【囚人と奇術師】後編

■シリーズシナリオ


担当:青猫格子

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月14日〜04月19日

リプレイ公開日:2005年04月22日

●オープニング

 テルルがリィンに再会して数日後のことである。再び二人は酒場で話し合っていた。
 二人はいつも一緒に行動しているわけではない。どうもリィンは単独でフォルチたちの動きを探っているらしかった。
「もうこれ以上この町に隠れ続けていることは難しいわ。何とかして逃げ出さないと」
 相変わらず変装したままのリィンは少しいらついた声で言った。
「‥‥でも町の周りはフォルチと組んだ町の不良達が見回りをしているって言ってましたよね。何か彼らの隙をついて、脱出できる手はあるんでしょうか」
 テルルが尋ねると、リィンは少し考えていたが、やがてこう答えた。
「そういえば、この前冒険者達が町に来ていたわよね」
「え‥‥?」
 テルルは彼女が何を言いたいのか分からなかった。
 リィンはテルルに自分の考えていることを説明した。

 数日後、パリの冒険者ギルドにテルルは現われた。
「今日は何の用ですか?」
 受付係がテルルに問う。彼はなぜか少し躊躇するような表情を見せたが、やがてこう言った。
「僕の友人が町で仲間といざこざを起こしてしまい、町を離れたいと連絡してきたのです。しかし仲間の一人が彼女を相当憎んでいるらしく、どうやら命を狙っているようなのです」
「それは‥‥物騒な話ですね」
「ええ。彼は仲間とともに町の周囲を警戒しており、簡単には町を出られないそうです。そこで冒険者の方たちに協力して欲しいのです」
 テルルが説明するところによると、つまり冒険者にフォルチの仲間を目をそらすこと、リィンとテルルの護衛をして欲しいこと、の二つを頼みたいという事だった。

「了解しました。しかし大変そうですね」
「報酬は通常より多めに用意すると彼女は言っていました。それに、もし町を出ることに成功した場合は『青い何か』に関する手がかりも渡すと言っていました」
「青い何か? 何ですかそれは」
 受付係は不思議そうな顔をした。
「さぁ‥‥私もよく分かりません。ただこう言っておけば分かる人にはわかる、と言われましたので」
 テルルはわざとらしく首を振った。

 冒険者ギルドで手続きをすましたテルルは、再び町へ戻ることにした。
「はたして上手く行くのだろうか‥‥?」
 不安な面持ちで、彼は夕暮れの空を見上げた。

●今回の参加者

 ea3184 ウー・グリソム(42歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ea7383 フォボス・ギドー(39歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea7401 アム・ネリア(29歳・♀・クレリック・シフール・ノルマン王国)
 ea7551 アイリス・ヴァルベルク(30歳・♀・クレリック・シフール・フランク王国)
 ea7586 マギウス・ジル・マルシェ(63歳・♂・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 ea7780 ガイアス・タンベル(36歳・♂・ナイト・パラ・イスパニア王国)
 ea9960 リュヴィア・グラナート(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb0010 飛 天龍(26歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)

●リプレイ本文

 再び冒険者達はリィンを前にして話し合っていた。
 彼女の出した条件は、この町からの脱出に成功したときには通常の報酬のほかにエイラック男爵家から盗んだ青い宝石の手がかりを教えるというものだった。
 しかし何人かの者達は、この条件にあまり納得が行っていない様子であった。
「どうかしましたか、アイリスさん?」
 リィンは押し黙っているアイリス・ヴァルベルク(ea7551)に話しかけた。
「あなた、何も反省してませんのね。自分が盗んだものを取引に出すなんて」
「そうだね。確かにそれだけでおしまい、というわけにはいかないね」
 マギウス・ジル・マルシェ(ea7586)が頷いた。
「‥‥ならば、どうすれば納得するわけ?」
「ここに来るまでにあなたは沢山の人に迷惑をかけてきましたね。テルルさんをはじめ、男爵、そしてあなたを待っていた酒場の主人。あなたは罪の重さを理解し、皆に謝罪するべきです」
「彼女はあなたのことを思って言っているのです。あなたが罪を償い、主に許しを貰えるように」
 アム・ネリア(ea7401)がアイリスの言葉に付け足した。
「‥‥‥‥」
 リィンは難しい顔で黙っていた。テルルは不安げな顔で彼女の様子を見ていた。
「分かったわ。謝ればいいのでしょう」
 そう言ってリィンは立ち上がるとテルルの方を見た。
「え‥‥」
「ただ近所に住んでいて、男爵の知り合いだった。それだけのことでここまで巻き込んでしまったわ。許してくれる? テルル君」
「いえ、あなたが謝ってくれるなら僕は別に‥‥」
「でもそういえばなぜこの町に来たの? ここまで来る必要は別になかったんじゃ‥‥」
「うっ‥‥!」
 テルルは物を詰まらせたような声を上げると、顔を真っ赤にして店を飛び出してしまった。
「とにかく、あなたが罪を認めるというなら男爵に会えるように致します」
 アイリスはまだ彼女の行動が本心からのものであると認めていなかったが、そう言ってテルルを探すために酒場を出た。

