【破滅をもたらすもの】第三話
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■シリーズシナリオ
担当:青猫格子
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月17日〜10月22日
リプレイ公開日:2005年10月28日
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●オープニング
「変ですよ、これ」
仕立て屋のシフール、テルルは布切れを見ながら言った。
「そうなのか? どこがおかしいんだ」
エイラックは何のことだか解らないというように首をかしげた。
彼はパリに戻ってきてから、友人であるテルルの店に来ていた。カリウスの村で村長の長男が拾ったと言う布切れを見てもらっていたのである。
「いえ‥‥もしかしたらパーツがそろっていないだけかもしれません。男爵様、少しこの布を預かってもいいですか? 元の形に直してみたいのです」
エイラックはテルルの好きにしてよいと言った。とくに布切れの形については気にしていなかった。この布のもともとの持ち主がルシアであった、という事実のほうが重要なのだ。
エイラックが屋敷に帰ると、家の前にレイナが立っていた。彼は嫌な予感がした。また誰か失踪したのではないだろうか。
「村長の長男が‥‥殺されました」
「‥‥!」
レイナの発言にエイラックは驚いた。ついに死人が出てしまった。いや、今まで失踪していた人々も生死は定かでないのだが。
「長男の遺体は近くの川から引かれた溜め池に裸で浮かんでいたそうです。服や持ち物は近くの畑に捨てられていました」
「‥‥ひどいな」
エイラックはそうつぶやいたが、よく考えると何かおかしいのではないか? と心に引っかかった。
荷物は捨てられていた、盗まれていない。ということは何か探していたのか。
しかしよく考えている暇は無かった。レイナが今にも泣きそうな顔で訴えてきたのだ。
「お願いします、アーヴィングさんを助けてください!」
どういうことだ。エイラックが尋ねると、彼女は詳細を語った。
何でも村ではまたしても、アーヴィングに犯人の疑いが掛かっているらしい。
長男の遺体の近くに、ナイフが転がっていたのだ。鍛冶屋がそれを見て、確かに昔アーヴィングに売ったものだと言ったそうだ。
「村人達はかつて無いくらいアーヴィングを憎んでいます。領主様はこれを受けて近いうちに彼を捕まえ、裁判にかけることを決めました」
「彼にしては行動が早いな」
とはいっても領主一人で決めたのかは怪しい‥‥そう、エイレンがまた何か言ったのかもしれない。
「とにかく、一刻も早くアーヴィングさんを逃がす必要があります。力を貸してください!」
「アーヴィングがそれを望んでいるのか? 無実の罪を背負ったまま逃げることを」
「もう! そんなこと後からどうにかすればいいのですよ! 死刑にでもなってしまったら意味がないでしょう」
怒るレイナにエイラックはすまない、と答えた。
エイラックは冒険者ギルドに向かいながら、レイナがあそこまでむきになるのは初めてだったなとぼんやり考えていた。
「やっぱり姉妹だな‥‥彼女も」
今ルミナはどうしているのだろう、ふとそんな事を考えた。
●リプレイ本文
●エイレン
ティワズ・ヴェルベイア(eb3062)は他の冒険者達とは別に、エイレンの調査をすることにした。
この前子爵から聞いた話を手がかりに、エイレンの故郷について調べることにしたのだ。
ティワズがたどり着いたのはとある小さな町だった。
彼はそこの酒場に入り、町の者にエイレンと言う貴族の娘がいたかどうか質問した。
「エイレン? いやそんな娘は知らないな」
やはりというか、予想していた通りの答えであった。エイレンは嘘をついて、カリウス家に嫁いで来たのだ。
「ああ、でも」
酒場の隅にいた老人が何か思い出したようだ。
「どうしました? エイレンと言う人を知っているのですか」
ティワズが尋ねると、老人は首を振った。
「エイレンと言う名前ではなかった。ただ、お前さんの言ってた姿に似たような姿の女なら見たことがある」
