【災いを呼び出すもの】第二話
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■シリーズシナリオ
担当:青猫格子
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月19日〜12月24日
リプレイ公開日:2005年12月27日
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●オープニング
「この小鳥がルシア様、ねぇ‥‥」
レイナはエイラックの家で半信半疑な気持ちで小鳥の入った籠を見ていた。
すると誰か来客がやってきたようだ。レイナはカリウス家に居た頃の癖であわてて玄関に飛び出してしまった。
玄関に居たのは中年のウィザードであった。
「やぁ、これは、アーセイル先生じゃありませんか。お久しぶりです」
「ふん、相変わらず趣味の悪い家だな」
エイラックはやってきたアーセイルを快く迎えた。以前アーセイルはエイラックの娘の家庭教師をしていたのだ。
「ところでいきなり来るなんで珍しい。何かあったのですか」
「ああ、実はカリウス領といったか、あそこにまずい物があることが分かった」
そう言ってアーセイルは持ってきていた数枚の羊皮紙を取り出した。
以前彼がドッペルゲンガーの事件の調査のため、カリウス領の村に行ったときのことである。
彼は村はずれの森の遺跡で古い羊皮紙の文書を見つけていた。
そのときは場所が暗く、文書が古かったということもあり全ての文字を読めなかったので、持ち帰って色々調べてみることにしたのであった。
「文書は大昔に遺跡の奥に作られた『破滅の魔法陣』について書かれたものだった」
「魔法陣?」
「これの発動は文字通りその地域の破滅だ。カリウス領に住むもの全てが脅かされる」
「そんな‥‥!」
レイナが真っ青な顔をした。村の人々が危険に晒されているとは。
「何とかその魔法陣をとめることはできないのですか!?」
レイナがアーセイルに問うた。
「あわてるな。魔法陣は発動するために条件が必要なのだ。文書に書いてあった。
一つは生贄を捧げる儀式をすることだ。
もう一つはどこかにある特別な黒い宝石を儀式をするものが儀式中に持っておくこと。
そして三つ目なのだが‥‥これがややこしくてまだ良くわかっていない。しかしとにかくこれらの条件が満たされていないと魔法陣は発動しないのだ」
「生贄‥‥か」
エイラックは眉をひそめて、アーセイルに質問した。
「もしかしてそれは村の失踪事件と関係しているのか」
「きっとそうよ。今まで失踪の意図が良く分からなかったのですもの」
レイナはそういったが、アーセイルはそこまでは分からないと答えた。
「小生が注目したのは宝石のことだ。遺跡にはそのようなものはなかった。村にもおそらく無いと思う」
アーセイルが調べた所、とある無人島に黒い宝石があるという言い伝えがあることが分かった。
そして少し前にそれが持ち出されたということも分かったである。
「宝石を持ち出したのはとある宝石収集家らしいのだが、調べても名前は分からなかった」
「宝石収集家?」
エイラックは首をかしげた。
「その人物は女性と言う以外、どのような者かはっきりとしていない。しかし彼女は宝石を手に入れたあと、一旦はパリに戻ったが、その後どこかへ行ってしまったらしい」
「どういうことですか?」
レイナが尋ねた。
「小生が思うに、宝石がこの時期に持ち出されたのは偶然ではない。彼女は魔法陣と何かしら関わりがあると思われる」
ならば、魔法陣のある村に彼女は行ったのではないだろうか?
「わかりました。村にその宝石収集家が来ていないか調査するために、冒険者ギルドに依頼しましょう」
エイラックはアーセイルに約束した。
果たして彼女は本当に村に来るのだろうか‥‥?