 冒険者達はまず相手の情報を得ることが大事だと考えた。
 リュヴィア・グラナート(ea9960)、ガイアス・タンベル(ea7780)らはフォルチとその仲間達について調べるため、町の住民に聞き込みを行うことにした。
「そこのお嬢さん、ちょっとお尋ねしたいことがあるのだが」
「あ、はい。何でしょう」
 町を歩いていた女性はリュヴィアを見てほわんと顔をほころばせた。しかし母親らしき女性が彼女を袖を引っ張って制した。
「すいません、今忙しくて」
 すると女性はあわててその場を去ってしまった。
「うむ‥‥まだ町の人のよそ者への警戒は続いているようですね」
 ガイアスはその様子を見てため息をついた。
 二人は今度は自警団に行ってみることにした。冒険者達は前に依頼を受けたこともあるし、何か話してくれるかもしれない。

 しばらくして冒険者達は再び酒場に集まっていた。
 それぞれが調べたところによると、フォルチは未だに町の付近の森に隠れているようだが、以前ほど見かけなくなったとの事。
 仲間は3人の者が中心的に動いているらしく、フォルチの代わりに彼らが町の周りを監視しているようである。
 またマギウスのサンワードにより、フォルチは東の方向にいることが分かった。しかしこれはまだ移動する可能性がある。
「とりあえず、こんなところか」
 フォボス・ギドー(ea7383)が皆の持ってきた情報をまとめてみた。
 そして皆でどうやって脱出するかの最終的な確認をした。基本は囮作戦である。
「囮班はシフールの者とフォボス。それ以外の者はリィン達の護衛だな」
 ウー・グリソム(ea3184)がそう言うと、ガイアスは頷いた。
「はい。囮がフォルチたちを引きつけるようにしますので、その間にリィンさんたちは逃げてもらうことになります」
 確認の後は準備である。アムとアイリスはリィンに見えそうな服装に着替えた。
「では、先に行くぞ」
 飛 天龍(eb0010)が言った。リュヴィアらが頷くのを確認して囮班たちは店を出た。

 囮班はフォルチをひきつけるために町の東へ向かうことにした。
「フォルチの仲間達がどこかにいればいいんだけどね‥‥」
 マギウスが辺りを見回していると、町の境界付近の川岸にしゃがみこんでいる二人の若い男がいた。
「ああ‥‥暇だなぁ」
 金髪の男がだるそうにつぶやいた。口調の割には目が疲れた表情を見せており、なかなか怖い。
「あの女ずっとこの町にこもってるつもりなんすかね」
 そばにいたもう一人の男が言った。
 遠くから様子を見ていた飛には話し声は聞こえなかったが、二人がフォルチとその仲間であることに気が付いた。
「あれ、何か飛んでますよ」
「はぁ、この町にだってシフール便位来るだろうよ‥‥?」
 そう言ってフォルチが空を見上げると、何人かのシフールの集まりが町の外へ向かって飛んでゆくところであった。
 そしてそれを追いかけるように馬に乗った騎士が川の端を渡っていった。
「‥‥あの中に奴が紛れているなんて事はないだろうな」
「追跡しますか」
「ああ」
 二人はシフールの集団を追って町を出た。

