●リプレイ本文
●村人の反応
アーセイルと冒険者達は再び村へやってきた。今回はドッペルゲンガーが出てきたと思われる遺跡の調査である。
森へ行く途中、冒険者達は村人たちとすれ違った。
「お前さんたち、森へいくのかい?」
「はい、そうですが」
香椎 梓(eb3243)がそう答えると、村人達は不安げな表情を顔に浮かべた。
「今、村長の息子を殺した男が行方不明なんだ。森に隠れているかもしれない」
村人の言っている男とはアーヴィングのことであった。だが彼はもうこの村にはいない。
「それはいつのことですかい? 昨日今日のことでないんなら、もう男はとっくに逃げていると思いまっせ」
レアル・トラヴァース(eb3361)が何か言いたそうなフェリシア・リヴィエ(eb3000)を制しながら言った。
「そうならいいんだが‥‥とにかく気をつけてくれよ」
そう言って村人達は村のほうへと去っていった。
「‥‥あの人たち、もうアーヴィングさんのことを犯人と決め付けているんだわ」
フェリシアが不満そうに言った。
「まぁ怒るのも無理はないけれど、今は遺跡の調査が優先ね」
ディアドラ・シュウェリーン(eb3536)が言った。
そうして冒険者達は森の中へと入っていった。
古い砦の跡である遺跡は最近騒がしくなった森の中で、相変わらずひっそりと建っていた。
どうも辺りの様子を調べてみると、周りで焚き火をした跡などが見つかったが、遺跡の中に入った様子は無い。
「村の人たち、遺跡に入らなかったのかしら? アーヴィングさんを探しに入ってもよさそうなのに」
フェリシアが不思議そうな顔をした。
「さあ、なぜやろうな‥‥鍵は掛かってないみたいだし」
レアルが重たい扉を引っ張ったら、わずかに動いた。そこで大江 晴信(eb3385)にも手伝ってもらい、扉を開くと中から黴臭い空気が漏れてきた。
「とりあえず、まずは地下への入り口を見つけよう」
アーセイルが言った。冒険者達はたいまつに火をつけて、遺跡の中へと足を踏み入れた。
●遺跡の中へ
遺跡の中はとくに変わったところは無く、単なる古い建物に見えた。
一行はとりあえず廊下を歩いていくことにする。すると曲がり角の所で階段が見えてきた。
「あっさり見つかったな。隠れているのかと思ったけど」
地下への階段を見ながら大江が言った。階段の先は暗くてよく様子が見えない。
階段を降りてゆくと扉があった。よくみると鍵が壊されているのがわかった。
「やっぱり、ドッペルゲンガーはここから出てきた可能性が高いな」
アーセイルが言った。しかし誰がこの扉を開けたのだろう。
「とにかく入ってみよう」
レアルが罠などないか調べてみてから、扉を開いた。
空気がひんやりしているのが分かった。
冒険者達の目の前には壁があり、左右に細い道が続いている。
「思ったより広そうですね‥‥どちらに行きましょうか」
香椎が中の様子を見ながら言った。アーセイルは考えて、右に行こうと言った。
道を真っ直ぐ歩いてゆくと、先頭を歩いていたレアルが何かを踏みつけた。スイッチのようだった。
「ん、何だ‥‥ギャー!」
一番後ろにいたアーセイルの叫び声を聞いてあわてて皆振り返った。冒険者達が通ってきた道にぽっかりと穴が開いている。
アーセイルはなんとか穴のふちにしがみついていた。
「落とし穴か、しかし困ったな。帰りはどうしようか」
大江がアーセイルを引っ張り上げながら穴の底を見た。結構深いらしく、底の様子は見えなかった。
「ロープがあるから、これを使ってうまく渡るしかなさそうやな」
冒険者達は罠が元に戻らないか色々試してみたが無駄だった。しかたないので先に進むことにした。
「でもこの地下室おかしくないかしら、今までずっと廊下を歩いているけど、部屋が無いじゃない」
フェリシアが2番目の角を曲がった所で言った。
ここにくるまで起きたアクシデントといえば、さっきの落とし穴と、大きなクモが何匹か現われた程度だった。
クモはディアドラがアイスブリザードを浴びせたら、びっくりしたらしくどこかへ消えてしまった。
3番目の角を曲がると、奥のほうがうっすらと明るいのが分かった。
「何だ、外につながっているのか?」
しかしそうではなかった。冒険者達は元の入り口に戻ってきてしまったのだ。
「どういうことでしょう?」
「もしかして、この入り口はダミーじゃないかしら。どこかに別の入り口があって、それがこの中の部屋に通じているのかもしれない」
ディアドラが言った。確かに今の廊下の様子からすると、四角形の廊下の内側に大きな部屋がありそうな様子だった。しかしこの廊下から地下室に入ることはできない。
冒険者たちは一階に戻って、もう一度地下への入り口を探すことにした。
冒険者達は手分けして遺跡の1階をみてまわることにした。
1階はいくつかの部屋があり、一見変わった様子は無い様に思えた。
●灯台下暗し
しばらくして冒険者達は集合場所に決めていたホールに戻ってきた。
ここは二階への階段がある広間で、正面に一角獣の石像が置いてあった。
「何か変わったところはあったかね?」
アーセイルが尋ねたが、冒険者達はみな首を横に振った。
「特にこれと言って‥‥」
「もしかしたら二階に何かあるのかもしれないな」
二階は老朽化が激しいとのことなので、ここ数年入ったものは誰もいないとアーヴィングが言っていた気がする。
だが一階に何も無いのだから、もしかしたら二階からだけ通じる入り口があるのではないだろうか。
