【破滅をもたらすもの】第二話
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■シリーズシナリオ
担当:青猫格子
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月13日〜09月18日
リプレイ公開日:2005年09月21日
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●オープニング
パリで平穏な日常を過ごすエイラック男爵。
今日は故郷の村に戻っていた召使のルミナが帰ってくる予定の日である。
ドアをノックする音がした。ルミナが帰ってきたのだろう。
そう思って男爵が玄関に行くと、そこにいたのはルミナではなく、彼女の姉、リイナであった。
「リイナさん? ルミナに何かあったのか」
「実は‥‥」
リイナは村で起こったことを説明した。
男爵は自分の召使が失踪したと聞いて青ざめた。
「一体どうして‥‥彼女は今どこにいるのだ?」
「それは私にも分かりません。ただ冒険者達の話によると、ルシア様と話をしたあと、どこかへ消えてしまったのだといいます」
リイナが暗い表情で答えた。
「ルシア‥‥ヨシュアの妹か。彼女は兄と違って賢そうな娘だったが、悪いことをするようには見えなかった」
男爵は友人であった前領主の子ども達を思い出しながらつぶやいた。
リイナもルシアが失踪事件にかかわっているとは信じたくないようだった。
最初は動揺していた男爵であったが、次第に落ち着きを取り戻してきた。
「‥‥しかしその、アーヴィングとの話の矛盾といい、ルミナのことといい、彼女が関係しているとしても一人でやっているとは思えないな。誰かが裏で彼女に行動を強いさせているとか、そんなにおいがする」
男爵は腕を組みながらつぶやいた。
確かに少女一人では人ひとりさらうのも大変な労苦である。
「裏にいる人物ですか‥‥?」
リイナはそういわれて思い当たる人物があった。
「実は‥‥」
言いづらそうに彼女は男爵の方を見た。
「何だ?」
「村長の息子さんの事件が起こる前に、一番最初にアーヴィングが怪しいと言い出した人がいるのです」
「誰だ? ヨシュアじゃないのか」
「それが‥‥エイレン様なのです」
エイレン。最近子爵と結婚したという女性である。エイラックは名前は知っていたが顔は見たことがなかった。
「なぜ彼女が?」
「村のどこかで過去の話を聞いたらしいのです。村人達は村長の息子さんが消えたとき、確かにエイレン様の言ったとおりに違いないと感心していました」
「うむむ‥‥」
男爵は難しそうな顔をした。何が目的か良くわからないが、とにかくエイレンについてもっとよく知る必要がありそうだ、と考えているようだった。
「とにかく、まずはルミナをなんとしてでも探し出さなくては」
話が終わった後、エイラックは冒険者ギルドに向かうことにした。
表向きの依頼内容はルミナを探し出すこと。だがもう一つ、重要なのはエイレンについてだ。
彼女が何者であるのか一体村で何をしているのか詳しく調べなくてはならない。
●リプレイ本文
エイラックと冒険者達は村にやってきた。エイラックがこの村に来るのはずいぶん久しぶりだ。
都会と違って数年くらい経っても村にはそれほどの変化はない。しかし今は懐かしんでいる暇はなかった。
今はルミナを探すことのほうが重要だった。
冒険者達はここで一旦別れることにした。カリウス家の者に用がある者と、アーヴィングに会いに行く者である。
エイラックはアーヴィングと面識があるわけでもないし、子爵の家に一緒に行くとこにした。
「あら、お久しぶりですね」
カリウス家の屋敷の近くまでいると、門の前にいた少女が冒険者達に声をかけてきた。
「‥‥ルシアさん」
アム・ネリア(ea7401)がちょっと複雑な表情で返事をした。彼女がルシアか。いつの間にかずいぶん成長したものだ。
「お久しぶりです。今日はルミナさんを捜すために来ました」
チャー・ビラサイ(eb2261)が答えた。ルシアはああ、といって納得したように頷いた。
「それは大変ありがたいことです。ルミナさんは私の昔からの親友ですから。私からもお願いします。なんとか彼女を助け出してください」
その言葉は一見、真剣に言っているように聞こえたが、冒険者達、とくに前回この村に来たものたちはなかなか彼女を信頼することができなかった。
ルミナと分かれる直前、冒険者達は彼女と話していたのだ。
「ルシアさんは何かルミナさんが消えた時のことについてご存じないですか? どんな小さな手がかりでも構いません」
チャーが尋ねると、ルシアは頬に手を当ててそうですねぇ‥‥と考えた。
「じつはここ最近、記憶が途切れ途切れになっていることがありまして‥‥」
「覚えていない、のですか?」
