【憑き物霊能者】〜ご主人様の仕事休み〜

■シリーズシナリオ


担当:べるがー

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月28日〜05月03日

リプレイ公開日:2005年05月06日

●オープニング

「せせせ接待‥‥?」
 京都ギルド員の男は青ざめた。
 ──お供の次は接待役‥‥?
「そう。やっぱり『ご主人様』を癒すのは『お供』の仕事でしょう?」
 依頼人はケロリと言ってのけた。
 彼女の頭の中ではお供イコール冒険者と化しているらしい。‥‥誰だ、前の依頼受けた奴。
 この女ナニ考えてんだこん畜生、来るトコ間違ってんぜこのアマ、なんて口が裂けても言えない。
 何しろこの女、京都でちょっとした有名憑き物霊能者なのだ。しかも名を馳せるのに京都ギルドが一役買っちゃってるんである。
 ‥‥その依頼人がまた来ている。
 悪気の全くなさそうな、『悪事? それは食べ物ですか』なんて言っちゃいそうな顔をして。
 ──だが俺は騙されない。
 先日この女が依頼してきた報告書を読んだのだから。
 そんなギルド員の苦渋に満ちた顔もそっちのけ、難波呪子は物憂げに遠い目をして語りだす。
「お休みを取ろうと思うんです、疲れちゃったから‥‥最近降霊依頼が絶えなくて」
 今週はもう50人降ろしました、と商品の棚卸しの如く何でもないかのように言う。
「だから、そのための『お供』を京都ギルドが提供しろと‥‥?」
 倒れ伏したい脱力振りで聞くと。
「もちろん、そうです。良い『お供』を呼んで下さいね」
 笑顔で頷かれた。

●今回の参加者

 ea4173 十六夜 桜花(28歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea9947 周 麗華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb0451 レベッカ・オルガノン(31歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb0601 カヤ・ツヴァイナァーツ(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1599 香山 宗光(50歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1640 火車院 静馬(43歳・♂・志士・パラ・ジャパン)
 eb1784 真神 由月(25歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1796 白神 葉月(39歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●また遭ったね♪
「ご機嫌よう、ご主人様♪」
 カヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)の笑顔に依頼人呪子は思い切り引きつった。脳裏に笑顔の悪魔が蘇る。
「やだなぁ、何で僕の顔を見てそんな顔するの、ご主人様♪ ほら、こないだは体を張って守った筈なのにね、ご主人様♪」
 ずざざざざーっ。競歩で近づくツヴァイに本気で逃げる呪子。天下の街道でちょっとした見世物になっている。
 呪子の依頼は初参加の香山宗光(eb1599)はイマイチ関係が掴めない。ここは傍観する仲間達に話を聞いておくべきか。
「拙者は呪子殿と会うのは初めてでござるが、以前依頼をした時の事を教えて欲しいでござる」
「‥‥えっ」
 十六夜桜花(ea4173)はうろたえた。周麗華(ea9947)は真っ赤なまま視線を逸らし、真神由月(eb1784)は袴を握って俯く。だというのにレベッカ・オルガノン(eb0451)は『あははー』と笑った。奇々怪々な反応に宗光は目を点にする。
「まぁ、追々分かりますやろ‥‥ふふ」
 白神葉月(eb1796)、何故そこで笑う。

●ご主人様の疲れ、お供が癒します
「郊外もいいですが野宿の可能性も否めませんので、ここは京都内で安っ全に! 旅をしませんか?」
 台詞の一部が妙に強調された気もしたが、桜花の提案に異存はない。こっくり頷く呪子に桜花は八百万の神に感謝した。
 麗華が黙って荷物を持ち、何気に変装用の服まで渡す。呪子は首を傾げるが、前回信太郎の家に押し寄せたファンを思えば当然だ。何しろ憑き物霊能者の知名度は半端じゃない。‥‥横で『有名になっちゃったもんねー呪子様ってば』などとボケているレベッカも宣伝役に一役買っているのだが。
「では、わしは今夜の宿を交渉して来よう。年頃の女性の好みに付き合えるかわからんからな」
 火車院静馬(eb1640)は別行動を宣言した。誰もが内心一抜けか? と思ったが口にしない。
「うちも行きますえ。人手はあった方がよろしおすやろ」
 葉月も立ち上がる。実際いきなり9人分の部屋が取れるか分からないので、宿泊場所については2人に任せる事にする。
「美味しいお団子屋さん調べたんだよ、まーちゃん行くでしょ?」
 ──まーちゃん!?
 場が凍った。『ご主人様と呼べ』と言って憚らない暴走依頼人に、ツヴァイは『まーちゃん』と言い放った。それでも呪子は素直に頷く。
「うん、いい子いい子♪」
 小さくなる呪子が耳をへにゃらせた子犬に見えるのは気のせいか?

