【囚人と奇術師】前編
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■シリーズシナリオ
担当:青猫格子
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月16日〜03月21日
リプレイ公開日:2005年03月24日
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●オープニング
シフールの仕立て屋テルルはパリ近郊にある小さな町にやってきた。
町の入り口にいた門番は不思議そうな顔でテルルを見た。
「パリから来たのかい? ドレスタッドに行くなら船の方が便利だろう」
「じつは、ある人を探しに来たのです」
テルルが答えた。
ある人とはリィン―――姿を消したとされるシフールの盗賊であった。この町に彼女がいるのでは、とテルルは考えていた。
テルルが彼女と知り合ったのは偶然ではなかった。彼女が貴族の家から宝石を盗むために利用されたのである。
しかし、それでも彼はもう一度リィンに会いたいと思っていた。特に何か目的があるわけではないのだが‥‥彼女のことを考えると、居ても立ってもいられなかったのである
「へえ、そうか。まあ気をつけてくれよ。最近、いろいろあって町の者はよそ者に警戒していると思うが」
「? どういうことですか」
一体何があったのだろう。テルルは不審に思って門番にたずねた。
「いや、実は先日牢屋に閉じ込めておいた盗賊が一人、脱走したのさ。町の者はその事件が起こる前にやってきた女が、関係しているんじゃないかと怪しんでる」
「‥‥‥‥!」
遅かったか、とテルルは心の中でつぶやいた。
彼がこの町にリィンがいると思った理由、それは彼女と以前組んでいた盗賊フォルチがこの町の牢に閉じ込められていたからだった。
二人は同じ貴族の家に盗みに入ったのだが、フォルチだけが冒険者達に捕まり、リィンは逃げ去ったのであった。
彼女はフォルチを助けに行くに違いない。テルルはそう確信してこの町にやってきたのだった。
「その、女の人は今どこにいますか? もしかしたら僕が探しているのはその人かもしれません」
「来てしばらくは宿に泊まっていたんだけどな。ああ、宿っていったら八猫亭しかこの町にはないよ。で、ここ数日間帰ってきてないそうだ」
宿代がまだ支払われて無いらしく、宿屋の主人は早く女を捜してほしいと自警団に訴えている。だがあいにく脱走した盗賊の捜索の方が優先されているため、当分探すことは出来ないらしい。
テルルは急に不安になった。
もしすでにフォルチが脱走してしまったのなら、リィンは彼と一緒にどこかへ逃げてしまったのではないだろうか。
「盗賊はまだ町の中にいるんですか?」
そうたずねたテルルに返ってきた返事は意外なものであった。
「さすがにど真ん中を正々堂々と歩いているワケじゃないが‥‥町のはずれの森とか、畑の中をそれらしい影が歩いていたという話はあるね。自警団が駆けつけたときはすでに姿を消しているんだがな。どうも、何かを探しているらしい」
フォルチは村を離れていない?
そして、何かを探している? 一体、何を‥‥?
「とにかく、自警団だけじゃ埒が明かない。ということでパリの冒険者ギルドに依頼を出すことになった。もう何日かしたら、冒険者達がこの町に来るそうだ」
パリの冒険者ギルドでは以下のような依頼が出されていた。
「うちの町の牢に閉じ込められていた盗賊、フォルチを探しだすのを手伝ってほしい。脱走した盗賊は町はずれの森に隠れているようだ」
そして盗賊の姿の特徴が簡潔に記されていた。
人間の青年。金髪で色黒の肌をしている。牢屋に閉じ込められていた時に装備はすべて没収されたはずだが、どうも目撃情報によるとナイフを持ち歩いているらしい。どこからか盗んだのだろうか。
今のところ町人に被害は出ていないが、いつ何をされるか分からない。なるべく早く探し出してほしいとのことだ。
テルルは門番の話を聞き終えて、宿屋「八猫亭」へ向かった。おそらく冒険者達もこの宿に泊まることになるだろう。
冒険者達が来たらリィンとフォルチについて話した方がいいだろう‥‥とテルルは考えていた。
●リプレイ本文
八猫亭は猫のたくさんいる宿屋だ。入り口にも中にも猫が昼寝をしたり歩いたりしていて和やかな雰囲気を出している。
