とってかえせばそれほどまでにセーファスを殺害したいと思っているということ。
ディアスの命を盾にすれば、セーファスは逆らえまい。ただ例え脅しであっても夫人がディアスを盾にするとは――恐らくカオスの魔物の入れ知恵だろう。そもそも夫人の失踪自体、カオスの魔物が唆したのだと思われる。
カオスの魔物はこの間、「必ず夫人の魂を手に入れてみせる」と宣言していった。夫人に未だ野心があれば、カオスの魔物の誘いに乗らないはずはない。むしろ先日の失敗はセーファスのせいだと逆恨みし、セーファスへの憎しみを強くしていると考えられる。
「セーファス様にはこの場所の心当たりがおありなのですか?」
「ええ‥‥。侯爵家直轄の洞窟で、普段は立ち入り禁止にしている洞窟だと思われます。洞窟の奥に広場があって、自然に湧き出た泉があるのです」
「‥‥‥セーファス様は行かれるおつもりですか?」
向けられた純也の瞳を避けようともせず、セーファスは悲しげに答える。
「断れるわけはないでしょう? ――ただ」
「ただ?」
「この間冒険者たちに言われたことを、忘れてはいません。私は命を無駄にするつもりはありません。だから、貴方をお呼びしたのです」
以前のセーファスだったら誰にも相談せず、自らの命を犠牲する道を迷わず選んだかもしれない。だがセーファスは、それを選ばなかった。それはこの間、冒険者たちに教えられたから。
「冒険者たちならば、カオスの魔物の手から義母上を助けられるかもしれない。私が命を捨てて、ディアスを苦しめる以外の道を教えてくれるかもしれない、そう思っているのです」
「わかりました、急いで冒険者たちを集めて参りましょう」
本当は今すぐにでもディアスを助けに行きたいに違いない。だがセーファスは自分ひとりで向かっては、命を散らすほかに助ける術がないことを知っている。だからこそ、助けを待っているのだ――。
「必要でしたら、父上にも『お目覚めいただきます』から。まさかカオスの魔物が絡んでいるとは思っていなかったようですし」
「??? リンデン侯爵は、毒の影響で眠り続けていらっしゃるのでは?」
きょとんとした純也に、セーファスは意味深に微笑んで見せた。
+−+−+
「というわけです。カオスの魔物は清い魂を好むようですが、それ以外に強い欲望を持った魂も欲するようです。夫人はセーファス様への強い憎しみと、ディアス様を跡継ぎにしたいという欲望を狙われているのでしょう」
純也は羊皮紙を纏め、冒険者一同を見回す。
「夫人の欲望を高めるだけ高めて――そして魂を奪うつもりでしょう。恐らく夫人がセーファス様を殺害しようとするその時こそが、夫人の憎しみと欲望の最高潮だとカオスの魔物は考えているのだと思います」
「だが、また姿を消されては、攻撃することが‥‥」
不安げに呟いた冒険者。前回捕縛、攻撃しようとした所を、姿を消されて逃げられてしまったのだ。
「恐らく魂を奪うその時は、カオスの魔物も姿を現すのだと思います。オリヴィスさんが魂を奪われた時の事を良く思い出してください。セーファス様たちは女性の姿をご覧になったでしょう?」
確かに、万全を期すならば姿を現さず、消したまま行動をする方が安全である。それなのにわざわざ姿を現したままだったことから想像すると、夫人の魂を奪う時にもカオスの魔物であるあの女性は姿を現すだろうと予測される。
「敵は『その時』までは姿を消しているかもしれません。ですからチャンスは敵が姿を現したその時です」
純也はそう、断言する。確かに他に姿を現させる方法があるならば別だが、機会を待つとしたらそこが一番のチャンスだろう。ただし――夫人とセーファスを囮にする事になる。
「ああ、あと‥‥必要な場合、侯爵様がお目覚めになるそうです」
「??? ぇ‥‥‥」
純也の言葉に冒険者たちが見せた反応は、彼が初めてそれをセーファスから聞かされたときと同じようなものだった。
●リプレイ本文
●最後の一手へ
「追い詰められたのはこちらか、あちらか。どちらにせよ大一番だ。‥‥救える命を救い上げに行くとしようか」
問題の洞窟の入り口を見上げるようにして、ランディ・マクファーレン(ea1702)がセーファスの肩を叩いた。緊張した面持ちのセーファスも、ランディから借り受けた剣に手を触れ、頷いてみせる。ここに来る前にランディから最後の剣の手ほどきを受けたセーファスだ。以前のように剣を持つ手が震えるようなことは、ない。
「ディアス君の命を脅迫の材料に使うだなんて‥‥侯爵夫人はそれだけ追い詰められ、そしてカオスの魔物にいいように誘導されているのでしょうね」
鎮痛な面持ちで小さな命の無事を願うのはソフィア・ファーリーフ(ea3972)。