 さて一方でリィンたちは別ルートで町を離れることにした。
「これから町の南から出て、囮班の人たちと合流する」
 ウーがテルルにそう説明した。
「‥‥待った」
 リュヴィアが冒険者達に声をかけた。
「!」
 ガイアスはあわてて周りを見回した。はっきりと姿は見えないが、何者かが自分達の跡をつけているようだった。
「さすが冒険者、感づいたか」
 物陰に隠れていた男達が姿を現した。
「お前達、前にもこの町に来ていたな。また自警団が雇ったのか」
 もう一人の男が冒険者達を見ながら首をかしげた。ちなみにテルルとリィンはガイアスの馬の積荷の中に隠れていた。
「だとしたら何だというのだ」
 リュヴィアが落ち着いた様子で男達に問いかけた。
「お前達がうろうろしているとフォルチの旦那が行動しづらいんだよ、さっさとこの町から出て行け」
「‥‥どうやら話し合うのは無駄なようだな」
 ウーはそう言って武器を構えた。
 男達は彼の態度を見て同じく武器を構え、飛び掛ってきた。

 再び囮班とフォルチたち。
 フォルチたちはシフールの集団が飛んで行った方角へ向かって走り続けていた。
「?」
 シフールたちは飛ぶのをやめて森の中に降りた。休憩でもするつもりだろうか。
 二人はそれらしい場所にやってきたがシフールたちの姿はない。
「やな予感がするな」
 フォルチが言い終わらないうちに、背後から魔法が飛んできた。
「旦那!」
 フォルチは頭を抱えて転がったが、以前とはちがってそれほどのダメージは受けていないようだった。
「いってぇ‥‥」
 フォルチは相手が敵意を持っていると察し、後ろを振り向いた。何人かの足音が駆けていくのが分かった。
 二人は足音を追いかけて森に入った。
 しばらく走っているとシフールの集団の一人がこけた。女性のシフールの様だ。フォルチの仲間が彼女を捕まえた。
「なんだ、人違いか」
 捕まったのはアムであった。
「いや、こちらとしては間違っていないぞ」
 聞き覚えのある声がしてフォルチが前を見た。前方に飛が立っていた。そしてその隙に飛の元に駆け寄るアム。
「またお前か!」
 フォルチがうんざりした表情で言った。そしていつの間にかフォボス、マギウス、アイリスといったメンバーに囲まれていることに気が付く。
「‥‥罠だったのか」
「いつまでこのようなことをするつもり? こんなことをしていては、あなたの罪が深まるばかりですよ」
 アイリスがフォルチに呼びかけた。
「罪がどうした? 私はあの女が憎いから始末したい。それだけだ」
「‥‥言ってもわからないようだな」
 フォボスがモーニングスターを構えた。ほぼ同時にフォルチの仲間が弓を構える。
 しかしフォルチは仲間を制し、彼を引っ張って逃げることを試みた。魔法を使う者がいることや人数的に自分達が不利と判断したのだ。
「逃がさないよ!」
 マギウスがサンレーザー、アイリスがブラックホーリーを放ち、それぞれ仲間とフォルチに当たった。そして二人が転んだ隙に、今度は冒険者達が彼らを捕まえた。
「とりあえず、彼らを自警団に連れて行きましょう。それから皆と合流すればいい」
 アムが言った。冒険者達は拘束したフォルチと仲間を連れて町に引き返した。

 後日、アイリスの計らいによりパリのエイラック男爵邸にてリィンはエイラックに謝罪することになった。
 エイラックはリィンから一枚の羊皮紙の巻物を受け取った。
「これは?」
「地図です。宝石は現在そこの地図の場所の人の手に渡っています。あたしが返してもらうように言ってもその人は応じてくれません。その人は宝石が盗品だと分かっているからです」
 リィンは淡々と説明した。
「ですが本来の持ち主であるあなたが行けば、返してくれるかもしれません」
「‥‥そうか」
 そう言ってエイラックは穏やかな笑顔をした。
「あの‥‥本当に許していただけますか」
「あぁ。宝石の場所も分かったし、何より君は自分から謝りに来てくれたからね」
 そう言われるとリィンはほっとしたようだった。

 その後、リィンは今でもパリの例の酒場で定期的に奇術の出し物を続けているらしい。
 テルルも毎回見に行っているようだ。