【災いを呼び出すもの】第一話
|
■シリーズシナリオ
担当:青猫格子
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月23日〜11月28日
リプレイ公開日:2005年12月07日
|
●オープニング
狩人アーヴィングがパリへ着いてからしばらく経った。
彼は毎日、村がどうなっているか気にしており、エイラック男爵に頼んでレイナ宛ての手紙を出してもらったりしていた。
そんなある日のことだった。
返事の手紙ではなく、レイナ本人がパリへやってきたのだ。
しかもいつもと違って大きな荷物を抱えており、まるで夜逃げをしてきたようであった。
「レイナちゃん!?」
アーヴィングは驚いた。一体何があったのかと尋ねると、彼女はアーヴィングの声を聞いてほっとしたのか、泣き出しそうな力ない声で答えた。
「怖かったのです‥‥村はずれを歩いていても、屋敷の庭でも誰かに見られているような気がして‥‥それで、逃げてきたのです」
何でも彼女の話によると、ここ最近何者かに後をつけられている気がするとのことだった。
アーヴィングが村を去ってから、失踪事件はぴたりと起こらなくなってしまった。
やはりアーヴィングが犯人だったのだ。村人の多くはそう考えているようだった。しかし決して村が平和になったわけではなかった。
レイナを含めた何人かの者達に、奇妙な異変が起きていたのだ。
まず村長。アーヴィングが村を出て行った直後、病気か何かにかかったらしくずっと寝込んでしまっている。
他にも何人かこのような症状の者がいるのだが、ごく少数であり、またうつる気配が無いのであまり気にされていない。
レイナは健康であったが、ここ数日間は何者かにずっと付きまとわれている感じがした。それが恐ろしくなって村から逃げてきたのだった。
「村の誰かに相談はしたの?」
アーヴィングが尋ねると、レイナはええ、と頷いた。
「でも皆さん、気のせいだろうといってまともに聞いてくれないのです。村長さんは真面目な方だから、何か違ったこと言ってくれたかもしれませんが、いまは病気のようですし‥‥」
「‥‥確かに奇妙だな」
一緒にレイナの話を聞いていたエイラックはつぶやいた。
それから彼は、やはりまた冒険者に調査してもらった方がいいかもしれないと言った。
「村の異変の調査‥‥ですか」
アーヴィングは口には出さなかったが、村の様子が気になるらしい。
エイラックは彼の様子を見て、きっぱりとした口調で注意した。
「いいかね、アーヴィング君。今村に戻ったりしたならば、死刑にされてもおかしくないのだからな」
「‥‥わかってます」
アーヴィングも何度も言い聞かされたことなので、わざわざ反論するようなことはしなかった。
しかし、故郷の村を離れているのはやはりさびしいのだろう。
そんな様子の彼を見て、レイナは何か思い出したようだ。あわてて荷物の中から何かを取り出した。
「そういえば、ここへ来る途中、馬車の中にこの子が飛び込んできたのです」
「この子?」
レイナは荷物の中から取り出した帽子をアーヴィングに手渡した。
アーヴィングは帽子の中を見て驚いた。
中には森で逃がしたはずの小鳥が眠っていたのだ。
●リプレイ本文
●エイレンと少女の影
寒い雨の日のことだった。
村に着いたのは冒険者達3人。あとでもう一人合流することになっていた。
この村で今、何かが起きているという。それが具体的に何であるのかはまだ分からない。
しかしそれが良くないことである可能性は高い。
「‥‥じゃあ、まず病気にかかった人たちに話を聞いてみようか」
「そうだね、村長にも会ったほうがいいだろうね」
アルフィン・フォルセネル(eb2968)とジェラルディン・ムーア(ea3451)の提案により、まずは病気にかかったという村長の家へ行くことにした。
村長の家へ行くと、顔を出したのは村長の奥さんであった。
「おや、この間来た冒険者の坊やたちだね」
アルフィンは一度村長の家に来たことがあった。奥さんに案内され、二人は村長の寝室へとやってきた。
「失礼します」
ジェラルディンたちが部屋に入ると、ベッドに横になっている村長が目に入った。以前会ったときよりも明らかに元気が無かった。
「お久しぶりです、村長さん」
アルフィンが声を掛けると、村長は首を動かして二人のほうを向いた。
「‥‥おお、坊やたちか。せっかくきてくれたのにこんな格好ですまないな」
村長は力ない返事を返した。
「村長さん、一体どうしてこんなことになったの? あたしたち病気の原因を調査しに来たんだよ」
ジェラルディンが尋ねた。村長はそうか、と答えると少しずつ、途中で休憩を入れながら次のようなことを語った。
村長の体調が悪くなったのは、村人達がアーヴィングを探しに森へ行った最初の日の後であった。
その日、村長は森へは行かず、家に残っていた。もともとアーヴィングを疑うのはまだ早すぎるし、裁判なんて馬鹿げていると考えていたのだ。
