【ドッペルゲンガーの棲む森】前編

■シリーズシナリオ


担当:青猫格子

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月24日〜09月29日

リプレイ公開日:2005年10月02日

●オープニング

 ある日、アーセイルが冒険者ギルドにやってきた。
 といっても冒険者に依頼するわけではない。自分の研究に必要な資料がないか探しに来たのだ。

「‥‥カリウス領内でのドッペルゲンガー退治の報告書ですね。少々お待ちください」
 係の者に探している資料の名を告げると、すぐにギルドの奥へ探しに行ってくれた。
 そんなに大昔の事件でもないし、すぐに見つかるだろう。そう考えたアーセイルは受付でのんびり待つことにした。

 係員はアーセイルが予想していたよりもずっとしばらくしてから戻ってきた。
 資料を持っている様子はない。
「どうした? 何かあったのか」
「申し訳ありません、先生の探している資料はここには残ってないようなのです」
 係員は困ったように答えた。
「そんな、確かに小生は聞いたのだぞ。数年前にカリウス領にある森の奥にある遺跡からドッペルゲンガーが現われ、パリの冒険者がそれを退治したと」
「そういわれましても‥‥」
 アーセイルはもう一度かつて聞いた話を頭の中で掘り起こしてみた。とある貴族が語っていたのをはっきりと覚えている。

 しかしアーセイルも、こうはっきりと無いと断言されると、本当に自分の記憶が正しいのか不安になってきた。
「パリの」という部分がどこか別の都市ではなかっただろうか? ドッペルゲンガーではなくて、何か別の魔物ではなかったか?
 ここで話を聞いた本人に確認できればいいのだが、彼は最近忙しいのか家に行っても留守のことが多い。
「はぁ‥‥自分で確かめるしかないのか」

 結局、彼は冒険者ギルドに「依頼を出して」帰ることになった。

 彼がこれから向かうのは、パリから少し離れた場所にある村。領主はヨシュア・カリウスという若者で、最近父の後を継いで領主になったらしい。しかしアーセイルは実際に会ったことはなかった。
 この小さな村で4、5年前に事件が起きた。森にドッペルゲンガーが突然現われ、森に近づく者を襲ったというのだ。
 最終的に約3年前に魔物は退治され、村に平和が戻った。これがアーセイルの聞いた話の大まかな内容である。

 アーセイルはこの話を聞いて、いくつか気になることがあった。
 ドッペルゲンガーは遺跡に眠っていたのか閉じ込められていたのか分からないが、なぜいきなり活動するようになったのか。
 そして事件の長さである。はじめに被害が出始めてから、魔物が退治されるまでに一年以上時期が開いているのである。
「まあ、後者はドッペルゲンガーという魔物の性質上、人間のしわざか魔物のしわざか区別できなかったと考えるのが自然か‥‥」
 誰も聞いていないのに、ふと口に出してつぶやいてみた。
 とにかく、考えていても始まらない。実際にこの目で真実を見定めるべきだろう。

●今回の参加者

 ea8809 カリン・シュナウザー(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9543 箕加部 麻奈瑠(28歳・♀・僧侶・パラ・ジャパン)
 eb3000 フェリシア・リヴィエ(27歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb3243 香椎 梓(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb3536 ディアドラ・シュウェリーン(21歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb3559 シルビア・アークライト(24歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ミリア・リネス(ea2148

●リプレイ本文

●村に着く前に
 出発前に箕加部 麻奈瑠(ea9543)は事件の記録がどこかに残っていないか探すことにした。
 とは言ってもどこを探せばいいのか見当もつかない。
 冒険者ギルドに記録が残っていないかもう一度確認した後は、知り合いの冒険者などに聞いて回ってみた。
 しかしこれと言った情報は出てこなかった。
「う〜ん、本当に事件の記録なんて残っているのかな?」
 このように考えるのも不思議ではない。
「もしかしたらギルドの依頼ではないのかもしれないわね」
 一緒に調査していたディアドラ・シュウェリーン(eb3536)がつぶやいた。
 とにかくいつまでも調査しているわけにもいかない。冒険者達は村へと向かうことにした。

