【憑き物霊能者】〜呪子見参〜

■シリーズシナリオ


担当:べるがー

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月18日〜04月23日

リプレイ公開日:2005年04月26日

●オープニング

 京都ギルド員の男は目を点にし、口をパカーンと開けて固まっていた。
 目の前にいるのは、依頼に来た純朴そうな女だった。そんな彼女の口から飛び出した台詞に、思わず絶句する。不思議なのか、きょとんと首を傾げて再度依頼した。
「お供を依頼したいのですけど」
 ──お供。それは主のために手となり足となり、もしくは盾になっちゃったりもする下僕の事である。


 難波呪子(なにわ・まじこ)十八歳。庶民の中にも貴族の中にも熱烈な信者がいると噂の、知る人ぞ知る霊能者である。
 彼女に任せればどんな地獄に堕ちた悪霊だろうと必ず現世に蘇り、彼女の中に見る事が出来るという。
 その彼女が下僕、もといお供をご所望である。その理由とは──。


「あるお屋敷に、病で息子さんを亡くされた可哀想なご夫婦がいて‥‥心残りを取り除いてあげたいと私に依頼されたんですけど」
 その心残りというのが問題で、と気遣わしげに溜め息を吐く。ギルド員は己の好奇心を呪った。
「心残り、とは?」
 震える声で尋ねると。
「悪事を心行くまで堪能してみたいと」
 こんな依頼受けちゃっていいのかなぁ、とギルド員は正直に思った。

●今回の参加者

 ea4173 十六夜 桜花(28歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea9947 周 麗華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb0451 レベッカ・オルガノン(31歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb0601 カヤ・ツヴァイナァーツ(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1640 火車院 静馬(43歳・♂・志士・パラ・ジャパン)
 eb1679 スタン・ハリセン(37歳・♂・ナイト・シフール・ビザンチン帝国)
 eb1784 真神 由月(25歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1796 白神 葉月(39歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●よろしく、下僕
「呼び方に希望とかってあるかな?」
 カヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)がにっこり笑って尋ねると、呪子はキョトンと見返した。
 ──まさかもう憑依済み!?
 背後に控えていたレベッカ・オルガノン(eb0451)、白神葉月(eb1796)の目が光る。職業柄、噂の霊能者が本物かどうか気になるのだ。
 しかし、呪子は呪子であった。
「『ご主人様』でいいと思うけど?」
「既にミーたち下僕かい!」
 スパコーン!
 対面直後にスタン・ハリセン(eb1679)の突っ込みが炸裂した。

「では、息子さんをお呼びします」
 ハリセンでどつかれた頭をさすりつつ、呪子が正座する。息子を失ってから笑っていない筈の依頼夫妻が懸命に笑いを堪えていた。
「信太郎さん、信太郎さん、いらっしゃいますか‥‥」
 掌を合わせ瞑目する呪子の表情が次第に真剣なものに変化していく。思わず見守っていた冒険者たちも息を詰めた。
 カッ! と呪子両眼が見開く。
「信太郎さん、カモン!」
 ‥‥‥‥かもん?
 ぱたり。呪子が倒れた。

●憑依しようぜ!
「動きませんね」
 微動だにしない呪子を冷静に眺め、十六夜桜花(ea4173)が呟いた。
 傍らで葉月が暢気に茶を啜り、ツヴァイはにこにこ笑って傍観。周麗華(ea9947)はひょいと肩を竦め、スタンはハリセンを装備した。仕方がないので真神由月(eb1784)が動かなくなった呪子の脈を取る。
「うーん、息はしてるけど。葉月姉ぇ、どーし」
 がばーっ!!
「うっきゃああああ!?」
 呪子は生きていた。息を吹き返したついでに由月の袴の裾を捲り上げて。

「は、袴捲りは悪事じゃない‥‥!?」
 よろり、と呪子、いや信太郎がよろめいた。話題は間抜けだが彼には些か衝撃が大き過ぎたようだ。
 悪事イコール子供のイタズラ程度だと思っていたらしい信太郎をどうすべきか悩み、火車院静馬(eb1640)は眉間を押さえた。
 ──こうなれば京都中の袴捲りに協力した方がいいのだろうか? いやしかし外見十八歳女性の呪子にそんな事をさせて大丈夫なのか、むしろわしらはどうフォローすべきなんだ?
 悩む静馬は一瞬、呪子を思考の外へと追いやってしまった。
「きゃああいやあ!」
「うおおナニすんだこのアマあああ」
 取り乱す男女の声にハッと顔を上げた時には、既に目の前の椅子から呪子は消えていた。それどころか騒ぎの渦中にいる。
「おっ、おま、何して」
「静馬さん、本当にこれは悪事ではないんですか!? これも!? これも!? 嫌がってるのに!?」
 何故か半泣きになっている呪子は酒場の客と思われる男女の裾を捲り上げていた。
「待て、手を放せ、そしてわしの話を聞け!」
「だってみんな嫌がってるじゃないですか!」
「そりゃ恥ずかしがってるんだ!」
 お侍の袴は既に腰紐が取れかけ、陰陽師らしい女性はあわあわと何らかの呪文を唱え始めている。
「ええい、仕方がない! だあっ」
 袴を掴んで放さない呪子の首筋に手刀を入れた。
「すまん、後は任せた!」
 何とか呪子の暴走は止めたものの、既に侍は抜刀し陰陽師は何か符を持っている。このままでは呪子共々殺される。
 椅子を蹴倒して呪子を担ぎ上げて酒場を飛び出した。もちろん、控えていたスタンに後を託して。
「え‥‥」
 出入口にいた冒険者は何故かスタンのみになっていた。え、と中を見ると抜刀した侍と符を持つ陰陽師。そして盆を片手ににじり寄る店員。
「‥‥え?」
 シフールは飛べる。しかしその余裕もなかった。
「う、ウリィィィィィッ!?」
 頑張れ、お供。

