【黄泉人決戦】黄泉人を撃破せよ!弐

■シリーズシナリオ


担当:べるがー

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月24日〜06月29日

リプレイ公開日:2005年07月02日

●オープニング

「組長、お呼びでしょうか」
 新撰組六番隊組長、井上源三郎を慕う組員数名が襖の前でズラリと並ぶ。そこに年齢の差はあれど、剣に対する真摯な想いはほぼ同じ。静かに組長の言葉を待った。
「来たか。‥‥大事な話がある、入ってくれ」
「失礼します」
 さっと襖を開け、今日も誠実な面持ちの組長の前に並ぶ。何かの書面に目を落としていた組長がそれ差し出した。
「一読してほしい。先日冒険者ギルドに依頼した報告書だ」
「? ──はい」
 じっと沈黙が訪れる。戦い慣れた(慣れていない者もいたが)冒険者が薬を大量消費せざるを得ないような戦い振りに、組員も息を飲んだ。
「どうだ?」
「死人憑きとは違い、喋る、考える、挑発する‥‥ですか。奴らの残虐な所業には怒りを覚えます」
「お前はどうか?」
「大和が心配ですね。国境でこれだけの死人がいるとなると、大和にはどれだけ送られている事か」
「そうだな。その報告書にある冒険者も何度も傷を負い、何度も薬を口にしている。彼らとて、薬を持ち行かねば誰か死人が出ていたかもしれぬな」
「‥‥‥‥」
 随分と危険な依頼をしてしまったようだ。血生臭いその戦いを想像し、眉根を寄せる組員を見回し──源三郎は尋ねた。
「‥‥黄泉の兵相手に、自分の剣の腕を知りたくはないか?」
 えっ、と何名かが驚きの声を上げた。若い組員の動揺を先輩組員が目で制すると、
「それは、我ら新撰組六番隊が黄泉の兵と合間見える機会がきた──と、いう事でしょうか」
 剣の訓練は他の組より真面目だと若い組員が噂するほど、組長以下六番隊は剣の訓練をよくしている。全ては剣の稽古が好きな源三郎の影響なのだが、尋ねる組員も血が騒ぐのを感じていた。
「そうだ。摂政源徳家康様より近々黄泉人を撃破するとのお達しがきた。ただし、未だ敵の明確な意図や計画も分からぬ。それ故、今後大きな合戦に移る前に冒険者と京都内の黄泉人を一掃する。足元を掬われんようにするのが我らの役目だ」
「冒険者と共に、ですか? しかし依頼は終わった筈では──」
「お前達を殺したくはない」
 これ以上はない程誠実な瞳で組長は言った。
「黄泉人と剣を交わした冒険者に水先案内人になってもらえれば、幾らか危険を回避できる。敵の残酷性はこの報告書で十分分かっているからな、出来うる限りの手は打っておく。‥‥不満か?」
「いいえ!」
 組員を大切にするこの姿勢には組員一同、不満などない。むしろそんな人だからこそ、自分六番隊組員はこの源三郎の下にいるのだから──。
「その合戦、ぜひ我ら六番隊組員をお使い下さい。必ず剣の訓練の成果をお見せ致します──!!」
 新撰組六番隊は必ず黄泉の兵を討つ。水先案内人の冒険者達と共に。

「おや、これは六番隊の‥‥」
 京都ギルドに現れたのは、組長源三郎自らの事だった。ここに来るのは二度目。
「また尋ねさせてもらった。再び力を貸してもらえるだろうか?」
「ええええ、依頼書を貼り出させてもらいましょう」
「すまぬ。今回は我ら六番隊も同行するし、薬も出来る限りは用意しよう」
 生真面目な顔でギルド員の前に座り込む源三郎を見、少し苦笑した。相変わらずお堅い人だ、この人は。
「次も黄泉人の?」
「ああ。ただし今回は京都に居座る黄泉の兵を潰す事が目的だ‥‥今後のためにも、な」
 新撰組隊長、源三郎の瞳が一瞬鋭くなりギルド員が呆けたが、いや、とただ首を振る。
「京都ギルドから一日馬を走らせれば着く村がある。ここが最近死人憑きに襲われ、何人かが既に亡くなったと聞く。京都から近いだけに、占拠されたら厄介だ。すぐに殲滅しなければ‥‥京都も笑っていられなくなるだろう」
 黄泉人たちに、この村を足掛かりに京都へ侵入させてはならない。

