【破滅をもたらすもの】第一話
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■シリーズシナリオ
担当:青猫格子
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月22日〜08月27日
リプレイ公開日:2005年08月30日
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●オープニング
少女趣味な人形で飾られている部屋の中、エイラック男爵は眠り続けていた。
彼は用事があってしばらくパリを離れていたのだが、ようやく帰って来れたので疲れて寝過ごし続けているのだった。
しかしそんな惰眠も何者かの足音で奪われてしまう。
(「ルミナか? ‥‥こんな朝早くから何をバタバタしているんだ」)
実際にはもう昼に近い。
寝巻きのまま彼が1階へ降りていくと、そこには荷物をあわててまとめている女性の姿があった。
以前のフォルチに代わって新しくエイラック家の召使として仕えている女性、ルミナであった。
「ルミナ、ここはもう宿じゃなくて私の家だ、出かける支度はしなくていいんだ」
「あ、ご主人様! い、いえ、違うのです」
主人の存在に気付いた召使は慌てて言った。
「じつは急な用事ができまして、しばらく村に帰りたいのです」
村‥‥? とエイラックは首をかしげた。彼女の村はパリから少し離れた所にある。前の領主はエイラックと仲がよく、付き合いもよくあったがつい数年前病気で亡くなった。いまは彼の息子が後を継いで領主になっているはずである。
「カリウスの若造が何かしでかしたのか」
「いえ坊ちゃ‥‥子爵様は関係ないです。とにかくお願いします」
ルミナが首を振ると、服のどこかにはさんでいたらしい手紙が地面に落ちた。
「なんだこれは」
「あ、なんでもないです。姉さまからの手紙です。返してください!」
彼女の必死な様子から、やはり何かあるのだろう。エイラックは手紙を読んだ。
ルミナへ
最近村では不可解な失踪事件が起きてます。
消えるのは老人から子供まで様々な人におよび、魔物の仕業か人攫いかと皆が怯えています。
そんな中、子爵様は幼なじみのアーヴィングを疑っているようなのです。
ほら、彼の父上が昔似たような事件で疑われたことがあったでしょう。
彼の子であるアーヴィングも同じことをしかねないと考えているのです。
子爵様はすぐにでもアーヴィングを森から連れ出して裁判にかけるとか言い出しそうなのですが、
私はまだ彼が犯人だとはどうしても信じられないのです。
しばらくは私が子爵様を説得してみようと思いますが、
子爵様が私の言うことを必ずしも聞き入れてくださるかは分かりません。
リイナより
ルミナは不安そうな目でエイラックを見ていた。
「‥‥このアーヴィングとは、何者かね」
「村のはずれの森に住む猟師です。姉さまと私がルシア様の遊び相手だったように、彼も子爵様と小さい頃は遊んでました」
ルミナもアーヴィングが犯人だとは思えないようだった。村へ帰って姉と一緒に領主を説得しようと試みたのか。とにかく手紙を読んで何かしなくてはと考えたようだ。
「全く、若造はなぜ自分の友を疑うような真似をしているのだか。しかし彼がもし本当にアーヴィングとかいう男が犯人だと信じているというのなら、一介の召使が証拠も無いのに説得しても無駄だろう」
エイラックの言葉にルミナは顔を青くした。
「で、その男は本当に犯人ではないのだな?」
「それは、もちろん!」
ルミナの表情は真剣だった。
彼女の表情を見たエイラックは一度寝室に戻り、何かを書いた羊皮紙を持ってきた。
「これをもって冒険者ギルドに行きなさい。依頼内容を書いてあるから」
どうやらエイラックはアーヴィングの無実を証明するための調査を依頼することにしたらしい。
「え、でも、子爵様は村のことに口出しされたら嫌な顔をするかもしれません」
「だから私が依頼したということは秘密にしておく。もし不安だったらルミナが依頼人ということにしておいてもいい」
「はあ‥‥分かりました」
納得したようなしないような顔をしてルミナは冒険者ギルドに出かけていった。
静かになった屋敷の中で、エイラックはもう一度寝ようと寝室の奥へ消えていった。
●リプレイ本文
カリウス家の屋敷にルミナが着いたのは夜遅くであった。
冒険者達は少し早く村に着いていた。村には一軒しか宿屋がないので、そこに泊まることにした。
「今馬車が屋敷に走っていきました〜」
