●リプレイ本文
●文献調査
けーんけーんぱっ。けんぱっ、けんぱっ、けんけんぱっ。
冒険者達の目の前では、子供達が元気に遊んでいる。ティーゲル・スロウ(ea3108)はそのジャパン独自の遊びに首を傾げ、鷹神紫由莉(eb0524)は目を細めて親のない子をこれ以上増やす訳にはいかぬと決意した。何といっても今回は、
「黄泉人の本拠地探索でござるか。いよいよでござるな」
「我々の働き如何で今後の展開が大きく変わって来る訳ですね‥‥責任は重大です」
そう、新撰組六番隊組長から話を聞いてた香山宗光(eb1599)と日下部早姫(eb1496)の言う通りなのだから。二人の緊張は最もだ。
黄泉人の本拠地ね、とカヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)は首を傾げている。確かに何もない所から沸いて出たわけはないのだろうが‥‥それってどこなのだろうか?
はいはいっと佐々宮鈴奈(ea5517)が手を上げた。
「私は神道の伝承から探ってみるつもり。そういった古典を管理している所から何かしらの情報が得られるかもしれないしね」
「黄泉人関連の記録や決戦時の記録から分かる事もあるかもしれないね」
来須玄之丞(eb1241)の台詞には御影涼(ea0352)が頷く。
「冒険者ギルドか」
「黄泉人の現れた方向と速度を入れ計算すれば、大体の方角が掴めるかもしれませんわ。‥‥大和、でよろしいのかしら?」
紫由莉の問い掛けに、井上は頷く。
「一番侵略が多く、未だに黄泉人が残っているのも大和だ。おそらく、大和と見て間違いないだろうな」
とは言っても大和も広いのだが。
眉間に皺が寄りつつある井上を、玄之丞がトンと叩く。
「対象はもっと狭めていいと思うがね。黄泉人は蘇った死者、そして墓たる古墳‥‥連想するは易い、だろ?」
古墳か、と王零幻(ea6154)が顎に手をやって呟く。
「陰陽寮に以前資料を調べさせてもらったから、そちらからも当たってみよう」
「では古文書の類は他の皆に任せよう。‥‥私は酒場へ行く」
橘蒼司(ea8526)が組んでいた両腕を解く。思うところが偶然同じだったのか、早姫も頷いた。
「なら僕は黄泉兵を封じたオーラの使い手を調べてみようかな。対策も何か分かるかもしれない」
古文書解析能力は持ってないが、情報収集なら出来る。ツヴァイはうんと頷いた。
「あ〜?」
へっく、と妙なしゃっくりをしつつ酔った男の視線を受け、蒼司は無言で返す。早姫は午前中から管を巻いている男の赤ら顔に呆れて言葉もない。
「大和の故事に詳しい方がいる寺や社、ご存知ないか?」
「大和っつったらアレだろ? 黄泉人とやらに侵略されて潰された」
全然全く潰されてません、と早姫は首を振り、蒼司は唸る男達の言葉を辛抱強く待っている。
「あー‥‥ああ!」
あーあーあー、と何だか納得した男が蒼司の背中を叩いた。と突然ひゃっひゃっひゃ! と笑われ、二人は黙って顔を見合わせた。
一方、井上の口利きもあって陰陽寮の許可を得た冒険者達は己の言語スキルを最大に活かし、首っ引きで資料に当たっている。
──これも違うねぇ‥‥。
棚の全てを引っくり返す覚悟で挑んだものの、玄之丞は過去の資料に一言も『黄泉』が出てこない事に違和感を覚えている。封じたのなら、その時の事を記しておくものじゃないだろうか?
「これにもないな。井上殿は大和と推理されているようだが‥‥」
読み終えた巻物を戻し、零幻はずらっと並んだ資料を眺める。百鬼夜行という言葉が存在するこのジャパンで。多くのモンスターが陰陽寮の資料に残っているが、綺麗さっぱり目的のものが出てこない。これは意図的──に、か?