「まさか夫人がここまでするとは‥‥追い詰められた夫人が何をするかわかりません。ですが悲劇など起こさせるわけにはいかない。ここで夫人を止め、セーファス様、ディアス様を救います」
だがその命を案ずるのは他の冒険者も同じ。ルメリア・アドミナル(ea8594)はソフィアと顔を見合わせて頷いた。
「忍任、忍とも漢とも。とうとう正念場でゴザルな。聖であれ邪であれ人が最も情熱を注がんとする瞬間、その魂をこそカオスの魔物は欲するのでゴザルな。ならばその瞬間を捉えねば魔物を倒すことまかりならぬでゴザル」
「姿を見せない魔物、その居場所をつかめなければ、討つ事は難しい。魔法での探知と、相手の動きを鈍らせる事を中心に支援します」
服部肝臓(eb1388)とエル・カルデア(eb8542)が決意を込めたように頷きあった時、ラフィリンス・ヴィアド(ea9026)がその雰囲気に針を落とした。
「戦闘の時は私から離れるようにしてください。狂化した場合、敵も味方もありませんから。私自身が邪魔になるようであれば、容赦なく斬り捨てていただいて結構です」
「そんなっ!」
雀尾煉淡(ec0844)が思わず漏らした、叫びに似た言葉に被せるように、フィリッパ・オーギュスト(eb1004)が優しく告げる。
「そんな悲しいことを仰らないで下さい。侯爵家の皆さんを護り、カオスの魔物を倒し、みんなで無事に帰りましょう?」
「‥‥‥‥‥」
ラフィリンスは本気で自分の事などどうなってもいいと思っているのだが、侯爵家の皆を護りたいと思っているのは事実。フィリッパの言葉に小さく、頷いた。
●事の中心へ
洞窟内のトラップや伏兵を警戒していた一行だが、特にそれらしいものを事前に見つけることは出来なかった。いや、むしろそんなものは最初から用意されていないのかもしれない。万が一セーファスの命を奪うことに失敗したとしても、カオスの魔物としては夫人の魂を奪って去れればそれでいいのだから。ただメインディッシュに少しばかり最後の隠し味を投入するか否か位の違い。
この洞窟は普段は立ち入り禁止にされており、侯爵家の者が時折管理に来る様な侯爵家にとってはいわれのある洞窟らしい。その洞窟の持つ意味を冒険者は知らされていないが、そこにカオスの魔物を入れてしまったことを、セーファスは苦く思っているようだった。
「それでは拙者は先に洞窟内部に潜むでゴザル。セーファス氏は芝居、宜しく頼むでゴザル」
「わかりました」
シルバーナイフと血糊を渡されたセーファスは頷いて、洞窟内に入る肝臓の背を見送る。
「敵は特に探査魔法を使用している様子は有りませんね」
パッシブセンサーのスクロールを使用した煉淡は、スクロールをしまいながら仲間に報告する。
「洞窟内に振動を感知しましたが‥‥人間の女性くらいのものが二つ、後は服部さんと、それと弱くて小さいのがディアス様でしょうか」
エルのバイブレーションセンサーでの報告に、一同は首をかしげる。
「本当に、伏兵を置いていないようですわね」
「それでも目的を達成して逃げおおせられるという自信があるのでしょう」
フィリッパの言葉にラフィリンスが鋭く瞳を細めて言い放った。
「その慢心が自らの隙となるだろう‥‥行こう」
ランディの言葉に、セーファスを初めとした残りの冒険者は洞窟へと歩み行った。途中煉淡は皆から離れ、ミミクリーを使ってクレイジェルに変身、敵の退路に回りこむ算段だ。他の冒険者達はセーファスと距離を取り、広場では隠れて「その時」を待つことになる。
「仕上げは冒険者(おれたち)がやる。初太刀は頼んだ、侯爵子息殿」
剣の師に当たるランディの言葉。その中に強い信頼の念を感じて、セーファスは胸熱くしながら頷いた。
「それでは皆さん、行って参ります」
それはさよならの挨拶ではなく。
暗雲を取り払い、新しい未来を切り開くための第一歩を踏み出すための挨拶。
冒険者たちは頷き、セーファスを一人、広場へと送り出した。
●決戦
「義母上!」
その広場は不思議な造りだった。元々自然の洞窟に手を加えたのだろう。中心にある大きな泉の更に中心に岩が置かれており、そこに至るまで道が作られている。その中心の岩場には、自然の石を使って祭壇の様なものが作られていた。
その、祭壇の前に夫人はいる。ディアスは手足を縛られてその下に転がされていた。
「兄上!」
「そこで止まりなさい!」
弱々しいディアスの声を遮るようにして、夫人は叫ぶ。その顔色は大分悪く、梳かれていない髪がその美貌を失わせつつあった。
「ここに来たということは、覚悟は出来ているのね?」
「私が死ねば、義母上は満足されるのでしょう?」
祭壇に置かれたランタンには明りが灯されていた。セーファスは持っていた松明を床に置き、そして懐からシルバーナイフを取り出す。
そしてそれをそのまま――
ザシュッ!