主人は体格の良い中年の男性で、いつもはにこにこしているのだろうが今回はずいぶんと真面目な顔をしていた。というのも数日前、一人の女性客が出て行ったきり帰ってきていないのだ。まだ宿代は払われていない。
今はパリからやってきた冒険者達に詳しい話をしているところであった。
「そうですね。確かにフォルチとかいう盗賊が脱走する少し前のことでした」
なぜこのような話をしているのかというと、ここに泊まっていたテルルというシフールの男が冒険者達に気になる話をしたからだ。
もしその女性がテルルの言うとおりリィンだとしたら、フォルチの脱走にかかわっている可能性が高い。
「そのお客はどんな人だった?」
飛 天龍(eb0010)が尋ねた。
「黒い髪のシフールです」
宿屋の主人が答えた。テルルは冒険者達に確かにリィンの特徴と一致しているといった。
やはりこの街のどこかにリィンはいるのだろうか。
「冒険者ギルドの過去の報告書を見た限りデハ、フォルチとリィンは男爵家に入るため、一時的に手を組んだように書かれているのデスガ。だとしたらリィンが危険を冒してまでフォルチの脱獄を手伝うのはなぜでしょうカネー?」
ギヨーム・ジル・マルシェ(ea7359)が疑問を述べた。テルルは分からないという風に首をかしげた。
盗賊フォルチであるが、依頼内容によるとどうやら脱走はしたが街の周辺に潜んでいるらしい。
もしかしたら、男爵の家にあった絵は偽物とすり替えられており、盗んだ本物の絵を街周辺に隠しておいたのではないか? そう考えたアイリス・ヴァルベルク(ea7551)とアム・ネリア(ea7401)は出発前に男爵に会って絵を調べてもらったが、鑑定結果は紛れも無い本物であった。
ではフォルチは一体何を探しているのだろう。
「とりあえず、二人を探し始めましょうか」
アイリスはそう言うと着替えるため二階へ上がっていった。少しして動きやすい服装に着替えた彼女が降りてきた。
そこでミミクリーの呪文を使って変身した。リィンにである。変身した瞬間テルルはびっくりしてテーブルの下に隠れた。
「あら、どうしたのかしら、テルルさん?」
アムは面白がったように言った。しばらくするとミミクリーの効果が切れ、テーブルの下からテルルがゆっくり出てきた。アイリスはテルルからコサージュを借りて腰につけた。本物との区別のためである。
そのうち街に聞き込みに行っていたガイアス・タンベル(ea7780)とフォボス・ギドー(ea7383)が帰ってきた。
「森で人が隠れられそうな場所はいくつか教えてもらいました。二手に分かれて回って見ましょう」
ガイアスの提案により冒険者達は二つの組に分かれて盗賊たちを探すことにした。アイリス、飛といったシフールだけの班とそれ以外の班に分かれた。
後者はリィンの顔を知っているものがいないということでテルルが付いてゆくことにした。
冒険者達は再集合の時間と場所を決めると、二手に分かれて森の中へと散っていった。
街外れの森は暗く、確かに盗賊が潜んでいても分からない雰囲気がある。
シフール組は上空から人影らしきものが見えないか探してみたが、木が密集していてはっきりとは分からなかった。
隠れ場所の候補の一つである洞窟の近くに降り立ってみた。洞窟の入り口には明らかに人が出入りしているような跡がある。人かシフールかまではよく分からなかった。
「しばらく隠れて様子を見よう」
飛が言った。フォルチが現われたらミミクリーで変装したアイリスがおびき出し、情報を聞き出す。
リィンが現われたらいったん戻ってテルルに知らせよう。ということになった。
数分後、洞窟に戻ってきたのはフォルチであった。不満そうな顔で、何やら考え事をしているようだ。
すかさずアイリスはリィンに姿を変える。そしてフォルチに気付かせるように物音を立てながら草むらから出た。
「お前!」
振り返ったフォルチは目を丸くした。アイリスは変装がばれないように黙ったままだ。するとフォルチの表情がとたんに険しくなった。
「よくものこのこと平気で姿を現せるな」
アムたちは今大変危険な状況であることに気が付いた。今のフォルチはリィンに対してどうやら友好的でないようだ。
「二度と私の前に顔を出せないようにしてやる!」
フォルチは懐からナイフを取り出し、アイリスに向かって突撃してきた。すでに危険を察知していた飛は草むらから飛び出し、フォルチに右拳を叩きつける。