アム・ネリア(ea7401)が外を見ながら同室にいたアニー・ヴィエルニ(eb1972)、チャー・ビラサイ(eb2261)に告げた。
「では明日はルミナさんと一緒に行動できそうですね」
アニーが言った。
「その調査ですが、どうします? 村で聞き込むのと、アーヴィングさんのところへ行くのと二手に分かれたほうがいいのでしょうか?」
「いや、その必要はないだろう」
チャーの質問に突然外から声がして部屋にいた者たちは全員驚いた。
窓の上から逆さになった近藤継之介(ea8411)の顔が降りてきた。
「今回は人手が少ない。少ない人数でもし戦いにでも巻き込まれたら危険だ。なるべく全員で行動しよう」
「それは分かりましたが‥‥一体そこで何をしてるのですか?」
「まさか‥‥覗」
「屋根の上で涼んでいただけだ! 誤解しないでほしい」
普段はクールな近藤であるが、今回は男性が自分ひとりというのもあり、どうも調子が狂う。
しかめっ面をして窓を閉じると、天井で走り去ってゆく音がした。
次の日、ルミナと合流した冒険者達は領主であるカリウス家の屋敷に行くことになった。
村の中心地から少し離れた所に、屋敷は建っていた。大きな屋敷であったが、今は三人の住人と一人の召使がいるのみであった。
「お帰りなさい‥‥そちらの方々は?」
庭に入った所でルミナは一人の少女に呼び止められた。赤い髪に地味な色の服を来た少女であるが、彼女こそ領主の妹のルシアであった。
「はじめまして。私たちパリの冒険者ギルドから依頼を受けてやってきました」
アニーが名乗った。
「ギルド?」
「はい、姉さまからこの村で事件が起こっていると聞きまして、私が調査を依頼したのです」
「そう」
ルシアは特に驚きもしなかった。そしてがんばって下さいねと冒険者達に言うと彼女はどこかへ言ってしまった。
「‥‥‥‥?」
ルミナは少し首をかしげた。近藤が何かあったのかと尋ねたが、彼女はなんでもないと答えた。
屋敷に入ると、領主であるカリウス子爵が待っていた。子爵にはどうやら昨日ルミナが冒険者が来ていると話しておいたらしく、どこか不安そうな目で冒険者達を見ていた。
「君達が、冒険者か‥‥」
「早速ですが、失踪事件について詳しく教えていただけませんか」
アムが領主にそう切り出すと、脇にいた彼の妻が一歩前に出た。
「それは私の方から説明しましょう」
彼女はエイレンと名乗った。
「ここ数ヶ月の間に5人の村人が姿を消してしまいました」
姿を消した村人は若者から年寄りまで様々で、単なる人攫いとは考えにくかった。
「アーヴィングと言う男が疑われていると聞いたが、何をきっかけに疑われるようになったのだ?」
近藤がエイレンに質問した。
「彼は昔から色々言われていたようですが‥‥直接の原因となったのは大体二週間前に起こった事件です」
彼女の説明によると、約二週間ほど前、村長の次男が姿を消した。次男は村と森の間に流れる川の橋の近くで友人と会う約束をしていた。しかし友人がいつまで待っても次男は来なかった。そのとき橋の向こう側で辺りを見回しているアーヴィングを見たのだという。
そして次の日、次男がまだ帰ってきてないということが分かり、アーヴィングが怪しまれるようになったのだ。
「アーヴィングさんは森に住んでいるのでしょう? 普段からその辺を歩いているのではないのですか?」
チャーがそういうと、子爵は首を振った。
「彼は森からめったに出てくることはない。彼は村人を憎んでいる」
「それは‥‥彼のお父様というのが関係しているのですか?」
アニーが尋ねると、子爵は驚いて彼女を見た。
「どこでそんな話を聞いたんだ?」
「やはり関係あるみたいですね?」
アムがそう言うと、エイレンはため息をついた。
「過去の事件については‥‥私はもともとこの村の出身ではないので詳しくは分かりません。ヨシュア様もまだ子供の頃の話で、しっかりと把握できてはいないようです」
詳しくは村のものに直接聞くべきだろう、と彼女は言った。
話を聞き終えた冒険者達は今度はアーヴィングの元へ向かうことにした。
猟師アーヴィングは村の近くの森に住んでいる。めったに人里に出て来ることはなく、森で自給自足の生活をしている。
そんな生活を父が死んだ後ずっと続けていた。
「村の人たちは彼のことを変わり者といいます。しかしまだお父様が生きていた頃は領主様のよい友人であったのです」
今でも彼が悪い人だとは思えない、ルミナはそう考えていた。
「あそこが彼の家です」
ルミナが示したのは木でできた掘っ立て小屋のような簡素な家だった。
アーヴィングの姿は見えない。森のどこかで狩をしているのだろうか?