左胸に突き刺さったナイフは、血にまみれ、セーファスの身体は傾いで行く。
「兄上ーーーーーーー!!!」
ディアスの叫び声が空しく洞窟にこだました。
「あら、手間が省けたわね。きちんと死んだのか、見て来ないと」
その声は夫人の隣辺りから発せられた。聞き覚えのある声。そう、あのカオスの魔物の声。
と、夫人の手からナイフが消え、宙に浮いた――否、姿を消しているカオスの魔物がナイフを手に取ったのだ。
「「!」」
冒険者一同に緊張が走る。はっきりと姿を見ることは出来ていないが、おおよその位置はそのナイフの動きで判断できる。魔物は倒れているセーファスにゆっくりと近づいていた。息の根が止まっているか確認をし、まだ生きているようであれば自ら止めを刺すつもりなのだろう。
ナイフがだんだんとセーファスに近づき――そして位置が下がった。魔物が屈んでセーファスの様子を見ようとしているのだ。
「侯爵子息殿、今だ!」
そのランディの叫びと共に冒険者たちが飛び出した。ランディが駆け、スプレー塗料を魔物が「いると思われる空間」に吹きかける。ルメリアは予め用意しておいた色水の入った袋をナイフの側に投げつけた。スプレー塗料は何もない空中に人型を形作り、色水はナイフを持つ手の形を露にした。
そして指示されたセーファスは起き上がり、素早くアゾットで姿を消した魔物がいるであろう空間を斬りつける。
「な、なにぃっ!?」
手ごたえは、あった。魔物は驚愕の声を漏らしつつ、姿を見せる。その姿は「心惑わすもの」と呼ばれている魔物に似ていた。
すかさずソフィアが、エルが高速詠唱でアグラベイションを唱えた。魔物の魔法抵抗が高いとしても、数で勝負だ。
「セーファス! たばかったのね!」
夫人がセーファスに駆け寄ろうとする。それを制したのは予期せぬ方向からの投擲。肝臓が投げた車菱に足を取られ、夫人は転倒する。
左手にオーラの盾を宿したランディは素早く魔物の背後へと回る。祭壇への通路を塞ぐ形となり、ディアスと夫人の元へ魔物を戻らせないつもりだ。――浮遊されて逃げられてしまえばそれも意味ないものとなるが、元よりそんな隙を与えるつもりはない。敵が再び姿を消す前に決着をつけるつもりだ。魔物が再び姿を消そうとすれば、スプレーも色水も共に見えなくなるからして。
後方で、ミミクリーを解除した煉淡がホーリーフィールドを張って敵の退路を遮っている姿が見える。ラフィリンスはそれを横目で見ながら魔物に駆け寄り、海王の槍で突く。スマッシュの重い一撃は、胸に宿したレミエラの美麗な光とは対照的に、ずしりと魔物の身体を貫く。
ルメリアは素早くセーファスに駆け寄り、その腕を引っ張った。彼を後ろに下がらせ、安全を確保する。素早く後方に待機していたフィリッパが、セーファスの前にホーリーフィールドを展開した。
肝臓が八方向に刃が突き出た手裏剣を魔物目掛けて投擲する。それは魔物の腹の辺りに突き刺さった。
「おのれぇ!!」
魔物は手に持った刀を目の前のラフィリンスに振るった。その刀は彼を袈裟懸けに斬ったと共に、彼の容貌を変えた。ラフィリンスの髪が逆立ち、目が赤くなる――狂化だ。
「ラフィリンスさん!」
煉淡が、叫ぶ。だが彼はそれが聞こえていないようで、酷薄な笑みを浮かべながら再び魔物へとスマッシュを連続して放つ。
「く‥‥エルさん、もう一度いきましょう!」
「はい!」
ソフィアとエルは、再び高速詠唱アグラベイションを唱える。今のうちに、姿を消されぬうちに仲間が魔物を倒してくれることを祈って。
ランディがレミエラを発光させながら、魔物の背中へスマッシュを叩き込んだ。魔物は仰け反るようにしてバランスを崩す。ランディはそんな敵の様子に構わず、あと二回続けてスマッシュを叩き込んだ。前方からは狂化したラフィリンスが、槍を振るっている。
「これで終わりにしましょう」