次の日の昼、アーヴィングを見つけられなかった村人たちとエイレンが森から帰ってきた。
「そこで帰ってきたエイレンと村人達と少し話をしたんだ。私は裁判をするのは早すぎるのではないだろうか、と言う内容のことを彼女達に話した。もちろん聞いてもらえなかったがね」
そしてその日の夜、酒場から家へ帰る途中、急に具合が悪くなったのであった。
「帰る途中、何か変わったことはありませんでしたか? なにか怪しい音を聞いたり」
アルフィンは帰り道の途中で具合が悪くなったと聞いて、顔を青ざめた。
「さぁ、風の強い夜だったからな‥‥あ、でも」
村長は咳をしながら、そういえば夜なのに少女が出歩いているのを見て不審に思ったのだと付け加えた。
「少女?」
ジェラルディンが不思議そうに聞き返した。
「格好からすると村のものじゃなかったなぁ。ルシア様だろうか。顔は確認していないけど」
二人は別れを告げて家を出た。その後は村にいるほかの病人などから同じように話を聞いた。
病気の症状は皆一致しており、体力が出なくなるのである。熱などは特に無いが、起きて動き回るほど元気でない。
また休んでいても回復する様子も無いという。
二人が病人達に話を聞いていくにつれ、ある共通点があることに気が付いた。具合が悪くなる少し前にエイレンを見たり彼女と話をしたのである。
また病人達の多くがアーヴィングを捕まえることに疑問を持っていた。
村長がルシアかもしれないといっていた少女は、ルシアに会ったという人もいるし、そんな少女は見ていないという人もいた。
「うーん、怪しいね‥‥」
アルフィンが話を聞きながら眉をしかめた。
「‥‥遅くなった」
調べ物をしていて出発が遅れたティワズ・ヴェルベイア(eb3062)が村にたどり着いた。
「ディートリヒは?」
ティワズはディートリヒ・ヴァルトラウテ(eb2999)がいないのを見てジェラルディンに尋ねた。
「遺跡を調べると言ってたよ。多分まだそっちにいると思う」
「ティワズお兄ちゃん、病気について何か分かった?」
アルフィンがティワズにそう尋ねると、彼は難しそうな顔をして答えた。
「ああ、どうやら悪魔や悪魔崇拝者が使う魔法に良く似ているね。つまりこの村の異変にそれらが関わっている可能性が非常に高いな」
「悪魔が、この村にいるの‥‥?」
アルフィンは少し怯えたような目でティワズを見た。
「まだ分からない‥‥僕も遺跡に行ってみることにするよ」
そう言うってティワズは森に向かって駆けていった。
●姿の見えぬ声
少し時間を戻して、ディートリヒの方はどうしていたか。
彼は森の中の遺跡に向かっていた。
遺跡の周りは静かだった。みな立ち入り禁止と言う約束を守っているのだろう。
「ここに出入りしていると言う何者かをのぞいてな‥‥」
冒険者ギルドの記録で、ここの地下に隠し部屋があると言うことが分かっていた。ディートリヒは遺跡の中に入り、一角獣の置物がある広間へやってきた。
試しに地面に残された跡のほうに像を押してみるが、数センチ動いただけであった。
「‥‥これは、エイレン一人では動かせないだろう」
となると遺跡に出入りしているのはエイレンではないのか。誰か協力者がいるのか。
「なにをしているんだ」
突然後ろから声をかけられてディートリヒは驚いた。恐る恐る振り返ると、立っていたのはティワズであった。
「なんだ‥‥驚いたじゃありませんか」
ディートリヒはため息をついた。
「ここから外は見えないが、もうそろそろ日も暮れる時間だよ。誰かがここに出入りしているなら闇にまぎれて来るかもしれない」
ティワズはそう言うと遺跡の外へ向かって歩き始めた。ディートリヒも慌てて彼のあとに続いた。
二人がやってきたのは以前アーヴィングを森から脱出させる途中で隠れた、遺跡の隠し部屋だった。
「ここから遺跡の中の様子を伺えるのですか?」
部屋は他の部屋からは行けない様になっており、かつて二階から降りていたと思われる縄梯子もなくなっている。四方の壁は石でできており、外の音は聞こえづらそうだった。
「二階からは他の部屋につながっているはずなんだ」
ティワズは精神を集中させ、リトルフライの呪文を使用した。ふわりと体が地面から浮き上がった。
「あ、まって」
ディートリヒは外に停めておいたドンキーからロープを持ってきていたので、それを渡した。
ティワズはそれを受け取ると、そのまま上方へと浮いていった。すると壁に穴があいているではないか。
「お、ここが出入り口だね‥‥」
ティワズが顔をのぞかせると、質素な古い部屋が目に入った。出入り口は暖炉のようだった。ティワズは暖炉の柵にロープを結びつけた。
ティワズは暖炉を出て部屋の中に入った。ディートリヒもロープを伝ってなんとか二階にたどり着いた。
「ここで待ち伏せしていれば、誰かが来てもすぐに逃げられるはずだよ」
「なるほど」
しばらく、と言うほど時間は無かった。彼らが二階の部屋に潜んで少しすると、一階で何やら物音がするようになった。
そして何やら話し合っている声もする。入ってきたのは二人か‥‥?