老人の話によると、昔この町に占い師が住んでいた。その娘がエイレンに良く似ていたのだという。
「その占い師は今もこの町にいますか?」
ティワズが尋ねると、老人は首を振った。
「いや、もう彼女はいない」
なんでも昔、彼女に悪魔崇拝者である疑いが掛かったのだという。占い師は町に住んでいられなくなり、娘を連れて町を去ったとか。
ティワズは老人に礼を言うと、酒場を出た。
「悪魔崇拝者か‥‥」
占い師が実際そうだったのかは不明だ。娘がエイレンであるとも言い切れない。
しかしティワズはこの話とエイレンになんらかの関係がありそうだと感じていた。
ティワズは他の冒険者達にこのことを報告するため、カリウス領へ向かって走り出していた。
●アーヴィングと小鳥
チャー・ビラサイ(eb2261)ら冒険者はアーヴィングを逃がすためにカリウス領へやってきた。
今回は村人達に見つからないように、夜闇に紛れながら森へ向かう。
村と森を分ける一本の川に差し掛かったとき、近藤 継之介(ea8411)は橋の方角が明るいことに気がついた。
よく見ると村人達が集まっている。明かりは松明やランタンであった。
「あの人、エイレンじゃない?」
フェリシア・リヴィエ(eb3000)が集まった村人達の前に立っている女性を見て言った。
エイレンは村人達の前で何か話しているようだった。
冒険者達は麦畑の中に隠れながら、村人とエイレンの話を聞き取ろうとした。
「皆さん、これからあのアーヴィングを捕まえにいきます。彼は私達の大切な仲間を殺した殺人鬼です。彼は私達村の者を憎んでいます」
そんなはず無いじゃない。フェリシアは立ち上がってそう叫びたかったが、仲間に止められた。
「彼を放っておけば被害は広がるばかりです。彼はこの地に破滅をもたらす者。捕まえて罪を償わせなければなりません」
エイレンがそう言うと、村人達の中からそうだそうだ、アーヴィングを捕まえろと声が上がった。
村人達がぞろぞろと橋を渡って森へ向かった後、冒険者達は先回りしてアーヴィングのところへ向かった。
全員セブンリーグブーツを装備していたので村人達より先にアーヴィングの小屋へとたどり着いた。
なんとしても彼を助けなければならない。
場面は変わって、アーヴィングの住む小屋の中。彼は明日の準備を終えて、眠りに着こうとしていた。
村の方角から、なにやら騒がしい声が聞こえてくる。
「‥‥とうとう来たか」
レイナから話は聞いていた。今自分に殺人の疑いが掛かっていて、近いうちに捕まえに来るということだった。
だがアーヴィングは逃げようとは考えなかった。もしかしたら無罪を主張できる機会ではないだろうかと考えていたくらいだ。
領主のヨシュアは幼馴染だし、話せば分かってくれるのではないだろうか。
そのときドアをノックする音がした。村のものが来たのかと思ってドアを開けると、思わぬ来訪者たちがそこに立っていた。
「君たちは‥‥」
「アーヴィングさん、逃げてください。村の人たちがもうすぐやってきます!」
フェリシアがアーヴィングに言った。
「で、でも」
「つかまったら死刑になるかもしれません。生きていれば、いつか無罪を証明できます」
ディートリヒ・ヴァルトラウテ(eb2999)が言った。
近藤はアーヴィングに、子爵の妻エイレンのことを話した。エイレンが村人や子爵にアーヴィングが失踪事件に関わっているのだと話している事。また子爵はエイレンの言うことなら何でも言うことを聞いてしまうだろうという事。
「でも、僕の話くらいは聞いてくれるだろう?」
レアル・トラヴァース(eb3361)は以前子爵に会ったときのことを思い出しながら首を振った。
「残念やが子爵様はアーヴィングさんの味方ではなく、エイレンの味方ですさかい、どうなることやら‥‥」
「時間が余りありません、そろそろここを離れないと」
チャーにせかされて、アーヴィングはついにわかった、と頷いた。
「ここにローブあるから、顔隠してや」
「この靴を履いてください、村人より早く走れます」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