●今回の参加者

 ea3108 ティーゲル・スロウ(38歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea4173 十六夜 桜花(28歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea5517 佐々宮 鈴奈(35歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea6154 王 零幻(39歳・♂・僧侶・人間・華仙教大国)
 ea8526 橘 蒼司(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0524 鷹神 紫由莉(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0601 カヤ・ツヴァイナァーツ(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1241 来須 玄之丞(38歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1496 日下部 早姫(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1599 香山 宗光(50歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●会談、新撰組井上源三郎
「私は前回の依頼で陣頭指揮を仮に務めていた、ティーゲル・スロウ(ea3108)といいます」
 品良く挨拶を述べる仲間の横で、来須玄之丞(eb1241)が目の前の男を観察する。この人物が新撰組六番隊組長、井上源三郎──自分達の依頼人。
 ごくごくシンプルな着物を乱れなく着こなし、剣一本を傍らに置いている。瞳は凪いだ海のように静かで、じっと冒険者の言葉に耳を傾ける様子は誠実そのもの。
「右翼、左翼、そして本陣に部隊を分け、冒険者で右翼、左翼の斥候にして本陣の新撰組を先導します」
「構わん、自分達六番隊は黄泉兵を見た事がない。スロウ殿の指揮に従おう」
 共に京都を護るために。
 ──フ、なかなか真面目な御仁のようだ。あたしと同じ呼び名だっていうしね‥‥。
 自然と上がる口の端を感じ、玄之丞は訪れた時より幾分緊張が解けた気持ちで問いかける。斥候に隊士を配置したいなら、共に戦ってもいいとさえ思う。
「これは井上さんの裁量でお任せしたいが、どうだい?」
 六番隊との初の共同戦線は一体どうなるだろう。

●京都を護る道程、真実の仲間
「噂の新撰組と一緒に行けるなんてね。帰ったら狛ちゃんに報告してやろっと♪」
 くふふ、と佐々宮鈴奈(ea5517)が独特の着物を見て笑っている。 その忍び笑いに十六夜桜花(ea4173)は苦笑し、円陣を組み座る仲間達を見渡す。新撰組が加わるのでどんな大所帯になるかと思ったが、実際の所新撰組はおよそ半数の15名。残り半数は京都で治安を守っている。
「死人の特徴はとにかく斬っても最後までこちらへ向かってきます。慌てずきっちりトドメを刺す事が肝要かと」
 鷹神紫由莉(eb0524)が話す黄泉兵の不気味な正体を聞きながら、
「黄泉人とは死人憑きとは違い喋る、考える、挑発するのでござるか。やっかいでござる」
 香山宗光(eb1599)が呻く。その傍らで、
 ──黄泉の兵‥‥か。またあんな惨状‥‥なのかな。
 カヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)だけは浮かない顔をしていた。
 つい先日受けた対黄泉兵の依頼は、未だ鮮明に記憶に残っている。狂化を防ぐために自分だけは眼を瞑っていた。だから、ツヴァイの中に残っているのは、村人の悲鳴と、仲間達の攻防と、あの黄泉人の嗤い声──。
 きゅ、と己が腕を掴む。異変に気付き、ティーゲルが声をかけた。
「ツヴァイ?」
「ううん、何でもないんだ‥‥ただ──そう、僕はハーフエルフで狂化するから、もし‥‥何かあったら、切り捨てて」
 何、と。黙っていた源三郎が声を上げた。周囲の驚いた気配に顔が上げられない。──ああ、彼等も僕をハーフと蔑むだろうか?
 苦い記憶が蘇り、そんな事を思う。ツヴァイ、と声を上げかけた仲間より先に、源三郎が言った。
「何を馬鹿な事を! ツヴァイ殿は既に仲間だろう。ハーフなど関係ない、共に京都を護りし仲間──違うか!?」
 怒る源三郎にツヴァイは面食らい、隊員は苦笑する。こういう人なのだ──彼は。玄之丞もまた笑った。
「さすが源さんだな、その通りだ」
 志士の身分は良い印象を与えまい、と思っていた橘蒼司(ea8526)は怒る源三郎を前に自分の考えを訂正した。そう、あの残虐で非道な黄泉兵の前では、自分達は一つにならねばならない──京を護ると言う気持ちは同じなのだから。