アムが驚いたように尋ねる。
「なんとなくルミナさんと話していたことは解るのですが、何を話していた、とか細かいことまでは思い出せないのです」
「失礼ですが、ルシア様。それは病気かもしれません。寝ているうちにいつの間にか徘徊して外に出歩いてしまうという病があると聞いたことがあります」
ディートリヒ・ヴァルトラウテ(eb2999)が前に進み出て言った。彼はルシアが何者かに操られているのではないかと睨んでいた。
「病気? 確かにそうかもしれません‥‥困りましたね」
「私の神聖魔法で病気を治せるかもしれません。もしよろしければ、魔法を使ってもよろしいでしょうか」
「そうですね、お願いします」
ディートリヒはルシアの額に触れると、魔法を使おうとした。ただし彼は、治癒の術など持ってない。リードシンキングの術を使って彼女の本心を確かめてみようとしているのだ。
だがそのとき、
「‥‥ルシア、どこにいるの?」
突然屋敷の扉が開いてエイレンが出てきた。ディートリヒはあわてて手を引っ込めた。その様子をエイレンは不思議そうに見ていた。
エイレンに案内されて冒険者達は屋敷の中へと入った。
応接間に現われたヨシュアは、冒険者達とともにエイラックがいるのを確認してぎょっとした表情をした。
彼にとってのエイラックと言う人物は、簡単に言うと「人形を集めている変なおじさん」であったからだ。
「あ、どうも。元気そうでなによりです」
「元気そうに見えるか‥‥?」
エイラックが片眉毛を釣り上げた。自分の召使が行方不明で今どうなっているのかすらわからないのだ。元気そうですねなんて挨拶されたら、それは機嫌がよくなるはずがない。
エイラックは椅子から立ち上がり、まぁ久しぶりに会ったのだから、ちょっと外で少し長い話をしようじゃないか。と言い出し、ヨシュアが返事をする前に袖を引っ張って出て行ってしまった。
それを見たエイレンは自分もついていこうとしたが、レアル・トラヴァース(eb3361)とアルフィン・フォルセネル(eb2968)が引き止めた。
「エイレン様、いくつか質問してもよろしいですか」
「‥‥いいけど、なるべく手短にお願いね」
「村人から過去の事件の話を聞いて、今回の失踪事件はアーヴィングが怪しいと言ったと聞いたんや。だけど僕達は過去の事件というのがどういうものだったか良くわかってない。どうしてアーヴィングが怪しいという結論に至ったんかいな」
レアルがエイレンに尋ねた。エイレンは、それがルミナの失踪と関係あるのか? という顔をしたが、
「そうね、まず過去の事件について話しましょう」
エイレンの話した内容はとても簡潔なものだった。数年前に村に魔物が現われたこと。魔物を呼び出したのはアーヴィングの父であること、そして最終的に父は魔物に殺され、魔物も冒険者によって殺されたこと。
「だからアーヴィングと言う男は魔物を村に呼んだ男の子なのよ。もう解ったでしょう? 私はアーヴィングが村への復讐として、同じことをしているのだと考えているの」
そう言うとエイレンはヨシュアを探すためか、部屋を出て行ってしまった。
「エイレンさんの言ったこと、本当だと思う?」
アルフィンがレアルに尋ねた。
「うーん、全部が嘘ではないが‥‥本当のことを言ってない部分もありそうやな」
特にアーヴィングが村人に復讐しようとしているというのは本当のこととは考えられなかった。ならばなぜ、エイレンはそんな嘘を言ったのだろう。
場面は変わって、こちらは森の中である。近藤継之介(ea8411)とアニー・ヴィエルニ(eb1972)は、アーヴィングの住む小屋に向かう所であった。
だが小屋に行くまでもなく、途中の小さな池でアーヴィングは釣りをしていた。
「おや、久しぶり」
アーヴィングは二人に気がついて挨拶した。
「アーヴィング、ルミナさんが消えたことはご存知か」
「‥‥うん、一応聞いている」
近藤が尋ねると、アーヴィングは伏目がちに答えた。
「お願いします、ルミナさんを探すのを手伝っていただけませんか」
アニーがそう言うと、アーヴィングはとても驚いたような顔をした。
「それは‥‥手伝いたいのは山々だけど。一体何をすればいいんだい」
「とりあえず今は情報が足りない。できるだけこの村や森のことについて教えてほしい」
近藤がそう言うと、アーヴィングは納得したようだ。まず何から話そうか? とアーヴィングは二人に尋ねた。
「そうだな‥‥最近、森で何か変なことはなかったかということと、ルシアについてだ」
「ルシア様について?」
不思議そうな顔をするアーヴィングに近藤は説明した。最近の彼女と以前の彼女を比べて、何か気になったことはないか。
「じつは、最近彼女と話す機会がないから良くわからないんだ‥‥」
近藤は少し考えて、前に彼女と話したときのことを話した。村長の次男が消えた日にルシアがアーヴィングを呼び出したことを彼女は知らない、と答えたのだ。