冒険者達から荷物を受け取ったアーヴィングは一旦小屋に戻ると、鳥かごを持って出てきた。
アーヴィングは鳥かごを空けて、
「ほら、逃げなさい」
と、中の小鳥を逃がそうとするが、小鳥は出て行く気配が無い。
「おかしいな、怪我は治っているはずなのに」
「急いでください」
冒険者達にせかされたアーヴィングは仕方なく近くの枝に鳥かごを開けたまま引っ掛けてゆくことにした。
アーヴィングと冒険者達は小屋から離れ、森を脱出することにした。
ほぼ入れ違いに村人とエイレンがアーヴィングの小屋にやって来た。
「まだ遠くに入ってないはずよ、手分けして探しましょう」
エイレンが村人達に言った。村人達は何組かに分かれて森の中を捜索することになった。
セブンリーグブーツをアーヴィングに貸したディートリヒは一人そのやり取りを隠れて聞いていた。
村人達が森の中に消えた所で、森の外につなげていた馬のところまで戻ろうとしたのだが、その時、
「あら、これは何」
エイレンの声がすぐ近くで聞こえた。ディートリヒはびっくりしたが、エイレンの足音が自分の後ろを通り過ぎ、鳥かごのかけてある枝の所で止まった。
ディートリヒは草むらの影からそっと様子を伺った。鳥かごは空になっているようだった。
「‥‥まさか、『あれ』がここにいたのかしら。だとしたら、今も生きている‥‥?」
一体何のことだろう? あの鳥かごにいた小鳥がそんなに重要なのだろうか。
エイレンはそれ以上何も言わず、どこかへと消えてしまった。
ディートリヒは周りに誰もいないのを確認すると、急いで森の外へと走っていった。
●秘密の入り口
一方アーヴィングと冒険者達は、森を脱出するため、村とは反対の方角に向かっていた。
「‥‥しまった」
先頭を走っていた近藤がそうつぶやいて立ち止まった。
前方に松明の明かりが見えた。
「村人達が見張っている」
「迂回しましょうか」
チャーが言うと、アーヴィングは首を振った。
「この辺りから森を出るにはあの道しかない。道から少し離れると両側が崖になっていて歩けないんだ」
では戻るしかないのか。しかし村の方にも村人がいるかもしれない。
冒険者達がどうするべきか悩んでいると、アーヴィングの肩に白い何かが降りてきた。
「アーヴィングさん、その鳥‥‥」
フェリシアに言われて彼は肩に乗っているのが、さっき置き去りにしてきた小鳥であることに気がついた。
「なんだ、僕についてきたのか?」
アーヴィングが小鳥に驚いていると、小鳥は再び羽ばたいて冒険者達の上を2、3回くるくると飛んで回った。
それからある方角に向かって飛び去ってしまった。
「‥‥?」
アーヴィングは小鳥の奇妙な行動に呆然としていた。
「今のは何なんですか」
レアルが尋ねたが、アーヴィングは分からないと答えた。
「あの方向、遺跡の方角だ。あっちに何かあるのだろうか」
そう言ってアーヴィングは遺跡に行って見たいと冒険者達に言った。
「遺跡にも村人が探しに着ているかもしれませんよ」
チャーは心配そうに言った。
しかしここでグズグズしていても村人に見つかってしまうかもしれない。近藤の提案により、とりあえず移動しようということになった。
砦の跡であるという遺跡は、森の中にひっそりとあった。
やはりというか、ここも村人達が何人か見張りをしていた。冒険者達は遺跡から離れた所で身を隠していた。
「ここにも人が居るとなると、どうするべきか‥‥」
近藤たちが考えていると、さっきの小鳥が再び冒険者達のもとに飛んできた。
そして再びさっきと同じように回った後、別の方角に飛んで行く。
「あの鳥、僕達に何をしてもらいたいんや。こっちは森の中を引きずりまわされて迷惑やさかい」
「いや、ちょっと待ってくれ」
怒り出しそうなレアルをアーヴィングが止めた。
「あの鳥のお陰で思い出した。とっておきの隠れ場所があるんだ。村の者達は知らないはずだ」
そうしてアーヴィング達は小鳥の飛んで言った方角に向かった。
冒険者達は遺跡の入り口付近からちょうど反対側のところまで来た。
石でできた壁が続いている中、アーヴィングはある一箇所に目をつけた。