●リプレイ本文
●事前調査
冒険者達は村に出かける前に、パリでそれぞれ準備をしていた。
ディートリヒ・ヴァルトラウテ(eb2999)はエイラック邸に足を運び、再びリードシンキングでルシアと会話してみようと試みた。
「ルシアさん、あなたはなぜこんな姿になってしまったのですか? それと黒い宝石について何かご存知ありませんか?」
(「黒い宝石のことはよく分かりません。エイレンお義姉さまがそんなことを言っていた気がしますが‥‥」)
そのあとルシアは自分がどうしてこのような姿になったのか、語り始めた。
ルシアたちの父がなくなった後、すぐにエイレンと言う女性が嫁いできたが、ルシアは彼女のことが好きになれなかった。
と言うのも彼女が最初に来た日、庭で何者かと会話しているエイレンを見てしまったのである。
話している相手の姿ははっきりしなかったが、ルシアはその声に底知れぬ恐ろしさ覚え、幼馴染のアーヴィングに相談することにした。
村はずれでアーヴィングと会う約束をした彼女だったが、何故かそこに現われたのはエイレンであった。
「あら、こんな所で何をしているの?」
「それは‥‥」
ルシアは仕方なくその場を去ろうとしたが、後ろから何かが近づいてくることに気が付いた。
そして次の瞬間、彼女は気を失っていた。
次に目を覚ましたとき、彼女は小鳥の姿になって、籠に閉じ込められていた。
驚いて籠の外を見るとそこは自分の屋敷で、ルシアにそっくりな少女が兄と会話していた。
「お兄様! お兄様!」
ルシアは叫んだが人間にはその声が聞こえなかった。
兄が部屋から出て行った後、偽物のルシアはルシアの方を向いて言った。
「あなたはもうここに帰ってくることはできないわ。次に人間の姿に戻るときは『儀式』の生贄になるときだから」
口調は違ったが、その声はエイレンと話していた存在と同じであった。
(「‥‥その後、エサやりのときに籠が開いたとき、急いで屋敷から逃げ出して森へ行きました。しかし木に引っかかって怪我をしてしまい、倒れていた所をアーヴィングさんに拾ってもらったのです」)
「そうでしたか‥‥」
おそらく彼が遺跡で聞いた声の主とルシアがエイレンと話しているのを聞いた声の主は同じものだろう、とディートリヒは考えた。
そのころアルフィン・フォルセネル(eb2968)はパリの宝石屋などを回って宝石収集家の情報がないか調べていた。
「宝石収集をしている女性? ああ知ってるよ」
「ほんと!?」
何軒もしないうちに知っていると言う人物は現われた。しかしどの人も、数年前までは会ったことがあるが、最近は見かけないのだと答えた。
少し前に冒険者ギルドに依頼に来た女性は別人物だったのであろうか‥‥?
アルフィンは聞いた内容をメモして、カリウス領の村に出かける準備をすることにした。
●村にて
村に着いた冒険者達は村の人々に聞き込みをすることにした。
ジェラルディン・ムーア(ea3451)とアルフィンはまた村長の家に行き、話を聞くことにした。
「あら、また来てくださったのね」
玄関に現われた村長の奥さんが二人を見て少し驚いたように言った。
「‥‥せっかく来て下さって申し訳ないんですけど、うちの人はいま調子が悪くて、会っても話はできないと思うわ」
「前より具合が悪いのか?」
ジェラルディンが驚いて尋ねると、彼女は黙って頷いた。
「そう‥‥では奥さんに聞きたいんだけど、ここ最近私達以外に村の外から来た女性っていませんでしたか?」
「いいえ、あなた達以外は村の外から来る人はいませんでしたわ」
ということは宝石収集家はまだ村には着ていないと考えていいのだろう。
その後、村を回って他のものにも話を聞いたが、それらしい女性を見たと言う人は居なかった。
二人が宿へ戻って他の冒険者達に聞いたことを報告しようとしたところ、領主の屋敷から出てきたエイレンと顔を合わせることになった。
「あら、こんにちは」
エイレンは冷静さを装っていたが、どこか落ち着きの無い様子だった。
彼女は冒険者達に何をしに村へきたのか尋ねたので、ジェラルディンがある人物が村に来ていないか探しにきたのだと答えた。
エイレンは特に心当たりは無い、と答え、忙しいからまた今度と言って何故か屋敷の方へ帰っていってしまった。
アルフィンたちは彼女の不思議な行動に顔を見合わせた。
ジェラルディンたちは宿へ戻ってディートリヒたちにこのことを報告した。
「宝石収集家はエイレンと同一人物なのかな?」
「どうでしょう‥‥私の記憶だと、あまり似てなかったように思えますが」
そう言っても、彼も彼女の素顔を見たわけではない。
「僕はエイレンと彼女は別人だと思う。エイレンの奇妙な行動は焦っていたんだよ。つまり何か知っているのだと思う」