皆がそのようなことを考えていたとき、フェリシアがあることに気が付いた。
「そういえば、この像、動かした跡があるわね」
「なんやて‥‥本当だ」
レアルが確かめると、確かに像を動かした跡があった。
とりあえず冒険者達は皆で像を押してみることにする。すると像の下から階段が姿を現した。
「これが、さっき入れなかった部屋に続いている階段で間違えなさそうね」
ディアドラが言った。
こうして冒険者達は今度こそ地下の部屋へ入ることができた。
地下室は物置のように見えた。
ただ砦にふさわしいとは思えないものまでそこには置いてあった。
机やいす、床の上に動物の骨や何か得体の知れない液体の入ったつぼなどが散乱しており、まるで魔術師の研究室のように見えた。
「む、何かひどく見覚えがあるな‥‥」
アーセイルは自分の家の倉庫を思い浮かべながら言った。
「誰かがここを研究室として使っていたのでしょうか」
香椎が不思議そうに首をかしげた。
「わからないな」
大江がそう言いながら辺りを見回してみると、部屋の隅に奇妙に片付けられた場所があることに気が付いた。
「なんだ、さらに下へ行けるのか」
良く見ると片付けられた場所は取っ手が着いており、開けることができるようだった。
しかし大江がいくら取っ手を引いても、扉をあけることはできなかった。
「見て、これ。壊れた壷みたいだけど‥‥」
そうしているうちにフェリシアが見つけたのは壊れた壷の破片の山であった。
破片はまとめて無造作に積み重ねてあったが、その上に一枚の羊皮紙のメモが置いてあった。
「危険物
仮死状態のドッペルゲンガーが閉じ込められています
決して開けないこと」
「‥‥ここからドッペルゲンガーが出てきたのでしょうか」
「そうやろう。他に考えられん」
しかしなぜドッペルゲンガーが出てきたのか。
「こんな汚い部屋、地震でも起きたら壷の一つくらい壊れるだろう」
大江の言うことは確かにそうかもしれない。だが階段の上には重たい一角獣の像が乗っているのである。
ドッペルゲンガー一匹で像を動かせるとは考えにくかった。
「とすると‥‥」
誰かが像を動かしてこの部屋に入った。その可能性が高い。
一体誰がここへ来たのだろう。
最近森に出入りしている誰かがいるという話をフェリシアは思い出した。
しかしドッペルゲンガーが現われたのはもっと以前の話である。その頃から誰かがここに来て、何かしていたと言うことか。
「なんだこれは」
ふとアーセイルが机の上に散らばっている羊皮紙に目を留めた。
大変古い言い回しをしており、所々字がかすれて読めなかったが、大体次のようなことが書かれていた。
「‥‥するための条件は3つあり。
一つ、‥‥‥‥げること。‥らか‥の持ち主がよいであろう
一つ、‥‥の‥‥範囲において、‥‥正常な‥‥を‥‥の絶対的な‥‥得ること。
無理な‥‥儀式‥‥‥‥おくこと。
‥‥、儀式の際‥‥宝石を‥‥こと。」
羊皮紙は何枚かあった。部屋は暗いためアーセイルは全てに目を通すことはできなかったが、何か非常に嫌な予感がした。
特に儀式という言葉が何回か出てくる所が気に喰わなかった。
「アーセイルさん、どうかしましたか」
香椎の声でアーセイルは我に返った。どうやらもう帰ることになったらしい。
羊皮紙は後で明るい所で読めばもう少し良く分かるだろう。そう考えて机に散らばっていた羊皮紙をまとめてポケットにしまいこんだ。
●帰り道
とにかくドッペルゲンガーが遺跡の地下から出てきたことは明らかになった。
冒険者達は遺跡を出て、村に戻ろうとした。ところがそのとき、思わぬ人物に遭遇することになった。
「あなた達、こんな所で何をしているの」
それは村人数人を連れたエイレンであった。エイレンは遺跡のほうから冒険者達が来たのを確認すると、
「遺跡へ入ったの? あそこは古い建物だからいつ壊れてもおかしくないわ。ついこの間、領主さまが立ち入りを禁じられたの」
といった。村人が遺跡に入った形跡がないのはこのためであったか。
エイレンは村人達に先に行ってなさいと指示して、自分はその場に残った。
「‥‥ところで、遺跡で何か変なものを見なかったかしら?」
エイレンが冒険者達に尋ねた。冒険者達は彼女のただならぬ気配に慌てて首を振った。
「いえ、なにか変なものがいるのですか、エイレン様」
大江が尋ねると、エイレンは別になんてことは無い、とでもいいたげな笑顔で答えた。
「さぁ、どうかしらね。でもあそこからドッペルゲンガーは出てきたらしいし、幽霊や魔物の一匹や二匹、いてもおかしくは無いわ」
「エイレン様、前にアーヴィングの親父さんがドッペルゲンガーを呼び出したように話してましたね? でもアーヴィングの話ではそうではなかったとのことです」
レアルがエイレン言った。しかしエイレンはイライラした表情で、
「だからどうしたというの? 殺人者の話なんて信じられないわ!」
と答えるだけであった。
「そんなことより、あなた達前にアーヴィングに会ったことがあるのでしょう。彼はどこかに逃げだしたそうよ。何か知っているんじゃないかしら?」
「さぁ、何のことかしら」
ディアドラがとぼけたように答えた。エイレンは彼女をにらむと、何も言わずに村人達が行った方へと去っていった。
「何か、忙しい女だな‥‥」
アーセイルは圧倒されたようにつぶやいた。
こうして村での調査は終わりを告げた。
しかし全ての謎が解けたかと言うと、必ずしもそうではない。むしろ謎が増えてしまったとも考えられるだろう。