「ええっ? あんなに必死そうだったのに‥‥うーん、もし知らないと言ったのなら、冒険者には話せない、何か特別なことを隠しているのかもしれないな」
アーヴィングは驚いているようだった。
「それから森のことについてなのですが、最近何か異変があったりしませんか?」
アニーが尋ねるとアーヴィングは首をかしげた。
「異変? さぁここ最近はとくに‥‥あ、でも」
誰かが森に出入りしているみたいだ。とアーヴィングはつぶやいた。
別に森は出入りが制限されているわけではない。だがここ最近失踪事件が続いたため、村人はあまり森に近寄らなくなってしまっていた。
それでも、何者かはっきりしないが、森に出入りしている者の痕跡が見られるという。
「その人が森で何をしているかまではわかりませんか?」
アニーが尋ねると、アーヴィングは首を振った。そこまでは解らないという。
場面はカリウス家の屋敷に戻る。
子爵はぐったりとした顔で廊下を歩いていた。どうやら色々エイラックに説教されたらしい。
「子爵様」
目の前に現われたのはティワズ・ヴェルベイア(eb3062)であった。
「なんだ、今私は気分が悪い。後にしてくれないか」
「まぁまぁ、そんなにしょげていたら、せっかくの美しい奥様が心配しますよ」
ティワズがそう言うと、子爵はむ、確かにそれもそうだな、といって姿勢を正した。単純な男である。
「お二人はいつ見ても仲がよさそうですね。奥様とはどこでお知り合いになったのですか?」
などと、ティワズがおだてつつ質問すると、子爵は照れながら色々と話してくれた。
エイレンはこの村からかなり離れたところに住む貴族の娘であるという。彼女の父が子爵の父と生前、ヨシュアとエイレンを結婚させる約束をしていたというのだ。だが彼は父が死ぬまでそのことは知らなかった。
ヨシュアの父が亡くなったとき、その貴族の使者と名乗る人物が現われて、そのことを告げたのだという。
そうしてすぐに彼はエイレンと結婚することになったとか。
「なるほど、なかなか波乱万丈ないきさつですね」
ティワズはそう答えたが内心ではそうは思っていなかった。明らかに怪しい。だいたい、なぜ彼は父が死ぬまで結婚の約束があったことを知らないのか。
最初からそんなものはなかったのではないか‥‥?
ティワズは子爵の話をメモしたあと、それではそろそろ村へ調査へ言った冒険者達と合流しますので、と言って屋敷を出た。
村から少しはなれたところで森へ行っていた者、屋敷へ行っていた者たちが集まった。
カリウス家から最後にやってきたのはティワズで、他の者達は空いていた時間で村で聞き込みなどをしていた。
「どう? なにかルミナさんの手がかりになりそうなものはあった?」
ティワズがそう尋ねると、アルフィンとチャーが村人がルミナらしい人物を見かけたという話を聞いたという。
「ええと、ルミナさんが消えたって騒ぎになる前の日、つまり私達がヨシュアさんやアーヴィングさんにあった日のことだけど、その日の夜に村はずれの道でルミナさんとすれ違ったという人がいました」
「本当?」
二人の話によると、ルミナを目撃したというのは村長の長男であった。
畑の中の狭い道を家に向かって歩いていた彼は、向こうから来る女性と肩がぶつかった。そのとき彼女がルミナであることに気付いたのだけど、ルミナは何も言わずにすたすたと森のほうへ歩いていってしまったという。
「ルミナさんは一人だったの? 誰か一緒に人は‥‥?」
アムが尋ねたが、彼はルミナ以外の人はいなかったと言っていたらしい。
「あ、そうだ」
突然思い出したかのようにアルフィンが懐から何枚かの布切れを引っ張り出した。
「なんだそれは」
「村長の息子さんから貰ってきた。ルミナさんとぶつかったあと、地面にこれが落ちていたんだって」
布は良く見ると縫い合わせた跡があったが、今はバラバラになっている。
「‥‥そういえば、ルミナさんと最後にルシアさんに会ったとき、何か縫っていましたね」
アニーがそう言うと冒険者達はああ、と頷いたりそうだっけ、と首を傾げた。
「やはりルシアさんが事件に関係しているというのは、間違いなさそうですね‥‥」
アムが難しい表情で言った。
これからどうするか、と言う話になって、やはり森を調査するべきだろうという結論になった。
「ルミナさんのこともありますし、アーヴィングさんが言っていた『森に出入りしている者』が誰なのかも気になります」
チャーが言った。とくに異論を唱えるものはいなかった。
しかし森の調査と言っても、今回冒険者達は特に準備らしい準備をしてきていない。ここはいったん出直そうということになった。
そして布切れだが、エイラックが預かるということになった。
「いちおう知り合いの仕立て屋に見せてみることにするよ。多分何もないとは思うけど」
そうして冒険者達はパリへと帰ることになった。