ティワズとディートリヒはドアの近くに寄り、1階の音を聞くことに集中した。
「‥‥動いているな」
「そうなの? 私には分からなかったわ」
一人は確実にエイレンだった。もう一人の声は二人とも聞いたことが無かった。全く今まで聞いたことの無い種類の声で、男性か女性か判断することもできなかった。
「‥‥前に地下室にも誰かが来ていた。その下には入った様子は無かったがな‥‥村人にきちんと言い聞かせてあるんだろうな」
「もちろんよ、みんな私の言うことはよく聞いてくれるわ。聞かない人は村から逃げていくか、あの老人達のようになったでしょ」
どちらかと言うと、エイレンでないほうの声が彼女に命令しているという関係のようだった。
「ただ、厄介なのはここ最近村に出入りしている冒険者達ね」
「‥‥そうだな」
会話を聞いていたディートリヒたちはその声を聞いてぞくり、と背筋に寒気が走った。
(彼らは我々に敵意を抱いている‥‥!)
どちらともなくそのような考えが頭に浮かんでいた。二人は無言で顔を見合わせると、足音を立てないように暖炉の抜け道から隠し部屋を降りて、外に走り出していた。
●小鳥
二人は村に戻って待っていたアルフィンとジェラルディンに遺跡で聞いたことを話した。
「‥‥つまり、エイレンと誰かが遺跡の地下室で何かしていたんだね」
アルフィンが難しそうに顔をしかめている。
「どうしましょうか」
「とりあえずパリに帰って男爵に報告したほうがいいんじゃないかな。一通り村人の話も聞き終わったしね」
ジェラルディンが考えながら答えた。そして皆特に反対するものがいなかったのでパリに戻ることになった。
「エイレンと誰かが遺跡で会話していたのか‥‥それはヨシュアではなかったのだな?」
エイラックが冒険者達の報告を聞いて尋ねた。
「違いましたね。口調も似ていませんでした」
ディートリヒはそのときのことを思い出しながら答えた。
レイナとアーヴィングは、病気の症状が悪魔崇拝者の魔法の可能性があると聞いてとても驚いた。
「そんな‥‥ではエイレン様は悪魔崇拝者?」
「その可能性が高いね」
アルフィンが顔をしかめながら答えた。
「そうだ、例の小鳥を見せてほしいのですが」
報告が終わったあと、ディートリヒはアーヴィングにそう頼んで、件の小鳥を籠から出してもらった。
「何をするんですか」
「この小鳥の今までの行動、鳥にしては賢すぎると考えられませんか。もしかしたら何か別のものが姿を変えている可能性もあります」
ディートリヒはリードシンキングの呪文で小鳥の思考を読み取ろうと考えた。
じっとしている小鳥に触れて、呪文を唱える。
「‥‥たすけてください‥‥私の名前はルシア・カリウス‥‥」
ディートリヒの心の中に流れ込んできたのは助けを求める小鳥の声であった。
「この小鳥がルシア様!?」
ディートリヒの話を聞いてアーヴィングとレイナは驚いた。
「そんな、それがもし本当なら今のルシア様は一体‥‥?」
ティワズも二人と同じくらい驚いていた。
「分からない‥‥しかしこの小鳥のいうことが本当なら大変なことだ。神聖魔法でミミクリーと言うものはあるけれど、あれは変身するものの大きさを変えることはできないんだ」
そう言ったあと、そんなことができるのは悪魔だけだね。と付け加えた。
「あの村に、悪魔がいる。そして何か良くないことをたくらんでいるに違いない」