【災いを呼び出すもの】第三話

■シリーズシナリオ


担当:青猫格子

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月05日〜01月10日

リプレイ公開日:2006年01月20日

●オープニング

 破滅の魔法陣が発動する危険はなくなったので、レイナはとりあえず村へ帰ることにした。
 久しぶりに帰ってきた村は、冬の寒さに覆われている以外はいつもと同じように見えた。

「レイナ! よく帰ってきたね」
 屋敷では主人であるヨシュアが快く迎え入れてくれた。
 レイナが屋敷の中を見回すと、いつもと同じようにエイレン、ルシアがいた。
 しかしあのルシアは偽物なのだ。レイナはなるべく彼女と顔を合わせないようにしていた。

(「でも、どうして‥‥?」)
 レイナはなぜ二人がいつもどおりにしているのか疑問に思った。
 魔法陣の発動ができなくなったのだから、もうこの村には用は無いはずである。
 ここにとどまっていると逆に冒険者達に見つかりやすいと思わないのだろうか?

 おそらく、まだ彼女達はあきらめていないのだろう。とレイナは考えた。
 一年ほど待てば黒い宝石を手に入れる機会はやってくる。そうすれば再び魔法陣を発動させることが可能なのである。
 又いま姿を消せば、村人達は二人が例の失踪事件に巻き込まれたと考えるに違いない。
 そうなるとアーヴィングが犯人という見方は正しくなかったのだと村人達は考えるかもしれない。
 そのため二人は姿を消すことができないのだろう。
 なぜそれほどアーヴィングを悪者にしたいのか分からなかったが、もしかしたらこれも魔法陣と関係あるのかもしれない。


 数日後、エイラック男爵の下にシフール便が届いた。
 レイナからのものだった。
「そうか、彼女達はまだ魔法陣の発動をあきらめていないのか‥‥」
 そのとき、ちょうどアーヴィングがやってきたのでエイラックは彼のために手紙を読んで見せた。
「‥‥‥‥」
 アーヴィングはエイレンたちの動向を知って不満な顔をした。まだ村の危険は完全に去ったわけではないのだ。
 それに、
「僕の無罪もたしかに証明したいけど、ルシア様達も助かって欲しいんです」
 アーヴィングは籠の中の小鳥を見ながら言った。
「男爵様、エイレン達から村を救いたいんです」
「ああ、私もそれを考えていた所だ」
 そう言ってエイラックは再び冒険者ギルドへ依頼しに行く準備を始めた。

●今回の参加者

 ea3451 ジェラルディン・ムーア(31歳・♀・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea5868 オリバー・ハンセン(34歳・♂・ウィザード・ドワーフ・フランク王国)
 eb2261 チャー・ビラサイ(21歳・♀・レンジャー・ドワーフ・インドゥーラ国)
 eb2968 アルフィン・フォルセネル(13歳・♂・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb2999 ディートリヒ・ヴァルトラウテ(37歳・♂・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb3062 ティワズ・ヴェルベイア(27歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●狂言の手紙
「エイレン義姉さま、何を読んでいるんです?」
 レイナが屋敷の掃除をしていると、偽物のルシアがエイレンに話しかける声がした。レイナは彼女達に悟られないようにそっとエイレンの部屋に近づき、ドア越しに会話を聞き取ろうとした。
「アーヴィングからの手紙。でも本当に彼が書いたのか怪しいわ。読み書きができたとは思えないし」
「なるほど‥‥遺跡で取引したい、と。どう考えても罠ね」
 ルシアは手紙を読みながら言った。レイナには何のことか分からなかったが、手紙には黒い宝石と引き換えにルシアや消えた村人達を返して欲しいと書いてあったのだ。
「義姉さま、どうします?」
「ほっときましょう。今は村の中にいたほうが安全だわ。宝石は待っていればまた手に入れる機会がやってくるわ」
「あら、次は冒険者が邪魔しに来るかもしれませんよ」
 エイレンの答えに対して、ルシアは可笑しそうに笑いながら言った。そんなに悠長な態度でどうするのだと言いたいのかもしれない。
「もしかしたらこの取引が彼らを潰すいい機会かもしれませんよ、義姉さま」
 言葉遣いは丁寧だが、言っていることは物騒である。
「あなたが構わないなら取引を受けてもいいけれど‥‥」
 エイレンはちょっと困ったような声で答えた。結局二人はアーヴィングの取引を受けることにしたようだ。
 レイナはそっと部屋の前から去った。これからどうなるのだろう。冒険者達、そしてアーヴィングは‥‥?