 村に行く途中のこと。アーセイルはカリン・シュナウザー(ea8809)に質問された。
「…ところで、ドッペルゲンガーってどんな魔物なんですか?」
 たしかにそうそう見られる魔物ではないから、知らないもののほうが多いだろう。アーセイルは説明した。
「奴らの本当の姿を見たものはいない。常に何者かに化けているのだ。奴らは見た相手の姿を写し取って、変身した者の知り合いをだまして襲い掛かる。実に残忍かつ凶悪な存在だ」
 つまり、常に見たことのある者に変身している魔物なのだ。
「そんな魔物がいるのですか‥‥」
 シルビア・アークライト(eb3559)が驚いた。そんな魔物が近くにいるとしたら、誰が知り合いになりすました魔物であるかと皆で疑いあってしまうのではないか。幸い村に出たというドッペルゲンガーはすでに倒されており、今回は魔物と戦う心配はないのだが。
 そのような話をしているうちに、村が見えてきた。
 この村で過去に一体何があったのだろうか?

●村にて 
 村についた冒険者達は、フェリシア・リヴィエ(eb3000)以外はまず村長の家へ行くことにした。アーセイルも彼らと一緒に行くことにした。
 村長は冒険者たちを快く出迎えてくれた。だが箕加部に事件のことを尋ねられると、村長の顔が暗くなった。
「‥‥あの事件はこの村の汚点です。今でも思い出すたびに、自分の判断力の無さを思い知らされます」
「詳しく教えていただけませんか? 当時の事をよく知りたいのです」
 箕加部がそう言うと、村長はゆっくりと、事件について語り始めた。

 事件が起こったのはだいたい4年くらい前のこと。森へ行った者達が帰ってこないということが立て続けに起こった。
 皆何が起きたのかわからず、気味悪がるしかできなかった。そんな時、村人の一人が森で何者かに襲われて、奇跡的に逃げてきたのだった。
 彼は犯人を見たと村人達に言った。
「ジェラールだ‥‥あいつが村人達を殺したんだ!」
 ジェラールは森に住む猟師だった。以前は妻と二人で生活していたが、子供が生まれてすぐに彼女は体調を崩して亡くなっていた。
 それ以来息子のアーヴィングを育てながら森で猟師を続けていた。
 しかし彼がなぜ村人達を襲うのか?
「奴の嫁さんが病気になったとき、彼は医者に連れて行くための金を貸してほしいと頼んできたのを俺たちは断った。だから恨んでいるんだ」
 ジェラールを見たと言う男は言った。しかしそれはもう何年も前の話である。金を貸さなかったのはその年の農作物が不作で、村人達にも余裕が無かった。彼はそれを納得しているはずである。

「‥‥とにかく、私達はここで完全に勘違いしてしまっていたのです」
 村長は無念そうにつぶやいた。
「犯人はジェラールではなくドッペルゲンガーだったのね」
 ディアドラが村長に言った。村長は黙って頷いた。
「私達は犯人が魔物であると知らないまま、怯えつつ日々をすごしていました」
「ジェラールを捕まえようとか思わなかったのか?」
 アーセイルが村長に言った。
「とりあえず森に近づかなければ安全でしたので‥‥自分から何か行動するのが怖かったのもあります」

 状況が変わったのは事件が起きて一年後、ある冒険者の一行が村に立ち寄った時である。
「冒険者たちは森にジェラールという殺人鬼がうろついているという話を聞きつけて、彼を捕まえに行ったのです。一応領主さまが彼を捕まえたら報奨金を出す、ということを以前から言っていましたので」
 しかし実際の結果は予想もしないものだった。
「ジェラールは何ヶ月も前に死んでいました。冒険者達は彼に化けた魔物と出会い、それを倒したとの事でした」
 こうして事件は幕を閉じたのであった。