「あ、そーだ呪子様。予算ってどのくらい?」
 片手に団子、片手に折り紙で作った兜を手にレベッカが尋ねた。ジャパン人の桜花や由月、宗光の端午の節句講座を聞きながらお茶タイムである。
「30両くらいで足りるかしら」
「はあ!?」
 由月の手からボトリと団子が落ちた。ああ勿体ない、という思いと30両って何、という謎がぐるぐる渦巻く。未だ仲間達から前回の依頼内容を聞いていない宗光は『聞き間違でござろう』とあっさり片付けていたが、優良聴覚で聴き取ったのか、麗華も怪訝な顔でこちらを見ている。
「あ、やっぱり足りない? 100両あれば足りるかな?」
「ひゃくっ!?」
 桁が変わった。
「え‥‥もっとかかる? 困ったな、100両しか持ってきてないの」
 持ち歩く金額ではないと思うのは気のせいか。しかしこの世間離れした金銭感覚は普通の一般市民ではありえない。呪子の素性とは一体‥‥?

●魔の按摩タイム
「呪子様、いいお湯だった?」
 葉月と静馬が契約してきた空き家は、お風呂場も部屋数も文句無しのものだった。元の主夫妻が死人憑きに食われたため格安で借りる事が出来たのだが、旅先で殺されたというのだから大丈夫だろう。
 由月はお風呂から上がりぽややんとしている呪子を連れて男性陣のいない部屋に案内する。ツヴァイと一緒にいるから顔色が悪いのかと思っていたが、どうやら寝不足や疲れも溜まっていたらしく、肌も荒れていたのだ。
「あたし達が按摩してあげるからね」
「お任せ下さい」
 由月と桜花は笑顔だ。今日はまだ一度も憑依されていなかったから。

 その僅か半刻後。様子を覗きにやって来た葉月は襖を開けたまま穏やかに見守っている。
「‥‥っ葉月姉ぇ、いたなら助けてよ!」
 どったんばったんと桜花と共に呪子を押さえつけていた由月は喚く。3人は既に風呂上りため、浴衣である。男性陣が見たら黙って襖を閉めて去っていたかもしれない。
「楽しおすなぁ」
 あああ天然! 天然過ぎるわこの人! と戦慄く由月には気づかない。葉月はおっとりと微笑んで閉めようとした。
「だから! 遊んでるんじゃなくて!」
「呪子はここか? 8畳の部屋で宴会しようって麗」
 静馬はやはり最後まで台詞を言う事が出来なかった。
「すまんかったな」
「詫びないで下さい!」
「憑依されたんだってばああ!」
 3人はやはり着乱れた浴衣のままどったんばったん暴れている。