●帰郷
 手紙が来てから数日後。
 パリから冒険者達がやってきた。アーヴィングの姿は見えなかった。どこか別の所に隠れているのかもしれない。
「ひさしぶり、レイナ」
 ジェラルディン・ムーア(ea3451)が村に買い物に来ていたレイナに気が付き、声をかけた。
「あ、お久しぶりです」
「お姉ちゃんお久しぶり! ずいぶん沢山食材を持ってるけど、何かお祝い事でもあるの?」
 一緒にいたアルフィン・フォルセネル(eb2968)がレイナの様子を見て尋ねた。
「ええ、あさってルシア様の誕生日なので、お祝いするんです」
 そうか、とジェラルディンは少し苦い顔をして答えた。まだ本物のルシアは小鳥のままなのだ。誕生日までになんとか元に戻せるのだろうか‥‥。
 アルフィンたちは村長の家から帰ってきたところであった。
「村長の具合はどうでしたか?」
「とくに良くもなっていないが悪くもなっていないようだったね‥‥やっぱり普通の病気ではなさそうだ」
 ジェラルディンが顔をしかめた。

 そのころ、アーヴィングとオリバー・ハンセン(ea5868)は森を歩いていた。
「あの小屋がそうだな」
 オリバーが前方に見えた小屋を指していった。
「はい、あそこが僕の家です」
 久しぶりに帰ってきたアーヴィングは複雑な表情で小屋を見ていた。
 オリバーは小屋に何か父が遺跡に関する手がかりを残していないかどうかアーヴィングにたずねた。
「さぁ‥‥父は文字が読めないし、文書のようなものは残ってないと思います」
 二人は小屋の中を全て調べたが、特に遺跡に関する記述は残っていなかった。
 調べ終わった頃、チャー・ビラサイ(eb2261)が小屋にやってきた。
「もうそろそろ日が落ちます。オリバーさんたちも遺跡に集まってください」
「うむ、わかった」
 オリバーは少し心残りであったが、小屋を出ることにした。

●遺跡にて
 日が落ちた後、遺跡の裏でアーヴィングは一人待っていた。実際には冒険者達もいたのだが、姿を隠して待機していた。
 アーヴィングはオリバーが用意してくれた偽の黒い宝石を持っていた。しかしこれも本物の宝石を知っている人が触ればすぐに偽物とわかるだろう。
 彼は緊張していた。まさかこんな冒険をする羽目になるなんて思っていなかったからだ。
 でも、今はルシアたちや村人を助けるために、自分が行動しなければならなかった。
「来たようだね」
 遺跡の隠し扉に隠れていたティワズ・ヴェルベイア(eb3062)が何者かの足音を聞きつけた。

 アーヴィングの前に現われたのはエイレンと偽ルシアであった。
「‥‥ルシア様!」
 偽者だと確かに聞いていたが、それでも実際に目の前に現われた彼女はルシアにそっくりだった。
「宝石は持ってきたのでしょうね?」
 エイレンがアーヴィングに尋ねた。
「あ、ああ。だがその前に消えた人たちの居場所を教えるんだ!」
「先に宝石を渡しなさい。それとも本当は持ってこなかったの?」
 これではいつまでたっても取引など成立しない。観念したアーヴィングは宝石の入った袋をエイレンに投げた。
「‥‥やっぱり偽物だわ」
「ひどいわ、アーヴィングさん。村の人たちを見殺しにするつもり?」
 偽ルシアがアーヴィングに言った。その口調が本物のルシアそっくりだったのでアーヴィングはかなり動揺した。

「そこまでだ!」
 ジェラルディンたちが隠し扉の中から飛び出してきた。
「やっと出てきたわね」
 エイレンが冒険者達を見て言った。冒険者が現われても特に驚く様子は無い。
「正直に村人達の居場所をいうのです。言わなければ‥‥」
 ディートリヒ・ヴァルトラウテ(eb2999)が言いながらエイレンのほうに目をやると、偽ルシアの姿が無かった。
「あれ‥‥」

『言わないと、どうするというのだ?』

 上空から聞こえてきた声をティワズは知っていた。
 冒険者達が驚いて上方を見ると、上空で大きな孔雀のような生物が冒険者達を睨み付けていた。
「あ、悪魔‥‥」
 アーヴィングは驚いてひざをがくりと落とした。