 村長の話を聞いた後、シルビアやディアドラは村の酒場でも過去の事件について尋ねた。
 村長ほど積極的に話そうとはしなかったが、大体同じような話が返ってきた。
「これで大体終わりかしら」
「そうですね。戻って他の人たちの報告も聞いてみましょう」
 二人は酒場を後にした。

●猟師
 パリでこの村で起きている失踪事件の報告書を読んだフェリシアは猟師アーヴィングに会いに行くことにした。
「この辺かなぁ? 何か小屋っぽいものが見えないかな」
 フェリシアがきょろきょろしながら狭い道を歩いていると、釣竿を持った青年とすれ違った。
「こんにちは」
 青年は挨拶をして先へ行こうとしたが、フェリシアはあわてて青年に声をかけた。
「あの、アーヴィングさんの家を探しているのですが、ご存知ありませんか?」
「うん? アーヴィングは僕だけど、何の用かい」
 彼は不思議そうに言って彼女の姿をもう一度良く見た。
「もしかして君、冒険者? 最近よくこの辺に冒険者が来るんだよ」
 フェリシアははいと答えた。彼女はここに来た理由を話し、事件について教えてくれないか、と尋ねた。
 アーヴィングは思わぬ話に驚いている様子だった。なぜ今更。だがその驚きの表情はすぐに緩んだ。
「わかった、話すよ。やっとあの時のことを語れる機会が来たみたいだから」

 約4年前。村では謎の失踪事件が起こっていた。そんなある日、アーヴィングの父が真っ青な顔をして家に帰ってきた。
「アーヴィング、村へ逃げなさい」
 父は唐突に切り出した。何のことだかアーヴィングにはわからない。彼は説明を求めた。
「今日遺跡に行ってみたら、化け物に出会った‥‥俺そっくりの姿をしていた」
 遺跡は森の奥にある古い砦の跡である。そこで父は自分そっくりの魔物に殺されそうになったのだが、何とか逃げてきたのだという。
「いそいで村に行って、皆に森に近づかないように言い聞かせるんだ。俺はあいつを何とかして倒そうとおもう」
 父は矢筒を背負いながら息子に言った。しかしアーヴィングは嫌だと言った。
「父さんも一緒に逃げよう」
「ばかだな、俺は領主さまからこの森を守るように言われているんだから、森で何かあったときは責任取らにゃいかんのだ」
 そう言うとアーヴィングはじゃあ僕も逃げないから、といって聞かなかった。こまった父は、
「わかった‥‥じゃあ10日待ってなさい。それでも俺が帰ってこなかったらすぐに逃げるんだぞ」
 と言い聞かせた。

 父が家を出てから7日経った。
 アーヴィングは家からなるべく出ないようにして過ごしていた。
 夜になって、ふと窓の外を見ると、人影が近づいてくるのが見えた。

「僕はすぐに父さんが帰ってきたのだと思った。でもそれは間違いだった」
 アーヴィングは当時のことを思い出しながら語った。彼の前に現われたのは魔物だった。父と同じ格好をして、構えていた弓をアーヴィングに向けた。
 彼は傷を負ったが、ひたすら走って村まで逃げてきた。しかし誰も彼を家に入れてくれなかった。領主もである。
 それどころか殺人鬼の子と呼ばれ、石まで投げられた。アーヴィングは仕方なく森へと帰っていった。

「犯人がお父さんではないと言わなかったの?」
 フェリシアがアーヴィングに尋ねた。
「もちろん言った。そして当然のように信じてもらえなかった」
 そしてその後、冒険者に魔物が倒されるまで、アーヴィングは森で怯えながら一人で暮らしていた。
 別に魔物が夜行性というわけではないのだが、外に行く必要があることは明るいうちにすべてやって、日が暮れたら絶対に外に出なかった。
 ドアにかんぬきを付けて、窓は全て板を打ち付けて開かないようにした。それでも毎晩不安でなかなか眠ることができなかった。
「‥‥大変だったのですね」
「ああ、不安で狂いそうだった。だから魔物が倒されたときはほっとしたよ」
 アーヴィングは微笑みながら答えた。