●冒険者と六番隊の混合部隊、黄泉兵と相見える
「もし村人を助ける事があったら、一人では危険よ。あいつ等は人に化けて襲ってくるから。仲間同士で上手く連携してね」
 鈴奈が斥候として先に入村する前に、源三郎に念を押す。両翼に三人ずつ新撰組の隊士がつく。残り源三郎含む九人は紫由莉と蒼司が指揮する予定だ。自分達斥候が先手を打つつもりとはいえ、前回のポーションの使用頻度を思えば一緒に行動出来ない彼等が心配だった。
「必ず暴走はしないと誓おう。‥‥佐々宮殿も、念のためにこれを」
 六番隊が持参した薬を受け取り、隊士を交えた両翼の斥候は村へと突入する。

「この村も酷いな」
 玄之丞が宗光にオーラパワーを施してもらった武器を確かめつつ、周囲に目を走らせる。壊された家、血塗れた引き戸。聞こえてこない生活音。そして──。
「アア‥‥ヤット、タスケガ‥‥」
 ふらふらと女がまろび出る。うっかり動こうとした隊士を王零幻(ea6154)が引き止めた。
「タスケテ‥‥オネガイ、アア、ハヤク」
 救いを求める腕は、紅く汚れている。しかしそれは誰の血だ──?
 密かに神聖魔法を行使した零幻は、今にも助けようと動く隊士を強く引き戻した。事情を知る玄之丞達が向けていた剣の切っ先を上げる。
  ──生者を襲わねばならぬ業を背負った死人を滅するもまた、弥勒の慈悲なり。
 全ては零幻の合図と共に。

「グラビティーキャノン!」
 ツヴァイが放った神聖魔法が六体の死人を転倒させる。即座に桜花がオーラパワーで威力の増した蹴りをぶち込んだ。
「はッ!」
 日下部早姫(eb1496)は手当たり次第に死人を投げ飛ばす。別の死人にぶつけるように投げると、骨と骨が耳障りな音を立てて崩れ落ちた。汗を拭い、尚も起き上がろうとする死人を目にして、そして──。
「早姫!? よせっ!」
 ティーゲルが怪我を負った隊士にリカバーを唱えつつ叫ぶ。ツヴァイがうっすらと目を開けた時には、既に早姫は民家の方へと駆けて行っていた。戸にすがるように立っているのは一見女性‥‥しかし。
「待って早姫さん、黄泉人かも‥‥!」
 ツヴァイの制止にも止まる事はない。
 ──躊躇っている間に死んでしまっては、後悔してもしきれません‥‥!
 脳裏に蘇るのは、戦いの最中目の前で生き残りの子供を死なせてしまった悪夢。戦いに影響が出ない程度に怪我をするのは承知の上だった。
「大丈夫ですか!?」
 傍らに膝をつき、覗き込む。息が苦しいのか、喉に手をやり涙を流していた。震える腕が早姫の腕を掴む。
「どうし」
「逃げてぇーッ!!」
 女性は変身する事はなかった。けれど室内から爪を振りかざした死人の姿が‥‥。
「神よ! 我らを守り、黄泉兵と戦う力と心を与えたまえ! AMEN!!」
 ティーゲルは小柄を手に疾走する。

「宗光さん、薬っ!」
「む、かたじけない」
 鈴奈が六番隊から預かったポーションを放る。爪を剣で受け止めた後そのまま二三歩下がって間合いを取り、裂傷の走った腕で受け止めた。
「ほとんどがただの死人憑きのようだね」
 玄之丞が数だけは多い死人に斬馬刀を叩き込む。剣の重みで骨が砕けた。隣の死人を巻き込み、地面に転がる。
 零幻が呪文を一時中断した。両翼に別れた成果か、黄泉兵の数が少ない。何か理由があるのか──?
 難しげな顔で考え込む零幻に反し、鈴奈が嬉しげな声を上げた。『六番隊だ!』
「お待たせしました」
 紫由莉が兜と鎧の重装備で死人憑きにスマッシュを見舞う。その鎧は幾つか攻撃を受けた痕があったものの、血塗れてはいない。
「こちらは黄泉人と鉢合わせなかったが、そちらは?」
 源三郎が倒れた死人を確認している。彼もまた日頃の訓練の成果か、着物が引き裂かれた部分はあるものの、無傷のようであった。
 水晶剣を消した蒼司がふと空気の振動を聞く。
 ぶおおおお〜‥‥ん。
「これは──」
 法螺貝の音。左翼が劣勢の合図を送っていた。