「‥‥そこで何をしている」
少ししゃがれ気味の声がした。驚いて冒険者達が振り返ると一人の若い男が立っていた。釣竿を持ち、手に提げた木桶には数匹の魚が入っている。
「アーヴィングさん!」
「ルミナちゃん? いつの間にか大きくなったね。そこの人たちは一体?」
ルミナが冒険者達のことについて説明した。
「‥‥とにかく家の中に入って。狭いけど、一応話したいことは色々あるから」
家の中は生活に必要な最低限のものしか置いていないようだった。ただ例外的なのが、窓際近くにおいてある鳥かごであった。
鳥かごには一匹の白い小鳥が休んでいたが、どうやら怪我をしているようだった。
「アーヴィング、事件の起こった日のことを詳しく聞いても良いだろうか? めったに森から出ないそうだが、なせあのときに限って村に来ていた?」
近藤が質問するのをアーヴィングは黙って聞いていた。
「信じてもらえないかもしれないけど、ルシア様に呼び出されたんだ」
彼はめったに外に出ないとされるが、生活に必要なものを手に入れるために定期的に村まで出てくることはある。
狩の獲物と毛皮類を野菜などと交換してもらうために村に来たとき、ルシアが彼の元にやってきたという。
「誰もいないところでお話したいことがあります、今度村境の川の橋のところで待っていてくれませんか?」
ルシアの表情からは焦った様子が見えていたので、詳しく問い詰めずに同意したという。
「しかし約束の日に橋の近くに行ってもルシア様は来なかった。おまけに次の日になって村長の次男が消えたという」
「‥‥ルシア様にだまされた、ということですか?」
チャーが恐る恐る尋ねた。
「あのときの彼女は必死そうだった。演技とかではなかったと思う」
それに失踪事件と彼女に本当に何かかかわりがあるのだろうか。領主の妹である彼女が村人に危害を与えるようなことに関係しているなんて考えるのは不自然だ。と、アーヴィングは語った。
「‥‥さて、これからどうしましょうか?」
アーヴィングの家を出て、アムが皆に言った。
「彼の話だと、ルシアが事件に関係しているような気がする。もう一度彼女に会って話を聞いてみるのはどうだろうか?」
「でも、もしかしたら彼が嘘をついている可能性もあります」
近藤の発言を聞いて、アニーが不安そうな顔で言った。
「む、彼は嘘をつくような人ではないです」
ルミナが頬を膨らませて言った。
「どちらにしろ、ルシアさんに話を聞いたほうがいいのは確かですね。あと私は過去の事件について少し調べてみたいです」
「私もそれは気になりますね」
アムがそう言うと、チャーが同意した。
そういうわけで、村に入ってから一行は二手に分かれて行動することにした。
アムとチャーは村長の家を尋ねることにした。アーヴィングの父が疑われたという過去の事件について聞くためであった。
しかし村長は次男が消えたショックからか出てこなかった。かわりに現われたのは長男である。
「すいません、村の者達は一度解けた疑いをまた持ち始めてしまったようです。今アーヴィングさんの話をするのはなるべく避けていただけませんか?」
バタン。それだけ言うと扉が閉まった。
アムとチャーは顔を見合わせた。どうもこの村の者達は事件のことを話したがらないようである。
一方近藤とアニーは再びルミナとともに領主の屋敷に来ていた。
ルシアは庭に出ているいすに座って、布で手袋か何かを縫っていた。
「あら、またお会いしましたね」
「ルシア様、この前事件のあった日、アーヴィングを呼び出したと聞いたのですが、本当ですか?」
近藤が尋ねると、ルシアはきょとんとした表情をした。
「私が? アーヴィングさんを? 一体なぜです」
そう問われると返しようがない。
三人はルシアから少しはなれたところで、小声でああでもない、こうでもないと話し合ったが、仕方ないのでとりあえずアムたちと合流しようということになった。
「もう帰ってしまいますの?」
ルシアは寂しそうな顔で言った。
「はい、今日の夕方には村を出る予定です‥‥!」
ルミナが振り返って答えた。しかし彼女はそのまま一瞬固まってしまった。
「どうしました?」
アニーが呼びかけると、氷が解けたかのように彼女が気が付き、なんでもないとだけ答えた。
「皆さんは先に行っててください。少し用事ができましたので」
「‥‥わかった」
冒険者達は再び宿に集まって、聞いてきたことを報告した。
「つまりアーヴィングさんかルシアさんのどちらかが嘘をついているのですね」
アムが聞いてきたことをまとめてこう結論付けた。
「そういうことになるが、なぜ嘘をついているのかというのもまだ分からない。嘘をついているほうが事件にかかわっているのかもしれないし、どちらかがかばって嘘をついているのかもしれない」
「そもそも、この失踪事件が一体何を目的にしているのか、それが分からないと犯人を捜すのは難しいのではないでしょうか」
「確かに」
結局、今の所はこれといった確かな証拠がないため、犯人を捜すことはできない。
逆にアーヴィングが今すぐ犯人として捕まえられる可能性も薄いといえる。
「まだ現状では情報が少なすぎます。もう少し様子を見ましょう」
アニーが皆に言った。そろそろ日が傾いてきた。
「そうだな、また何かあれば男爵がギルドに依頼してくるだろう」
冒険者達は帰る用意をはじめた。だがアムは苦い顔で外を見ていた。
「‥‥どうも様子見とか、悠長なことを言っている余裕はなさそうです」
「え?」
結局その日、ルミナが宿に姿を現すことはなかった。
次の日、村ではこんな囁きを聞くことができた。
「これで6人目‥‥また人がいなくなった」