「ここ、外れるようになっているんだ」
確かにたたいてみると何やら音が違う。冒険者達に手伝ってもらって石を外すと、ちょうどドア一枚分より少し小さい隙間ができた。
冒険者達はそこから遺跡に入り、もう一度石で蓋をした。石の裏には取っ手が着いていたので本当にドアだったようだ。
「僕らがここを見つけたとき、すでに壊れていたんだ」
「ぼくら?」
近藤が聞き返した。
「ここを見つけたのは偶然。ルシア様とレイナ、ルミナちゃん達が森に遊びに来た時だった」
もう十年近く前の話である。アーヴィングは彼女達に森の中を案内していた。
途中で見つけたウサギを皆で追いかけているうちに偶然ここにたどり着き、壁の石が外れることに気がついたのだ。
「ここは一体何なのですか」
「どうも脱出用の隠し通路だったみたいだね。見つけたときはここに縄梯子が掛かっていて、二階から降りれるようになっていた」
この空間は縦に長い狭い部屋で、一階の他の場所と切り離されていた。
二階からも現在は降りられなくなっている。アーヴィングが以前登ってみようとして縄を切ってしまったらしい。
「二階から見つからないかしら」
フェリシアが心配そうに尋ねたが、それは無いとアーヴィングは答えた。
二階は遺跡が古くなっているため、危険なので上がらないようにと前から言われていたのだという。
冒険者たちはしばらくの間、この小さな隠し部屋に隠れ続けていた。途中で何回か外で足音が聞こえたが、この部屋の存在には気がついていないようで、通り過ぎていった。
天井の穴から差し込む月が動いて影の向きが変わった。村人達はエイレンに集まるように呼ばれたらしく、遺跡から去った。
冒険者達は石の扉を外して外に出た。
「村人達、どこに行ったのでしょう」
チャーがそう言うと、背後から思わぬ声が聞こえた。
「村人達はエイレンとともにいったん村へ帰った。今は村境の橋のところに見張りがいるだけだ。今のうちに森を出よう」
声の主はディートリヒであった。
「ディートリヒ、どうしてここが分かった」
「あの鳥が、どうも案内をしてくれたらしい」
近藤の言葉にディートリヒは空を指差した。先ほどの白い小鳥が空を飛んでいた。
「ほぉー、えらい賢い鳥やな」
「‥‥変だな。この隠し部屋は僕とルシア様とレイナちゃんたちしか知らないはずなのに」
アーヴィングは不思議そうにつぶやいた。
●手袋
冒険者達は森を脱出した後、あらかじめエイラック男爵と決めていた待ち合わせ場所にたどり着いた。
ちょうどほぼ同じくらいに、ティワズも待ち合わせ場所にやってきていた。
ティワズは冒険者達の姿を見ると、自分がエイレンについて調査してきたことを話した。
「やはりエイレンの話は嘘だったのですね」
「はい、なぜそのような嘘をついてまでこの村に来たのか分かりませんが」
ティワズはそう言って首をかしげた。
「‥‥やっぱり、森に出入りしているのはエイレンなんじゃないかしら。遺跡で何かを探しているのかもしれないわ」
フェリシアの考えはもっともだった。
冒険者達は今一度森に戻ってエイレンが森に出入りしていないか調べてみることにした。
次の日の夜、冒険者達の何人かが森へ戻ったが、結局無駄だった。
村人達がまた大勢やって来ており、あちこちでアーヴィングを探していたのだ。
これでは誰が森に出入りしていた者か分からない。
仕方ないので今回はあきらめて帰らなければならなくなった。
一方、アーヴィングと森へ行かなかった冒険者達はエイラックとともにパリへ戻ることになった。
「アーヴィング君、きみはしばらく私の屋敷に隠れていなさい」
エイラックはアーヴィングに言った。特に行くあての無いアーヴィングはこの申し出を快く受け入れた。
「そういえば」
チャーが思い出したように、エイラックに尋ねた。
「この間村長の息子さんから預かった布ですが、どうでしたか」
「ああ、それなんだが‥‥」
エイラックは何やら言い辛そうな顔をして、鞄の中から何かを取り出した。
「テルルが言うには、こういう風にくっつくのだそうだが‥‥これでは手袋として機能しないだろう」
「!?」
冒険者達はそれを見て驚いた。
それは指の部分が3本しかない手袋であった。