『冒険者達よ。よく今まで我らの邪魔をしてくれたものだ』
 デビルは冒険者たちをめがけて地面に急降下してきた。
「アーヴィングさん、逃げて!」
 ディートリヒの叫びで我に返ったアーヴィングはあわてて後ろに下がった。
 ザシュッ と音を立てて地面に爪で引っかいた跡が残った。
 もし彼が退くのが少しでも遅ければ大変なことになっていただろう。

「アーヴィングは関係ないだろう。なぜそこまで彼を追い詰めるんだ」
 ティワズがデビルに向かって呼びかけた。
『お前達がそれを知る必要は無い』
 そう答えている間にジェラルディンが前に飛び出し、デビルに向かって思い切りクレイモアを振り下ろした。
 すぐにデビルは避けようとしたが、ジェラルディンのほうが早かった。オリバーによって魔力を付与されたクレイモアはデビルを斬りつけ、宙に浮いていたデビルは地面に落下した。
『ほお‥‥なかなかやるな』
 起き上がったデビルは確かに怪我を負っていたが、まだ余裕を見せている。
 一方エイレンは何かの呪文を唱え始めていた。危険を察知したディートリヒはレイピア「ヴァーチカル・ウィンド」を構えて彼女に突進した。
 気が付いたエイレンはレイピアを交わしたが、呪文の詠唱は止めなければならなかった。

 デビルは怪我をしていたが以前平然と宙を舞っていた。冒険者達など敵ではないと思っていた。
 たとえば非力なエルフ達なら、一撃で重傷に追い込めるだろう。だが‥‥
『こう数が多くてはな』
 下手をすると自分が誰かに攻撃を入れる前に殺されるかもしれない。不利な状況であえて戦うなどと言うことは頭の悪い戦い方だとデビルは考えていた。
 冒険者達の攻撃を交わしながら、デビルはエイレンに向かって一言命令した。
『逃げるぞ』
 わかったわ、とエイレンが頷くと二人は森の中へと姿を消した。
 冒険者達は急いでその後を追った。

●魔法陣
 結局、エイレンは捕らえることができたが、デビルの姿は何処にも見当たらなかった。
「デビルは逃げたようだ。エイレン」
 ティワズは彼女にそう言った後、行方不明になった者たちがどこにいるのか尋ねた。
「‥‥もう隠しても意味無いわね」
 エイレンはあきらめたのか冒険者達に遺跡まで来るように言った。

 エイレンと冒険者達が遺跡の前に戻ってくると、アーヴィングがそこで待っていた。
 アーヴィングは手を縄で縛られているエイレンを見ると、不安そうに
「‥‥悪魔は?」
 と冒険者達に尋ねた。
「申し訳ない。逃がしてしまった」
 オリバーが申し訳なさそうに答えた。デビルが逃げてしまっては、ルシアを元の姿に戻せない。
 エイレンは冒険者たちを一角獣の像の下の地下室に案内した。
「村人達はさらに下の階の部屋に隠してあるわ、扉の鍵は私のポケットの中に入っている」
 チャーが部屋の隅にあった隠し扉に鍵を差すと、扉が開きさらに下へ行く階段が現われた。

 冒険者達が階段を降りていくと、休憩室のような狭い部屋にたどり着いた。
 そこでルミナや他の住民達が捕らえられていた。
「チャーさん! どうしてここへ」
 ルミナはチャーたちを見て驚いた。村人達は助かったのだと知って驚き、そして喜んだ。
「この奥の扉は何だ」
 部屋の奥の扉を見てジェラルディンがエイレンに尋ねた。
「魔法陣の間よ。ここは控え室みたいなものね」
 ということは、あの破滅の魔法陣はこの先にあるというのか。

 扉は鍵がずいぶん前に壊されており、すぐに開いた。
 部屋の中には大規模な魔法陣が設置されていた。
 どうにかして魔法陣を破壊できないかと冒険者達は考え、チャーは銀のナイフで床を削ってみた。
「これは、時間がかかりそうですね」
 確かに魔法陣の一部は削ることができたが、少々手間がかかりそうだった。
 アルフィンとディートリヒは神聖魔法で、オリバーは火の精霊魔法で破壊を試みた。