「賭場?」
「まあ、標準的って言い方だと面白くないが、悪事って言われると俺的にはまず賭け事からだな」
 男の悪事なら賭け事だ、などと賭場に連れ込んだものの、実は座って丁か半かとやり合うだけなら見張りも楽だ、と思ったのも否めない。何しろ酒場を出た後、花売りの少女の尻を触るわ子供の玩具を取り上げるわ、志士に喧嘩を吹っかけるわ恋人たちの邪魔をするわ、心の休まる事がなかった。ちなみにあちこちでフォローに駆けずり回っている仲間も、今頃花を買い占め子供に玩具を買ってやり志士に詫びを入れ恋人たちの仲を取り持っている事だろう。傍で全てを見ている自分の寿命も一気に縮んだ気がする。殺気も浴び過ぎた。スタンアタックを同じ相手にこれだけ使ったのも初めてだ。
「賭場って僕、初めてなんですよね。どんな所なんでしょう?」
 嬉しげに言う坊ちゃんを見て、これなら昇天するのも早いだろうと静馬は心で思う。
 ──悪い遊びからは足を洗ったはずなんだがな‥‥嫁さんに見付かったらどんな目に遭うやら。
 しかしこの悪事が一人の霊を救う事になるんである。‥‥多分。

「霊媒‥‥殆どは自己暗示によるインチキの類と聞いたけど‥‥依頼人のは‥‥本物かな‥‥?」
 壁に寄りかかり、口元を檜扇で隠した言葉は誰も聞き取れない。しかし通行人はそのふくよかな胸に視線をちらちら投げかけている。いつもは武道着の麗華だが、今回は影でフォローを行うために目立たぬよう旅装束を纏っているのだ。
「ん‥‥?」
 見張っていた建物の二階の部屋から人が転がり落ちた。
 そのままじーっと見ていると、酒瓶や着物(何で?)が次々と窓から投身自殺を図っている。男たちの悲鳴、走り回る音、何かがぶつかり倒れる音、一際大きな叫びが聞こえたかと思うと呪子を担いだ静馬が凄い顔をして通りに飛び出してきた。そのまま麗華の前を脱兎の如く駆け去る。
「‥‥何?」
 それを追うようにして賭場に参加していただろう男連中が団体で飛び出してきた。‥‥全員何ゆえ半裸なのだろうか。
「ちっくしょう! あの女絶対とっ捕まえるぞ!」
 顔面を真っ赤に染めた男が先陣きってこちらに向かって来る。麗華は溜め息を吐くとおもむろに胸元を寛げた。そして。
「なっ、何だ姉ちゃん!?」
 男の前へと歩み出て、そっと両手を握った。出来るだけ胸に谷間が出来るようにして。
「どうか他言しないで下さい」
 男たちの目はもう麗華の胸からそらせない。

 全力疾走で呪子を抱いて逃走していた静馬は追っ手がないのを確認すると、ようやっと呪子を降ろす。これだけ手刀をブチ込み、腹に一撃を入れ、その度に意識を手放しているというのに呪子はえらく元気だ。いや今は信太郎なのだろうが、何であんな大立ち回りをやって元気でいられるのか。静馬はそれが聞きたい。
 首を巡らせると、どうやら由月たちと落ち合う約束をしていた場所まで来ていたようだ。人通りの少なそうな路地裏から由月が顔を覗かせている。ビッと親指を立てているのを確認すると、疲れた体を引きずって荷物を取り出した。
「さ、これを持て。好きなだけ落書きしろ」
 午前中に比べたら覇気が欠けていたが仕方あるまい、呪子は筆を持って不思議そうな顔をした。
「あそこだ、あの壁に思い切り落書きをしてやるんだ。そりゃもう持ち主が見たらショックを受けるようなそんな言葉を思う存分に。それこそが悪事だ」
 ‥‥疲れのせいか妙な説明になったが、それすらどうでもいい。呪子はすたすたと壁に向かって行く。しばらく休もう、と静馬は瞳を閉じた。