「とどめをきっちりとさせ、でなければやられるぞ!」
 ティーゲルが自らも小柄を振るい、声を張り上げる。
「ツヴァイ、奴等の動きを止めろ! 早姫に無茶をさせるな!」
「了解!」
 骨であっても確かに前進しようとするその足を、精霊魔法で操った植物を巻きつけ、桜花が尚も近づこうとする黄泉兵に拳を叩き込む。目の端では早姫もまた手近の敵を投げ飛ばしていた。黄泉兵により傷つけられた腕からはまだ血が滴っている。致命傷ではないとはいえ、いつまでも放置しておくわけにはいかない傷だ。けれど自分達に対し、倍の数で襲い来る絶え間ない攻撃に休むどころではなかった。
「くっ‥‥は、はあっ、はあっ」
 次第に着物が朱に染められていく。必死で息を整えながら、早姫は手近な死人を投げ飛ばす。逃げる行動に移れないのは、自分の傍に未だ倒れ伏している生き残りのためだった。
 ──助けて欲しいだろうに、私に危険を知らせようとしてくれた。この人を放ってなどおけません!
「弥勒は邪悪を許しはせぬ」
 霞み始めた視界の中で、目の前に迫っていた死人が仰け反った。神聖魔法──ツヴァイの呪文が一時止む。
「零幻‥‥井上隊長」
 ティーゲルの瞳には仲間を助けるため死人の山に突っ込んでくる一団が映っていた。
「お待たせ♪」
 桜花に薬を投げ渡し、民家の壁に寄りかかるように立っていた早姫に癒しの手を伸ばしたのは、仲間──鈴奈の笑顔であった。

●終わらぬ戦いと繋がる絆
「何人、死んだのかなぁ‥‥?」
 前回の戦いと、今回の戦いと。ギルドでは黄泉兵関連で多くの依頼が出ていて、自分の関わった依頼はごく一部なのに。ツヴァイの声は沈黙していた一行に静かに響いた。もう随分遠ざかった村を振り返り、ティーゲルは密かに十字をきる。早姫は、結局看取る事になってしまった女性の泣き笑いの顔が脳裏に焼きついて離れない。
 すっかり暗くなってしまった一行に、源三郎は生真面目に言った。
「ツヴァイ殿、自分達がこの依頼を受けねばより一層死者は増え、京都は混乱に陥れられていたのだ。黄泉人により死に追いやられた村人達も、けして無駄だと思ってはいないだろう」
 だから、落ち込むなと。仲間を真摯な眼差しで見つめる源三郎に、玄之丞がくっくと笑う。零幻もその顔に自分に似たものを感じ、手で口元を覆う。本当に、真面目な御仁だ。同じ志士である紫由莉も思わず微笑む。
「井上さんて真面目な方ですのね。でもそういう方って嫌いじゃありませんわ」
 艶やかに微笑まれ、源三郎は一瞬の後に目尻を紅く染めた。
「む、そ、そうか。あり、ありがとう」
 明らかに動揺した六番隊組長に、それまで強張っていた空気が緩む。玄之丞だけでなく、鈴奈も桜花も正直に笑ってしまった。
「ぜひ六番隊の方々に武芸の稽古をお願いしたいな」
 それまで黙って見守っていた蒼司も少し微笑んでいる。源三郎は喜んでお相手致そう、と蒼司に応じた。六番隊組長、無類の訓練好き。
「む、あれは‥‥」
 都に戻る直前、源三郎達六番隊と同じ着物を着た団体を宗光が見つける。源三郎がその先頭にいるパラを見て、『五番隊だな』と呟いた。恐らく、彼等も自分達同様、黄泉兵討伐に向かうのだろう。
「死人憑きの次は黄泉人。この騒ぎはまだまだ続くでござる」
 嫌な予感と共に、宗光は呟いた。