●酒持ってこーい!
 うふっ、うふっ、うふふふふふ。
 呪子の肩が楽しげに揺れている。トロンとした目が酔いの深さを物語っている。見守っていたお供も何となくつられ、
 うふっ、うふっ、あはは、えへ、くすっ、ははははは!
 笑った。
 しばらくうふふあははえへはははと不気味なハーモニーを奏でていたが、呪子が濁酒に手を伸ばした瞬間笑いは消え失せた。
 杯で呑む手間を省き濁酒の瓶に口をつけ、90度に傾けて一気に煽る。お供の制止も聞こえない。喉からはごっごっごっごっ、とシャレにならない音が響いた。
「呪子‥‥それ以上は」
 呑むな、と麗華は台詞を全部言えなかった。何故なら今度は麗華が濁酒を煽っていたから。無理やり瓶一本分呑まされた麗華は、ふらりと立ち上がる。そして脱いだ。
「れれれーっ!」
 眼前でいきなり始まったストリップショーに桜花が日本語を忘れ、宗光は杯の中身を全て零した。
「キミも止めてよっ‥‥て、え」
 由月が協力を求め振り返った先は呪子と同じく濁酒を手にしたレベッカ。ニコニコしている。‥‥ちょっと待って? 何でキミも瓶ごと抱えてんの? しかし謎はすぐに解けた。
「レベッカ、エジプトの舞を踊りまーっす!」
 酔っていたらしい。
 麗華のストリップと陽気なレベッカの舞に挟まれ、由月は心の中で絶叫した。
 ──葉月姉ぇ、早く帰って来てぇー!!
 彼女は現在、静馬と共に喧騒を離れ茶を立てに行っている。
 しかし彼らが戻ってくるまで大人しくしている筈もなく、酒瓶を持った呪子の行動は止まる所を知らない。ツヴァイの前に仁王立ちし、指をビシリと指す。
「恐怖の大魔王!!」
 ──そんな本当の事を!
 笑顔で固まるツヴァイを前に、正気の由月と桜花が凍りつく。前回の依頼を知らない宗光は『何の事でござる?』とやはり杯を傾けたまま沈黙した。
 レベッカのステップを踏む音、そして最後の一枚をはらりと落とす布の音。
 ──前回に続き何でこんな事ばっかり。
 男性陣の目から麗華の肌を守りながら、桜花はやはり『葉桜を見ているともう夏が来るんだなって思います』と叙情的な事を考えた。

「な‥‥何だ、これは」
 襖を開け、静馬は絶句した。葉月が黙って床に転がる無数の瓶を取り上げる。
「呑み過ぎどすなぁ」
 甘酒の瓶3本、濁酒9本。そして床とお友達になった死体が7体。静馬は思わず荷を取り落とした。慌てて自分が置いて行った酒瓶を確認すると、全部キレイに空。
 ──呑み過ぎて憂さを晴らすのが問題なのではない。お供共々グロッキーもいいだろう。ただ。ただ!
「状況を説明してくれえぇっ!!」
 桜花と由月が半裸状態の麗華に抱きつくように眠り、問題の呪子は何故か宗光の腕の中で眠っていた。そして一番の謎は。
「何でツヴァイさん、呪子さんの足に敷かれてんのやろ‥‥?」
 葉月の疑問は静馬にだってわからない。

「説明しろ」
 妻と子もいるかつては遊んだが今は家庭第一の静馬が宗光を問い詰めた。昨夜のあの光景を見て『酒池肉林』という今では縁のない四文字熟語が過ぎった。まさか依頼人を巻き込んで、何て怖い想像が巡る。
 赤い目を押さえて呻く宗光から目をしぱしぱさせているレベッカ、明け方の自分の置かれている状況に仰天した麗華と眠そうにしている由月と桜花を見る。呪子は未だに船を漕いでいた。
 ツヴァイは困ったような笑顔を浮かべているが、あんな光景を見せられて揃って起きない仲間の起床を待った自分達にそんな笑いは通じない。
「何で脱いでたんだ、いや何で抱きついてた、いやそんな事よりっ!」
 あああ聞きたい事は山ほどあるのにっ。
「何でお前踏まれてたんだ‥‥?」
「うっ!」
 宗光が畳の目を見つめ、麗華は真っ赤になって俯き、由月は口を噤み、桜花は片手で顔を覆う。意味深な反応であった。
「‥‥言えない、絶対に」
 ツヴァイ、ジャパンに来て初めて出来た人に言えない秘密。それはちょっぴり甘酸っぱかった。

●癒し成功。ただし犠牲は大きい
「んーッ、昨夜は楽しかったぁ!」
 既に頭の上まで上っている太陽に向かい、先ほど目を覚ました呪子は大きく伸びをした。昨日酒を浴びるように呑んだ生き物に見えない。
「あれ、皆どうしたの?」
 肌ツヤも見事復活を果たした呪子の前にはお供の死体が累々と転がっている。精神的ダメージと肉体的ダメージ。HPゼロ。
「うーん‥‥まだ二日目なんだけど?」
 ──無理です、呪子様。
 さんさんと降り注ぐ太陽の温かな光を浴び、8人の生ける屍は依頼の成功を知った。