ティワズ・ヴェルベイア(eb3062)が言った。
どうやらまだ宝石収集家は村に来ていないようだ。となれば今は彼女が実際に来るかどうか待っているしかない。
ディートリヒは森の遺跡に赴き、宝石収集家らしき者が来ないかどうか見張ることにした。
一日目は特にそれらしい人物は来なかった。
次の日、ディートリヒはアルフィンが慌てて遺跡の方へやって来るのを見た。
「どうしました」
「大変! デビルがいたんだよ!」
アルフィンが叫んだ。彼は村にデビルが居ないかどうか、ディテクトアンデットの呪文を使って調べていた。
村の入り口近くで呪文を使ったとき、近くで反応があったというのだ。
「わかりました。すぐそちらへ行きましょう」
ディートリヒはアルフィンとともに村へ行くことにした。
「あら‥‥」
森を出て村へ向かう途中の道で、二人はある人物とであった。
フードをかぶって顔は見えなかったが、ディートリヒはその人物をよく覚えていた。
「あなたは‥‥!」
深い霧の島にある宝石を探していた人物、すなわち宝石収集家と呼ばれる女性であった。
よく見ると前よりかなりやつれていた。しかしその理由を考えている余裕が彼には無かった。
そのとき後ろの草むらから彼女を追跡していたティワズ、ジェラルディンが姿を現した。
「ディートリヒ、この人は‥‥!」
「あなた達は以前護衛してもらった冒険者の方たちですね。こんな所で何か仕事ですか?」
宝石収集家がディートリヒに尋ねた。
「はい、実はあなたがここに来ないか待っていたのです」
「私を?」
ディートリヒの答えに彼女は首を傾げた。
答えの代わりにジェラルディンがなぜこの村に来たのだと尋ねた。
「ある人に会いにきたのです。村の中ではまずいらしいので、森のある場所で会う約束をしていました」
女性は答えた。嘘をついている様子は無かった。
「ある場所とは森の遺跡のことかな? だとしたら残念だけど行かせるわけには行かない」
ディートリヒの方へやってきたティワズが言った。女性はなぜ、と質問した。
三人はどうするべきかと顔を見合わせたが、ジェラルディンが魔法陣のこと、宝石が発動の鍵となっていることを説明し始めた。
「あんたは知っていてここへ来たの? もし知らなかったならすぐに帰るべきだ。何者かが魔法陣を動かそうと企んでいる」
宝石収集家はしばらく黙って考えていたが、やがてそれでも私は行かなければならない、とこたえた。
「だめです、そういうならば我々は力ずくであなたを止めないといけません」
ディートリヒがレイピアを抜いて構えた。しかし彼女は考えを改める様子は無い。逆に彼女も護身用のナイフを取り出そうとした。
が、そのとき。
ゴンッ。
鈍い音がして女性が崩れ落ちた。後ろにハンマーを持ったジェラルディンが立っていた。
「ジェラルディン!?」
驚いたようにティワズが言った。
「女性を傷つけるような真似をして、それでも騎士か! ディートリヒ」
「は、はぁ‥‥」
そう言っている彼女も傷つけているではないか、と言おうとしたが面倒なので言わないことにした。
「気絶している今のうちに村の外へ運び出そう」
彼女はそう言うと宝石収集家を抱えようとしたが、彼女が触れたとたん、宝石収集家の身体の中から君の悪い湯気のような物が溢れ出てきた。
「うわっ、なんだ」
ジェラルディンは驚いて一歩下がった。
彼女の体から出てきた物体は上空に浮かび上がり、人のような形を成した。
「‥‥ゴースト!?」
アルフィンが驚いて叫んだ。それは確かに幽霊と呼ばれるものだった。
●幽霊
幽霊の形は次第にはっきりとしてジプシーのような服を来た女性になった。
少なくとも宝石収集家とは似ていない姿であった。何者かが彼女に取り憑いていたのだろう。
幽霊は冒険者達に明らかな敵意を表していた。
「危ない!」
ティワズが叫んだときには遅かった。
幽霊はこちらへ飛んできてジェラルディンへ向かって右手を突き出した。腕を掴まれたジェラルディンは腕に痛みが走ったのに気が付き、驚いて腕を振り払った。
「どうやら触るだけで怪我をするようですね‥‥皆さん、なるべく近づかないようにしてください」
ディートリヒはそう言うとレイピアを納め、魔法の呪文を唱え始めた。ティワズも同じようにした。
ジェラルディンは特に幽霊に効きそうな攻撃方法を持っていなかったので、とりあえず幽霊が魔法の準備をしている者たちに近づかないように気をつけていた。
アルフィンは攻撃ではなく、皆に幸運を与えるためにグットラックの呪文を唱え始めた。
ティワズはウィンドスラッシュの呪文で真空の刃を作り出し、幽霊に放った。
「ウォォ‥‥」