予想していなかった反撃にフォルチはのけぞったが、何とか体勢を保った。
「誰だ!」
「貴様に名乗る名は無い」
「はっ‥‥そうかい。だがこいつを助けるというなら私は容赦しないぞ」
言い終わるか終わらないかのうちにフォルチは飛にナイフを振るった。ややよけ損ねた飛の右腕に当たり、服の切れた場所から血が滲み出た。
腕を押さえる飛にじりじりとフォルチは近寄ってゆく。しかし次の瞬間ギヨームの放ったウォーターボムをまともに喰らい、地面に倒れた。
「いったん逃げまショウ」
ギヨームの呼びかけによりシフールたちは上空に飛び去った。とりあえず集合場所に戻って今起こったことを他の者に話さなくては。
それと飛の怪我も治さなければならない。
集合場所に戻ってきたシフール組はフォルチに会った事を皆に話した。飛はガイアスからポーションを分けてもらい、怪我を治すことができた。
テルルは報告を聞いて顔色が悪そうだった。リィンが今一体どうしているのか不安なのだろう。
「理由は分からないが、とにかくフォルチはリィンだと思ったアイリスを攻撃してきたということか‥‥」
ウー・グリソム(ea3184)は考え込むように言った。
「フォルチがまだ同じ洞窟の近くにいるとは考えにくい。それよりも今はリィンを探した方がいいだろう」
フォボスの提案はもっともだが、果たしてリィンは一体どこにいるのだろうか。
「まだフォルチが見つけてないということを考えると、街中という可能性もあるな」
レヴィ・ノア・ローレンス(eb1468)が言った。そこでとりあえず手分けして街の中を探してみることにした。
アムがしばらく探していると、近くに帽子を深くかぶったシフールの青年がやってきた。そしてアムのことを興味深そうに見ている。
「お姉さん、何か探しているんですか?」
「ええ、ちょっとある人を探しているんです」
「もしかして‥‥こんな人ですか?」
「え?」
アムはきょとんとした。少年が帽子を少しあげて顔を見せたのだ。それは前に見たことのある顔だった。
少年、いやリィンは人差し指を唇に当てて静かにのポーズをとったあと、小さな声で言った。
「皆さんにお話したいことがあります」
そして自分は八猫亭の向かいの酒場で待っていると言ってその場を去った。
アムはしばらく呆然と立ち尽くしていたが、すぐに我に返り皆に報告しなければと考えた。
八猫亭の向かいの酒場には、相変わらず青年の格好をして帽子を深くかぶったリィンがいた。
冒険者に混じってテルルがいるのを確認すると、リィンはちょっと驚いた様子であったが、にっこりと笑った。
「お久しぶり」
「あ‥‥お久しぶり、です」
テルルはなぜか恥ずかしそうに答えた。
「リィン、キミは今まで一体どうしていたのだ?」
ウーが尋ねた。
「これから説明するわ」
リィンが言った。彼女の説明するところによると、彼女はやはりフォルチを助けるためにこの街に寄ったらしい。
「でも本当はこんなに長くこの街にいるつもりは無かったわ。パリの酒場で出し物をする約束もしていたし」
それというのも予想外の出来事が起きたのであった。彼女はフォルチを脱獄させたあと、武器がないと困るからといって持ってきていたナイフを渡したのだ。
しかし彼はそのままナイフを抜いて彼女に斬りつけてきた。あわてて彼女は街中に逃げ込んだのである。
「でも、どうして?」
「あの人、どうもあたしのことを逆恨みしているようなのよね。あたしがあの人のことを見捨てて逃げたから、自分だけ捕まったんだって」
そういってリィンは頬を膨らませた。
「どうしてこの街から逃げないの?」
アイリスが尋ねた。
「実は彼、この町の出身なの。地元の不良とか、今でも彼を慕っている連中がいるのよ」
フォルチはそうした連中と手を組んでリィンを探し回っているらしい。逃げるに逃げられず、こうして姿を隠しているのだという。
「これから、どうするつもりですか?」
テルルが心配そうに尋ねた。
「どうにかしてこの街から逃げ出したいけど‥‥今は無理ね」
リィンは残念そうに答えた。
冒険者達は依頼の期間が迫っていることも考え、洞窟でフォルチに会ったことだけ自警団に報告して帰ろうという結論になった。
宿代の方はリィンから金を預かったテルルが払うということで一件落着した。
「テルルさんはこれからどうするんですか?」
アムが興味深そうに尋ねた。テルルはこれからリィンと話し合って決めるとだけ答えた。