「大和は国のまほろば‥‥倭建命の言と意味は違うが、まほろばだからこそ有り得るかもしれん、な」
一番難解な資料を読み漁っているのは、達人レベルの涼だ。指についた埃もそのままに、大和関連の書物を当たっている。
「まほろばねぇ‥‥」
こきん、と肩の関節が鳴る玄之丞。この部屋に篭って何刻か。──果たして、この中のどれに封印されし黄泉人についての記述があるのか?
「そういえば、陰陽村調査はどうだったんだ?」
冒険者ギルド、そこで大量の報告書の中から黄泉人関連のものだけを選び出し、大和の地形を紙に書き写しているティーゲルの姿があった。
「ご覧になりますか?」
真向かいで同じように報告書を読み返していた紫由莉が『陰陽村調査』と書かれた報告書を手渡す。ざっと眺めたティーゲルが最後の方を指で指した。
「これ、この部分。文末、断言じゃないか?」
「ええ、でも真実かどうかは‥‥」
前回の依頼を記憶から引っ張り出し、今回の依頼とどうか照らし合わせる。
──いえ、でも確かに魔法を使えるなら神皇に近い立場‥‥それが蘇り侵略を繰り返しているなら、神皇家に反逆し恨みを持つ者‥‥?
ティーゲルはじっと紫由莉の反応を待っている。
「‥‥行ってみてもいいかもしれませんね」
目指すは、石舞台古墳。
●古墳調査
「暑っつ‥‥」
まだまだ夏、という事か。鈴奈は高い位置にある太陽から逃れるため手を差し伸ばしていると、確実に自分より暑そうな格好をしているツヴァイを見、大丈夫? と聞いてみた。
「大丈夫、っていうのはかなり嘘だけど。黄泉人との戦いの事、聞けなかったし古墳調査で役に立たないとね」
黄泉人を葬ったというオーラの使い手。その手の話が纏わる場所を捜し求めたものの、どこへ行っても『黄泉人?』と不思議そうに返された。宗光も同行した際の話を思い出したのか、得心がいかないという顔をしている。話も残っていなければ、資料自体存在していないのだ。陰陽寮でさんざん探したもののろくな資料を見つけられなかった涼、零幻、玄之丞の三人も意図的なものを感じている。
「それより保存食はちゃんと持ってこないとね」
ティーゲルの方をちらりと見たツヴァイがくすくす笑っている。鈴奈は旅の途中に保存食が無い事に気付き、紫由莉に諭されて三つ買っている。一同は危険地帯に踏み入りながらも思わずくすっと笑ってしまったが、涼と宗光だけは首を傾げていた。ちなみに新撰組参加は今回も半数。井上組長は偽志士の情報を掴み京都で奔走中である。
「さて、笑っていられるのはここまでか。アレ──か?」
ギルドで書き写してきた地図を睨み、距離を置いて見える積まれた石を見た。通常土の中に隠された古墳の入口。何故開いている?
「石室が丸見えだが‥‥特に見張りはないな」
目を眇め耳を澄まし、涼も首を振る。ティーゲルの殺気探知にも引っかからない。とすると外れたのだろうか?
「うっわ、大きい〜‥‥」
「‥‥ですね」
鈴奈と早姫は自分の体よりも大きな石が積まれているのを見て、目を瞬いている。どのように積んだ石室なのか?
「中に入るなら、灯りをつけて行きましょう」
紫由莉が言うとティーゲルと宗光が荷物からランタンを取り出す。
「確かツヴァイ殿が古代魔法語が使えるのでござったか」
玄之丞は仲間を護るべく、蒼司と目で合図し得物を手に前後につく。
「‥‥当たりだと良いのだが」
警戒しつつ古墳に近づく時。蒼司は呟いた。──果たして、石舞台古墳はアタリか、ハズレか?