斬りつけられた幽霊は苦しそうに唸った。どうやら効果はあるようだ。
幽霊は今度はティワズの身体に触れようとしたが、ディートリヒの放ったブラックホーリーの光が命中し、幽霊は吹っ飛んだ。
「大丈夫ですか!」
「ああ、なんとか」
そう会話している間に、別の方向から「うわっ」というアルフィンの声が上がった。いつの間にか幽霊がアルフィンの横に移動してアルフィンの頭を掴んでいた。
「痛い痛い!」
「離れろったら!」
ジェラルディンがハンマーを振り回すが幽霊には効果が無い。
再びティワズがウィンドスラッシュで真空の刃を作り、幽霊を斬りつける。ようやくアルフィンから幽霊が離れた。
最終的に、ディートリヒが放ったブラックホーリーの黒い光が命中し、叫び声を上げて幽霊は消滅した。
「すまない。力になれなくて」
ジェラルディンがティワズたちに謝った。しかし普通こんなときに幽霊が現われるとは考えないだろう。
冒険者たちは幽霊が消えた後、しばらく宝石収集家が動かないか見守っていたが、相変わらず彼女は気絶していた。
しかたないので気絶している彼女を抱えて近くの茂みに隠しておくことにした。
ちょうどそのとき、エイレンとルシア(の偽物)が、さっきまで冒険者達が居た場所を通りすぎ、遺跡へと向かっていった。
ルシアがエイレンとともに行動しているのは珍しいことだった。
冒険者達は茂みの中へ隠れて二人が帰ってくるのを待つことにした。
しばらくして二人は戻ってきた。エイレンは不安そうな顔をしており、ルシアは不機嫌そうだった。
「あら‥‥これは」
エイレンは足元に宝石収集家の持っていたナイフが転がっていたのに気が付いた。
彼女はそれを見て一瞬驚いた後、悲しそうな顔をした。
「どうしたのですか、義姉さま」
「帰りましょう。あの人は多分遺跡に来ないわ」
エイレンはナイフを拾って立ち上がると、ルシアに言った。
「でも、宝石はいいのですか」
「ええ、多分見つからないでしょう‥‥おそらく誰かが持っていってしまったに違いないわ」
「‥‥また冒険者ね。憎らしい奴ら」
それまで少女らしい口調であったルシアだが、最後の一言だけは似つかわしくなかった。
二人は屋敷の方へと帰っていった。
冒険者達がその様子を草むらから見ていると、宝石収集家が目を覚ました。
「あら、ここは何処ですか? あなた達はいったい‥‥」
どうやら彼女は幽霊に取り憑かれていた間の記憶が無いようだった。
ディートリヒが事情を説明したあと、黒い宝石を持っていないか尋ねた。
彼女はもっていた袋の中から、「これですか?」といって丸い大きな宝石を取り出した。
それは確かに、深い霧の島で見た宝石と同じものだった。
ディートリヒは魔法陣のことを説明し、宝石を預からせてもらえないないかとたのんだ。
「そんな恐ろしい宝石は、さすがに持っている気になれません」
宝石収集家はその申し出を受けることにした。
●宝石
冒険者達はパリへ帰り、エイラック男爵たちに村で起こったことを報告した。
「これがその宝石です」
そう言ってディートリヒは二人に黒い宝石を見せた。
「これと同じ宝石が、深い霧の島の遺跡にはあるのだろう?」
エイラックが尋ねた。
「ええ、でもあの島には年に一度しか入れないから、当分もう一つの宝石を手に入れることはできないよ」
ティワズが答えた。それに宝石は魔物の像が守っているから、簡単に奪われることも無いだろう。とティワズは考えていた。
アーセイルはディートリヒにその宝石を貸して欲しいと言った。
彼は宝石を持つを、難しそうな顔をした。
「うむ、魔法の品なのだろうか‥‥詳しいことは分からないが、持っていると不快な感じがするな」
とにかく危険な品には違いない。アーセイルはそう言うと暖炉に宝石を投げ入れてしまった。
「せ、先生!」
エイラックが驚いているうちに宝石は輝きを失ってどす黒くなっていった。熱に弱い素材だったのかもしれない。
「これで魔法陣が発動することはなくなったんだね?」
話を聞いていたアーヴィングが冒険者達に尋ねた。
「ああ、とりあえずな」
ジェラルディンが答えた。
しかし、たとえ魔法陣が発動しなくなったとしても、全ての問題が解決したわけではない。
例えばルシア。
「彼女を元に戻すにはどうすればいいんだろう?」
ティワズが首をかしげた。
「彼女がデビルによって変身させられたのなら、デビルが魔法を解かない限り元には戻れないだろう」
アーセイルが言った。しかしデビルが自分から魔法を解くなんてことは考えられなかった。
「ということは‥‥」
アルフィンが不安そうに他の冒険者達を見た。
「デビルを倒さない限り、彼女は元に戻れないということです」