「あ〜もぉ〜‥‥こんなに大きく書いて〜‥‥」
 由月が人々が見守る中、書き連ねられた言葉を雑巾で拭っていく。言葉は穏やかだが眉間の皺とコメカミの青筋は隠しようがなかった。
「あ、あの‥‥」
 恰幅のいい女性が不安そうに声を掛ける。ぴたり、と手が止まった。
「これで本当にこの町は守られるんでしょうか‥‥?」
 女性の台詞に、怒鳴られる事がなかった理由を知る。目の端で一緒に文字を拭っていたレベッカが『てへっ』と笑った。
「呪子様のお話は聞いた事があります、位の高い人にも信頼の置かれている霊能者さまだって」
 世間に広まっている噂とレベッカの嘘の相乗効果で呪子の評価がエライ事になっている。由月や葉月は黙って壁を見つめ声も出せない。それなのに。ああそれなのに。
「大丈夫、呪子様の『おまじない』は完璧です、これでこの家は大きな災いから逃れられます」
 胸を張って言うレベッカの台詞に、ついに全員腰砕けになった。
 ──嘘だろ、オイ。
 冒険者の目の前には『婦女暴行犯』の文字。

●お供だってキレるんです!?
「次は何しましょうか」
「‥‥キミ、シメても良い?」
 ニコニコ笑っている呪子と笑顔だが全然目が笑っていない由月。墨だらけになった水桶と雑巾を握る手がぶるぶる震えている。
「このままやったら、あんたほんまに地獄に落ちますえ?」
 穏やかに茶を啜っていた葉月もナイフ片手に笑っている。くるくるナイフを回しながら壁に獲物を追い詰める姿は、さながら『ちょっと厠まで顔貸せや』だった。
「ははは。みんな怖いね♪」
 そう言いつつ自分も暗雲を漂わせているツヴァイの服は戦闘直後のようになっている。桜花も髪をぼさぼさにして『今年の桜は去年までより一層儚く見えますね』などと叙情的な事を呟き遠い目をしている。実は二人は賭場の中にまで入り呪子のフォローをしていたのである。麗華は外に出ていたので知らないが、一体何があったのだろうか? 
「ふ。知らない方がいい事もありますよね‥‥」
 桜花は何故か視線を逸らした。
 と、そこへ。すっかりその存在を忘れられていたスタンが、酒場の方向から猛スピードで飛んできた。
「あれ? どなたですか?」
 怖いもの知らずの呪子、いや信太郎が口を開く。
「ウリィィィィィィ! ユーが落ちるまでッ! ミーは殴るのを止めないッ!!」
 ばしこん、ばしこん、ばしこんっ。
 何があったのかスタンは涙ながらにハリセン連打を決める。事情を知る静馬はそっと涙を拭った。
 ちなみに今彼らは人目を避けるように廃屋となったあばら屋で相談しているのだが、そこは最悪な事にそろそろ寿命がきていた。天井と壁と床下。全ての木材が腐り、運悪くハリセン連打の衝撃に耐えられなかったのか真っ先に床下が崩れた。
「あああっ!」
 全員、床下を突き破り落下。しかも折れた木で呪子を庇ったツヴァイが負傷。どくどくと血が流れている。
 ニコッ。と、ツヴァイは微笑んだ。ハーフエルフの彼は狂化ももちろんする。たとえ笑顔であっても。
 そして、ダーク・ツヴァイ降臨。今伝説が生まれる。
「この世もあの世も、そんなに甘くはないんだよ♪」
 だからさっさと昇天しちゃおうね♪ と直接手を下した。

●次もよろしくね
 レベッカの説明は巷に流れていた元々の噂と絡み合い、そして京都で暴れた痕跡と混ざり呪子の名前は結構な知名度となってしまった。信太郎の家には周辺から呪子を訪れる客でひしめいている。
「ああもーっ、何であたしがこんな事やってんだっ」
 それは貴女が面倒見良すぎるから、と誰も由月に突っ込まない。結局依頼を遂行した後も後始末として全員が信太郎の家にいるのである。
「楽しかったよねー」
 予言者としてフォローをしていたレベッカは呪子に大層感謝されている。一方、傍らでニコニコ笑っているツヴァイは顔を見るたび『何!? 寒気がするわ! ハッ、まさか悪霊!?』と怯えられている。憑依中の記憶がないとはいえ、身も凍るような笑顔でボコられたからには潜在意識に染み付いたのかもしれない。
 
「予言者さん以外にもお付の方達がいたんですねぇ」
 家の壁に屈辱的な言葉を書かれたおばさんがほう、と吐息をついた。まだ騙されている。しかも呪子も、
「ええ」
 頷いた。
「そりゃチャウやろ!」
 スパコーン!
 最後もやっぱりスタンのハリセンが炸裂した。

●ピンナップ

レベッカ・オルガノン(eb0451


PCシングルピンナップ
Illusted by 岩槻渉