ルメリアが高速詠唱で達人レベルのライニングサンダーボルトを唱えた。彼女の手から発せられた雷撃は、ラフィリンスとランディに前後を挟まれた魔物を横から襲う。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁっ‥‥‥‥!!」
激しい雷撃に貫かれた魔物は、耳の痛くなるような叫び声を上げ、そして――消えた。
●終焉と
フィリッパのコアギュレイトで動きを拘束されたラフィリンスは程なく正気に戻り、自らの傷をリカバーで癒した。ソフィアはディアスに駆け寄り、その縄を解いて無事を確かめる。
夫人は――呆然と座り込んだままだった。
「貴方のした事は許される事では有りませんが、それは魔物に心を煽られていたせいでも有ります。暗い感情は、魔物に付け込まれ守りたい者すらも破滅に導きますが、其処から立ち直る事で守れる物を有るでしょう。如何か和解への道を選んで下さい」
エルが夫人に声をかける。夫人はくす、とどこか壊れたように笑いを浮かべた。
「和解‥‥? そんなもの‥‥」
「侯爵も、貴方の野心を全てご存知ですよ。カオスの魔物と手を結んでいる事まではご存じなかったようですが」
事前に侯爵と話をした煉淡が告げる。その言葉に夫人は怯えたようにびくっと身体を震わせた。
「あの人が‥‥? 何を‥‥」
「侯爵様は医師殿とセーファス様と共に一芝居打っていたのです。貴方の野心を知り、自分が倒れたままであれば自然と跡継ぎの問題になり、貴方が焦って動き出すだろうと計算なさったようです。それと同時に、セーファス様が次期侯爵として相応しい能力をお持ちであるということを周りに知らしめるための、大きなお芝居、ですわね」
侯爵の狸寝入りを疑っていたフィリッパが、全ての糸が繋がったとばかりに夫人に言葉を投げつける。
「私は‥‥ディアスが可愛いからこそ‥‥クレストの分も、と‥‥」
「僕は侯爵になんてなりたくないよ! それよりも兄上ともっと遊びたいし、母上と兄上がもっと仲良くしてくれた方が嬉しいよ!」
ディアスがソフィアの服の裾をぎゅっと握り締めながら叫ぶ。ソフィアはディアスの頭を優しく撫でながら夫人を見据えた。
「ディアス君の為、と言えば子供を思う母心のように聞こえますが、実際は貴方自身の欲望の為にディアス君を利用しただけでは有りませんか?」
ソフィアの言葉は、夫人をきつく貫く。
「クレスト様のことは不幸な事故だったのです。でもクレスト様は、こんなこと望んではいらっしゃらなかったでしょう。ご家族が仲良く、幸せに暮らされること。それこそ精霊界に昇られたクレスト様の願いではないでしょうか?」
「‥‥‥‥‥」
ルメリアが続く。夫人の瞳から、つぅ、と一筋涙が零れた。
「私は、間違っていたのか‥‥?」
「正しいわけがないだろう。カオスの魔物に利用されたのが良い証拠だ」
ランディはセーファスに近寄り、よくやったと彼の肩をぽんと叩き、夫人に一瞥をくれた。
「関係の修復には、時間が掛かるかもしれないでゴザル」
「でも」
姿を現した肝臓の言葉を、ラフィリンスが引き継いだ。
「修復できる可能性が残っているということは、幸せなことだと思います」
彼は自分の身と比較し、心からその言葉を述べた。
こうして、リンデン侯爵家を覆っていた暗雲は晴れた。
夫人とセーファスの関係修復には時間が掛かるだろうが、不可能ではないだろう。
どちらかが一歩ずつでも歩み寄れば、意外と簡単なことかもしれない。ただ、歩み寄るのが難しいだけで。
魔物が残していた白い玉が見つかったこともあり、魂を抜かれた者達も元の体力を取り戻すことが出来た。
冒険者たちも目覚めた侯爵からお礼にといくばくかの防具や道具を貰い、労われたという。
気になることがあるとすれば、以前心惑わすものが口にした「過去を覗く者」という名だが、それは今となっては追いようのないものである。
冒険者たちは自らが守った者達が、目覚めた侯爵と共に家族関係が修復していくことを、祈るばかりだ。
「菩提樹」の名を戴くリンデン侯爵領に、安寧が訪れんことを。