「よ、黄泉人」
古墳に近づいた段階で湧いて出た死人に、鈴奈が引きつった。
「黄泉人五体か‥‥これだけでは本拠地かどうかは判断出来んな」
零幻が冷静に状況を判断し、ツヴァイに視線を送る。彼しか古墳からヒントを勝ち得る人物をいないのだ。
──五体だけなら、この人数で引き付けられるか‥‥。
ティーゲルも素早く隊列を整える。行け、とランタンを持った自分と宗光でツヴァイを護りつつ。
玄之丞が三人に向かって歩き出す黄泉人に斬りつけた。
「大丈夫かな‥‥」
ツヴァイは無理やり入り込んだ玄室の入口付近で、石に刻まれた古代魔法語を指で辿っている。が、外で聞こえる剣戟の音が気もそぞろにさせる。
「大丈夫でござるよ」
ランタンを置き中に向かって剣を構える宗光が、それだけ言い返す。ティーゲルも外の様子を気にしつつ、口で笑った。
「──大丈夫だ」
自分達は京都を案じる井上組長に任された冒険者なのだから。
「はぁっ!」
紫由莉が体を帯電化させたまま刀を叩き込む。足元を崩された黄泉人がよろめき片膝をついた。それをすかさず掴んで投げ飛ばす早姫。
「っは、はっ、はっ‥‥」
この暑さの中、戦闘は正直きつい。汗が顎に滴って、乱暴に手の甲で拭った。
「‥‥ん?」
鈴奈は傷を負った新撰組の隊士にリカバーをかけていると、石室の出入口から仲間達が飛び出して来るのが見えた。出迎えようとして中腰でぎくりと体が強張る。
「って、ててて撤収ー!!」
「っちィ! 今頃んなってお目覚めかい」
玄之丞が流しきれず受けた爪が、胸元に一文字に朱を入れる。このくそ暑いのに冷や汗を感じて周囲を見渡せば、蒼司も丁度ツヴァイを庇って横薙ぎに払われるところだった。
「蒼司さん‥‥!」
ツヴァイが呪文を中断して駆け寄ろうとして零幻に阻まれる。
「落ち着け、狂化するぞ!」
「ったく、冗談じゃないよ、火車に怨霊に死霊侍、満員御礼かい‥‥!」
どこに隠れていたものか‥突然、そのアンデッド達は姿を現した。
「来須、これを受け取れ!」
下がりそうになる剣先を必死に戻していると、ティーゲルがいつの間に近づいてきたのかホーリーライトを手渡す。
どんどん傷つき余裕のなくなっていく情勢を見て、涼は鈴奈の腕を取る。
「これ以上ここに留まっても得はない、退くぞ!」
涼の言葉を合図に、完全に押されていた冒険者達は脱兎の如く駆け出す──。
●丁か半か
「ごうぞく‥‥って何だっけ」
未だかつて無い大量のモンスターに茫然自失の体だった仲間に、ツヴァイがぼそりと尋ねる。
「豪族、だな」
隊士の傷具合を見ていた涼が、それが? と目線だけで尋ねる。
「うーん‥‥聖徳太子くらいの年代かなぁ? もっと奥なら詳しく書いてあるのかな‥‥」
どうやらあまり詳しい事は分からなかったようだ。
かろうじて分かったのはあの墓が昔の豪族のものだと言う事、それが聖徳太子くらいの年代かもしれないという事。
「誰の墓か分からなかった、か」
木にもたれた蒼司はポーション片手に髪を払う。
「でも、あの古墳が‥‥石舞台古墳が本拠地である可能性はかなり高いといえますね」
早姫と鈴奈も怪我を負った新撰組の怪我の手当てを手伝っている。
ふうと吐かれた玄之丞の溜め息に、ティーゲルと宗光も火がついたままのランタンを疲れた気分で見た。
それを黙って見守っていた零幻は、数珠にそっと手を伸ばす。
──人々に死人の脅威を取り除き安寧を取り戻す、それだけが自分の望み。
そう、出掛けに見たような、子供達の安心しきった笑顔を取り戻す事が。けれど──死人を倒す以外の生き方を自分は未だ見つけられぬ。
石舞台に潜む奴等を倒しきった時‥‥自分の行き方を見つけられるのだろうか?
──潜む黄泉兵は、まだ、たくさんいる──