 ゴゴゴ‥‥と、不気味な音を立てて床が崩れた。冒険者達は急いで手前の部屋へと下がった。
 もうそこに魔法陣があったのかすらよく分からなくなった。
「これで、多分大丈夫だろうね」
 アルフィンが安心したように言った。

●真相の追究
 冒険者達が遺跡を出ると、すでに夜が明け始めていた。
 村人達は朝早くに姿を消した人たちが帰ってきたことと、エイレンが捕らえられていることに驚いた。
 村人の中にはエイレンに一体何があったのだと冒険者を責めるものもいた。
「いいえ、全て私のせいです」
 エイレンが村人達に何があったのか説明した。

 エイレンは占い師の母と一緒にとある町で暮らしていたのだが、母が悪魔崇拝者であるという根拠の無い噂が広まってしまい、町にいられなくなった。
 しばらく二人はノルマンの各地を旅しながら暮らしていたが、あるとき山賊に襲われ母が殺されてしまう。
 そのとき、一人ぼっちになってしまったエイレンの前にデビルが現われたのだ。
「それがルシアに成り代わっていたデビルですね」
 ディートリヒがそう言うと、エイレンはええ、と頷いた。
「あのデビル‥‥アンドロアルフェスと名乗った存在は、私が魔法陣の発動の儀式を行えば、母を蘇らしてくれるといったのです。一人になってしまった私に逆らうことはできませんでした」
「死んだ人間が帰ってくるものか。デビルにだまされたんだ」
 オリバーが苦々しくつぶやいた。エイレンはそうかも知れない、と答えた。
「村で体力がなくなって苦しんでいる人たちもあなた達の仕業ですね? どうすれば元に戻せますか」
 チャーがそう言うと、エイレンは屋敷の自分の部屋にある白い玉を飲ませれば元に戻ると答えた。

 冒険者達とエイレンは屋敷へ向かった。彼女はヨシュアに村で語ったのと同じことを説明したが、中々信じてもらえなかった。
 しかし冒険者達がエイレンの部屋を探すと本当に箱に入った白い玉が出てきた。
 村長がそれを飲んで体力を取り戻す様を見て、ヨシュアは彼女の語ったことを信じたようだが、それでもまだ少し混乱していた。

●再出発
 次の日。この日はルシアの誕生日であったが、結局誕生会は行われなかった。
 ルシアはいまだ小鳥の姿のままであった。兄のヨシュアは妹が小鳥になってしまったことをまだ信じられずにいたが、昨日よりは落ち着いており、何か考え事をしている様子だった。そのとき屋敷にある人物がやってきた。
「ヨシュア様」
 アーヴィングであった。大きな荷物を抱えており、まるでどこか遠くに出かけるつもりのようだった。
「僕はデビルを探しに行くことにします」
 彼はルシアを元に戻すために、デビルを見つけて奴を倒さなくてはならないと考えたのだった。ヨシュアはそれを聞いても相変わらず元気の無い様子でそうか、と答えただけだった。
「しっかりしてください。あなたはこの村の領主なのですから。エイレンのこともあなたが決めなければならないのですよ」
 捕らえられたエイレンの処罰はまだ決まっていなかった。ヨシュアは自分の妻だった彼女を裁かなくてはならない。
「‥‥わかってる。だが今は少し気持ちを落ち着けたいんだ」
「昔から慎重でしたものね、ヨシュア様は」
 アーヴィングはそう言って笑った。優柔不断といえなくも無いが、ぎりぎりまで最良の選択を考えるのが彼の良い所であった。
 これは今でも変わっていない。そう思ってアーヴィングは少し安心した。

 アーヴィングが屋敷を出ると、ちょうど冒険者達とルミナがパリへと帰るところであった。
 彼らは途中まで一緒に行くことにした。
「僕が必ずデビルを探し出しますから、そのときは一緒に奴を倒しましょう!」
 アーヴィングがジェラルディン達に言った。
「ああ、是非そうしたいね」
 冒険者達はみなそう答えたが、心のどこかでこの約束が本当に果たせるのか不安であった。姿を消したデビルを見つけることははたしてできるのだろうか‥‥。
 そうして歩いているうちに分かれ道さしあたり、アーヴィングは冒険者達に別れを告げ、反対の道へと進んでいった。
 彼の姿が見えなくなるまで見送った後、ティワズは皆に言った。

「帰ろう、パリへ」