●領主
 香椎 梓(eb3243)とディアドラは領主の家へ行くことにした。
 当時の記録が何か残っているかもしれないと考えたのだ。
「あら、また冒険者」
 出迎えてくれた長身の女性が二人を見て小さくつぶやいた。彼女は領主の妻、エイレンと名乗った。
 領主のヨシュアは当時の状況についてはほとんど把握していない様子だった。
「何でもいいので、何か覚えていることはありませんか?」
 香椎が尋ねると、ヨシュアは考えながら答えた。
「うーん、その頃は危険だからとにかく森に近づくなと父上に厳しく言われたな。まぁ今も危険だといえばそうなんだけど」
 事件の前、アーヴィングとヨシュアは森で一緒に遊ぶことも珍しくなかった。だが事件以来、二人の仲は遠のいてしまっている。
「村で魔物に襲われた人の話などは聞いたのかしら」
 ディアドラが尋ねると、ヨシュアは首を振った。
「もともと村人と話す機会は少なかったし、話す機会があっても事件のことはなかなか教えてくれなかった。父上は村長から話しを聞いていたと思うけど。一番私とよく話していたアーヴィングが村に来ない状態だったから尚更‥‥」
 そう言って少し寂しそうな顔をした。
「‥‥子爵様、アーヴィングと仲直りしたいと思っていますか」
 香椎が突然、ヨシュアに尋ねた。ヨシュアは意外だと言う顔をしたが、
「うーん‥‥」
 と真面目な顔で考え込んでいるところを見ると、全くそのつもりが無いわけではなさそうだ。
「ヨシュア様、彼は失踪事件の犯人かもしれないのですよ」
 エイレンが釘を刺した。
「ああ、そうだね。その辺のことがはっきりするまでは、無理だな」
 彼女に言われると、あっさり考えるのをやめてしまった。

 その後、二人は屋敷のどこかに当時の記録が残っていないか探してみたが、書斎や倉庫などを見てもそれらしいものは無かった。
 前の領主の記録が残っていたので一通り見てみたのだが、事件の前後の部分がなくなっていた。
「誰かが持っていってしまったのではないかしら」
 ディアドラがヨシュアに言ったが、彼はそんなはず無い、と言った。
「ここの記録は家のものしか見ることができないんだ。外から誰かが来て持ってゆくはずが無い」
 間違えてどこかすごく見つかりづらい場所においてしまったのだろう、と彼は言った。
 しかしいつまでも探し物をしているわけにも行かないので、二人は屋敷を出ることにした。

●報告
 調査を終えた冒険者達は集まってそれぞれ聞いてきたことを報告した。
「なるほど‥‥魔物が退治されたのが遅くなった理由はわかった。しかし、悲惨な事件だったのだな。村人にとっても、猟師の親子にとっても」
 アーセイルは話を聞いて言った。
「あと遺跡について何か情報はあったか?」
 アーセイルが尋ねると、フェリシアがアーヴィングから聞いてきたことを話した。
「遺跡は古い砦です。以前は緊急時の避難場所としてアーヴィングの父が定期的に見回りをしていたみたいですが、今は誰も近づかなくなってしまい、荒れ放題なっているはずだ、とのことです」
「魔物がそこから出てきたのですか?」
 シルビアが不思議そうに尋ねた。
「たしかに変よね‥‥事件の前は魔物が棲んでいるとは考えてなかったのでしょう」
「その事なんだけど、アーヴィングさんは地下から出てきたなら不思議ではないかもしれない、といってたわ」
 フェリシアが言った。何でもアーヴィングの話によると、前は遺跡は地上部分しか出入りができなかった。
 地下へと続く階段があったのだが、地下への扉を開けることはどうしてもできなかったのだと言う。
「何かのきっかけで地下に閉じ込められていた魔物が出てきたのかもしれない‥‥と言ってました」
「そうか、やはり遺跡は行ってみる必要があるな」
 アーセイルが言った。とはいえ今回は調査に来ただけなので、すぐに遺跡に行くわけではない。
 調査を終えた冒険者達は、パリへと帰ることにした。